「石森章太郎ふるさと記念館」第五十三回訪問記

平成二十年十一月七日(金)

 降ったり止んだり天候不順ながら意を決して雨具着用で十時にマシンで出発。平泉町辺りで雨は上がる。途中一関市の永井郵便局に立ち寄って用を済ませてまた走り出すも十一時十五分、現地到着時にはまた降っている。雨具を本館中庭に干す。
 特に催し物があるわけでもない平日、館内は人影もまばら。すぐ企画に入る。
 第28回特別企画展・郷土が生んだマンガ家シリーズ◆第1弾◆「シュガー佐藤展」十月二十五日(土)から十二月十四日(日)まで。ざっと展示作品を見渡して「政治的、社会的禁忌に触れた作品」が展示されていないのを確かめる。
 一度本館を出て「めだか」に入店する。小野寺弘幸氏一人在店。少し会話をする。
 生家では十一月三日(月)から十六日(日)までヒーロー作品展開催中。石森作品を題材にした市内小中学生の図工作品の展示。毎度毎度、絵心のある彼等が羨ましくて仕方ない。題材は009、1号ライダー等の古典の他、電王やイクサの様な最新ヒーローまで多種多様。スーパー1までいる。シージェッター海斗の粘土細工は実に色鮮やか。どこぞの四十代くらいの夫婦が作品群に熱心に見入っている。
 再び「めだか」。弘幸氏の勧めで新献立の焼きうどん、そしてここでもブラックコーヒー。弘幸氏から焼きうどんの味や分量について意見感想を求められて味は良し、分量は筆者には少し足りないくらいと答える。石森FCのエプロンを着けて調理場やカウンターに立つ弘幸氏の姿はまさに「おやっさん」。記念館関連施設全体の、そして章太郎の遺徳を慕って全国から集まる愛好家達の「おやっさん」である。
 食事を終えて再び企画、一人でじっくりと鑑賞する。シュガー佐藤は当地出身にして石森プロ出身の漫画家。章太郎の実家、両親を通して本人に接触して入門を許されたと言う経緯がある。展示冒頭には本人の経歴、続けて未公開のストーリー作品二本。グロテスク佐藤名義「ゴトンゴトン」や、児童向けギャグ漫画、テレビ番組の漫画化、端正な歴史物、淫猥な大人向け作品等の原画が並ぶ。今回は作品一つ一つの解説が丁寧に付けられている。佐藤本人からの挨拶文にはふるさと記念館での開催についての喜びが満ちている。賞状や写真パネル多数、幼き日の小野寺丈、章兄弟も写っている。ガラスケースには掲載誌、単行本。立体物の展示は無い。
 原画のうち、「RX」は漫画独自の内容。「BLACK」はテレビ#1の改造場面や初めての変身の場面、そして#51の末尾。BLACKに斃されたシャドームーンの顔が信彦に戻ったり、ゴルゴム滅亡後に光太郎がサタンサーベルを墓標の様に土饅頭に突き立てていたりと、テレビに基づきつつも違った趣が見られる。仮面ライダー以外の石森ヒーローも何点も展示されている。今回の展示作品は筆者にとっては全て初めての鑑賞である。
 事務室には先般の倉田てつをサイン色紙が飾られている、それを筆者も持っていると思うと感慨深い。熊谷副館長と歓談。また、「ハイパーホビー」十一月号を読む、倉田てつをインタビュー。自ら危険なアクションもこなした事を誇りにしている倉田。「BLACK」放映開始後間も無く、視聴者に取り囲まれるのでまともに外を歩けなくなった事も以前からよく話している。ところで「炎神戦隊ゴーオンジャー」G3プリンセスの記事を読んで、もし世が世なら「キャピトラ組とビシュム」「玲子、響子とマリバロン」でCDが出されたのだろうか等とも考える。キャピトラ組については#14で一応、歌唱の実績はある。
 常設には数名他の客。普段からエントランスには石森作品の歌曲が流れているがこの日は何故か「BLACK」二部作のみ流れている。二十年以上、何百回も聴いている曲でも流れて来れば歌ってしまう。
 またまた「めだか」。カレーライス、これは分量があるがすぐ平らげる。本当に何故か、ここでは食欲が増進する。
 企画。テレビセットではNHKで以前放送された「マイメモリー」の「勝手にシンドバッド」の回(漫画担当が佐藤)、福井県企画による松平春嶽の伝記漫画「幕末福井伝」を紹介する「ニュースプラス1」「県民サロン」上映。「プラス1」には章太郎も出演、背後の棚に「仮面ライダーストロンガー」等のVHSが見える。「日本の歴史」の実績を買われて作画に石森プロ、佐藤が起用されたと言う。「幕末福井伝」の原画も今回展示されている。
 上記ビデオを全て見てから十六時十五分頃に出発、帰りは降らず。夕刻の混雑時にまともにぶつかって多少時間がかかり、十七時四十五分頃の帰着。

 昔から「作品の展示、上映にその筋からの妨害や抗議が殺到」と言う事例は数多くある、最近宮城県内でも或る映画上映への会場貸与について紛議が発生しているので今回の特別企画展にも多少期待していたがそれは無かった。展示作品の中には大人向け等と言うより本格的に「十八禁」「子供が見ては駄目」「子供に説明するのに困る」と言う方がふさわしいのもある。余計な分け隔てをせず展示していると高評価すべきか、それとも子供も多く来る施設としては配慮すべきなのか、筆者には何とも言えない。何しろ「コミックボンボン」と「家畜人ヤプー」が同じ室内にあるのだ。尤も、これは今回に限った事ではない。
 ヒーロー作品展を見て思う。如何に昭和世代人が平成作品を「認めない」と言っても、少なくとも今の子供達には間違い無くこれらがヒーローであり、仮面ライダーであり、章太郎作品なのである。仮面ライダーのみならず怪獣映画でもウルトラシリーズでも、「昭和世代人たる者、平成作品を認めてはならない」「平成作品を貶すのが昭和世代人の務め」等と言うおかしな使命感には絶対に反対する。頑迷な世代人はヒーロー作品展の出品者達に対して「こんなの石森作品ではない」とでも言うのか。
 果たして郷土が生んだマンガ家シリーズの次は誰だろう。

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