「石森萬画館」第十六回訪問記

平成十五年三月二十二日(土)

 JR東日本仙石線に特別快速列車「マンガッタンライナー」登場。車体に石森キャラクターが描かれたマンガ列車。その乗車記と、付随する催し物の見物記である。
 早朝五時の起床、天気晴れ、まだ寒くてコートを着込む。五時半にマシンで出発、まぶしい朝日に向かって走って東北新幹線水沢江刺駅に着く。六時三十二分発の上り、仙台着は七時二十分。駅から出て徒歩で仙石線あおば通駅へ向かう。あおば通駅は仙石線の西端で、仙台駅の目と鼻の先の地下駅である。筆者がこの駅を使うのは初めてだ。
 窓口でマンガッタンライナー式典の場所がホームである旨を確認して、普通の片道切符を買って入場。この時点で七時半頃。
 萬画館の木村氏と会う。関係者が準備、予行演習中。少なからぬ老若男女が既にホームに集まっている。前日のイラク開戦で仙台市地下鉄はテロ発生に備えて厳戒態勢という報道に接しているので、果たして地下駅での催し物が予定どおり実施されるか心配するも杞憂に終わる。
 式典には龍騎が登場する。スタッフが試しに「Alive A life」を掛けると、関係者らしい中年女性曰く「これが『龍騎』の歌なの?」「『龍騎』と入れてくれなちゃ何の歌か判らない」。
 やがて大勢の人々でごった返してくる。コスプレコンテスト出場者来場、異様な一団がホームに並ぶ。「未来戦隊」のタイムピンクを見たどこかのお父っつぁんが「ゴレンジャーだ」。今も強い「初代」の呪縛。
 八時半から式典。仙台駅長や宮城県観光課長の挨拶。
 三十七分、マンガ列車到着。しかしこれは特別快速マンガッタンライナーではなく快速うみかぜ4号、中には普通の乗客。ダイヤ運行の都合上、既に石巻駅から乗客を乗せて来てしまったのである、「幻の0号列車」。この乗客は全員下車させられる。
 龍騎登場。関係者や命名者親子等とテープカット。
 K.S氏とその連れの方に会う。先日から萬画館の手伝いの為に石巻入りしていて、先程到着の列車に乗って来たとのこと。
 乗車。人々がどっと車内になだれ込み、筆者は乗り込むのがやっと。まさに立錐の余地も無く、筆者は吊り革にぶら下がる。コスプレの一団も乗車するが特に車内では優遇は無いと見えて、立っている人や、背中の翼を取り外して網棚の上に置く人も見受けられる。
 五十四分、発車。龍騎が見送る。
 この列車専用の車内アナウンスはロボコン(山本圭子)。昔どおりの声と口調。「百点もらえるかな」という言に筆者の近くの座席の女性が即座に「もらえない」。
 晴天の下、列車は行く。既に大々的に報道されているからか、沿線では多くの人々が列車に向かって手を振り、カメラを向ける。肩車の親子が目に付く。
 貸切列車ではないので途中の駅でも乗降はある。尤も、乗車ばかりで下車はほんの少し。
 車内の網棚の上の壁面に児童の絵画作品が飾られているのを見る。本当に大混雑なので身動き取れず、デジタルカメラ持参でも撮影どころではない。当日の夕刊で「乗車率二百パーセント」と報道されたとおり。今まで鉄道でこのような混雑は黄金週間中の「特急はつかり」でしか経験が無い。
 鹿妻通過の辺りでロボコンが「今日だけの特別」云々と告げる。右手の国道に四輪バギーに乗った1号ライダー、2号ライダー、ショッカー戦闘員出現! 併走しつつこちらに向かって手を振る。これは所謂ゲリラではなく事前に警察に断った上での趣向である、念の為。
 九時五十分頃、終点石巻着。こちらのホームではアギトと、石巻独自のニューヒーロー「JR戦隊踏切マン」、そしてショッカー戦闘員達が出迎える。大変な人波の中を出口に向かって進む。「乗車記念証明書配布コーナー」で一式をもらう。戦闘員達は例の掛け声と挙手で我々を歓迎し、筆者も同様に答礼する。
