「石森萬画館」第七十三回訪問記

平成二十四年十一月十七日(土)

 「石ノ森章太郎のふるさと」がどこなのか、そもそも「ふるさと」の定義とは何なのかはともかく、石ノ森章太郎の生誕地が登米市なのは誰が何と言おうと絶対動かない事実。そして先般のトヨタCMに対しての登米市民の怒り。普段からふるさと記念館関係者は「本家は登米市」と言う思いが強い。
 石巻市のマンガランド構想は生前の章太郎の協力の下に始まったものであり、また章太郎は晩年は田代島に隠居するつもりであったとされているが、もう本人がいない以上、心変わりせずに本当に田代島に住むつもりだったのか、そして構想の現状が本人の意向どおりなのかどうかは確かめようがない。
 筆者がマンガランドに通い始めた十四年前は既にシャッター通りだったマンガロードが構想の効果で息を吹き返したようには見えない。さくら野閉店やマイカル移転に象徴されるように、商業中心地は郊外へ移動している。構想は町おこし即ち地域復興に役立っていると胸を張れるのか。
 漫画は災害に対して全く無力である。いかにギネスブック認定の世界的漫画家でも、その力で地震や津波を防ぐ事も、荒廃した被災地を元通りにする事も出来ない。漫画は腹の足しにはならないし、滋養強壮にも役立たない。大体、博物館、美術館等は不要不急のハコモノの最たるものであり、且つ元々儲かるものではない。今後も萬画館に付いて回るであろう蔑称「マンガなんかに税金」。日々の生活や仕事に不自由している人々がいる中でのハコモノ再開。たまによそから訪れる程度の参観客の「プライスレス」等と言う主観的な思い入れは、現実の金銭的、物理的な問題の前には全く無意味である。思い入れでは腹は膨れない。
 十四年もマンガランドに通っていれば構想をこれほど罵る事も出来るようになる。しかしながら、関連予算は市民の代表たる市議会を正規に通過して執行されているのだから「知らない間に役人が勝手に血税をかすめ取った」等と言ってはならない。その時に知らなくて後になってから気付いて騒ぎ立てるのは実に見苦しい。知らなかったのならまず自分の不明を恥じよ、そして本当に文句があるなら訴訟でも街宣でも勝手にせよ。幸い、来年は市長選挙である。具体的、本格的な行動を継続せずに文句を言い続けるだけなのは非建設的である。その点筆者は、言論と行動を兼ね備えた構想応援だと胸を張れる。
 尚、筆者とて構想を全肯定しているわけではない。反対意見の存在も構想初期の頃から承知している。寧ろ筆者ほど、建設的を心掛けつつも何かと構想を批判してきた人間もいないと思う。立脚点は構想賛成、賛成だからこその批判。その筆者に対して「関係者達がせっかく努力しているのに批判とはけしからん」と言う人も中にはいた。筆者には「所詮よそ者」と言う致命的弱点がある、「石巻市の事なのだからよそ者が口を出すな」と言われれば返す言葉も無い。但し、被災前から萬画館の有料入場者のうち石巻市民は一割程度とは聞いている。構想はよそ者に支えられていると言えなくもない。
 よそ者が騒ぐより、石巻市民にこそ、構想について批判、反対して欲しいとも思う。地元民ならではの視点もあろう。石巻市民には当然ながら構想協力の義務なんか無いし、「まんぼう」が「龍神沼」の神主と村長のように、構想に非協力的な相手に圧力をかけるようになったりしたら嫌だ。何より、何事も完璧、百パーセントと言う事は無いのだから、構想の為に迷惑を被っていると言う人もいるはずである。そのような人にこそ声を上げて欲しい。ただ、批判、反対する以上は具体的な行動を起こすべき。
 以上、決して筆者は宗旨替えしたわけではないので念の為。弱点等を踏まえた上で今後も応援すると言う立場表明。

