「石森章太郎ふるさと記念館」第九十二回訪問記

平成二十六年一月二十六日(日)

 前日、勝手に前夜祭として「仮面ライダーX」劇場版二本DVDと「ガメラ対大魔獣ジャイガー」LDを見る。「X」のうち一本はテレビシリーズ#3。もう一本は「五人ライダー対キングダーク」だが、実際は五人ライダーとキングダークの戦闘場面は無い。これでは五人ならぬ誤認である。「ジャイガー」は怪獣ジャイガーのふてぶてしい顔が実に良い。昭和ガメラの崑ちゃん大好きだ。
 曇天の水沢市、七時六分の上り列車に乗り、一ノ関での乗り換え待ち時間が約三十分。八時二十二分石越着、すぐ駅前待機のタクシーにふるさと記念館行を命ずれば例によって今日は何があるのかと質問される。雪は殆ど見当たらない登米市。晴れ、強風。
 九時前には記念館着。恒例章太郎メモリアルデー。いつもの顔が既に着いている。挨拶を交わす。筆者は行列の十五番。また古い漫画本を見せてもらう。昔の雑誌別冊付録は読み捨てられる前提なので紙の質は悪い。列の後の方にも知人が来る。
 サイン会の券を確保してから盛岡組二人と行動を共にする。やはり生家は盛況。座敷の一番奥に、石森小学校五年生二十三人が作ったと言う「地上絵」が置かれている。ブルーシートの上に飲料の蓋を並べて、登米市の観光キャラクター・はっとンを描いた物である。また、壁には五年生達が「もしヒーローになったら石森をどうしたいか」と言う題目での寄せ書きや、学校の水田で作った米を使った煎餅の写真等も掲示されている。
 その五年生のうちの数人が引率者と共に生家にやって来る。引率者が、児童の説明、発表を聞いてやって欲しいと言うので拝聴する。はっとンの体ははっと汁の材料で出来ており、体の形は登米市の形だと言う。児童の説明の後、筆者を含む参観者から質問がいくつか出る。
 そのはっとンが来て、旧石森幼稚園の建物内や南側駐車場に出没している。正面から見ると面積は広いが、横から見ると厚みがあまりないので平べったい印象。
 そして多賀城市の地方ヒーロー・タガレンジャー一行も来ている。女子小学生が扮しているリーダー多賀城あやめと、成人男子と思われるブルータガジョー、マウンテンキングの三人組。筆者は去年のヒーローサミットでも見ている。悪者軍団と戦うショーではなく、訪問先で花の種を配ったり等しているのだと言う。強風のこの日、スカート姿で寒そうにしている「あやめ」。やはり女児に人気があるようで、「お姉ちゃん」と呼んで手を握っている女児もいる。仮面をかぶっているが口の部分と長髪は出している。
 工藤稜や村枝賢一の姿を見掛ける。
 盛岡組の提案で、隣の安永寺の小野寺家の墓参をする。筆者は十年前に一度立ち入ったのみ(第二十八回訪問記参照)。敷地内の案内板で場所を特定する。拝礼。墓誌には昨年死去の弘幸氏や、かの有名な姉・由恵女史の名がある。章太郎の墓は東京都。
 餅搗き開始。現地の人のみならず、来場客も希望すれば杵を持てる。筆者は見物と賞味に徹する。多賀城あやめも杵を持つが重くて搗くのは無理なようで、ブルーダガジョーが加勢する。
 餅を何皿も平らげる筆者。盛岡組二人は満腹だと言うので、筆者単独でたけちゃんラーメンに向かう。客は、筆者の他には後から入って来たもう一人。味噌チャーシュー一杯、七百八十円。
 本館に向かい、他の来場客と共にエントランスに椅子を並べて各自着席。やがて満席になる。
 エントランスには各方面からの年賀状が飾られている。「キン肉マン」の「ゆでたまご」からの文言は「筋賀新年」。
 十三時半からの速水亮トーク&サイン会に先立ち、熊谷館長の進行で石森小五年生、はっとン、タガレンジャー、布施市長から挨拶。
 トークの司会は工藤稜。そしてXライダー神敬介の速水亮登場。スーツ姿で国務大臣に見える。
 速水は去年九月も来館して、「小川のメダカ」を見て泣いたと言う。
 ここではっとンとタガレンジャーは速水と記念撮影をしてから退場。
 仮面ライダーは登竜門だと語る速水、「くすぶっていた藤岡さんをスターに」と言う表現に場内大爆笑。
 速水と言う芸名は章太郎の命名で、いつでも優しく、親戚の子のように接してくれたと言う。
 速水の語る俳優論。一つの役のイメージが強過ぎてその俳優は消える、その例として「スーパーマン」「ターザン」「アンタッチャブル」を挙げる。役者は一つの役を乗り越えなければならない。速水自身は「神敬介と呼んでくれ」と語る。
 仮面ライダー人気四十年の秘密は正義の味方だからと速水は言う。ここから新作映画「平成対昭和」やテレ朝ライダーに話題が移る。昭和とテレ朝ライダーを比較して、撮影現場の様子や立ち回りの有無を挙げる。曰く、昔の現場はヤクザ、今はサラリーマン。そして今は何でも吹き替え。「555」の半田健人に「今は立ち回りが無いからつまらないだろう」と語ったのだと言う。この日、テレ朝ライダー役者では半田が何度も話題になる。「X」当時の現場ではマシンでうまく転ぶことが求められる、速水は受け身がうまいのだと言う。
 この日、新作映画「仮面ライダー大戦」のテレビCМにも神敬介登場。速水は損はさせない、二、三回は見よと訴える。
 村枝賢一急遽登壇、この後は対談になる。漫画「SPIRITS」から入門する若者も多いのだと言う。会場には「クウガ」世代の二十代も多数来ている。筆者とて「X」放送の年の生まれだから放送当時の事は知らない。村枝の娘は三歳にして「X」主題歌を歌うと言う、一方、速水の孫は怖がって一人では見ないとの事。
 テレ朝ライダーが改造人間設定を排除したのを速水は「つまらぬ規制」と批判する。
 速水は昭和ライダーを手放しで絶賛していたわけではない。今のようにDVDが出回るなら、稚拙な出来の部分は撮り直したいとも言う。その他、今昔の比較論。
 故・平山亨の子息・満氏から挨拶。亨の思いや功績を語る。最後まで仮面ライダーを気にかけていたと言う。亨は章太郎によく会っていたが、今のプロデューサーは会っていないだろうとも言う。
 最後に色紙や本が当たるじゃんけん大会。本当にこの手のじゃんけんで賞品をもらったためしが無い。
 一時間ほどでトーク終了。一度関係者退場して、皆で椅子の片付け。やがてサイン会開始。記念館の色紙にサインを貰い、記念撮影。筆者が昨夜ジャイガーを鑑賞した旨を告げると速水苦笑して「その噺はやめて」と言いつつも「子供番組に出る宿命なのかなあ」と言う。
 サイン会の途中で、速水が仲間と共に復興支援で岩手県久慈市を再訪したいと言う話が出る。詳細は未定。昨年のテレビドラマで脚光を浴びた久慈市だが沿岸北部で、盛岡市からも遠く、生活圏は青森県八戸市である。交通は非常に不便な場所、鉄道ならば一度八戸市に出なければならない。
 盛岡組の他にも山形常連氏や福島県の先輩も来ている。暫し立ち話。
 企画の室内で萬画館の従業員(子連れ)を見掛ける。
 この日は石越駅やくりこま高原駅との間にシャトルバスも運行しているが、筆者は十五時半頃に盛岡組の自動車に便乗して石越駅まで送ってもらい、シャトルバスとほぼ同時に着く。そして十六時一分の下り列車に乗れば五十一分に水沢着なのだが、強風の為に小牛田発の列車が三十五分遅れ。水沢着は十八時頃。