 マンガッタンライナーにちなんで飾り立てられているホーム、その一角に新しいモニュメントが設置され、除幕式が行われる。001、003、009の一団と仮面ライダー、共に新しいポーズではあるが、サイボーグ戦士に関しては「この三人は親子」と誤解する人が出て来るのではないか。
 やっと駅舎の外に出て和田社長や本郷女史、K.S氏組に会う。日本晴れ、コート着用では暑い石巻市。実に祭り日和である。
 駅舎のステンドグラスや壁面等にも萬画が描かれ、いよいよ以て石巻駅はマンガランドの玄関口にふさわしい様相を呈している。
 東北電力女川原発も石巻圏内の施設だが、こちらにも警戒臭は感じられない。
 暫く駅前を徘徊する。物産販売のテントが数多く出ている。マンガッタンライナーは無料公開に供されて、沢山の人々が出入りする。
 駅前広場でも戦闘員達が跋扈する。「御苦労さん」と声を掛けて少し歓談。筆者もこの一団に参加したいくらいだ。
 いつものマンガロードを歩く。立町通りのアーケードにも児童の絵画作品が飾られている。ロボコンモニュメントの脇に貼られている石巻小児童作のポスター、「モニュメント像を大切にしよう!」という文言で、ロボコンが金槌で「バキ」と殴られてアンテナが折れている様子の絵。最近はモニュメント損壊は鳴りを潜めているようだが、斯かるポスターが描かれること自体、石巻市の恥だと思う。勿論、このポスターや作者についてどうこう言うのではない。
 そのすぐ先、「秋田屋庭園」の入り口脇のショーウィンドーの中に「Black」の原画の一頁が飾られている、「オマエが死ねば、オレが世界の王となる!! オレが死ねば、オマエが世界の王となる!!」の場面。萬画館開館以来、石巻市ではちょくちょく「Black」の各種原画を見ている。いつか、一回分のまとまった原画を展示して欲しいものだ。
 庭園に入る。石巻市の商家の庭園がこの度一般公開される。植木と石で構成された庭園、小山はあるが池は無い。一番奥のテントで茶と団子を提供している、それを買って一服。やがて萬画館の板橋社長と木村氏が来客の案内で来訪。
 庭園にはそんなに長時間はいない。また通りに出て東進する。
 立町通りとアイトピア通りの交わる十字路、もう川に近い辺りにある「かんけい丸」。経営者は先程の庭園と同じ秋田屋。元々は石巻初の百貨店だった建物で、今は陶器、骨董品の店。また、二階ではレコードで音楽を流す喫茶店にもなっている。チーズケーキと紅茶で一服。例によって朝から何も喰っておらず、軽食でつなぐ。
 中瀬到着は十一時頃。萬画館前に長い行列、十一時半からの龍騎握手会を待つ人々。既に番組は終了、今回は須賀等が来るわけでもないのにあの人だかり、まだまだ人気はあるようだ。
 萬画館向かいの公園にも多くの出店がある。中田町の「墨汁一滴in石森」や秋田県増田町からも来ている。石巻市内郵便局の臨時出張所でおたよりセットを買う、「仮面ライダー」絵入りはがきと八十円切手八枚の組み合わせで九百九十円、更におまけの絵葉書がつく。
 また南側二階の出入り口からこそこそと入館、BLUE ZONEでアイスコーヒーと玉子サンド。ここも大繁盛、店員嬢達大忙し。
 コスプレの一団、四、五人が入って来て筆者の隣で食事。
 二階。常設のサイクロンゲームには長い行列。常設を通過して企画に入る。
 この日からの第11回特別企画展は矢口高雄(二代目館長)展「山川に戯れ風と遊ぶ」六月二十二日(日)まで 。萬画館二代目館長に就任する矢口高雄の特集。また、今年は「釣りキチ三平」誕生三十周年である。
 以前ふるさと記念館でも矢口展を見ているが、今回の展示は重複はさほど気にならない程度。原画類に徹底し、関連商品やポスター類は殆ど無い。「長持唄考」等は今回も展示されるが、目玉は初公開の「平成版釣りキチ三平」の原画だろう。ツチノコブームの火付け役となった「幻の怪蛇バチヘビ」の原画もある。
 今回の展示は「三平」を楽しんで育った父親世代に受けているようだ。展示に退屈してむずかり、走り回る子供達が見受けられる。
