「石森萬画館」第十三回訪問記

平成十四年十月五日(土)

 今年の十月四日で「BLACK」放映開始十五周年。また、来る十二月三日は我が「帝國」の公開五周年。そして今年はテレビシリーズのビデオ発売十周年、LD発売五周年の年でもある。それらの記念として単独の石巻行。
 今回は久方振りの鉄道利用。当然だがマシンを駆っていては居眠りも読書もできないし、片道二時間半弱の間、運転の為に心身を緊張させるのは筆者には辛い。九時十二分水沢発、十二時三分石巻着。快晴、スーツ着用では暑いほどの陽気。
 八幡家に直行、紀代子女将在店。二ケ月半振りの石巻行、筆者の場合は「お久し振り」ということになるか。「おかみさんセット」鰻まぶし飯と茶蕎麦。
 女将と歓談。確かに「真っ青な料理」というのは見かけないし、想像しても決して食欲はそそられない。
 相変わらずコミックスは読まない筆者だが新聞の政治面等の一齣ひとこま漫画は大好きである。「読売国際漫画大賞」も創設当時からの大ファン。政治面の一齣漫画が解るようになればその人は「大人」だと思う。
 十三時半頃に店を出て萬市場に入る。後述の企画展に合わせて、期間限定で普段販売している萬画館商品や地元産品を取っ払って藤子・F・不二雄関連商品のアンテナショップに模様替えしている。店内ドラえもんだらけ。何も買わず。
 萬画館入館、まず墨汁一滴を見る。こちらもF商品大量入荷。
 萬画館の事業について照会したい事項があるので、板橋社長を介して萬画館職員の木村氏に面会を求める。事務室でコーヒーを飲みつつ氏からいろいろ話を聞き、筆者から意見要望を述べる。また、ここでこれも後述の「コスプレ入館」である旨を告げる。
 二十分ほどで退室して二階の企画に入る。第9回特別企画展「藤子・F・不二雄原画展 空想力に限界は無い。」この日から十二月二日(月)まで。今更言うまでもあるまい、「ドラえもん」の御大の原画展である。F関連の催し物は四年前に岩手県滝沢村のアピオで「南海大冒険」絡みのを見たが、原画展は初めての参観。
 筆者の世代は藤子コンビ解消前、昭和五十年代後半のテレ朝・藤子アニメ全盛期に小学生時代を送っており、筆者個人としても石森よりも藤子の方がなじみ深い。今に続く「ドラえもん」を筆頭に、一時期は「ドラ・ハッ・怪」「ドラ・ハッ・パー」「ドラ・Q・パーマン」等ともてはやされ、昭和六十年からは毎週火曜日十九時からレギュラー一時間枠で「藤子不二雄ワイド」が放送された。筆者の世代で第三期ウルトラや第二期ライダーを忘れた者は多くても「ドラえもん」を知らぬ者はいないだろう。余談ながら「21エモン」テレビシリーズは就職に伴う転居の都合で最終回だけを見逃してから既に十年が経つ。宮城県の東日本放送で見ていたのだが最終回直前に数週遅れの岩手放送管内に転居し(当時は岩手朝日開局前)、遅れても岩手で見ればいいと思っていたら岩手放送では途中で打ち切られたのである。モンガー!
 噺を戻す。企画の入り口がどこでもドアになっているという趣向。タイムトンネルをくぐり抜けて室内に入る。中央にドラ兄妹とのび太達の大きな人形が置かれている。スネ夫の髪形は正面から見ると三つ又に分かれ、横からだと分かれていない。漫画では正面からでも横からでも三つ又になっているスネ夫の髪形は、009、磯野サザエ、鉄腕アトムのそれと同様、立体化、実写化の際に問題になる部分である。
 展示原画は「ドラえもん」「オバケのQ太郎」「パーマン」はそれぞれ漫画一本ずつ、その他は一枚ずつ。「ドラえもん」の原画の選択は時宜を得たものとは思うが、今夏水害に襲われた石巻市にふさわしいかどうか、市民感情を害したりしないだろうか。すぐこういうケチをつけたがる筆者である。「オバQ」のは初めて読む作品だが「パーマン」のは子供の頃に「てんとう虫コミックス」で読んだことがあり、大変懐かしく見入る。「あけましてめでたいな」
 原画の他は年表やF語録のパネル、映画毎の服装をしたドラえもんぬいぐるみ二十数体の集団、歴代「ドラえもん」映画ポスター、関連商品ショーケース、セル画等。一角にはテレビセットが置かれてビデオ上映中。展示室の広さを考えればもっと展示物を詰め込めたと思う、原画をもう一話分くらいは展示できなかったか。
 原画は勿論撮影禁止だがその他の部分は撮影可。アテンダント嬢が時折メガホンでその旨を室内に告げる。
 展示を見ているとカメラを持って萬画館職員本郷女史出現、「コスプレ入館認定書」用の写真撮影。
