「石森章太郎ふるさと記念館」第八十三回訪問記

平成二十四年十一月三日(土)

 前日の晩は勝手に独りで前夜祭として映画「地球へ…」をLDで鑑賞。初めて見たのは三十年程前のテレビ放送、以来大好きな作品である。佐藤勝の音楽や、ダ・カーポの歌二曲も良い。人間性回復、和解、再生への壮大な物語。ラストで宇宙に去ったミュウ達が晴れて地球に降り立つ日は来るのだろうか。
 午前中に所用があり、マシンでの出発は十時過ぎ。九時頃はまだ小雨が降っていて雨具着用も覚悟するも、出発時には晴れ上がっている。但し多少寒い。厚手の上着を着込む。前沢町内吉田石油で給油。
 花泉駅前で互市たがいち開催中。互市、或いは高市は宮城県内各地やこの花泉町で開催される、多くの屋台が立ち並ぶ市だが、岩手県内で聞くのは花泉町だけで、盛岡領では聞いた事が無い。仙台領独特の呼称であろうかと以前から考えている。手元の「岩手百科事典」には「たがいち」の項目は無い。
 石森に入り、伊勢岡神明社参拝をしてからふるさと記念館北側駐車場にマシンを置く。十一時半頃。
 エントランスは特に混雑と言うわけでもない。各方面からの祝いの花束の中には、「地球へ…」テレビシリーズ主演の斎賀みつきからの物もある。すぐに石巻市のSEI氏や盛岡組二人と合流。諸氏は口々に、筆者がなかなか姿を見せないので心配していたと言う。
 第42回特別企画展「竹宮惠子の世界展 漫画家生活45年の軌跡」この日から平成二十五年一月二十七日(日)まで。永井豪に続いて章太郎門下出身者の特集である。
 例によって筆者自身は竹宮の漫画作品は全く読んだ事が無い。前述の「地球へ…」はTBSのテレビシリーズも見た。当日は先着百人対象のサイン会開催。やむを得ず遅い出発でサイン会は諦めていたが、知人達がまだ間に合うと言うので受付に行けば八十二番の整理券を取得。筆者の到着が遅いので知人達はもう企画を見てしまったと言う。
 熊谷館長に挨拶し、また知人達を紹介する。
 今回も、常連の古本収集家氏から見せてもらう。昭和三十、四十年代の雑誌。章太郎は少女漫画家でもあったのだ。四十年代の雑誌に載っている「小さな恋のものがたり」は単行本が我が母の本棚にあったのを記憶している。
 その他、顔なじみの常連達と挨拶を交わす。
 以後、前回と同じ四人で行動。もう正午近いので昼食を摂る事にする。蔵の建物はまだ再開していない。自動車で五分程度で行けるので筆者は迫町の博物館手前の飲食店を提案してみるが、やはり館の駐車場から一度自動車を出してしまうと戻って来てから場所が塞がって駐車できなくなる恐れがあるとて、今回もたけちゃんラーメン。この店も手頃でうまいからいいのだ。
 生家に立ち寄る。ここでも駐在の案内係の女性に挨拶。
 たけちゃんラーメンに入る。以前は模造紙に書かれて貼られていた品目がアクリル板に活字体で書かれて掲示されている。各人が好きな物を頼む、筆者は醤油ラーメン。本当はラーメン一杯くらいでは足りないが、ラーメン二杯では面白くない。御飯物も食べたい。「蔵楽」では麺類や丼物をいくつも軽く平らげたものであるし、今年のメモリアルデーで餅だけでは足りなくてたけちゃんラーメン。
 本館に戻る。そろそろ十三時半のサイン会開始時刻。館の人の指示で、整理券の番号順に十人毎に列を作る。八十人まで並び、八十一人以降は後で呼ぶと言う。今回の客層は中高年の女性が多く見受けられる、恐らく元祖BL世代。知人達は先に並び、筆者は独り、企画の見学をする。
 まず、竹宮からの、ワープロではない手書きの挨拶文の掲示。今回展示されているのは「原画´ダッシュ」と称する「サイズも色味も原画に酷似した複製」(チラシの説明文)。修正や損傷まで再現した代物である。一作品から数枚を抜き出した展示で、一話分を読める展示は無い。一番奥には「風と木の詩」の巨大な壁掛け。テレビセットは創作の様子を上映している。
 やはり筆者の関心は「地球へ…」。映画のポスター等で有名なあの絵も勿論ある。前の晩に見たばかりだから登場人物の名前も憶えている。