 十二時過ぎに一度萬画館を出る。
 去る十八日に、萬画館入り口の漫画家手形レリーフ第二弾二十名分設置。昨秋以来、設置協賛者(一口三万円)の名前も鋳込んで永久掲示するという触れ込みで協賛者を募るものの不況の折りから難航、当初は十月中旬設置の予定が五ケ月も遅れての設置である。しかも、協賛者名は板に書かれた仮設置で、後日鋳込むという。二十名の中には非漫画家の小野寺丈・章兄弟や藤岡弘、、佐々木剛もいる。掲出されている協賛者は三十名、全国の愛好家組織や地元企業、著名人や一個人、その他得体の知れぬ名前等。
 向かいの公園ではコスプレコンテスト開催中だが興味無いので無視。
 再び駅へ向かう。橋通りの「くじら丸」の店頭にJの絵、しかもポーズはV3。よくJなんて知ってたな、萬画館常設でもバンダイビジュアル三部作のマスクの前では「これ知らない」と言う人が多いのに。
 立町通りに「立町大通り商店街振興組合」の、萬画館とモニュメントの道案内立て看板が立っている。一枚毎にサイボーグ戦士の絵が描かれていて、一つ一つ撮影していくが後で整理してみると009のだけ無い。本当に無いのか筆者の見落としか、次回訪問時の要確認事項だ。
 駅前広場で十二時五十分から「JR戦隊踏切マンショー」。「戦隊」と言いつつも一人しか出て来ない。不法に破壊された全国の踏切から誕生したという、何だかおどろおどろしい設定。その姿は「萬がったん」掲載の写真を参照されたい。
 内容。ショッカー戦闘員を配下に従え、鉄道で迷惑行為を続ける悪者・めいわく星人。車内での携帯電話使用や、酔っ払いの自転車の踏切への突入のそそのかしを行うがいずれも踏切マンに阻止される。そしてめいわく星人は踏切マンとの格闘の上で改心し、皆和解してめでたしめでたし。
 とにかく手作り風味満点の爆笑ショーで、今回の石巻市内での見聞ではこれが一番印象に残る。両雄の造形がすばらしい、清潔感溢れる踏切マンと貫禄十分のめいわく星人。ただ、めいわく星人が改心してしまったのが不満だ。筆者が脚本家なら、創世王かブラックゴースト大首領のような台詞を吐かせて自爆させただろう。
 公開中のマンガッタンライナー車内を見る。外面のみならず車内にも多くの石森キャラクターが描かれている。これは敢えて詳述しないので是非諸氏の目で確かめて欲しい、筆者は「とげの生えた仮面ライダー」の絵で大喜び。
 十四時十分からホームで仙台行きのマンガッタンライナー出発式、筆者は駅の外から見る。
 結局、駅前広場では買い物をしない。
 また中瀬に向かう。途中八幡家に寄る、偶然にもK.S氏組が先に着いている。筆者は軽く茶漬けと茶碗蒸しで昼食を済ませる、満腹してしまっては歩き回るのが辛い。暫し歓談。
 再び萬画館。館長交代式の見物客で一階は大混雑。新旧館長や参列漫画家の控室になっている館長室と一般客の使う手洗がすぐ近くなので、人の往来に支障をきたしている。
 ふるさと記念館の本宮副館長や常連氏、石巻双葉町郵便局の佐藤局長に会う。通り掛かる紀代子女将に「はい笑って!」と声を掛けて一点撮影。
 十四時四十五分から交代式。モンキー・パンチ他、著名漫画家多数参列。初代館長・水島新司から二代目館長・矢口高雄へ、館長職の象徴である操舵輪が引き継がれる。
 十五時から新旧館長サイン会。筆者は不参加。
 大忙しのBLUE ZONEではとうとう食券自販機が故障する。「調整中」の貼り紙は間に合わせの手書きではなくパソコンで「立派に」作られた物、ということはしょっちゅう故障しているのか。会計はレジで人力対応である。昨夏の一周年祭での落雷停電、元旦の水道故障に続いてこれだ、節目に筆者が萬画館を訪問すると何かが壊れる。今に疫病神として入館拒否されるかも知れぬ。
 ライブラリーや事務室にも顔を出す。数人の館職員と「運営側にいると自分では催し物に参加できなくて残念だろう」等という噺もする。そして暫し事務室で休憩。職員諸氏や関係者と歓談する。
