「石森萬画館」第五十三回訪問記

平成二十年七月五日(金)

 六月十四日発生の岩手・宮城内陸地震で鉄道にも影響が出るも水沢駅改札の脇には「六月三十日より平常どおり」の貼り紙がしてある。定例の九時十一分水沢発、十一時四十六分石巻着。毎度鉄道で出掛ける際は車内で消化すべく何冊も雑誌等を鞄に詰め込んでいるが、実際は車内で殆ど寝てしまってあまり読めていない。
 この日から急に暑くなる。いつもの道を通って八幡家。かば焼き定食、茶わん蒸し、梅茶漬け、三千七百円。一時間半ほどかけて食すがいささか喰い過ぎ、体が重い。定食の飯はお代わり無料、無料ならできるだけ腹に詰め込んでやれと言う貧乏根性。
 毎度鰻を喰っていれば昨今の「食」の問題も話題になる。八幡家の美味且つ安全な鰻。
 八幡家を出て東を向けば真正面に旧DAC CITYの建物が聳えている。今まで気にも掛けていなかったが、その後身であるさくら野石巻店撤退の報道以来、この建物が急に気になっている。当地訪問の度に楽しみに読んでいる無料配布の月刊誌「いしのまきらいふ」の読者投稿欄も最近はこの話題が多い。
 中瀬に入り作田嶋神社参拝。潮風の香りを感じるが海に慣れていない内陸の人間はこれを魚臭いと言う。筆者とて石巻市に通わなければ普段海を見る事等無いのだ。
 西側から入館して一階カウンターで年間パスポート更新手続き。四回目の更新、パスポートの裏面には有効期限訂正の痕跡が分厚く重なる。
 BZの前まで行くが混んでいるように見えるので入らず、先に企画に向かう。第37回特別企画展「ゲゲゲの鬼太郎と妖怪なかまたち展」この日から九月二十八日(日)まで。昨春に続いて短い間隔で再び「鬼太郎」である。
 水木、「鬼太郎」については昨年の特別企画展の訪問記で既に述べてある。その後、NHKでの水木の自伝風ドラマ放送、テレビシリーズ第五期二年目突入、以前BOXで出された旧作テレビシリーズのばら売り、昭和期の実写ドラマのDVD化、「墓場鬼太郎」テレビアニメ化、七月十二日からの特撮映画第二弾「千年呪い歌」、十二月二十日からの新作アニメ映画「日本爆裂!!」等、実に「鬼太郎」は多方面に展開中でその勢いは留まるところを知らない。ついでながらこの日はフジで昨年の特撮映画第一作放送。特撮映画は第一弾に引き続いて第二弾も映画館に見に行ったし第五期も見てはいるが「墓場」は岩手地区では未放映。大体、岩手地区では筆者の見たい深夜の特撮、アニメ番組がなかなか放送されない。
 展示の初めの方に、今回の為の描き下ろしだと言う水木の色紙二枚が掲示してある。鬼太郎親子の絵だが為書きは無い。展示の前半部は全国各地の妖怪のパネル展示、後半は漫画の鬼太郎一家のパネル展示。また、全体に亘って「ゲゲゲ発見!」と称する豆知識二十数点や小さな造形物が展示されている。漫画原画は「毛羽毛現」のみ。展示は全体的に前回よりも統一感があって落ち着いた感じにまとまっている。客層は青年、中年層が多く、怖がって泣く幼児を何度も見る。記念撮影用の場所もある。鬼太郎一家の説明も全く漫画に準拠しており、鬼太郎の結婚歴や知られざる家族、「五人の猫娘」等が叙述されている。テレビや映画のパネルは無い。映像作品しか知らない筆者には初めて知る事項が多い。萬画館のいいところは「不適当とされる表現ですが云々」のような分かり切った野暮な断り書きが無い事。上映ビデオ「水木サン大全」水木は荒俣宏との対談で「土人部落」連発。普段から水木は作品で「土人」と言う言葉を差別の意図無く使っている。対談は「闇と妖怪」、即ち電灯の明るさが従来の妖怪を駆逐したと言う噺。
 いくらか空いたのを見計らってBZ、アイスコーヒー一杯。従業員二名在店。この日も、館内を回ってはBZで休憩、の繰り返し。
 館内でクイズラリー実施。有料入館者に交付される参加用紙を持って館内三ヶ所の問題掲示場所を回り、十問の問題に回答。全問正解で「妖怪博士認定証」授与。筆者は企画の展示内容や以前からの知識で九問までは難無く答えられるも一問だけどうしても展示の中に答えを発見できず、勘で答えて何とか全問正解。更に抽籤で水木著書などが当たると言う。
 一階には二台のテレビセットが設けられ、一台では「ゲゲゲ」歴代テレビシリーズのオープニングとエンディング、もう一台では「千年呪い歌」予告編上映。「墨汁一滴」も当然「鬼太郎」商品中心。
 八幡家でもBZでも地震が話題になる。やはり風評被害真っ盛り。岩手宮城両県自体が広く、また今回被害のあった市はいずれも合併で広くなっており、無事だった場所でも同県、同市と言うことで被災地だと思われがちである。地震発生直後は「東山町の人が地震に驚いて外に飛び出し自動車にはねられて死亡」「江刺市の保育園で負傷者」が繰り返し報じられたが、その後避難生活、断水、ダム湖、山崩れ等が報じられたのはいずれも奥羽山脈に近い西の方であり、江刺市や東磐井での大きな被害は聞かない。実は筆者自身が胆沢町や衣川村へは自動車で二、三十分の所に住んでいるがこちらは全く平静なのである。
 今まで「いしのまきらいふ」を持ち帰る一方だった筆者、今回は水沢駅内の観光案内所にあった水沢市近辺の無料月刊誌「Oh!Shun」を持参して八幡家とBZに置いて行く。両所で喜ばれるが特に喜んでいるのはBZ組、誌面の写真を見て「カワイー」連発。
 十六時五十五分にBZを出るが途中で赤信号に何度か引っ掛かってしまって乗車にはぎりぎり間に合う。十七時十二分石巻発、車内放送は「七月四日から前谷地・女川間も平常どおり」と告げる。帰りの車内でもよく寝て十九時五十二分水沢着。そして帰宅してからふるさと記念館のウェブの新着情報を見て驚喜する。
 一週間後、ワーナー・マイカル・シネマズ北上で「千年呪い歌」を見た際、売店に萬画館のチラシが置いてあるのを見付ける。以前、一関市の道の駅で萬画館のポスター、水沢市内の旅行会社店頭でふるさと記念館のポスターを見たことがあるが、その両市よりも北上市が宮城県から遠い。

 今回はアニメや子供向け商品等の展示を排除して「全国の妖怪」「漫画の登場人物」に絞った展示で、やはり対象年齢は高目に設定してあるように感じられた。幼児が怖がるのは正しい反応かも知れない。
 地震については掲示板でも触れたが、この記事が実に言い尽くしている。決して宮城県全体が壊滅したわけではないので、風評被害を吹き飛ばす為にも今夏は萬画館やふるさと記念館を訪問しよう!

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