「石森萬画館」第十七回訪問記

平成十五年五月三日(土)、四日(日)

 早朝五時起きで朝一番六時三十二分の上り新幹線に乗る。仙台着は七時二十分。新幹線改札を出て仙石線ホームに向かう。構内各所にマンガッタンライナー案内の絵看板が出ている。八時二分の快速うみかぜ三号は萬画車体ではない。五十二分、石巻着。この日も暑くて襟巻きも手袋も要らないが、下宿を出てマシンに跨がる時はまだ寒いから必須なのだ。
 仙石線ホームの足元に「サイボーグ009号乗車位置」という絵入り表示があるのを見つける。同様に「仮面ライダー」「ゴレンジャー」「ロボコン」、一作品につき絵柄は四種類で計十六点。先日のマンガッタンライナー初日の時は全く気づかず。デジタルカメラに収めていると駅員から「どこから来たの」と声を掛けられる。やはり車体の絵と対応した乗車位置表示だという。
 今日も好天の石巻市。駅舎を出ていきなり萬画館の木村氏に出会う。駅前のベンチに腰掛けて暫し歓談。
 駅舎の屋根の上に002のモニュメントが設置される。ただ建物にくっつけただけ、文字どおり取って付けた様な体裁であまり面白味が無い。旧「墨汁一滴」の「壁から飛び出す009」こそ傑作だと思う。
 やがて筆者独り中瀬へ向かう。
 前回009だけ撮り損なっていた立町通りの立て看板、ペアーレ石巻の手前に009を見つける。やはり全員いたのだ。
 中瀬。萬画館向かいの公園の川岸に復元木造帆船・ひらたの北上川連携号停泊中。全長約十九メートル、帆柱は立っているが帆は降ろされている。
 艜は嘗て北上川の舟運で活躍した運搬船だが、近代の鉄道敷設等の陸上交通の発達による舟運しゅううんの衰退で姿を消した。それが三年前に復元され、今回岩手県北上市(旧黒澤尻)の展勝地から水沢市や宮城県登米郡等を経由して中瀬まで百十年振りの航行となった。四月十八日に北上市を出発して二十七日に中瀬に到着、この日はまた北上市に向けての復路の出航である。今回の石巻市訪問の第一の目的はこれの見物。余談ながら「舟偏に帯」の「艜」という字、見慣れないから国字かと思ったらに非ず、JISでは補助漢字。
 関係者が出航準備の為に忙しく動き回る。報道記者の姿も見える。多くの野次馬が取り囲む。すぐ近くには中瀬一周の遊覧船の乗り場が設けられている。実に出航にふさわしい、いい天気である。
 十時頃、一度下流に向けて出航。帆を揚げず、搭載のエンジンで下る。風力動力併用の船である。
 萬画館に入る、また例によってこそこそと。BLUE ZONEでコーヒー一杯と玉子サンド。トレーに貼ってある石森萬画シールは一枚毎に違うが、筆者使用のがたまたま「スカイライダー」、渋い。廊下で板橋社長に会う。
 中瀬公園を歩き回る。この日から五日まで「春のマンガッタン祭り」開催、中瀬公園に多くの出店や遊具が出る。また、ミニSL運行。筆者は敢えて公園内部には踏み入らず、周辺の川岸を散歩する。川岸を歩きながら歌うのは勿論「オレの青春」。作田嶋神社参拝。
 艜が川下から戻って来るのを待つ。その間、近所在住の老紳士と歓談。
 十一時少し前、艜が帆を揚げてこちらに向かって来る。無地の真っ白い帆が実に美しい。しかし逆光になって写真が撮れず、もっと川岸に接近してから撮ろうとしたら接岸前に帆が降ろされてしまう。川岸の野次馬から不満の声が聞かれるが、聞けば決まりで接岸前に帆を降ろさねばならないのだという。再び元の位置に接岸。
 また中瀬を徘徊する。本当にただ歩き回るだけ、買い物もしなければなじみの萬画館職員にも一切会わず。
 萬画館向かいの駐車場で水戸ナンバーの自動二輪の一団を見かける。
 一度中瀬を出て粟野蒲鉾店に出向き、普段世話になっている知人宛に「サイボール・ゴボウレンジャー」を一つ注文する。
 中瀬に戻る。
 出航準備、起重機で艜の帆柱が畳まれる。帆柱を倒さないと内海橋もくぐれない。
 そして十二時頃、エンジンの轟音と共に艜は北に向けて出航、帰って行く。多くの人々が見送る。尚、艜は十日に無事、展勝地に帰航している。
 再びBLUE ZONE。昼食、エビピラフと紅茶。この日も多くの家族連れで賑わう店内。
 隣の研修室では、和田社長提供による「昭和四十年代の車たち 懐かしのカタログ展」開催中。当時の自動車の販売カタログの展示。四月二十六日から五月五日まで。
 この日、入場券自販機で売られているのは共通券と企画用展示室用だけで、常設展示室用は売られていない。見たいのは常設だけだが共通を買って入る。今回の石巻市訪問の第二目的、常設での「Black」原画展示。今回の訪問の計画当初は艜見物、中瀬徘徊だけで萬画館展示室には入らずに帰るつもりでいたが、常設の原画展示が「がんばれロボコン」「おみやさん」「ひょっこりひょうたん島」「Black」に入れ替えられたのでそれも見ることにしたのである。入場券自販機には、JAF会員証提示で割り引きがあるので会員は受付に申し出るべき旨の説明が貼ってある。
