石巻「墨汁一滴」第三回訪問記

平成十二年六月十九日(月)

 過去二回は石巻線で石巻入りしているが、今回は前日に仙台入りして一泊、当日朝九時二十三分仙台発の仙石線を利用する。石巻着は十時四十六分。
 今回は催し物目当てに非ず、たまたま取れた平日休暇を利用しての単独行動。昨年訪問時同様暑い日、どうも筆者が石巻を訪れる時は暑いか寒いかのどちらである。
 ビブレに寄って少し買い物。
 駅前を真っすぐ南下、例の009像を通過して突き当たりで西に折れる。急な坂道を上り、やがて下る。坂の麓辺りの左手に今回の第一目的地・石巻双葉町郵便局。同局では「マンガジャパン展」と題して、局長・佐藤禎久よしひさ氏の収集品等を展示している。
 局の中に入って展示品に見入っているとすぐ局長から声を掛けられる。名刺を貰う、「仮面ライダー」「009」原作絵の二種。暫し局長と歓談、「マンガランド構想」や石森作品について。ここで、石巻中央一郵便局でも「構想」関連展示をしている旨を聞く。
 展示品。シルクスクリーンの「仮面ライダー」「009」は高価ではあるが割りとあちこちで見掛ける品だ。
 里中満智子、モンキー・パンチ、花小路小町、一峰大二、ビッグ錠からの年賀状あり。
 「ふるさと記念館」テレカの図柄は「スカイライダー」と「009」、格別好きでもないくせに「スカイ」の図柄を見ると嬉しくなるのはやはり世代人故か。
 「あいランド」テレカの図柄はモンキー・パンチ、里中、一峰、中山星香、花小路。サイン色紙は一峰、ビッグ錠、バロン吉元、矢口高雄。一峰のは「ウルトラマン」の絵。
 漫画の一頁の展示もあり、倉田よしみ「味いちもんめ」、島本和彦「鉄砲玉サブちゃん」、水島新司「ドカベン・プロ野球編」。
 仮面ライダーの石像、結構大きなものだがこれは市内の石屋に頼んだ特注品とのこと。その他、市販商品の本郷ライダー人形もあり。
 記念にふみカードを買う。「[石巻発]まんがふみカード 石森章太郎とすてきな仲間たち version1」。A4二つ折りの台紙の表紙には「仮面ライダー」「ロボコン」「ゴレンジャー」「嵐」等の絵。台紙の内面に石森画「009」、水島新司画「佐武と市&あぶさん」、ちばてつや「ボンボン となりのたまげ太くん&鉄兵」の図柄のふみカード三枚が収められている。水島、ちばの両作品は石森画業四十五周年の記念に寄せられた絵。裏表紙には石森の文章が載っている。
 局長と握手をして、辞去。
 もと来た道を引き返す。石巻駅から真正面の突き当たりまで戻り、そこから今度は東に進む。石巻立町郵便局前を通過し、狭い飲食店街を抜けると見覚えのある町並み。「墨汁一滴」着は正午頃だったろうか。
 店内にはawano氏、そしてすぐ和田氏も来店。
 卓上に筆者持参の都市地図を広げ、「墨汁一滴」、石巻信用金庫本店、粟野蒲鉾店の位置を確認。
 いろいろパンフレット、チラシの類を貰う、是非あちこちで配って宣伝して欲しいと。「石巻萬画よろずが通信」創刊号が特に読み応えがある。「構想」の今までの経緯や現在の状況等がまとめられ、また、宮城県以外の石森関連施設も紹介されている。
 情報発信基地(有)エイチ・ツー・オー発足、その初代社長は和田氏。さあ、当分は和田氏を「社長さん」と呼ぼう! 初めに「墨汁一滴」のページでこの会社の名前をみた時には聞いた事ない会社だと思ったのだが、旧「広げる会」が前身のような会社だそうだ。本社は「墨汁一滴」内。色々関連商品を開発するようで、まず二点の本が出ている。尚、「HO」と聞いて筆者が「みゆき」の主題歌の一節を店内で歌ってしまったのは言うまでもない。
 歌と言えば、筆者の到着時には店内でカラーの「009」ビデオ上映中で、ぴったり世代人の筆者は「誰がために」「いつの日か」を口ずさんでしまう。口ずさまずにはいられないのである。特に「いつの日か」は大好きだ、あの緩やかな曲調と「こおろぎ’73」の優しい歌声が快い。歌詞もまた趣がある。そして二番と三番の間の間奏もいいのだ。
 先客の家族連れから石巻信用金庫の「仮面ライダー」「009」預金通帳を見せられる。通帳入手も今回の石巻訪問の目的の一つ。ますます欲しくなる。
 愈々いよいよ開館が一ケ月後に迫った「ふるさと記念館」も当然話題になる。交通手段のことや、すっかり打ち捨てられてしまった同館ウェブページの事等。公的機関のウェブページは更新しないのならなまじ無い方がよい。
