「石森章太郎ふるさと記念館」第八十二回訪問記

平成二十四年九月二日(日)

 待望の永井豪トーク&サイン会開催。トークショーは無料だがサイン会は往復葉書での応募で七十人限定、筆者は当たり。しかしふるさと記念館ウェブの掲示板には外れた人からの怨み事が書き込まれ、不穏な空気が漂う。
 新番組「仮面ライダーウィザード」を見てからマシンで出発。途中また少し降るが雨具を着るほどではない。
 永井展開催まで意識していなかった、前田公園前を通る県道百九十号線は「石森永井線」あまりにも出来過ぎた組み合わせ。伊勢岡神明社経由で北側駐車場にマシンを置き、十時頃には本館に入る。エントランスには既に演壇や客席が設置されているが客席にはまだ殆ど人がいない。受付に往復葉書の返信部を提出してサイン会の券を受け取る。石巻市のSEI氏が先に到着している。適当な席に鞄を置いて陣取りを済ませる。
 やがて観客が集まって来る。いつもの新潟県の古本収集家氏からいろいろ見せてもらう。「魔王ダンテ」掲載の「ぼくらマガジン」等。漫画の他、荒井注時代のザ・ドリフターズの写真記事を見て感激する。筆者が生まれて間も無くに荒井と志村けんが交替しているので、筆者は荒井のドリフについては「全員集合」DVDや映画等でしか見ていない。
 トーク&サイン会に限らず、各種催し物については前述のように開催前後にウェブ掲示板にいろいろ苦情が寄せられるが事が多々あるが、過去、実際の開催時には来館者は皆、行儀が良く、館職員に喰ってかかるような人は筆者は見た事が無い。しかし今回はエントランスに「迷惑行為の人、職員の指示に従わない人は退場」と言う館長からの異例の警告文が掲示されている。職員達からは何やらただならぬ雰囲気を感じる。
 山田ゴロと桜多吾作の来館を目撃する。
 そして十一時頃には盛岡組二人も到着、そのうちの一人は今回初めてのふるさと記念館訪問。事前に示し合わせていた四人が揃う。盛岡組も古本収集家氏から見せてもらう。元々、近代の博物館とは西洋の金持ちが自らの収集品を見せびらかす為の展示室から始まったので、収集品を人に見せると言う行為は実に正しい。
 皆で企画や常設を見て、作品を前にいろいろ会話をする。テレビアニメでは柔和な顔つきの人物も永井画では険しい表情をしている。
 催し物までまだ時間がある。十一時過ぎ頃、初めての来館者の為に周辺案内に四人全員で出発。旧石森町役場跡、伊勢岡神明社、前田公園、石大神社。両神社では境内の石碑の漢文を訓読し、現在の水沢市との関係を説明する。石碑の読解こそ、漢文読解力の数少ない使い道。前田公園では愛知県からと言う人が写真を撮っているのに出会い、会話をする。二年前の開園式典に参加した人は当日の思い出話をする。この日も炎天。ダブルタイフーン正面の撮影用の土盛り周辺は草ぼうぼうで、全然手入れをしていないようだ。
 引き返して十二時半頃か。たけちゃんラーメンは空いている。四人各人がみそラーメン五百八十円を注文して食す。野菜炒めのどっさりと乗ったラーメン。近辺の飲食店はここ一ケ所だが遠来客には知られていないのか、ここが混んでいるのを見た事はない。
 十三時過ぎ、本館に戻る。席は埋まり、また立ち見の客で立錐の余地も無い。やはり早目の陣取りで正解である。
 十三時半、熊谷館長の挨拶。今回の進行は熊谷館長ではなく、特に予算を配分してプロに頼んだと言う。進行役の演台に貼ってある紙は「パーソナリティー 宮崎悦子氏」。仙台市の事務所に所属する司会者。
 今回は一般の写真撮影は一切禁止。且つサイン会でも記念撮影は無しだと言う。
 永井豪入場。来館は初めてだと言う。また、当地の残暑に驚いた様子である。
 この日も布施市長から挨拶。
 以後、宮崎と永井の一問一答で進む。
 章太郎への入門の経緯、アシスタント時代の生活。入門にはコネがある方が有利。場合によっては手塚に入門していたかも知れないと言う。やはり出て来る、章太郎の超人的仕事振り。永井は先輩アシスタント達の造反には同調しなかったが、後輩が入って来たところで二年足らずの充実したアシスタント生活をやめたと言う。
 既に章太郎の漫画家人生の年数を抜いた永井。「根底にある大事な物」を問われて、描く本人が楽しんでいる事、趣味の延長である事を述べる。これを聞いて筆者は、九年前、藤川桂介が或る催し物で言っていた「スポンサーの求める物と自分の書きたい物が乖離したので脚本家をやめて作家になった」と言う発言を思い出す。この後も永井からは、本人自身が漫画が好きである事が強調される。
 「デビルマン」「マジンガーZ」アニメ化の際の事。元祖超合金、ロボット玩具の代表格とも言うべき存在の「Z」は初めは商品化の予定は無く、高視聴率で商品化が決まったのだと言う。ロボットアニメや特撮は「玩具を売る為の番組」「三十分の玩具CM」等とも揶揄されるが、「Z」の企画は玩具前提ではなかったのだ。
 「走り続けるパワーの源」として漫画が好きな事、映画、小説、芝居から取り入れる刺激を挙げる。漫画家や声優は漫画やアニメだけ見ているのでは駄目、本を読めとはよく聞く話である。
 高校時代体操部で、デビュー後十年間は無休だったと言う永井、還暦過ぎからゴルフ。また、妻からヨガを教わったり、時々ジムに行ったり、ウォーキングやランニングをしたりと、体育にも取り組んでいると言う。六十歳の時に大学教員になり、年に四、五回の講義やゼミ。一人ずつの個性を伸ばす指導。
 創作について人の言う事は聞きたくないと言い、編集の意見を聞いた為に潰れた作品の存在に言及する。漫画の自由と商業ベースの問題。
 最後にファンへのメッセージとして「漫画の世界で心を自由に遊ばせて欲しい」と述べる。
 四十分ほどで終了。前述の桜多と山田は一般客の扱いで、司会による紹介も一切無い。ここで十五時半からサイン会と言う予定が告げられ、永井だけに長い休憩に入る。この時間を利用して四人で生家に向かう。ボランティアガイドの女性がいる。やはり催し物開催で生家訪問者も多いので、筆者も石巻市と白石市からの二組を案内する。実に久方振りの一般客相手の案内、これが筆者ならではの楽しみである。自分は熟知しているので人を案内するのが楽しい。
 本館に戻り、当せんに当たった筆者は列に並ぶ。熊谷館長から、交通機関の都合で早く帰途に就かねばならない人がいるので誰か順番を譲って欲しいと告げられ、数名が応じる。今回のサインは普通の色紙ではなく、特別企画展のポスター図案が印刷されたA5のボール紙に百円ショップの額縁が付く。
 サインを貰う時に、幼少時からマジンガーシリーズを見ていた事、そして「ゴッドマジンガー」が好きだった事を永井に言うと、永井は「あれはファンタジーでした」と普通に応じる。「ゴッド」は知名度の低い異色作だが、永井にとっては特に嫌な思い出等ではなさそうである。
 我々四人にやはり顔なじみもう一人が加わって、本館の外のベンチでいろいろ会話。筆者がもらった色紙を撮影する人もいる。早速、トークの司会振りへの不満が飛び出し、恐らく宮崎は永井について知識も興味も無いのだろうと言う事になる。筆者は、話題のタネにと持参した宮城国際ヒーローサミット2012のチラシを見せつつ当日の見聞を話す。
 とにかく暑い。立て続けに何本も缶ジュースを飲み干して知人達が驚くが、全然尿意を催さない。
 また本館に入る。松島ヒーロークリエーターズ・アワードの賞状と賞品が展示してある。最早大分空いているエントランス。やがて永井は最後のサインを終え、居合わせる人々の拍手に送られて事務室に入っていく。熊谷館長に、無事閉会について労をねぎらう。我々も再会を期して解散、十六時半頃。
 石森永井線の宮城県内を走っている途中で右手に虹を見る。この虹が前沢町辺りまでずっと見えている。帰りは雨には当たらず、十八時頃の帰着。