 「おみやさん」と「ひょうたん島」は只今テレビ放映中、旬の題材ならん。「ロボコン」「おみやさん」の原画は一回分の展示だが、「ひょうたん島」のは断片的に残っている六枚のみ。
 「Black」は連載第一回の紐育ニューヨーク地下水道、冒頭はカラー。第一回だけは「少年サンデー」を立ち読みしているのでそれ以来十六年振りのカラー萬画鑑賞である。スペースの都合だろう、展示は途中までになっているのが大変残念だ。変身もしなければパンツ一枚穿かない「全裸の南光太郎」が長々と続く、しかも途中に所謂残虐場面もあれば展示の最後のコマは「南光太郎の下半身に噛み付く怪人」という、何とも凄絶な展示である。展示担当者の趣味なのだろうか。萬画館職員には妙齢の女性が多い、彼女達がこの原画を血走った目で見つめて興奮していたらヤだ。家族連れには勧められない展示である。
 常設のBLACK、RXのマスクの前で「『渡る世間は鬼ばかり』の人」と言っている女性がいる。サイクロン号等は相変わらず大盛況だ。
 十四時少し前、遊覧船乗り場に行く。切符を買って待つ、その間船会社の担当者達と歓談。渡航の為ではない遊覧船乗船となると昭和五十七年、小三の遠足での松島湾内くじゃく丸以来か。
 十四時過ぎ、遊覧船が帰って来る。救命胴衣を着込んで乗船。筆者の他の乗客はどこかの家族連れ二組。
 中瀬の東側から反時計回りに出発。まず東内海橋をくぐって中瀬の北端を回る。石巻大橋や石巻信金本店、住吉公園が見える。テープの船内放送で周囲の風景の解説。
 南下して西内海橋をくぐる。おかよりも水上の方が風が強いようだ。どうして船に小袋の「かっぱえびせん」が積んであるのかと思ったら海鳥の餌だった、乗員や乗客が海鳥に餌をやるが自分で喰ってしまっている幼児もいる。筆者は写真撮影に徹する。
 例の謎の船「あかつき」は操舵室の屋根の上に「割烹 春潮楼」の真新しい看板が掲げられている。
 中瀬南端には今日も釣り人。
 一周約二十分。風は強いがあまり揺れず、快適な遊覧。
 中瀬を出て十五時頃に和田社長の店に着く。そこに「石研」やまおか氏到着。氏とは萬画館開館初日以来の再会。鼎談の話題は「構想」の他に北上川舟運やその流域の歴史等々。筆者は維新後の水澤縣について語る、例の「水沢市と中田町は同じ県だった」という噺。この日は石巻市宿泊、翌日は中田町訪問の予定という氏は萬画館参観に向かう。やがて筆者も辞去。
 十六時頃か、久方振りにサイバーカフェ虎の穴を訪れる。昨年七月二十一日以来半年以上を空けての訪問だが筆者を憶えている大久保店主と三浦店員。頻繁に来石しているようなのにどうしてこちらにはなかなか来ないのだと、三浦店員に叱られてしまう。
 プロレスラーにして現・岩手県議会議員の写真が飾ってある。公権力の一員となり、盛岡選挙区のみならず岩手県全体の代表として対外的な活動もすべき身なれば、覆面のままというのは筆者は大反対。更に筆者が心配しているのは、ここで容認してしまうと他の地域や種類の公職選挙にまで波及しないかということ。問題の議員自身が「更に上」を目指さないとも限らない。自治体首長の素顔を有権者が知らず、国権の最高機関たる国会に覆面やコスプレの議員が出席するようなことになってもいいのか(コスプレについては既に三重県上野市議会で議員や市職員達が忍者装束や宗匠の旅姿で出席する「忍者議会」「芭蕉議会」の実例がある)。それこそ、石巻市の「構想」関係者が地元政治家にコスプレ政治活動をけしかけたりしたら目も当てられない。この件に関しては筆者は、斯かる候補を首席当選させた盛岡選挙区の有権者の見識をも疑っている。
 ものまねで三浦店員を笑わせつつ三人で大いに語り合う。やはり「どの格闘技が一番強いか」異種格闘技戦というのは男にとって永遠の夢だろう。暫く会っていない他の「構想」関係者の近況も聞く。
 十八時半過ぎ、閉店と共に辞去。ああ、正規の閉店時刻十八時を三十分も越えてしまっているではないか。買い物一つせずに居座っただけで申し訳ない。
 八幡家。いつもの「ミニ」ではない「うな丼」を注文すると在店の大女将(紀代子女将の母上)が大盛りを勧めるのでそのとおりにする。うまい。吸い物もまただしが効いていて香ばしい。更に茶わん蒸し一つ追加、ここの茶わん蒸しも本当に大好きだ。以上、贅沢な夕飯で満腹。
 二十時過ぎ、石巻駅に着く。併設コンビニの本棚の一つが丸ごと石森作品で占められている、さすが本場。店員もまたサイボーグ戦士仕様のエプロンをしている。
 所用で仙台市に一泊するので帰りも仙石線。運よく萬画車体だがマンガッタンライナーではない。がら空きの車内、一両に三人程しかいないので写真を撮りまくる。日中の混雑車内や一般公開よりも撮りやすい。
 二十時三十六分発車。