 「風と木の詩」や雑誌「JUNE」の表紙絵。BL作品も普通に展示しているが、必ずしも取り立てて卑猥な印象でもない。見た目は男同士と言うより中性的と言う印象を受ける。
 ガラスケースの一つの中には「地球へ…」映画主題歌のレコード、竹宮のデビュー前の手書き原稿、竹宮本人記事の掲載誌、ファンが作った人形等。対談記事の相手は里中満智子で、まさに斯界の両巨匠の若手時代。もう一つのガラスケースには古い物も含むサイン色紙。総じて今回は漫画作品の展示であり、アニメーション関連の展示は少ない。
 永井豪の時と同じように、デビュー時からの大きな年表が掲示されている。
 サイン会、筆者の番。昨夜の「地球へ…」鑑賞を話して二言三言、言葉を交わし、握手。
 一度サイン会が終わった後、休憩無しで今度は記念写真撮影。また先程と同じ順番で、企画入り口脇の大きなポスターの前に並んで撮影。この日筆者はうっかりカメラ持参を忘れてしまい、知人達に頼む。
 百人相手のサイン会と記念撮影をこなし、竹宮退場。十五時半頃か。
 エントランス南側の壁には十一月十七日の萬画館再開の告知の紙が貼ってある。
 北側には前々から009新作映画の大きなパネルが貼ってある。今回の「鼻の小さなギルモア博士」が、岩手県二戸市出身の物理学者・田中舘愛橘に見える。
 帰る前にもう一巡とて皆で企画を見ていると、竹宮スタッフ女史と館職員武田女史がガラスケースにやって来る。参観者から手書き原稿二作品の説明の誤りについて指摘があったそうで、竹宮スタッフ女史が二作品の取り違えを確認。修正の為に原稿を取り出して、「せっかくだから」とその原稿をめくって、他のページも居合わせた人々に見せてくれる。歓喜する一同。紙は変色しているが、インクではなく鉛筆の原稿なので書き込み自体は退色していない。めくりつつ「どのページを展示しましょうか」と言う事で、迫力ある絵の他のページで展示しなおす。居合わせた人々は実に幸運である。
 居合わせた一人、神戸市からと言う女性に近辺を案内しようと言う事になり、筆者の先導で館の外に出る。もう夕刻で時間も残り少なく、暗くなって来るので神社等には立ち寄らず、モニュメント類のみの案内。まず館の向かいの仮面ライダー、続いて石森郵便局のエッちゃん、そして泉田油店給油所手前のロボコン。その女性はモニュメントそれぞれの前で喜んで写真を撮っていく。そして前田公園V3像。以前の草ぼうぼうが手入れされている。宮内洋の手は意外に小さい。公園から裏道を通って北側から再入館。ここで十六時半過ぎか。
 皆と別れる。筆者は独り残ってエントランスで休息し、関係者に挨拶をしてから十七時頃に辞去。帰途も降られずに済むも気温は十度前後まで下がり、間違いなく寒い。寄り道してから十八時過ぎに帰宅。

 念の為。筆者達は偶然、展示誤りの修正作業の場に居合わせただけなので、くれぐれも館に対して「ガラスケースから原稿を出して見せて」等と頼んだりしないで欲しい。
 特に集合時刻を約束していたのではないのだが、当方としては遅い現地着で諸氏に心配を掛けてしまった、「前夜祭をしていたのだから来ないはず無いのに」と。申し訳ない。知人達との行動でも勝手に単独行動をとって迷惑、心配を掛けてしまう筆者である。盛岡組にはいつか市内迫町の歴史博物館や同じく登米町の宮城の明治村を案内したいとも思っているのだが、なかなか困難である。普段は基本的に自動二輪或いは公共交通機関で単独行動の筆者の身軽さ。
 竹宮は大変繊細な絵で、彩色画も非常に鮮やかである。絵画作品展示としては大いに楽しめた。来年のメモリアルデーのトークも楽しみである。
 サインと写真撮影を二時間くらいは休憩無しでこなした竹宮。それで疲れた様子も見せない。
 もう筆者自身は知り尽くしているので、遠来の人や初めての人に館について案内するのが筆者の楽しみではあるが、それが独善に陥ってはいないかと危惧してもいる。

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