「石森章太郎ふるさと記念館」第二回訪問記

平成十二年七月二十日(木)

 近所の同好の友人ゴーグルグリーンと水澤駅に朝七時に集合。七時九分の上りに乗車、一関駅での乗り換えを経て石越駅着は八時二十二分。車中や下車後の駅でも我々以外に記念館に向かっているような様子の人には全く会わず。
 現地は曇天。炎天ではなかったのが幸い。まず駅前の宮交登米バスの乗車場に向かう。佐沼行は九時二十七分発、あと一時間もあるのでできるだけ歩くことにする。
 石森行は筆者は二度目、ゴーグルグリーンは初めて。筆者の案内でバス道路を歩く。筆者のみならずゴーグルグリーンもまた歩くのは苦にならない方である。雑談をしながら東へと歩む。
 一時間ほど歩き、九時半過ぎに新墓しんはかからバスに乗る。バスの中から、路傍の記念館案内のぼりが見える。
 石森仲町到着は十時前。近所の祭礼と重なって記念館前はかなりの混雑。ただでさえ道が狭いのに引っ切りなしに自動車や人々が行き交う。記念館前の通りの様子自体は去年と全く変わっていない。
 既に見学者が何人か並んでいる、そう長い行列ではない。入場券購入、赤と青の二種類がある。筆者は青を選ぶ、絵柄は自宅玄関の原作者と仮面ライダー像。ゴーグルグリーンは赤を選ぶ、二人でレッド&ブルー。
 敷地内では関係者、招待客が参加して何やら式典を行っているようだが、外の我々には中の様子は殆ど分からぬ。時折、拍手や吹奏楽演奏が聞えるのみ。一般の入場は十二時から、それまで二時間待ちである。
 だんだん列が長くなる。幼児を含む家族連れが目に付くも、その他我々のような青年層や高齢者まで、実にあらゆる年齢層の人々が集まってくる。
 待ち時間の間、筆者は読書をして過ごす。また、売り子がやってくるのでフライドポテトやラムネを口にする。列の後ろの方、安永寺の境内では多くの屋台が出ており、また、地元商工会婦人部が焼きそばなどを売っている。
 仙台放送の取材班の姿を見る。
 十二時、開門。どっとなだれ込む。
 建物の外壁にガラスをはめ込まれた小さなくぼみがいくつもあり、その中に石森作品の関連商品が収められている。「スカルマン」のライターや「不思議コメディー」ヒロインの人形等。この記念館はあくまでも萬画、原画主体であると聞いていたのにいきなりテレビ作品関連商品が出て来て多少驚く。
 細長い建物の中央部に入り口がある。まず左手の方の企画展示室に入る。開館を祝して漫画家達から贈られた色紙の展示が実に壮観。マンガジャパン会員やトキワ荘仲間等、現役の著名漫画家の大部分が揃っているのではないかと思われるほど。各漫画家がそれぞれの芸風で石森作品の登場人物を描いているのが面白い。石森と生年月日が同じである松本零士は色紙にもそのことを描いている。
 色紙展示の更に奥には石森の生涯についての写真パネル展示。書籍「石森萬画館」掲載の物と同じ物が多い。
 一番奥にはアニメ「小川のメダカ」メイキングのビデオ。
 展示室の片隅のショーケースの中にはテレビの石森作品の玩具、人形の一群。時代、形態とも様々。「仮面ライダー」のみならず「大鉄人17」の超合金や「不思議コメディー」の小道具もある。
 入り口のカウンターにはクウガの実物大と思われるマスクが飾られている。
 今度は入り口から見て右手の常設展示室。ゴーグルグリーンに言われて足下を見れば床に石森特撮作品の玩具類が埋め込まれている。「仮面ライダー」以外のも多くあり。特撮愛好家の筆者はこの玩具類を見ているだけでも結構楽しめる。
 石森の生涯を示す品々。勲四等旭日小綬章の勲記、記章もここにある。トキワ荘の一室の再現や画業四十五周年記念扇子等、なかなか見応えがある。
 床に埋め込まれた生涯の年表、萬画作品の発表は記載されているもののテレビ、映画については省かれている。ただ、テレビ「仮面ライダー」初作の大当たりは特筆されている。年代とは無関係に特撮関係の玩具類が年表のあちこちにちりばめられている。
 ジオラマ「生家の秘密」が唯一の特撮関連展示、だろうか。それなりに面白い作りではある。
 常設展示室の更に奥は図書ライブラリー、ビデオ/デジタルライブラリー。萬画の本が自由に読めるが筆者は萬画には興味は無い。ビデオライブラリーは市販商品が殆ど。
 常設展示室の入り口辺りで石巻「墨汁一滴」のawano氏に会う。すぎやま女史が待っていると言う。
 外に出て四阿あずまやに向かう。石巻「墨汁一滴」のスタッフ達と挨拶を交わす。そして、石巻「墨汁一滴」ウェブページの掲示板で交流のあるすぎやま女史。
