「石森章太郎ふるさと記念館」第六十五回訪問記

平成二十二年七月十八日(日)

 この七月で開館十周年。先日の宮内洋も記念事業のうちだが、記念式典はこの日に行われる。その暑い日の見聞。
 前回訪問に引き続き今回も早朝出発である。十分に燃料を補給したマシンで五時過ぎに曇天の下、出発。遮る物も無くいつもの道を走り、一時間強で着く。
 行列最後尾に付けばやはり「めだか」店舗の前。そして今回も行列の数人先に盛岡友人がいて、周囲を見渡せば顔なじみが何人もいる。約三時間の待ち時間だが友人や周囲の人々との会話で全く退屈しない。
 今回の行列の目的たる漫画家サイン色紙は多少複雑な方式を採る。後刻のまんがフォーラム出演漫画家は次のとおり。
 第一部 藤子不二雄Ⓐ、ちばてつや、さいとう・たかを
 第二部 矢口高雄、水野英子、よこたとくお、竹宮惠子、シュガー佐藤
 第一部の面々は時間の都合でサイン会はせず、各人十枚づつサイン引換券配布。
 第二部は当地でフォーラム開催後にサイン会を行う。そのサイン整理券は十五枚ずつ配布。
 それら券の確保の為の行列である。
 今回も行列はぐんぐん伸びて隣の安永寺山門に達する。当日は同寺にて葬礼との事で、その点に配慮するように記念館只野氏は参集者に注意喚起する。
 九時頃、「サイン券目当てではなく本館展示を見に来ただけの人は先に入場させる」との告知がされるが誰も反応せず。皆、サイン券が欲しいのである。
 予定の九時半より少し早く配布開始。一度に行列の全員が動くと危険なので区切って入館させるが、その際いつも筆者が区切りの目印にされる。大常連ゆえ。配布開始後間も無く、藤子Ⓐ終了が告げられる。筆者は「よこたとくお」一番で入手。
 今回のフォーラム出演漫画家のうち、筆者が選んだ「よこた」だけ紹介しておく。彼もトキワ荘住人の一人。筆者は小学生の頃に学研の学習漫画ひみつシリーズで親しんだ。フトシがくだらない事を言うと博士が激怒して帰宅を命じる「君はもう帰れ!」。時々漫画の中に原作者が乱入する「あっ変なのが出てきた」。漫画の中の原作者の顔を見て「本人は実際はどんな顔なのだろう」と考えていた。実は「よこた」は石森萬画館の開館初日にも来ているがこの時は筆者は接触できず。
 以後、盛岡友人と共に行動する。友人は自家用車を本館南駐車場から石森ふれあいセンターに移動させ(筆者も同乗)、そこに置いてから徒歩で本館に向かう。この時点で日差しが強く、気温も上昇する。真夏の天気である。生家で暫し休憩。
 伊勢岡神明社参拝。
 先日V3が建立された前田公園。宮内洋のサイン、手形レリーフ、説明文が設置され、また像の台座に題名の金属板も取り付けられる。筆者達以外には一人の姿を見るのみ。水飲み場の水で帽子を湿らせる。
 本館に戻る。第35回特別企画展「石ノ森章太郎ヒロイン展」この日から十月十七日(日)まで。章太郎作品の女性の特集。原画のみならず、テレビアニメや特撮の展示もある。特撮については変身ヒロインや不思議コメディーの主役級が展示されているが、所謂ライダーガールズや悪役大幹部等は展示されていない。
 「めだか」での昼食、筆者は大ざるそば。
 再びふれあいセンターに向かう。「事業協力者」招待客の筆者は建物に入り、一般客の友人は外で待つ。受け付けで式次第や記念品の一式を受け取り、指定の椅子に着席する。文字どおり末席、後ろの方である。
 十三時半から記念式典。冒頭で名誉館長・小野寺章、総合アドバイザー・矢口高雄に五年間の委嘱状が市長から交付される。
 市教育長開式の辞。
 市長式辞。
 市長から二者、教委から十六の個人、団体に感謝状贈呈。教委からの中には小野寺おっかさんもいる。
 来賓の挨拶、紹介や祝電の披露の類の詳述は省略する。
 感謝状受領者の一人から謝辞。
 ふるさと記念館十年の歴史をまとめた教委制作のDVD上映、十分ほど。使用音楽はオリジナル以外の歌手による歴代ライダー主題歌メドレーだが、「1号2号」から「スカイ」まで進んだ後に宮内タカユキオリジナルの「誰かが君を愛してる」の最後の方に切り替わる。
 佐藤教育長による閉会の辞が十四時五十三分。進行が遅れ気味。
 会場準備、一般客入場。  十五時十一分、まんがフォーラム第一部開始。司会は一、二部通して熊谷副館長。総じて、副館長が出演者に質問をして出演者それぞれが回答すると言う方式で進む。
 第一部はトキワ荘時代の話題が中心、やはりここでも「ゲゲゲの女房」の時代と言う話になる。各人が想い出を語る他、出演者同士もやり合う。筆者が一番印象に残ったのは「さいとう」の、世間からは銃器に大変詳しいように思われているが実は苦手で、その担当のスタッフに任せていると言う発言。
 十五時五十五分で第一部終了。十六時七分から第二部。ここでもいろいろな話題が出るが、矢口、水野、竹宮が語る「漫画家の権利の問題」は筆者も著作権を学び、関心を持つ者として特に興味深く聴く。漫画家の団体結成に対する出版社の反発、漫画家自身も希薄だった権利意識と勉強会による意識向上、知恵の付いた漫画家への出版社による弾圧。生々しい証言。
 そして、もし章太郎存命ならと言う質問に対し、少女漫画に回帰したのではないかと言う意見で一同まとまる。
 十七時頃第二部終了。サイン会は本来その場で為書きを入れるはずだったが進行遅れと帰路の新幹線の都合で為書き無し、漫画家本人からの手渡しのみ。筆者は「よこた」から受領、盛岡友人は竹宮から受領。「よこた」のは「マーガレットちゃん」の絵入り。男性同性愛漫画の元祖、教祖のように言われる事もある竹宮、今回の色紙もそう言う絵が描いてある。
 盛岡友人の自家用車に、他の人と共に乗り込む。筆者は本館で下車、盛岡友人はその人を石越駅まで送ってから帰途に就くと言う。
 本館に入り、もう暫く過ごす。転出した館の元職員数名に事務室で会う。
 十八時十八分に出発して十九時半前に帰宅。

 十年前の開館初日の際は一般客として式典会場の外で待っていた。そして、別に大した事をしたつもりも無いが式典に招待される身分になった。
 開館当初はふるさと記念館に対する地元からの批判的意見或いは反発も筆者自身いろいろ見聞した。しかし斯かる辺鄙な土地にも関わらず世界中からその筋の愛好家達が参集するようになって、もう反対派も文句を言えないだろう。
 記念品は009の絵の小さな布製印刷掛け軸と記念誌。記念誌には筆者の知らない事もいろいろ書いてある。特別企画展は全て見ているがさすがに全行事にまで参加しているわけではない。

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