「石森章太郎ふるさと記念館」第十七回訪問記

平成十四年十月十九日(土)

 九時十二分水沢発の上り列車。中田町に鉄道経由で行くのも久方振りだ。
 十時八分石越着。駅にも記念館のパンフレットが置かれ、特別企画展のポスターが貼られている。いつもどおり同十五分発の石越駅前発石森方面経由佐沼行の宮交登米バスに乗るつもりでバス待合室の時刻表を見ると、何と十月一日付で時刻表が改定されている。今まで平日扱いだった土曜日が休日扱いに移行し、しかも休日の石森方面行は八時三十分、十四時十分、十七時十五分のたった三本! これでは使い物にならぬ、「クウガ」の旧立花小学校跡を通り越して殆ど吉幾三の世界である。
 例によって駅前にはタクシーが何台も待機しているが、晴天なれば久方振りに徒歩での記念館行を決行する。
 県道四号線を歩む。石越駅から一キロメートルほどの地点に「記念館まで七キロメートル」の看板が立つ。前述の駅の他、ガソリンスタンドにも記念館ポスターを見かけるようになる。石越町にももっと記念館宣伝に協力して欲しいものだ。
 中田町に入る手前の辺りで道路工事中、頗る歩きにくい。
 二時間弱で石森到着。まず生家に入る。
 生家では「ヒーロー作品展」この日から二十七日(日)まで。石森キャラクターを題材にした一般公募の図画作品の展示。主催は友の会、協賛は中田町、同町教育委員会、迫教育事務所、後援は「青少年のための中田町民会議」、同町PTA連合会、同町子ども会育成会連絡協議会、登米郡PTA連合会。地域の教育関係組織の後援名義を得ている辺り、やはり記念館は学習施設なのだと思う。
 ロボコンや仮面ライダー等の絵。幼児から一般中高生等の本格的な作品まで十点ほど。ロボコンは「がんばれ!!」と「燃えろ!!」の両方が見受けられる。筆者は図工は大の苦手なので羨望の眼差しで見つめるしかない。
 案内係の女性と歓談してから辞去。
 「墨汁一滴in石森」の茶屋が「蔵茶房 蔵楽くらら」と命名され、今までは記念館の敷地内からしか入店できなかったのが表通りから蔵に直接入れるようになる。また、表に真新しい「切手類販売所」の看板が下がっている。館内で絵葉書等を買って手紙を書く人には便利だろう。表から入ると丁度幸朗氏在店。
 昼食にカレーライスを注文。待つ間、幸朗氏と歓談。「墨汁一滴」の新入荷商品や特別企画展について。氏に先般の萬画館での「コスプレ入館認定書」を見せる。また、バス時刻表改定とそれ故の徒歩来訪の旨を告げ、記念館ウェブページに掲載の時刻表の更新を求める。氏は早速エントランス備え付けの運行表を撤去する。
 昼食の後、エントランスを暫くうろつく。梁の上等に蜘蛛の巣が張っている、「仮面ライダー」には蜘蛛が付き物ではあるが。客は少なく、閑散とした館内。
 一時期愛好家の間で大騒ぎになったセブンイレブンのボトルキャップ全揃いが展示されている。これには筆者は手を出していない、そもそも岩手県には九月末現在でセブンイレブンは七店舗しか無く、筆者の近辺には全く無いのである。一関市から中田町や石巻市に向かう国道三百四十二号線沿い、花泉町の山の中に一軒あるのを知っているだけだ。ボトルキャップの現物を見ること自体初めて。
 屋外のモニュメントは先月中に海外出張から戻ったという。代役看板のうち、仮面ライダーはエントランスに立ち、009と003は二つ並んで蔵楽の東側に立っている。やはりこの二人が並んでいるのは絵になってよい。
 友の会会員証を提示して企画に入る。第9回特別企画展「里中満智子展」、十月十二日(土)から一月十三日(月)まで。ポスターの謳い文句どおり、記念館初の女性漫画家企画展である。石森プロジェクト常連参加者の彼女、もっと早く特別企画展が開催されてもいいように思っていたが、今般遂に開催。
 まず入り口に犬を抱いた近影と年譜が掲げられている。プロデビューは高校生の時。彼女もまた現在、数多くの公職に就いている。
