「石森萬画館」第三十七回訪問記

平成十七年十二月二十三日(金)

 積雪で足元の状態の悪い水沢市。九時十一分の上りに乗車して南下しても車窓の風景から雪が消えぬ。小牛田もまだ雪深く石巻線沿線の田も一面の雪原、そして雪を眺めつつ石巻着は十一時四十四分。十二月のダイヤ改正で小牛田発の列車が石巻行から女川行になったが、石巻までの発着時刻に変更は無い。
 到着時は降ってはいないが、石巻市街地の積雪は実に珍しい。雪の残るいつもの道を歩く、アイトピア通りの盛文堂書店が閉店しているのに気付く。八幡家の路地の手前まで来ると電力会社の従業員が出入りするのが見える、果たして店の入り口には「雪害にて停電、開店遅延」の貼り紙。筆者の姿を認めて店の二階の窓から店員が顔を出して声を掛ける、回復時刻は見込み立たずと。二回続けて八幡家で喰いそびれて、「母をたずねて三千里」のマルコの名台詞を心の中で叫ぶ。

「僕は誰かに呪われているんだ!」

 気を取り直して中瀬へ、作田嶋神社参拝。
 二階から入館、BZへ。今回もまたここで昼食を摂る旨を告げてカレーライスとコーヒーを注文。このとおり、昼飯時に八幡家休業だと、BZの売上が一人前増える。
 特別企画展にちなみ、BZの壁面に「あらいぐまラスカル」の絵が何点か飾られている。メモリアルLD‐BOXのジャケットと同じ絵。
 第26回特別企画展「ラスカルと世界名作劇場展」十二月十七日(土)から三月十二日(日)まで。会期初日は正月映画を鑑賞していたのでこの日の参観。嘗てフジ系日曜日十九時半から放送されていた作品群の特集。枠自体は昭和四十四年の「ムーミン」から始まる、そして四十九年の「アルプスの少女ハイジ」も大変有名だがそれらズイヨー作品は今回は除外で、五十年の「フランダースの犬」以降の日本アニメーション作品のみを扱う。展示パネルの挨拶文でも「『ハイジ』は除外」の旨を断っている。また、テレビシリーズ終了後の松竹映画「フランダースの犬」「MARCO」は言及無し。
 このシリーズの開始の頃は筆者の幼少期に当たり、当時フジ系の局の無かった岩手地区でも放送されていた。宮城地区に転居してからも「ふしぎの島のフローネ」は見たが「南の虹のルーシー」以降は全く見ていない。特に好きでLD‐BOXや音盤を揃えたのは「三千里」「ラスカル」、ラスカルの鳴き声は筆者の物真似十八番。他に通して見たのは「トム・ソーヤーの冒険」「フローネ」。「フランダースの犬」「ペリーヌ物語」「赤毛のアン」は何となく記憶にある、或いは見ていたかも知れないという程度。前述の松竹映画は二本とも映画館で見たが、映画化発表当初は「ラスカル」「トム・ソーヤー」も予定されていたような記憶がある。
 セルソフトの他、地上波やBS、CSで常にどれかは再放送されているようで、シリーズ終了から十年近く経過した今でも現役で親しまれている「古典」と言えよう。宮城県の東日本放送(テレ朝系)でも毎週金曜日に「ラスカル」再放送中。「フランダース」は例の最終回が突出して有名だ、筆者もあの場面だけは特集番組で何十回見たか分からぬ。以下、本稿は筆者得意の「三千里」「ラスカル」中心に記述する。
 二階企画の受け付けの脇に身長百五十センチメートルほどの巨大なラスカルぬいぐるみが鎮座している。四本の髭はくたびれてだらりと垂れ下がり、体形も下半身太りで実にだらしない。これに大福帳と徳利を持たせて酒屋の前に立たせれば実に似合うだろう。
 室内に入ってすぐに展示用人形の一団。ペリーヌ、ラスカル、アン、マルコとアメディオ、ネロとパトラッシュ。マルコの髪型がおかしくてまるでモンチッチ。ペリーヌも変な顔つきをしている。
 やはり世間一般で特に有名な初期作品の扱いが大きい。説明のパネル、セル画、台本、関連商品、名場面ビデオ上映等。また、ちょっとしたジオラマが設けられて記念撮影が出来るようになっている。台本展示のうち、「三千里」は芸術家ペッピーノの凶悪なお涙頂戴演出が印象深い#28、「ラスカル」は米国人達がじゃんけんをする#22。
 ショーケースの中に様々な服装をしたラスカルのぬいぐるみ数十体が並ぶ、御当地ラスカル。それを見て#16を思い出す。アリスがラスカルに人形の洋服を着せようと提案し、それに対して祖母クラリッサとスターリングはラスカルが嫌がるからやめよと言う。果たしてラスカルは着せられた洋服を裂いてしまう。
 母親主導の親子連れで賑わう。このシリーズを見て育った世代が今、親になっていて、しかも前述のとおり今も手軽に見られる作品群だから、実に親子で楽しんでいるのだろう。ここでのアニメ作品等の展示では子供が楽しむのに親が付き合っているという印象だったが、今回は母親達も子供と共に主体的に喜んでいる。
 十三時半から一階で着ぐるみラスカルとシージェッター海斗の撮影・握手会。やはり少女幼女達にはラスカルの方が圧倒的に人気がある。もみくちゃにされるラスカル、相手にされなくて暇でつまらなさそうな海斗。負けるな海斗、この日ばかりはつい正義の味方の応援をしてしまう。並んで立つと海斗とラスカルの頭の大きさの違いがよく解る、まるでRXとストロンガー。
 カレー一皿程度ではもたないのだ。再びBZ、勧められるままにたらこスパゲティー。これとてすぐ平らげてしまう。暫く居座って店の人々と会話、念の為に断っておくが業務の邪魔はしていない。日中は晴れて、強い日差しが窓から差し込む。
 展示室も出たり入ったり。常設の原画展示は「スカルマン」「まんが家入門」「日本の歴史」。「歴史」は倭国と後漢の時代。
 BZで「ラスカルのティーフロート」一杯。特別企画展にちなむ品目。
 墨汁一滴でも勿論特別企画展関連商品を販売中。人形、絵本、キーホルダー、その他。ホワイトラスカルはアルビノか? 贈物用にラスカルの人形とハンドソープ、自分用にウェットティッシュを買う。
 十七時前に辞去。粟野で十枚入りを買い、十七時十四分の小牛田行きに乗って十九時四十四分に水沢に着けば降雪真っ最中。帰宅後、台本展示の回の「三千里」「ラスカル」LDを見る。

 展示用人形の出来が気になるが、差し当たり「親子で楽しむ」分には支障ない展示。冬休み中に家族連れで見るには悪くないだろう。「三千里」「ラスカル」愛好家としては退屈しなかった。この二作品についてはまだいろいろ語れるがそれは別の機会に譲る。
 ああ、さすがに定休日でもないのに二回連続で八幡家で喰いそびれると精神的打撃が大きい。次回の訪問では絶対喰ってやる。
 平成十七年の萬画館訪問は過去最多の九回。何回訪れようが払った入場料金は年間パスポートの二千円のみ、BZや墨汁一滴で高額な消費をするわけでもなく、「構想」についてケチばかりつけている。一番ヤな客だと思う。

一覧に戻る

目次に戻る

I use "ルビふりマクロ".