「石森萬画館」第八十四回訪問記

平成二十六年二月二十三日(日)

 ふと気が付けば九時台の便で石巻市に向かうのは去年の元日以来か。九時十八分水沢発、石巻着は十一時五十五分。到着時刻が遅くなっている。
 海沿いで雪はあまり積もらない石巻市も今冬は記録的な大雪であったと言う。駅からのいつもの路面には既に氷雪は無いが、物陰には積雪が残る。
 八幡家は社内研修で休み。
 マルシェの餃子道場で食事。「オール」の飯付き。
 晴天で風が強い。
 中瀬。入館。
 特に催し物は無い日だが、団体客等で賑わっている。墨汁一滴にも多くの客がいる。顔なじみの従業員と会話、彼女の特徴的な声と前歯は遠くからでも判る。
 この日も海斗特別編を見る。何度見ても良い、拍手してしまう。
 第52回企画展 「相馬野馬追と武者絵展」二月八日(土)から三月十一日(火)まで。福島県相馬地方の伝統行事・相馬野馬追についての巡回展。特定の漫画家や作品についての企画展ではない。他県の伝統行事についての企画展は初めて。
 何となく「関東大震災を世界に打電した無線塔」の記憶があるので、筆者は幼時に相馬地方に行った事はあるのだと思うが、野馬追についてはテレビ等で知るのみである。震災、原発事故で存続が危ぶまれたもののその年も規模縮小で開催されている。実は相馬地方と我が水沢市は多少因縁がある。明治時代、旧相馬中村藩主の家で起きたお家騒動・相馬事件に水沢市出身の後藤新平伯爵が関わって逮捕されている(後に無罪放免)。
 展示の前半は行事自体の紹介。企画に入ってすぐに、撮影可の甲冑や旗指物、神旗が掲示されている。その他は撮影不可。パネルで行事の歴史を紹介し、また二種類のビデオで行事の様子を伝える。ビデオのナレーターはそれぞれ窪田等と岡部政明。多くの騎馬武者が登場するこの行事の総大将役は現在の相馬氏当主が務めていて、ビデオのナレーションでは「さん」「氏」ではなく「相馬行胤みちたね公」と呼ばれている。
 展示の後半は、数多くの漫画家から寄せられた武者絵や色紙の展示。様々な画風の絵がある。西原理恵子のが異彩を放つ。色紙の展示には漫画家名の表示が無いので筆者には誰のか判らないのがいくつかある。
 常設に原作「Black」#21展示中。何度読んでも不可解な最終回である。他に「変身忍者嵐」#1、「イナズマン」、「009」の「結晶時間」。「結晶時間」はテレ東版アニメで見た。
 外に出る。館南側の公園には台座を含めて高さ九メートルの金属巨像「輝く人」伊藤嘉英作が立つ。神戸ビエンナーレ2013神戸港・海上アートコンペティション審査員特別賞受賞。空を見上げて立つ人の姿。その像を見て「クラトゥ、バラダ、ニクト」と呟く。
 作田嶋神社参拝。
 自由の女神像は先日撤去済み。
 東岸で「石巻かき小屋」営業中。入店はしない。
 この日、旧ハリストス正教会教会堂の内部が公開されている。市役所とNPO法人の人達が来ている。筆者も工事用ヘルメットを借りて建物の内部に入る。関係者が階段の上を指して「あれが水位の跡」と説明する。西側に向かって傾いている建物だが、三年前に筆者が撮った写真と比較して、特に傾きが進行したような様子は無い。解体前の公開で、移築先は未定だと言う。元々千石町にあり、宮城県沖地震で被災した後に現地に移築されて来た建物だが再度の被災である。
 教会堂そばのライオンズクラブの小さな記念碑は倒れたまま。土台と本体の接合部が剥がれてしまっているので、立ててもすぐ風で倒れてしまうのだと言う。
 再び入館して一階から三回まで歩き回る。ただ、BZには入っていない。既に館内各所に次の特別企画展のポスターが貼られている。
 珍しく墨汁一滴で買い物。特別企画展の図録、野馬追の手芸品、萬画館フレーム切手ボールペン付き、ブロックメモ二種(両世紀王)、絵葉書セット、八千円ほど。
 館を出てマルシェに向かい、復興センターで塩蔵わかめを買う。
 そして「まんがる堂」。旧ほーぷすであり、また被災後の「まんぼう」仮事務所だった建物が改装されている。表の壁面には、懐かしの初代墨汁一滴の壁面にあった「飛び出す009」。一階は地元産品の販売店で二階は展示室。この日は木村直巳とはやせ淳の原画を展示中。缶入りのだし粉を一つ買う。
 十六時二十三分発の小牛田行に乗り、十八時五十五分水沢着。

 明治時代に四民平等で武士階級が否定されてから既に約百五十年。岩手県出身の野村胡堂のように大の侍嫌いを公言する著名人もいるが(曰く「侍は先祖が昔の戦争で人を殺した手柄で威張っているだけ」。「銭形平次」の「平」の字は平民の「平」)、同じく岩手県の新渡戸稲造は武士道を世界に向けて発信した。多くの伝統行事、各種武道、端午の節句等、今でも「武士」「侍」「サムライ」は我々の生活の中に生きている。特撮愛好家にとっては藤岡弘、や「侍戦隊シンケンジャー」等。多くの日本人にとって侍は憧れ、心の支えであり続けているのか。筆者の暮らす岩手県南にも武者行列、大名行列の行事はいくつもある。
 今回は良し悪しをあげつらうべき企画展ではないようにも思う。
 以前も書いたかも知れないが、「まんぼう」にはよろず市場出店と撤退と言う前歴がある。しかも今は近所にマルシェ(二年間の時限)もある。果たして今度は存続できるだろうか。

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