 久方振りに再会した知人もあり、楽しい一時を過ごせた。ふるさと記念館に来た人同士でまた交流が広がり、深まるのもまた楽しく、嬉しい。
 昭和ライダー出演者達は何かとテレ朝ライダーを批判するが、昭和ウルトラが平成を批判しているのは聞いた事が無い。一昨年のヒーローサミットでも黒部進や森次晃嗣は「今のウルトラマンは駄目」等とは言っていない。筆者の口癖「今の仮面ライダーが好きな子供に『お前が見ているのなんか仮面ライダーではない』等と言ってはいけない」。
 果たして役者にとって「当たり役を得たがその後の仕事が無い」と「当たり役は無いが継続して仕事はある」のどちらがいいのか。事、変身ヒーロー役者については役者と役柄が同一視されがちでもある。「特撮番組出演の後で更に売れると特撮経歴を無かった事にする」と言うのは特撮愛好家の不興を買う行為ではあるが、さりとて役者の方でもいつまでも変身ヒーローにとどまっているわけにもいかない。昔の「スーパーマン」テレビシリーズのジョージ・リーブスの悲劇は筆者も聞いている。今回の速水の話で一番印象に残った点である。
 テレ朝ライダーでは変身前の役者はマシンを運転しなくなった。テレ朝ライダーでも主人公が川に落ちたり程度は今もあるが、死にかけるような経験をした人はいるだろうか。勝手に前夜祭で見た「X」では、速水本人がマシンで転んでいた。
 筆者自身は章太郎に会った事は無く、古参の愛好家から「先生に会った事無いくせに」と言われた事もある。東映プロデューサーのレベルでそう言う話をされると今後のスタッフは全く立場が無い。例えば「クウガ」に憧れて入って来た若手スタッフが「お前は先生に会った事あるのか」と言われれば何も言い返せまい。筆者個人には「章太郎と会った事があるのがそんなに偉いのか」と言う思いはある。きっと偉いのだろう。
 最早記念館準レギュラーの工藤稜。別に仙台市の芸能事務所から「プロの司会者」を呼ばなくても、工藤稜こそ毎回の司会者に適任だと思う。

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