 十六時半頃、辞去。
 中瀬の南西側の謎の船「あかつき」の位置が少し変わっている。これを撮って丁度デジタルカメラのメモリーを使い尽くす。
 十七時九分発の小牛田行で帰途に就く。途中、一関で下車して新幹線に乗り換えて水沢江刺に着き、帰着は二十時半頃。すぐにデジタルカメラのデータをパソコンに転送しようとするも電池切れ、充電完了を待って転送。

 後日談。四月十日、JR東日本から書留郵便が来る(不在で窓口受け取りは十二日)。心当たりはマンガ列車愛称名募集程度だし、宣伝チラシには「さらに応募された方の中から抽選で10名にステキなプレゼント!!」とも書かれているので、さては何か当たったか、しかしそれでも書留とは尋常ではないと思いつつ開封すれば、最終選考まで残った「入選」ということで記念のオレンジカードが出て来る。事前に報道されたマンガ列車デザイン図が描かれた五百円カードで、美麗な台紙に収められている。
 今回、筆者は四、五点の作品を送っている。どれが入選作なのかは向こうからの手紙には書いていない。没ネタの他所での公開、使い回しはしない主義なのでその作品内容は我が胸中に深く秘するが、どれが入選したのだろうと思いを巡らせてはいる。敢えて事務局に照会するつもりも無い。

 今回の舞台は仙台市から石巻市に及び、その石巻市内でも石巻駅と中瀬の間をぐるぐると歩き回った。今までで一番歩き回った訪問だと思う。
 マンガッタンライナーはとにかくすごい混み様で、走行中は車内の様子や車外の景色を楽しむどころではなかった。着席できなかった児童幼児にとってはつらい車内だっただろう。
 列車の出発式等に、車体外側に描かれた「仮面ライダー」「ゴレンジャー」「009」「ロボコン」の出演者が出席しなかったのは残念。藤岡はもういいから、「ゴレンジャー」の誠直也に来て欲しかった。勿論、誠は多方面で活躍中だが、「初代戦隊隊長」の割りには黒部進や藤岡に比べて特撮役者としての存在感は大きくない。寧ろ宮内洋に圧倒されている、「ガオレンジャーVSスーパー戦隊」のドリームチームの大将がジャッカーの番場壮吉だったのが象徴的だ。丁度DVDが出ているところでもあるし、本人が嫌がらないのなら、この機会にアカレンジャー役者に光を当てて欲しかった。
 楽しみにしていた踏切マン最高。しかし単独ヒーローで「戦隊」も無いだろう、今後仲間を増やして本当に「戦隊」にして欲しい。そして、次にショーを開催する時は有名悪役声優に特別出演してもらうというのは如何、沢りつおか八代駿を希望。
 尚、今回は見なかったが、マンガッタンライナーに合わせてあおば通駅、仙台駅に萬画ロッカーが設置されている。仙石線以外にも多くの人々が利用する仙台駅への設置はマンガランドの宣伝に好適だろうが、「萬画館の所在地は仙台市」「『いしのまき』は仙台市にある」という誤解誤認が発生伝播しないかどうか少々心配だ。県外には宮城と仙台の区別のつかない人は少なからずいる。
 それにしても仙石線ばかり脚光を浴びて、普段石巻線利用が多い筆者としては多少面白くない。萬画館往復に仙石線を利用することはめったに無い、平成十四年中はわずか一回。しかしかの御大は少年時代に中田町から石巻市まで自転車で通ったそうだから、石巻線との縁は無いのだろう。現在も、石巻市と中田町を直接結ぶ交通機関は無い。
 とにもかくにも萬画館手形レリーフ第二弾が設置されたのはめでたい。マスコミに叩かれる前でよかった、もしこれが「萬画館は金だけ集めて何もしていない」「ISSの次は『まんぼう』か」等と言われていたら目も当てられなかった。
 ところで、春とはやはり別離の季節である。筆者もまた、がらにもなく草木そうもくに哀しみの涙をそそごう。

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