「石森章太郎ふるさと記念館」第二十一回訪問記

平成十五年七月二十日(日)

 以前から、筆者がマシンで石巻市を訪れようとすると必ず前日か当日が大雨になる。一日のうちに中田町と石巻市の両方を訪れる計画、今回も前日から当日午前中にかけて大雨、十一時頃には止む。曇天の下、十二時十五分出発、国道四号線を南下する。途中、前沢町内で給油。
 空いた国道を疾走して十二時半過ぎにふるさと記念館到着。既に館の敷地内に多くの親子連れが溢れる。
 まず蔵楽で食事、蔵楽ランチ。館や店のなじみの人々に挨拶。小野寺館長は遠方からの団体客の案内をする。
 第12回特別企画展は「鉄腕アトム誕生記念祭みんなの友達鉄腕アトム展[原画展]」十九日(土)から九月二十八日(日)まで。尚、全く同一の会期で増田町まんが美術館では「アストロボーイ鉄腕アトム展〜アトムパワーアップ〜(アニメーション展)」開催。
 我が国が世界に誇る代表的漫画・アニメ「鉄腕アトム」。誕生から半世紀を経過し、只今三度目のテレビアニメ「ASTRO BOY」放映中。以前掲示板に書いたとおり、二十三年前の二度目のアニメ化は筆者は全く見ていない。当時、級友の多くが「ウルトラマン80」から裏番組の「アトム」に流れてしまったのを強烈に記憶している。
 今回の展示は作品誕生の経緯から最新アニメまでを原画、パネル、ビデオでたどる。長い歴史を持つ作品だけにアトムの顔や設定も当然変化している。掲載一回分の原画が何本も展示されていて、アトムのさまざまな物語を楽しめる。アトムの両親誕生の回が一番受ける、そのとおり「年下の両親」。アトムはお茶の水博士のような人間の父よりも、同類たる機械の親が欲しかったのだろうか。お茶の水博士を見ると漫才の高峰和才・洋才を思い出す、御免なさい。
 雑誌連載の単行本化に当たっての作品改変、その改変前後の比較展示。凄絶な内容を少し甘くしてある。
 展示によると、生前の手塚は「アトム」作品自体の一人歩きに対して複雑な感情を持ち、「僕の代表作と言われている」と、自分では必ずしも代表作とは認めていなかったという。或る程度作品が多様化、巨大化してそれ自身が力を持ってしまうともう原作者だけの物ではなくなってしまう、「神様」手塚でも例外ではない。「総指揮」「総監督」等の肩書を持っていても、果たして原作者自身は映像化についてどの程度の発言権を持っているのか。或る作品の映像化を失敗だったと認める者もいれば、完成した映像に待ったを掛けて発表中止にした者もいる。原作者存命中の映像化だからと言って全て原作者が納得しているとは限らない。
 ふるさと記念館での展示だけに今回最大の注目点は、高校時代の章太郎が電報で手塚に呼ばれた際の経緯の紹介と、実際に章太郎の手になった原稿だ。壁面ではなく、展示室中央のガラスケースに単独で収められている。「電光人間」のスカンク保釈の場面、「ASTRO BOY」の「電光」では改変された部分である。章太郎から届いた原稿の予想以上の出来に手塚は驚嘆したという。その展示の前で熱心にメモを取る人がいる。
 昔の掲載誌の展示もある。また、壁面の展示の合間にアトム達の小さな人形が飾られている。
 二台のテレビセット、一台は最初と二度目のアニメ化のそれぞれ第一回を上映。もう一台の「ASTRO BOY」には「フジテレビ系・アニマックスにて絶賛上映中」という字幕が入っているから玩具屋の店頭用のデモテープだろうか。
 「モンキー・パンチ展」同様、今回も実写版についての展示、言及が全く無い。以前放送されたキッズステーション「うしおそうじ物語」によれば、ピープロ社長・鷺巣富雄(うしおそうじと同一人物)が「マグマ大使」の実写化の話を手塚に持ちかけた時、手塚は当初「実写は『アトム』で懲りてるから」と難色を示したのだという。懲りちゃったのか! 横山光輝が実写版「鉄人28号」テレビシリーズについてどう思っているのかも気になるところだ。
 エントランスや蔵楽には文具、菓子、書籍等、多種多様な「アトム」商品が並ぶ。何も買わぬ。暖炉の所に友の会会報をパウチしたものが置いてある。
 蔵楽でケーキセットを食して一服。幸朗氏とまた今後について話し合う。蔵楽では常時絵画や写真等の展覧会を実施している、構造的に暗くなりがちな建物だからいろいろ飾り立てていつでも華やかにして欲しい。「蔵楽通信」は順調に発行継続中のようである。
 また山形県の常連氏を見かける。
 十六時頃辞去。伊勢岡神明社に参拝の後、石巻市に向かう。

 果たして今時の子供達の間で「鉄腕アトム」がどの程度知名度があるのか少々疑問ではあったが、今回の客の入りから考えれば寧ろ「009」よりも「アトム」の方が人気があるようだ。「ASTRO BOY」は仙台放送ではキー局と同じ日曜九時半、岩手めんこいでは二日遅れの火曜日十六時五十四分からの放送。「テレ東009」と違って普通に見られる時間帯だからだろう、今回は「009展」とは違って幼児も楽しんで見ている。「誕生日」にちなんだ催し等が報道された割りには新作アニメの評判をあまり聞かないように思っていたが(讀賣「放送塔」には主題歌に対する違和感表明の投書が載った)、この盛況振りからすれば人気番組のようである。子供のウケは「アンパンマン」>「ASTRO BOY」>「テレ東009」のような感じか。
 章太郎少年の「アトム」原画展示が実にふるさと記念館ならではの演出である。開館当初から他の漫画家が描いた石森キャラクターの絵の展示が多いが、章太郎と他の作家の交流を示す事績は今後も積極的に取り上げて欲しい。

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