「石森章太郎ふるさと記念館」第七十一回訪問記

平成二十三年四月九日(土)

 三月十一日十四時四十六分、東北地方太平洋沖地震発生。ふるさと記念館では本館には大きな被害は無かったものの「めだか」の蔵と生家の被害の為、暫く休館。ウェブも更新が停止していたが二十五日に被害状況や今後の予定についての告知がされる。そして四月四日に次の企画展示の予定等がウェブで告知されて筆者は大喜び、企画展示初日に駆け付ける事にする。尚、登米市は津波の来ない内陸であり、福島県の原発からも離れている。
 しかし訪問二日前の七日二十三時三十二分に大きな余震が発生、揺れの大きさは先月十一日に匹敵する。心配で九日の朝にふるさと記念館に電話照会したところ現地の停電は前の晩までに復旧して予定どおり開館と言う事なので、訪問を決行する。
 東北本線上りは花泉までは復旧していたが上記の余震で再び全線不通、いずれにしても石越には行けない。九時頃に雨の中、マシンで出発。当日は東北自動車道上りの水沢・平泉前沢インター間が通行止めで、並行する国道四号線も前沢町内で陥没が発生する等して大渋滞。なかなか先に進まぬ。平泉町では消えたままの信号機を見掛ける。三百四十二号線、花泉町でも機能停止中の信号機がいくつかあり、また路面の亀裂や陥没箇所が目につく。時折、亀裂にハンドルを取られる。
 県道百九十号線を南下。前田公園のV3は無事である。その他、モニュメント類に被害は無い。
 記念館北側の駐車場にマシンを置く。公衆便所は閉鎖中。南側も含めて駐車場には何台も自動車が並んでいるが全部が記念館の客ではないようだ。館内は混んでいない。
 本館に入って関係者に挨拶。新年度異動で熊谷義行氏が副館長から館長になるが当日は不在。この日は女子職員ばかり三人が在館。エントランスでは後述企画展示の関連商品を「めだか」西條女史が陳列中。
 「めだか」にも顔を出す。小野寺弘幸氏在店だが、食堂機能は停止中。先月の地震の後にやっと片付けたのに二日前の余震でまだ散らかってしまったのだと言う。棚から落ちて手足の取れた人形が置いてあるので、筆者の分かる範囲で組み立てておく。店舗の東側には頭上注意の表示がされて、蔵の瓦屋根にはブルーシートが掛けられている。
 第37回特別企画展示「ミッフィーひろば」この日から七月十日(日)まで。卯年にちなみ、また災害復興支援としていつもより安い特別入館料での開催。今までは特別企画展と称していたのが今回は特別企画展示となっている。
 ミッフィー或いは「うさこちゃん」と言うキャラクターの存在やその作者ディック・ブルーナの名前くらいは筆者も知っている。以前、「ブルーナ作だがミッフィーではない図案」の郵便切手を利用者が「ミッフィーちゃん」と呼んでいるのを見た事はある。キカイダーやイナズマンを仮面ライダーと呼ぶようなものか。
 エントランスの常設入り口脇に「ウェルカムゾーン」が設置してある。ミッフィーを中心に向かって左に豚が二頭、右に熊が二頭、五体の大きな人形が立っている。記念撮影用であろう。いつもは石森歌曲が流れているエントランスだがこの日は何やらミッフィーの歌を流している。筆者が「二頭の熊が饅頭に見える」と言うと、女子職員曰く「おいしそうに見えてきた」。
 企画の入口脇には朝日新聞三月二七日付け朝刊の「ミッフィー 被災地へ涙/ブルーナさん はげましのイラスト」と言う記事が掲示されている。特に今回の企画展示にちなむものではない。その記事の下には「東日本大震災義援金募金箱」が設置されている。
 企画に入る。原作者の紹介パネル。ネーデルラント人のブルーナは昭和二年生まれの卯年。外国人作家の展覧会は石森両館で初めてである。
 続いて、絵本を並べてのミッフィーの顔の変遷の展示。去年までの五十五年の間に確かに顔は変化している。特に一作目とその次以降の違いが著しい。また、ミッフィー自身の作品内での境遇の変化も記されている。
 一番奥に「ミッフィーのおうち」。大きな模型である。
 立体アニメジオラマはガラスケースの中。そのうちの一つは人形アニメ制作時に使用された実物だと言う。
 登場人物のパネル。ミッフィー一家、親戚、近所の人々。スナッフィーは飼い犬。ディズニー作品のプルートが鼠のミッキーに飼われているように、スナッフィーも兎のミッフィーと同格ではなく、擬人化されていない愛玩動物の地位である。
 靴を脱いで遊んだり絵本を読んだりできる場所がある。
 ガラスケースの中に、ブルーナ作品が図案に採用された品物が展示されている。母子手帳は以前どこかで見た記憶がある。
 「ブルーナ作品は三原色に茶、緑、灰の計六色のみ」と言う説明パネルを見て、そう言われればそうだと思う。前述の郵便切手もそうだった。
 この日の昼食は生家の先の信号機の角、赤い暖簾のたけちゃんラーメン。味噌ラーメン五百八十円。野菜がどっさりと入っている。
 雨が止まぬ中、傘を差して周辺の写真撮影。確かに蔵にもひびが入って破損している。弘幸氏の話では今回生家が大きな被害を受けたとの事で、表はブルーシートで全面が覆われて当分閉鎖。他にも、民家から落ちた屋根瓦が路傍に掃き寄せられているのを数ヶ所見付ける。モニュメント類は無事のようである。
 伊勢岡神明社参拝。社殿や境内に特に被害は見られない。
 前田公園に出る。雨に濡れ、独り立つV3像。ダブルタイフーンや手形レリーフも壊れていない。
 館に戻る。
 閑散とした館内。時折、夫婦や親子の客が見て行く。
 映画「レッツゴー仮面ライダー」にも出て来たので、常設のビデオライブラリーで「イナズマン」#1を見る。
 本館の庭の石碑や壁画には損壊が見当たらないが、中庭の小さな石の祠は崩れたまま。
 いつの間にかすっかり雨は上がる。十六時過ぎに帰途に就く。復路は従来の宮石運輸経由の道。渋滞もなく快走できる。十七時半頃にスーパーマーケットに立ち寄って買い物をして十八時頃に帰着。
 自宅郵便受けにふるさと記念館からの郵便物が入っている。中身は特別企画展示の案内と友の会会費領収証と新会員証。新年度会費は三月中に口座送金済み。今までの二代目会員証が十年で満了したので新年度からまた十年間用の三代目会員証。今度のは黒を基調とした渋い出来。