 毎度の訪問記でのゲストトーク内容の記録は当然ながら抄録であり、筆者の興味関心に基づいてまとめたものである。これが当日の内容全てではない。
 本当に趣味と仕事が一致して、楽しんで仕事をしているのであれば永井は大変な幸福者である。
 二年前の開館十周年記念行事の時は「完全先着順では遠方の者はどうしようもない」と言う意見が寄せられ、その後、往復葉書の抽せん制を導入すればそれもまた外れ続きの人から不平不満を言われる。どう言う方式でも百パーセント誰もが納得とは行くまい。ゲストの側の都合要望もあろう。最近は催し物の入場権利を電子メールで受付と言う例も多々あるが(例えば先般のヒーローサミット)、放送局の番組公開収録や映画試写会招待等ではまだ往復葉書が使われている。電子メールはIT環境の有無で応募できない人がいようが、普通は郵便を使えない環境と言うのは無いから、筆者は往復葉書が良いと思う。
 宮崎の質問内容は相手が誰でも使えそうな汎用的な物で、永井の作品個々についての話題の掘り下げが全く無い。寧ろ、永井の方で気を利かせて話を膨らませたようにも見える。宮崎は台本の項目を淡々と消化していったに過ぎないのではないか。対話の中で宮崎の勘違い(例えば永井の画業四十五周年と「Z」四十周年の混同)が永井に訂正されたりして、事前の準備不足、或いは宮崎自身が永井について興味が無さそうな事が見て取れる。司会がはしゃぎ過ぎるのもみっともないが、興味関心が無さそうなのも見苦しい。
 せっかく同門の桜多と山田が来ていたのに飛び入りは無し。短時間でも鼎談になればいろいろ盛り上がったであろう事は想像に難くない。せめて「同門の先生方が来場されています」と紹介してもよかったとも思うが、これもいろいろ事情があるのか。とにかく今回のトーク&サイン会は「規制」「全て予定どおり」が感じられた。
 ところで「こんな永井豪展は嫌だ」実写作品特集と称して「ハレンチ学園」「けっこう仮面」を期待させておいて、実は「バトルホーク」「アステカイザー」展示。これはこれで喜ぶ人はいるかも知れない。

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