「石森萬画館」第八十一回訪問記

平成二十五年八月十日(土)

 開催中の特別企画展に関連する特別企画として「RE:CYBORG」神山健治監督トークショーと、同映画の野外上映会開催。
 数日前から猛暑や大雨が報じられているが差し当たり筆者の周囲では異常、被害は無し。当日は朝から好天。十時半過ぎにマシンで出発。前沢町内吉田石油で給油。ここ数日の大雨で北上川の河畔は場所によっては泥水に覆われている。平泉町内で、二週間前に渋滞した国道四号線かられて県道に入り、山目町方面を縦貫して国道三百四十二号線に入ってみる。
 特に渋滞にも巻き込まれず。花泉町の市街地を抜ければ暫くは信号機も滅多にない街道である。慣れた道を進む。
 何度も通っている国道四十五号線、上品じょうぼんの郷の近くで仮設住宅群を見掛ける。
 石巻線の横町踏切で、石巻駅に向かう緑と黄のマンガッタンライナーを見る。
 二時間ほど、十一時頃にはマルシェに着く。
 八幡家は今日も満席。最近の筆者は前日の晩どころか当日の朝にならないと休みが確定しないので、店に予約を入れる事もできない。
 今回の昼食は雲雀にする。麻婆定食、八百五十円。
 中瀬に入る、萬画館前の駐輪場にマシンを置く。入館すれば既にトークショー参加者の行列ができている。整理番号順に並ぶ。開場は十三時四十五分、シアターに入れば着席場所は自由。好みの場所に座る。事前申し込みで限定五十人だが座れない人が出て椅子が持ち込まれる。
 十四時開始。対談方式で、訊き手は「まんぼう」の木村部長。まず質問九連発の後、各項目について詳しく訊いていく。子供の頃からテレビの章太郎作品に親しんでいた神山、実は「009」よりも仮面ライダーの方が好きだと言う。「RE:」の完成前後に石巻市を訪問している神山はワールドプレミアの開催地は初めから石巻市と決めていたそうで、登米市についての言及は一切無い。対談自体、「章太郎の『ふるさと』は石巻市」と言う基調で進む。
 長い歴史を持つ「009」だけに神山はファン層の見当が付かなかったと言う。彼自身は「誰がために」世代である。
 章太郎への思い、企業との提携、制作の裏話等。神山は映画公開から暫く経った今になってから怖くなって来たと言う。「『009』は誰でも知っているが漠然とした知られ方で、きちんと知っている人は案外少ない。『007』と混同している人がいる」は筆者もそう思う。クイズ番組で、ジェームズ・ボンドの原作者を石森章太郎と答えた人を見た記憶がある。タイアップCМについては部長が「このDVDに収録」と宣伝。
 次回作の構想が話題に上るが、まだ具体的に始動しているわけではなさそうである。何故か「ピュンマが主人公の新作」と言う話題で場内盛り上がる。神山は自作に絶対の自信を持っていると言うのではなく終始謙虚な態度で、他の人の解釈による様々な「009」を見てみたいと語る。
 一時間で終了。十五時半から交流コーナーでサイン会だがそちらには不参加。
 ライブラリーの受付で久方振りに「お嬢様」に会う。暇潰しに彼女の顔をじっと鑑賞すると逃げられる。
 BZ混雑で利用断念。食券自販機のボタンが「仮面ライダーBLACKコーヒー」から「ホットコーヒー」に書き換えられている。章太郎画のBLACKはそのまま。品名が変わったのならもう毎回これを飲む義理は無い。
 作田嶋神社の社殿の辺りまで水浸しになっている。佐藤清正商店の跡地も水たまりになっていて、その中央に金属管と木の板の簡素な祭壇が設けられ、「東日本大震災石巻地方殉難者之霊位追善菩提也」と書かれた卒塔婆が立っている。
 そもそも館内で暇潰しなら展示室を見るべきである。暇潰しとして展示室を見るとはどういう心掛けか。この日は企画をじっくりと見る。「009」作品誕生のきっかけとなった、章太郎が初めて触発されたサイボーグ構想が宇宙作業用ならば、惑星開発用改造人間・仮面ライダースーパー1こそ本来のサイボーグか。尤も、劇中で変身後のスーパー1が宇宙開発に従事する場面は無い、本来の業務に戻って宇宙に旅立ったのは最終回。アメコミ展示については元ネタとアメコミの同一場面が対比されている。「RE:」のワールドプレミアの様子が上映されていて、この中では神山は石巻市を「ゆかりの地」と言っている。「ふるさと」と言うと物議を醸すが「ゆかりの地」は間違いは無い。
 企画の映像作品紹介ビデオのうち、改装後に追加されたテレ朝ライダー部分については作品毎に脚本家と監督の名前の字幕が入る。田﨑作品が多い。
 珍しく墨汁一滴で買い物、自分用のBLACKピンバッジと知人用の土産物数点。
 十八時で閉館。マルシェに移動する。客席にはまだ殆ど人はいない。今回は前の方の席を取る。後方の丸テーブル席に「予約席」と表示がしてある。やがて集まってくる。殆どが大人の客で、幼児客は極僅か。固より「009ガンバレー!!」と言うような映画ではない。それでも幼児がいる。筆者は別に「子供は見ちゃ駄目」とは言っていない。
 全日食きむらでコーラや氷菓、うまいもん屋で焼き鳥と石巻焼きそばを調達。
 神山到着、上映前に挨拶。やはり予約席に着席。
 まんぼうの女子従業員の一人が、ポップコーン等の入った籠を提げて売り子をしている。その姿が妙に似合っていて販売も上手。音楽の流れる会場内でも売り声が良く通る。シネコンで子供映画の上映前に客席まで来るアイスクリーム売りよりもうまい。「似合ってるぞ!」と野次った以上、ポップコーン一つを買う。
 十九時少し過ぎから上映。東北でのロードショーはまず宮城県だけだったこの映画、岩手県での公開は遅れて「フォーゼ×ウィザード」と同日だったので筆者は映画館をはしごして鑑賞した。前半は米国だのイスラエルだの、実在の国家を黒幕に仕立てての陰謀論。米国はともかくイスラエルは日本人にはあまりなじみのない国だろう。そして後半は「彼(神)」についての追及、対決。国際政治にしても「彼」についても、登場人物による講釈が長い。この映画の米国やイスラエルでの評判が気になる。確かに難解ではあるが、台詞で場面を進行させるくどさもある。実に複雑な映画だと思う。確かに好き嫌いは分かれるだろう。少なくとも明朗な痛快冒険活劇ではない。筆者も多少は思想史、世界宗教、中東近現代史を学んで来たので「彼(神)」については思うところがある。印象深い台詞は004の「冷戦時代の遺物」。
 大人の客が殆どで、皆、行儀よく見ている。大人だからと言って泥酔客は見掛けず。
 閉幕後にもう一度、神山に拍手を贈ってお開き。二十一時頃。すぐ帰途に就き、前沢町内のセルフで給油してから二十三時過ぎに帰着。 

 ここ暫く、マシンでの遠征が雨に祟られていたので今回は晴れて良かった、本当に良かった。
 今まで複数の映画祭で、出演俳優が来場と言うのは接した事があるが監督と一緒に鑑賞と言うのは今回が初めて。尤も、監督と親しく会話したわけではない。
 神山が章太郎個人の人格にも言及し、深い敬意を表している割には、登米市への言及が全く無かったのは気になった。今まで登米市には行ったのだろうか。
 ああ、ファンがここにいるのだから常勤希望「お嬢様」。

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