 さて。
 訪問前日、八幡家に電話照会。またも予約満席で今回も果たせず。
 当日、厚目に着込んで水沢から九時十七分の上りに乗車。途中乗り換えの小牛田は空は白く曇っている。石巻線の車内に、十年以上前から石巻市でちょくちょく姿を見掛ける人がいる。面識は無い。十一時四十六分、石巻着。小雨である。とうとう筆者の雨男発動。
 すぐ中瀬に向かう。立町のアーケードには「石巻のまちなかへようこそ!!」と言う真新しい幟が林立している。絵柄は仮面ライダーと009の二種類。洋装のちんどん屋一行が練り歩き、チラシを配っているが相変わらず人通りは少ない。雨降るさびれた商店街を行くちんどん屋、実に哀愁漂う。
 正午過ぎに中瀬に入る。既に多くの人が出ている。萬画館北側の広場の手すりに、休館中に訪れた人々がいろいろ書いていったベニヤ板を括りつけて展示している。萬画館に寄せる人々の思いの発現を見よ。萬画館向かい側に、招待客用の席と一般用の場所が設けられている。招待客用はテントと椅子があるが一般用はただ柵で囲っただけなので足場が悪い。漫画家、出版社、芸能人等各方面から数多くの花が届いている。
 喧騒を数分間離れて作田嶋神社参拝。賽銭を出したくても賽銭箱も無い。
 この日は萬画館南側の公園には屋台等は出ていない。
 来賓受付のテントの本郷女史に「オーズ」の鴻上会長の口調で「おめでとう萬画館! ハッピバースデイ!」と叫ぶ。関係者の萬画館を再開したいと言う欲望がこの日を迎える原動力になったのだ。大森課長には前日の朝日新聞見たよと告げる。木村部長にも会う。
 十三時の萬画館からくり時計作動を見る。地震の前にはもういちいちからくり時計作動を見てはいなかったので、じっくり見たのは数年振りか。
 この時点で雨はまだ小雨で、傘無しでも何とかしのげる。十三時十分から萬画館の向かいの駐車場で式典開始。司会はラジオ石巻の女性アナウンサー。筆者は一般用の場所で見物する。
 亀山市長、続いて石巻観光協会会長が挨拶。両者共に萬画館を復興の象徴と称する。沿岸被災地の施設では萬画館が再開第一号だと言う。マンガジャパン代表里中満智子も挨拶。
 萬画館への功績より、小野寺利子夫人、三代目(現職)館長・小野寺章、マンガジャパン里中満智子に感謝状授与。この時、萬画館の現館長が小野寺章である事を初めて知る。初代は矢口高雄、二代目は水島新司。普段は館長は在勤ではない。矢口と水島は欠席。
 萬画館を運営する(株)まちづくりまんぼうの西條社長が従業員一同を従えて決意表明を述べる。
 ゲストとして仮面ライダーガールズ来場とは聞いていたので中田喜子や島田陽子等が来るのかと思っていたら「フォーゼ」の「咲いて」の人達。初めて石巻市に来たと言う。同曲を歌う。
 そしてこれは聞いていなかったゲスト、野村義男。彼も石巻市は初めてで、次はRIDER CHIPSと共にライブをしたいと表明する。
 テープカットに先立ち、萬画館前にライダー1号、電王、オーズ、フォーゼ、ウィザード、イナズマン、ロボコン、シージェッター海斗が勢揃いするも、ものすごい混雑で海斗の頭くらいしか見えず。この日は大きな玩具指輪をした子供を多く見掛ける。
 十四時から一般入場開始、この日は無料開放。やはり無料の日は客の入りが良い。あまりの混雑ですぐの入館は断念する。
 やがて先程の式典会場で報道機関向けの囲み取材が始まる。野村、ガールズ、西條社長、木村部長が取材に応じる。木村部長からは今後の萬画館の改装予定等が語られる。報道機関からは「再開は時期尚早ではないか」「巨額公費投入の是非」のような、批判的な質問は出ない。最後に野村、ガールズ、西條社長で記念撮影。地元報道機関のみならず全国紙も集まっている。萬画館再開は全国報道になっている。筆者は他にも多くの漫画家や芸能人を見掛け、数人と言葉を交わす。ふるさと記念館の熊谷館長にも会う。
 十四時半頃に取材が終わり、先程の芸能人達も退場。八幡家の紀代子女将に会うので苦情を申し立てる。
 萬画館にはまだ入館できそうにもないのでマルシェに向かい、屋台で石巻焼きそばと玉こんを買って休憩室内で喰う。
 十五時過ぎ、再び中瀬に入る。先程よりは空いて来たようである。入り口の手形レリーフ第二期の出資者名の一覧が以前の木製から金属製に交換されている。当初から取り敢えず木製で設置して後で金属製に交換と言われていたが、十年近く経過してやっと実現。
 館内にも花が並ぶ。全壊した一階は受付や墨汁一滴の位置は変わらないが内装が大きく様変わりしている。泥だらけ、瓦礫の山からよくぞここまで立ち直った。
 二階の常設で福島県の常連氏と再会する。ふるさと記念館十周年記念式典以来か。そして萬画館最初の開館時以来十一年振りに神奈川県の常連女史との再会。合流して企画も見る。第48回特別企画展「メディアの力 萬画の力展」この日から来年二月十一日(祝)まで。萬画館開館前の章太郎存命、マンガランド構想の時代から今までの軌跡をたどり、また大震災の記録を展示する。
 十五時半から向かいの空き地でイナズマンとフォーゼを除く六人による握手会開催。長蛇の列なので筆者は見物だけに留める。萬画館に放送中のヒーローが来たのは多分初めて。
 再び先程の諸先輩方と館内を見て回る。そしてやっとBZに入る。店員達は総入れ替えのようで筆者の顔なじみはいない。毎度のBLACKコーヒーと二級うどん七百円を頼む。うどんには握り飯と茶が付く。筆者に対してコーヒーと共に砂糖等を勧めようとしているうちは店員としてはまだ新人である。
 三人でいろいろ語り合う。構想応援者達と館内で歓談するのも久方振り。開館前後の頃の熱気と興奮を思い出す。
 墨汁一滴も皆で見て回るが筆者は特に何も買わず。いろいろ新商品も出ているようではある。
 とうとう本降り。十八時前に福島常連氏の傘に入って館を出る。マルシェに立ち寄って復興センターで粟野詰め合わせと鯖の煮物二種を買う。ここの店員とも顔なじみになりつつある。やがてペアーレ前で氏と別れ、駅に走る。十八時二十五分発、二十一時七分着。

