「石森章太郎ふるさと記念館」第六十九回訪問記

平成二十三年一月三十日(日)

 今年は仮面ライダー四十周年。その記念の年に一番ふさわしいゲストが原作者の地元にやって来る。恒例の章太郎メモリアルデー開催。
 当日午前中は水沢市内でどうしても外せない用事があり、そちらに出席した後で十一時十六分に大雪の水沢から乗車。同四十一分一ノ関着ですぐ四十六分発小牛田行に乗り換える。二両編成の小牛田行列車唯一の手洗いは凍結につき使用中止。石越には十二時八分着。駅舎は改築工事中で現在はプレハブの臨時駅舎。こちらは積雪はあるが雪模様ではない。
 すぐに駅前待機の若柳タクシーに乗り込んで記念館行を命じれば、今回も運転手から「記念館で何が起きているのか」と訊かれる。
 十二時半頃、記念館前の駐車場に降りる。先に到着している盛岡の知人達三人(以下「盛岡組」)と合流。また、毎度の常連各氏にも挨拶をする。エントランスに往復葉書の返信部を提出して後述サイン会の整理券を得る。催し物の為に館の内外はごった返している。
 既に餅きは終了。筆者は「めだか」でカレーを食す。盛岡組は餅を堪能したようである。
 十三時半から、企画展示室内でトークショー「仮面ライダーを『演じる』・『描く』立場から」」。現在は特別企画展は行われていない。エントランスにも室内の様子を生中継するモニター画面が設置される。企画室内に聴衆を入れての催し物は筆者の記憶に無い。室内の一番奥に演壇が設けられる。
 筆者は遅い到着で座席を確保できなかったので立ったままノートを取る。
 司会は熊谷副館長。友の会の小野寺裕幸会長が挨拶し、また仮面ライダースナック世代を名乗る登米市の布施市長が祝辞を述べる。
 企画の入り口から出演者の藤岡弘、と村枝賢一入場。聴衆の間を通って登壇する。藤岡の説明は略。村枝は漫画「仮面ライダーSPIRITS」作者。
 まず熊谷副館長が出演者達の経歴を紹介する。その後暫くは、副館長からの問いかけに出演者達が答える、と言う方式で進む。幼い頃の思い出、業界入りの経緯、下積み時代の経験、その他諸々。有名な件ではあるが藤岡の大怪我の話題もまた出る。実に意外な村枝の「SPIRITS」執筆の経緯。村枝は生前の章太郎を遠くから見ていただけで特に付き合いは無かったのだと言う。村枝からは、彼も参加するヒーロー作品クロスオーバー企画「ヒーロークロスライン」の話も出て、その登場ヒーロー・ジエンドの着ぐるみが会場に登場する。なかなかいい出来である。尚、筆者は「SPIRITS」も「ヒーロークロスライン」も未読だが、「ヒーロークロスライン」にも登場する「銀河ロイドコスモX」は十年前の特撮作品をケーブルテレビで見て、宙明なのでサントラCDを買った。
 今回特に印象深かったのは下積み時代の両者の貧乏、苦労噺。上京間も無くの頃の藤岡の「周囲は皆ショッカーのようだった」が実に強烈である。騙され続け、「鞍馬天狗はどこにいる」と思ったと言う。また、村枝は布団の無い生活でヘルメットをかぶったまま就寝して鼻水が耳に入ったそうである。他人の貧乏体験を聴く分には笑っていられるし、両者とも笑って喋れる身分になっている。そして、貧乏でも夢があった、心は豊かだったと語る。
 途中からは両者の対談で進行する。十四時四十分頃にまとめに入り、藤岡は世界規模でのヒーロー論を述べる。世界中どこでも通用するMASKED RIDER。
 石森小の児童から両者に質問コーナー。
 十五時頃にトークショー終了。ジエンドと1号ライダーも登場して花束贈呈。両者退場。
 一同室外に出る。エントランスでは村枝のジエンド商品の行商。ジエンド本人も売り場のそばに立つ。筆者は何も買わぬ。
 サイン会は、記念館が準備した横長の色紙限定で両者がサイン、記念撮影に応じると言う方式。時間が無いとて為書きは氏名ではなく氏か名のどちらか。去年の催し物では先着順だったのが今回からは往復葉書抽籤方式になり、必ずしも早朝から並ぶ必要が無くなっている。筆者の順番が来て、藤岡に「子供の頃、『特捜最前線』の再放送見てました」と声を掛ける。
 盛岡組と常設展示室を見る。やはり一番人気は原哲夫の扇子。そして「めだか」に移動して暫し憩う。筆者は油麩そばを食す。
 エントランスの北側の壁に、館宛の年賀状や昨夏のまんがフォーラム出席漫画家のサイン色紙が飾られている。
 ジエンドはエントランスを徘徊するのみならず記念館の門の辺りまで出て来る。009像と並んでいるところを撮影。
 十六時半過ぎ、盛岡組の自動車に乗せてもらって石越駅に向けて出発。前田公園に立ち寄り、伊勢岡神明社に参拝。駅で筆者一人下車、盛岡組は帰途に就く。筆者は次の目的地、仙台市に向かう。

 今まで藤岡の噺は何度か聴いているが、今回初めて聴くネタもあり、退屈する事無く聴けた。
 勿論、筆者はヒーロー作品が大好きである。しかしながら、平成二十一年の元日の石森プロの新聞広告のように、本当は、現実にはそのようなヒーローなんかいない、必要の無い世界が正しいのだと思う。それだからこそ、1号2号も「俺達だけで十分だ」と、一度は風見志郎の改造志願を断っている。サイボーグ戦士や多くの仮面ライダーは科学の悪用、誤用の産物であり、本来いてはならないのである。誤解するなかれ、筆者は決してヒーロー作品を否定しているのではない。仮面ライダーを必要とするような悪者が本当に出て来たら困る、と言う事である。
 以前から藤岡は、バイクで疾走する仮面ライダーと彼の子供の頃のヒーロー・鞍馬天狗を重ね合わせていたと語っている。平成二十年、NHK「鞍馬天狗」に主演した野村萬斎は、子供の頃に見たウルトラセブンや仮面ライダーのイメージで演じたと言っており、世代や分野を超えてヒーロー像が継承されている。

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