 「グッズ」の噺。「009」ウッドプレートは木製品だけに素朴だが決して安っぽくはない。筆者はコンクリート製品「仮面ライダーBLOCK」を提案、大体駄洒落野郎だからこの程度しか思いつかぬのである。
 「構想」についてのいろいろな挿話を両氏から聞く、これが本当に面白いネタばかり。特に筆者が感心したのは、田代島での催し物の後、漫画家諸氏や関係者を乗せた船が大荒れの海に出航した時のこと。大波で皆が戦慄する中、三浦みつるは一人平然としていて、和田氏は「先生は恐怖のあまりどうかしてしまったのではないか」と思ったのだと言う。実は「大荒れの海」という滅多にない状況を「取材」していたのだそうで、さすがプロだと一同感心したそうだ。今後、三浦作品で「大荒れの海」の場面が出て来たら石巻の海での体験が元ネタだろう。
 また、広げた都市地図を「教材」に、「構想」のみならず石巻市の地理、歴史についてもいろいろ教えてもらう。よくよく考えてみれば石巻市と我が水澤市は北上川でつながっているのだ。
 とにかく石巻市に行きたがっている、「構想」に協力を惜しまない漫画家が多いのだという、これやはり故人の人徳か。
 二階も見てみる。壁にサインが増えている、一峰、三浦、ビッグ錠、御茶漬海苔。階段の壁には、スポーツ新聞の「仮面ライダーが星の名前になった」という記事と讀賣夕刊の「『クウガ』賛否両論」の記事が貼ってある。
 和田氏の案内で石巻信用金庫本店へ。「墨汁一滴」から北に歩いて数分、川岸にある。ここでもいろいろ展示あり、入り口からすぐの場所に和田氏製作の張り子の1号ライダー、RX、ロボコン。大変よくできている、やはり筆者にはRXが嬉しい。
 「仮面ライダー」預金通帳申し込み。伝票に記入、押印して窓口に提出、その間に展示を見て回る。
 これも和田氏によるV3像、マネキンに着せて作った物。
 原作者による「仮面ライダー」色紙は即興らしく赤色の部分に口紅が使われている。
 「萬画館」模型、設計図はかなり大きな物。
 何故か鳥取県境港市の水木しげる関連商品が置いてあるので和田氏に尋ねると、同市を視察した際に買って来たとのこと。
 「スカルマン」の像とライターもある、これらは市販商品。
 ここにも漫画家諸氏の色紙あり、花小路、まやまこと、ちばてつや、いがらしゆみこ、ジェリー・アンダーソン(「バットマン」作者)、一峰。
 窓口に呼ばれる。口座開設時の本人確認書類として提出した郵政省職員証、これが何と不可だと言う。運転免許証、健康保険証ならいいが職員証等は使えないと。和田氏が「何とかならないか」と言ってくれたが筆者も敢えて粘ったり、ごねたりせずに退く。筆者も同業者、普段窓口で「診察券では証明書類にならない」等という旨の説明を日々しているので向こうの言い分は十分理解できるのである。残念だが仕方ない、筆者の不勉強である。つい最近、架空名義口座のインターネット上での売買が摘発されたりして、各金融機関には口座開設時の本人確認が厳しく求められているところでもある。尚、郵便局ではこの時点では本人確認書類として職員証、社員証、学生証も一応、可だったが、現在は原則不可になっている。筆者は運転免許証は常時愛車の中に積んでおり、携帯はしていないのだ。
 また、「仮面ライダー」預金通帳は「総合口座」ということで定期預金十万円以上をつけるのが原則だそうだ。ここも要注意である。
 結局、今回は通帳を作れずに退出。
 更に和田氏の案内で、旧北上川に架かる内海橋うつみばしを渡って中瀬に行く。「石森萬画館」建設現場。来夏はいよいよここに開館するのである。
 建設現場の向かいには史跡・旧聖ハリストス正教会堂。東方系の教会。教会堂だから西洋建築なのだが瓦葺き。施錠されているので中には入れないが、中を覗いてみると何と畳敷きの和室である。二階に礼拝の部屋があるのだと言う。何とも不思議な感じのする建物。また、建物自体上空から見ると十字架の形だそうだ。
 教会敷地内に漢文の碑、内海橋の由来について。今時、漢文読解なんて実用性は殆ど無いが、この手の碑文を読む時は役に立つ。