 翌日十時過ぎ、仙台市青葉区の電力ビルグリーンプラザを訪ねる。「石森萬画館展 僕らのヒーロー大集合!」通称「出張萬画館」四月二十二日から五月五日まで。
 二年前の萬画館第一回特別企画展「THE章太郎ワールド」で使われたパネル類や原画、「墨汁一滴」商品、石巻市観光ビデオ上映等。ここでも「Black」原画一枚を展示していて嬉しくなる、ライダーの横顔。「イナズマン」原画は「ギターを持った少年」から一枚。ミニワークショップ開催中。アテンダントが駐在している。片隅のウェブステーション(インターネット閲覧用パソコン)で「萬がったん掲示板」に書き込み。
 小一時間ほどを過ごしてから仙台駅に向かい、十一時四十分の東北本線下りで帰途に就く。

 日々変貌を遂げる石巻市、訪問の度に新しい発見がある。当分飽きそうにない。
 艜。北上川流域の住民として、また水上交通に関心のある者として前々から見たかったので、今回絶好の青天の下で見られたのは本当によかった。川が結ぶ岩手、宮城両県。この流れが水沢市と石巻市をつないでいる。ああ、大いなる北上川よ。
 「Black」の中途半端な展示は大変残念だが、単品ではなく或る程度まとまった分量の原画を見たのは初めてだ。機会を見て一回分全部を展示して欲しい。やはり変身したライダーの活躍場面も見たい。
 「虎の穴」は久方振りの訪問で今までもろくな買い物をしていないのに歓迎してもらって恐縮の至り。プロレス愛好家の相棒ゴーグルグリーンと訪問したいところでもある。
 過去県内各地や横浜市で開かれている「出張萬画館」、是非岩手県にも来て欲しい。

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