 筆者を萬画館のボランティア(奉仕者)のように言う人もあるが、あくまでも筆者は野次馬である。決して関係者ではない。
 とにもかくにも、一年半振りの再会は実にめでたい。被災後の関係者の苦労はいかばかりか。だがその苦労が報われる日が来たのだ。報道によれば当日は四千人が訪れたと言う。この人数は無料開放のみが理由ではあるまい。尚、十一年前にはいた「萬画館前で反対を訴える人」は今回は見掛けず。あの時の老人、元気だろうか。
 翌日の海斗ショーでは新怪人登場との事だったが、それは八幡家と共に今後の楽しみにしよう。その日は強風で東北本線が止まったようで、もし行っていたら帰りに支障をきたしていた。今回は混雑や時間の都合でを落ち着いて見られなかったので、会期中にもう一度くらいは見ておきたい。
 萬画館は来年二月十二日から三月二十二日まで再休館し、二十三日から本格的に再開する旨が発表されている。新生萬画館に期待しよう。震災をきっかけに顔なじみの従業員数人が退職して戻らなかったのは残念だが、新採用ともいずれ顔なじみになっていくだろう。
 いずれにせよ、筆者も今後も引き続き応援を続けて行こうとは思う。萬画館が言わば病み上がりだからとて批判を手加減するつもりは無い。
 ところで五月以来毎回、鯖の煮物を買っているが、別に特命戦隊とは関係ない。

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