 今回の特別企画展示は元々関心のある作品ではないので論評は差し控える。
 とにかく、ふるさと記念館が新年度早々に再開できたのは良かった。そして何より、現地関係者の元気な様子を見て安心した。まだまだ世間は大変な状況が続くだろうが、関係者各位にはしっかり業務をこなして欲しいし、多くの人々にふるさと記念館で安らいで欲しい。五月連休にはミッフィーといっしょ握手撮影会もある。

 この際、石巻市と石森萬画館の事。港湾都市の石巻市、その旧北上川の河口近くに位置する萬画館は津波で大惨事となった。石巻駅から萬画館までのマンガロード全域が水に呑み込まれて、萬画館のある中瀬は壊滅状態。筆者の知人にも避難所に逃げた人や水位上昇で自宅二階で暮らしていた人がいる。萬画館の建物は一階部分に浸水したものの二階以上、収蔵品は無事と報道されている。萬画館の建物や街中で無事だったモニュメント類が報道で復興、希望の象徴として取り上げられる事もある。今は一日も早い復興を祈るのみ。「この非常時に漫画とはけしからん」等と言う地元民はいない、とは思いたい。
 案の定、ふるさと記念館と萬画館を混同している記事をまたネットで見掛けるようになった。「被災地でミッフィー展開催」の「被災地」を石巻市だと思っている人がいる。登米市も災害救助法適用地域なので法的な被災地には違いないが、「水害にも負けずにミッフィー展開催」ではないのでくれぐれも注意されたい。

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