 女史、筆者、ゴーグルグリーンの三人で会話。尤も、実態は例によって間を持たせようと筆者が一人で喋りまくり。
 三人それぞれの石森作品との係わりやインターネットの事等。石森作品との出会い、女史は「009」、筆者は「ゴレンジャー」、ゴーグルグリーンは「V3」。しかしよくよく考えれば「がんばれ!!ロボコン」と筆者は同い年だから、こちらとの出会いこそ早いかも知れない。
 筆者は女史に「超銀河伝説」はそんなに評判悪いのかと尋ねる、女史答えて曰く、そのとおりだと。どうも洒落でなしに悪評のようだ、あの映画は。筆者は、子供の頃にテレビで見たのはカット版だった為にこの映画で004は死んだものと思っていたと語る。そう、つい最近ノーカット版を見るまでそう思っていたのである。
 「BLACK」のこと、女史は倉田てつをは今何に出ているのかと尋ねるので筆者は「渡る世間は鬼ばかり」に出ていると答える。また、筆者の知人が運営している倉田応援ページが最近事務所から公認を受けたので、後でリンク集から参照すべしと付け加えておく。
 かき氷を喰う。筆者は赤い苺味、ゴーグルグリーンはまたも筆者に対抗してブルーハワイ。あくまでもレッド&ブルーである。シロップのせいで青く染まったゴーグルグリーンの唇が気持ち悪い。
 記念館併設の売店「墨汁一滴in石森」。蔵を改造した建物、中では記念館独自商品やバンダイの玩具を売っている。CDラジカセからは「ストロンガー」歌曲。まだこの時点では何も買わぬ。
 やがて晴れて蒸し暑くなってくる。
 午後一時四十分から駐車場で「トークショー」。女史、ゴーグルグリーンと共に会場へ。既に座席は満席。我々は座席群の後ろに立つ。
 トークショー出演者はちばてつや、矢口高雄、里中満智子、藤田まこと、藤岡弘。
 何故藤田なのか。藤田はまず「クウガ」と「はぐれ刑事」のスタジオが隣同士という噺をして、去年、同様に隣同士だった「燃えろ!!ロボコン」に出演したのが今日のトークショー出演の縁だと語る。生前の石森とは面識は無いそうだ。また、「本当は仮面ライダーは私がやるはずだったが、顔が長すぎるという理由で不採用になってそれで中村主水になった」等と言って聴衆を笑わせる。藤田まことの仮面ライダー、見てみたいような気もする。
 漫画家諸氏と藤岡からは生前の石森の思い出や記念館への期待。筆者が最も印象深かったのは、矢口の「この記念館を採算で非難してはいけない」という主張。
 会場の声援に答えて藤岡は「変身」を披露。「久しぶり」等と言っていたが実際はあちこちの講演等でやって見せているのではなかろうかという気もする。壇上での「変身」、まるで横綱土俵入りのような風格がある。
 そして最後にこれこそ「何故か」藤田が歌を披露。
 四、五十分ほどのトークショーだったがどうもちぐはぐな進行で、しかも出演者の声が少々聞き取りにくかったのが残念。
 夫人同伴で小野寺丈来場、トークショーの間はテントにくつろぐ。筆者、意を決して彼に近づき、「『仮面ライダーBLACK』の頃から見てました」と挨拶をして色紙にサインをもらい、握手までしてもらう。これが筆者にとっては今回最大の収穫。小野寺と言えば「BLACK」「RX」「真」に役者やスタッフとして参加、吉川ライダーを語る上で欠かせない人物である。サインには筆者の名前まで入れてもらって、もう一生の宝物。まさか斯くも間近で接触できるとは夢にも思わず。
 六月に訪れた石巻双葉町郵便局の佐藤局長とも再会。向こうから気付いて声を掛けて来る。
 トークショー終了後、同じく駐車場で漫画家二十余名によるチャリティーサイン会。テントは漫画家諸氏の席である。筆者はモンキー・パンチのをもらう。書いてもらっている間に会話。どうも原作者も「念力珍作戦」のことは快く思っていないようだ、「苦い思い出」だと。「釣りキチ三平」愛好家のゴーグルグリーンは矢口高雄のサインをもらう。
 トークショー、サイン会の会場たる駐車場の両脇には開館を祝しての花輪。特撮関係では東映社長・岡田茂、テレビ朝日(筆者注・「クウガ」プロデューサー)・清水祐美、東映ビデオ副社長・石黒吉貞、肩書無しで水木一郎。役者関係は松方弘樹や梅沢富美男はあったものの、テレビ特撮の主役級出演者からは一切無し。
 トークショーの前後、駐車場では「組曲仮面ライダー スカイライダーBGM篇」が流れている。筆者の大好きな盤だけにこれは嬉しい、筆者達も歌ってしまうのは言うまでもない。「燃えろ! 仮面ライダー」では握りこぶしを突き出して「オウオウ!」と叫び、「はるかなる愛にかけて」を切々と歌う。そして「跳躍 闘争たたかいの時」ではギターをかき鳴らす手振りをしてしまう(実際は弾けない)。しかしどうせなら村上弘明も来ればよかったのに。