 萬画館では最近、萬画や映像作品のキャラクター等の扮装をした入館者に「コスプレ入館認定書」の発行を始めた。今までにサイボーグ戦士、仮面ライダー、少年仮面ライダー隊員、サブロー、ヤッターマン等が来館している。今回の筆者の姿は「大鉄人17」の佐原博士。たまたま筆者の一張羅の縦縞スーツが佐原博士のそれと似ていたというだけのこと、別にこれの為にスーツをあつらええたのでもなければ、何か小物、装身具等を自分で作ったわけでもない。特に決まり、制限等は設けないという認定の逆手を取った、実に暗黒大公らしいやり方である。
 ドラミの人形の前に立って撮影。筆者が「右四十五度どうよ?」と言えば「いいっすねえ」と応じる本郷女史、解ってるよ彼女は。スーパー弁護士事務所ごっこに興ずる若者達。
 紀代子女将来館、彼女もドラミと並んで写真撮影。
 筆者が持参した「東映ヒーローMAX」の「龍騎」カラーグラビアページを見て喜ぶ本郷女史や二階受け付けのアテンダント嬢、ここでも凶悪脱走犯やスーパー弁護士は人気者らしい。萬画館職員が石森全作品に精通している必要は無いと思うが、接客部門の職員は来訪客との交流の基礎知識として放映中の番組くらいは見ている方がいいだろう。アテンダント嬢に面と向かって「年齢不詳」と言われてしまったわい、別に気にしてない。
 彼女達も我が「帝國」を見ている、本人が「私は本郷女史」と言ったし、文章が難しいとアテンダント嬢に言われる。
 常設の原画展示の一部が入れ替わっている。
 館内放送で呼び出される、「暗黒大公閣下様」と言われたような気がする。急ぎ一階へ降りる。我が「帝國」を見ている人でこの呼び出し放送を聞いた人いるだろうか。
 一階のロボコン押印機前で本郷女史から「コスプレ入館認定書」の授与。B5判で題名は「認定書」、宛て名は「暗黒大公閣下殿」、発行者は「株式会社 街づくりまんぼう/代表取締役 板橋 一男(館長印)」。本文は、筆者が佐原博士の姿で入館したことを認定する、という内容で、先程撮影の写真が下の方に入っている。雛形書式の作成は和田社長である。
 この時点で十五時半頃か、帰るつもりで別れを告げて退出。
 再び萬市場。「21エモン」絵葉書と缶バッジを買う。店員達が店内飾り付け中、大きなドラえもんビニール風船人形等。
 和田社長の店。歓談。ルネッサンス館問題は石巻市の恥である。
 ここで、この日BLUE ZONEに立ち寄っていないことに気付く。また、和田社長からBLUE ZONEに渡す物があるというので、まだ帰りまで時間に余裕があればその物を預かって萬画館に引き返す。とうとう萬画館の使い走りまでするようになる筆者。
 エレベーターで急ぎ三階に上ってその奥のBLUE ZONEに入る。コーヒー一杯、その名は「仮面ライダーブラックコーヒー」。以前、和田社長の「萬がったん掲示板」で冗談交じりに提案したらメニュー名に今般採用されてしまったもの。店員嬢に和田社長から預かった物を渡す。
 壁に芸能人のサイン色紙が貼られている、順不同で×‐gun、益岡徹、涼風真世、片岡鶴太郎、内山信二。益岡と涼風のは恐らく今年放映された「火曜サスペンス劇場」の撮影で来石した際の物だろう(火サスと萬画館は無関係)。内山のには確かに「1日7食」と書いてある。店員嬢と歓談、新メニュー等について。店員嬢に対して筆者曰く「私が何者かは後で和田社長に訊けば判る」。
 十七時前に石巻駅に着き、十一分の小牛田行に乗って二十時前には水沢帰着。復路は一ノ関での乗り換え時間が二分ほどなので要注意だ。

 F展は量に少し不満はあるものの質は大変結構である。F愛好家、「ドラえもん」愛好家は必見。そして言うまでもなく両藤子はトキワ荘出身者だから、これから萬画館に行く人は常設のトキワ荘コーナーも合わせて見るべし。
 果たして今回の「コスプレ入館」は受けたのか、有意義だっただろうか。認定書の写真はスーツ着用の男がドラミの前に立っているだけ、これを見てすぐに中丸忠雄を想起する人はいないだろう。言った者勝ちである。写真の中のドラミ、筆者の方を向いて何かを言いたそうな顔をしている。
 「仮面ライダーブラックコーヒー」は勿論単なるコーヒーだが、「BLACK」愛好家としてはやはり嬉しい。今後は訪問毎に飲むことにしよう。
 ところで、二十年ほど前だったと思うが、大阪城ホールで秦の兵馬俑を展示した際、大阪城と無関係の兵馬俑の展示に怒った人が兵馬俑を破壊するという事件があった。今回、狂信的な郷土愛を持つ人が「藤子と石巻は関係無い」と萬市場に嫌がらせをするようなことが無ければいいとは思う。F特集ならともかく、一時的にせよ本尊の石森を店から完全追放してF一色にするのは如何なものか。

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