 筆者は里中というと大橋巨泉の「世界まるごとHOWマッチ」を思い出す。筆者が十代前半の頃、このクイズ番組は友人達の間でも大変人気があり、彼女は常連ゲスト回答者だった。よく、「ケチャック」チャック・ウィルソンが彼女にちょっかいを出していた。「因業爺いんごうじじい大橋巨泉」「悪徳弁護士ケント・ネギルバート」「正解すると饒舌になる石坂浩二」「土地の値段の問題が苦手なビートたけし」「やたら端数をつける京本政樹」「ニアピンどころか桁数すら合わない故・尾上辰之助」「ホールインワン連発土井たか子」ああ、懐かしき改元前後。
 今もコミックスを読まない筆者なのだから少女漫画は遠い世界。原画展示は順路の冒頭から愛だの恋だの奪いたいだのとそういう台詞が満載で、鑑賞しているこちらが恥ずかしくなる。うええ。
 原画展示の間の所々ところどころに、彼女のデビュー以来の年代毎の出来事、物価表等が掲げてある。あまり意味無いと思う。
 企画は手前と奥の二つの区画に壁で仕切られて、奥には中央の入り口から入るようになっている。奥の区画は「天上の虹」の世界、持統女帝の時代の物語。里中は高校時代から「萬葉集」の世界に憧れていたそうな。漢文は得意だが古文は苦手、詩歌よりも歴史書が好きな筆者は以前「記紀」は読んだが「萬葉集」は未読である。原画の他に壁には登場人物関係図が、ガラスケースには彼女が使用した歴史書等の参考資料が展示されている。一番奥の壁の中央には玉座が設けられ、女帝の肖像が鎮座する。
 どうも里中はいみなおくりなを誤用、混同しているのではないかという箇所を見つける。諱というのは生前の本名で諡は死後に贈られる呼び名。
 再び手前の区画。原画の一回分の展示は「TOMIKO」と「波の伝説」。前者は室町時代の日野富子の物語、露骨な台詞に思わず赤面。後者が今回の展示で一番印象に残る。勝手に救世主扱いしておいて風向きが変われば袋叩き、多くの日本人は身に覚えがあるのではないか。
 楊貴妃やジャンヌ・ダルク等、世界の著名な女性を描いた一枚物の絵。クレオパトラの絵は作者の自画像ではないか、目付きがそっくり。シェイクスピア作品や飛騨地方の郷土史、青少年向けのエイズ予防の啓発漫画もある。
 筆者はギリシア神話は好きでよく読んだので、その神々や英雄達の絵はなじみがある。
 企画を出て常設奥のデジタルライブラリーを鑑賞する。「009」の「誕生編」と「未来都市編」。音楽や効果音付きの止め絵、文字どおり電気紙芝居。
 蔵楽で今度はナポリタンを喰い、サブレとれんこんうどんを買う。
 館エントランスでは仮面ライダーミニタオルを買う。
 十五時頃、辞去。
 伊勢岡神明社参拝。社殿の傍らに「駒形大神」の石碑。水沢市の駒形神社に昭和十五年の紀元二千六百年紀念として陸前石森町崇敬講支部等から贈られた絵馬が掲げられているのに最近気付く、やはり水沢市と中田町は関係があるのだと思う。
 神社近辺の路地が新しく奇麗に舗装されている。
 少し歩いて十五時半過ぎに石森川前からバスに乗り、同五十九分石越発の下り列車で帰る。

 とにかくバスの時刻表改定には面食らった、もう今後は公共交通機関では記念館に行けない。過去二年間、相棒ゴーグルグリーン以外の記念館見学客と路線バスで一緒になったことが一度も無い、そして今般の本数削減だから、記念館見学に路線バスを利用していたのは我々だけだったと言って過言ではあるまい。記念館は非営利の学習施設であって観光施設ではないが、扱っている題材が題材だけに遠方からの見学客が少なくない。見学客の交通の便について何かいい方策は無いものか。「営利施設ではないから客が少なくてもいい」ということは無いだろう。
 里中展は「天上の虹」の区画と「波の伝説」が大変強く印象に残った。「日本書紀」の末尾が「持統紀」である、手許に岩波文庫版があるからまた今度読もう。

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