 中瀬には老舗の映画館・岡田劇場もある。外観からして古びた、小さな映画館、嘗て少年時代の石森がここに通ったのだという。つまり石森と石巻市の縁はここから始まると。
 「墨汁一滴」に戻りながら和田氏といろいろ語り合う。和田氏は中瀬が「萬画館」建設地に最適であることを力説する、「橋を渡る」という行為が「異界に踏み出す」ような感じでいいではないかと。筆者もそう思う。
 川岸を吹く風が心地よい。
 再び「墨汁一滴」へ。今回の買い物は「萬画神社守護札」と「Black」絵葉書。絵葉書は少し多めに買い込む。
 店の前で和田氏と並んでと筆者単独で記念撮影をして(撮影者はawano氏)、中田町での再会を期して辞去。これが午後二時半頃だったか。
 今度は南下、程なく石巻中央一郵便局。市役所分庁舎と同じ建物に入っている。ここも「構想」協力局。
 ここにもシルクスクリーン、「仮面ライダー」「キカイダー」「009」。その他、安彦良和テレカ、3人ライダーZIPPO、マンガジャパングラス、日本酒「萬画蔵」、「北緯39°麦酒」等。ここでは特に職員とは話をせず、絵入り葉書「みやぎの明治村」を求める。
 区画の反対側に回り、今回の最終目的地・(有)粟野蒲鉾店へ。店頭に仮面ライダー人形が並べてある。「サイボール009・生鮮戦隊ゴボウレンジャーセット」を二組求める。店員の女性が「どこから来たの?」と問う、やはり旅人だと判ったのだろうか。筆者は岩手からだと答え、「今、『墨汁一滴』で若旦那と話をして来ました」と話す。
 シャッター通りを通って駅に着くのは午後三時十分頃。ここに至って昼食をっていないことに気付き、駅併設のコンビニで弁当等を買い込み、二十一分の小牛田行の列車に乗り込む。車内で弁当等を喰い、水澤帰着は午後六時二十六分。
 実に楽しい一日であった、いろいろな場所を見て回れたし、「墨汁一滴」スタッフ諸氏には今回も本当にいろいろお世話頂いた、厚く御礼申し上げ候。
 筆者が歩いた限りでは石巻市中心部は道が狭いので、下手に自家用車で乗り入れて駐車場所を探すのに苦労するよりは徒歩の方が気楽でいいかも知れない。双葉町局から中瀬まで一キロメートル半から二キロメートルと言ったところか、大した道程ではない。
 平日の訪問だけに郵便局や信金を回れたのがよかった、ただ通帳を作り損なったのは悔やまれる。今度はハンコと健康保険証と十万円をしっかり用意して作りに行こう、まあ次回訪問時の楽しみにとっておけばいいさ。
 次は秋の涼しい頃に石巻市を訪問したい。その際は通帳申し込みの他、「墨汁一滴」ウェブページで紹介されている蕎麦そば屋「えび志」にも寄りたい、筆者は大の蕎麦好きである。岡田劇場で映画も見てみたいし、何より田代島も是非訪問したい。
 それにしても少々気になるのが、「ふるさと記念館」や「萬画館」等、宮城県での石森顕彰運動は、少なくともネット上で見る限り、「仮面ライダー」等の特撮愛好家の間では殆ど話題になっていないということ。両施設ともあくまでも萬画、原画主体の施設であって「仮面ライダーテーマパーク」ではないのだが、それにしても「原作者」の関連施設についてネット上の特撮愛好家はあまりにも無関心に見える。特撮作品は石森作品というよりも東映作品ではないか、という意見も以前知人から聞いたが、その一方で「クウガ」について「石森作品らしくない」とか「石森風でよい」等と、「石森」を基準にした論評もちょくちょく見掛ける。何より、原作者死去の際は我が「帝國」のアクセスは急増した。果たして特撮愛好家にとって「石森章太郎」とは何者なのだろうか。尤も、斯く言う筆者も「BLACK」「17」「キカイダー」といった個々の特撮作品の愛好家であって、必ずしも石森愛好家ではない、未だに萬画の一冊も読んでいない。尚、「墨汁一滴」店内には「クウガ」の写真や人形は飾られている。
 最後に。(有)粟野蒲鉾店の商品、これが大変おいしい。二組共筆者独りで全部喰ってしまう。箱には石森作品の他、モンキー・パンチによる「ルパン三世」の絵も描かれていて、「天下の風味」「最髙に美味しい」と大絶賛している。石巻訪問の際は是非立ち寄って買うべし。インターネット上で通販も取り扱っている、リンク集に加えたので同店のウェブページを御覧あれ。

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