 ライブラリーの更に奥、建物の一番奥が研修室兼ビデオシアター。外でゴーグルグリーンと歌いつつ次の上映開始時刻を待っていると見知らぬ女性から声を掛けられる、記念館の地元の関係者。記念館に注いだ情熱を熱く語り、我々に手漉き和紙の名刺を手渡して、何か意見があればどんどん送ってくれと言う。歌っている我々を見て「熱心な愛好家」と思ったそうだ。本当にいろいろな人に出会う日である。
 ビデオシアターに入る。上映開始。アニメ「小川のメダカ」原作は石森、演出は兼森義則、声の出演は山寺宏一、三田ゆう子、かないみか。少年の日々の郷土の思い出。「風だけは変わらない」という台詞が強く心に残る。しかしいくら何でも石越町や中田町が「東京と同じ」という事は無いと思う。
 そして「009」愛好家達は大騒ぎしているらしい、来年放送予定の「009」新作テレビアニメの「ビジュアル・コンセプト」。数分の試作品、これだけでは何とも言えぬ。ただ、筆者は作画の輪郭のギザギザが気になる。
 外でまた小野寺丈を見掛けるので「さっきはありがとうございました」と声を掛ける。
 再び企画展示室に入り、「小川のメダカ」のメイキングビデオを見る。
 入り口カウンターで記念館の図録を買う。「映像作家・石森章太郎」という項目でテレビ番組や映画、オリジナルビデオ等の一覧が掲載されており、没後の作品である「ボイスラッガー」「燃えろ!!」「クウガ」も掲載。萬画を読まぬ筆者にとっては寧ろこちらの方が関心がある。贅沢を言えば「作詞家・石森章太郎」もまとめて欲しかったものだ。敵の名前を大胆に詠み込み、鮮やかに色彩を歌い上げる独特の作詞。「レッツゴー!! ライダーキック」「ゴーゴー・キカイダー」「進め! ゴレンジャー」「オー!! 大鉄人ワンセブン」どれも印象深い。特に「レッツゴー!! ライダーキック」冒頭からいきなり悪の軍団が迫ってくるとんでもない歌詞、極めて斬新である。「BLACK」「RX」では正副主題歌こそ手掛けてはいないが、挿入歌で素晴らしい詞を残している。さかい大「ほえろ! ボイスラッガー」はかなり石森風を意識した作詞ではあろう。
 「墨汁一滴in石森」で買い物。二階には例の高額版画を展示してあり、我々は当然一階のみを物色。結局筆者は絵葉書セット、仮面ライダーワッペン、ロボコンアタッシュケース、佐武市サブレを買う。
 退出は四時半過ぎ。
 ついでに、近所の石森の生家・小野寺家を見る。昨秋、この前を筆者も通ってはいるがその時は全く気付かず。新たに「生家」の看板が掛かっているが非公開。この家の脇が昔は川だったのだとゴーグルグリーンに説明していると、通りかかった女性が「(指さして)あれが章太郎さんの部屋だった」「昔ここに川が流れていた頃はここで米を洗ったりした」「章太郎さんも子供の頃ここで泳いだ」等と我々に説明してくれる。彼女、近所の電器屋の人。つくづくいろいろな人に出会う日である。
 石森仲町バス停を見れば石越駅方面行のバスの最終は午後三時三十三分。既に行ってしまっている。駅に向かってまた歩き始める。途中、近道のつもりで違う道に入って却って迷ったりしてしまうが七時過ぎには駅に着く。下り列車が来るまで一時間近くあるので駅前の食堂で食事。
 八時十三分発の下りに乗り込み、水澤着は九時二十五分。
 もうとにかく充実、満足の一日。多くの人達との出会いがあった、知っている人との再会や思わぬ人との巡り会い。「出会い」が印象深い一日であった。
 常設展示内容は筆者の予想よりも特撮関連があったようにも思うが、あくまでも石森章太郎の記念館であって仮面ライダー記念館ではない。それに、特撮関連展示と言っても個々の作品についての詳細な解説や作品のスチール写真、撮影に使われた資材、衣装等も一切無い。それこそ女性愛好家によくいる、特撮作品の出演俳優が好きなだけで石森本人や石森作品自体には興味関心が無いという人は来るべきではないと思う。「不思議コメディー」関連の品が少なからず置かれていたのは意外。「ロボット110番」「バイクロッサー」「ボイスラッガー」関連の品物は一切無かったような気がする。
 それにしても筆者もだんだん世に容姿が知られてきた、うっかりした事は出来ないぞ本当に。どうも筆者の全身黒ずくめの姿は見る人にそれなりの印象を刻み込むようではある。

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