「石森章太郎ふるさと記念館」第五回訪問記

平成十三年一月三日(水)

 記念館の新年の開館日を現地に照会した際、一月三日に矢口高雄が来館、そしてパーティー開催という情報を得る。いい機会なので一月二日の夕方に記念館に電話してパーティー出席を申し込む。
 当日。十一時六分水沢発の下り列車、ゴーグルグリーンと共に。この時点で水沢は既に大雪。十一時五十九分に石越着。
 石越町も雪模様、まだバスは休日ダイヤで次の便は二時間待ち。さりとて記念館まで歩けるような路面状態でもなく、駅前待機のタクシーを利用する。片道二千四百円を折半。筆者自身も記念館行でのタクシー利用は初めて。渋滞等も無く、記念館にはすぐ着く。
 「釣りキチ三平」愛好家のゴーグルグリーンは売店で「三平」帽子を購入。筆者は茶屋で「佐武市サブレ」。中田町ではサブレ、石巻市では粟野の蒲鉾というのが筆者の恒例。
 記念館へ。第三回特別企画展は「矢口高雄30年の軌跡」。今回は約二ケ月の会期がPART1、2に分かれており、十二月十五日から一月十四日まで「PART1 マンガ家・矢口高雄の世界」を開催。PART2は一月十九日から二月十八日まで。エントランスで入場料を払い、企画展示室に入る。尚、エントランスにはクウガのマスクが鎮座しているが後番組「仮面ライダーアギト」の宣伝物は特に見当たらず。新番組の情報はここでは手に入らないようだ。
 漫画家・矢口高雄の幼少時から漫画家デビュー、数々の辛苦、そして大成に至るまでの展示。銀行員を辞めて三十歳でのデビュー、かなり遅い方だ。同世代の石森章太郎は既に売れっ子になっている時である。漫画原画の他、単品の絵画も展示されている。
 やはり自然の風景の描き込みが素晴らしい。また、魚の絵は緻密さと躍動感に満ちている、目が生き生きとしている。豊かな自然の中で育ったという彼だけあって本当に美しい作品群。
 高校時代の書道作品は李白の「春夜洛城聞笛」。
 「長持歌考」は発表当時の原稿と、最近出されたカラー版の両方を展示。その内容にゴーグルグリーン共々考え込んでしまう。哀しすぎる。
 茶屋で飲食。また「仮面ライダー」CDがラジカセで再生されている。小声で歌ってしまう我々二人。この記念館で場内に流れる音楽に合わせて拳を振り上げて歌っている青年二人がいたら、それは間違いなく我々だ。
 十四時半前に矢口高雄到着。
 常設展示室で館長で石森章太郎の実弟である小野寺弘幸氏に挨拶、親しく話をする。実は筆者の今回の記念館訪問とパーティー出席は館長の耳にまで届いていたのである。
 続いてエントランスで、小野寺電気や「墨汁一滴in石森」ウェブページ担当者の小野寺幸朗さちろう氏に挨拶。館長に我々のことを伝えたのが幸朗氏。記念館開館初日に「生家」の脇で会った電器屋の女性の話をしたら、氏曰く「うちのお袋だ」。
 ロビーには矢口デビュー三十周年に寄せての漫画家達からの色紙。今回は小松崎茂や加藤芳郎も登場。川崎のぼるのは星飛雄馬、風大左ェ門、ニャンコ先生と三平が並んだ図。大左ェ門と三平、アニメの声優は同じ人だ。
 また、今回も漫画家の色紙プレゼントがある。
 十五時からエントランスでサイン会開催。これの列が会場を埋める。ゴーグルグリーンは列に加わり、筆者は脇で待つ。
 石巻「墨汁一滴」組到着。
 幸朗氏といろいろ話し合う。交通の便の悪さは地元も勿論重々承知、国道四号線との接続を説明するのが難しいのだそうだ。
 サイン会は実に一時間にも及ぶ。愛好家の一人一人の差し出す用紙に丁寧にサインをして落款を押し、握手。実にいい光景。
 サイン会終了後、ゴーグルグリーンはタクシーを呼んで先に帰る。筆者は茶屋で石巻組、幸朗氏と歓談。茶屋に飾ってある「みずの木」から民間習俗の分布に話が及ぶ。売店の仮面ライダー人形、ショッカーライダーやドラスまであるのに何故かこの日はストロンガーが無い。
 十七時頃、外はすっかり暗くなっている。暗くなると記念館外壁の、人形等が入っているくぼみに明かりがつく。石巻組の自動車に乗せてもらってパーティー会場へ。
 中田町農村環境改善センター。「矢口高雄マンガ家生活30年記念祝賀会」。式次第の紙の座席表を見れば筆者の名が「ご招待者」として記されて、文字どおり末席を汚している。出席者は矢口夫妻の他、中田町役場や議会の関係者、記念館関係者、その他各種機関・団体の長、地元企業等。矢口ファンクラブからも一人出席。
 開会までの間、石巻組と歓談。元旦早々の金華山航路の事故、やはり地元では大騒ぎになったそうだ。尾形氏と挨拶を交わす。
 十七時半、開会。矢口夫妻入場。町長や町議会議長の挨拶や地元選出代議士の祝電披露。鏡開きの後、乾杯。
 暫し歓談。超の字のつく下戸である筆者は喰うに徹する。好物が割りと多く出る。職場の飲み会はなるべく断り、やむなく出席しても殆ど料理に手を着けない筆者だが、自分の趣味、楽しみに関する集まりでは別人のように喰いまくる。
 矢口から挨拶、ちょっとした講演。頷きながら聴く。印象に残った部分を要約で紹介する。

 手塚治虫、藤子・F・不二雄、石森章太郎は若死にだと言われるが私はそうは思わない。人生の中身としては百歳以上生きたのではないか。横綱の貴乃花もまだ三十歳前だが既に六十歳以上生きていると思う。
 私が銀行員を続けていたら頭取までは行かずとも支店長くらいにはなっていたかも知れないが、銀行の頭取より漫画家・矢口高雄の方がいいじゃない!(場内拍手)

 銀行員時代の話、そして「夢」の話は筆者も身につまされる。「石森章太郎、万歳!」と叫んで締める。尚、嘗て彼が勤務した羽後銀行は現在の北都銀行で、増田町まんが美術館のウェブページを提供している。
 矢口に記念品贈呈、林檎の木のオーナー権。
 アトラクションは童謡歌手の歌。矢口や町長も歌う。
 歓談。石巻組からも花束贈呈。
 三本締め、矢口夫妻退場で閉会。二十時頃だったか。
 会場建物の廊下に仮面ライダー、キカイダー、OO9の人形あり。
 帰りはちょいと慌ただしくて石巻組に挨拶できず。タクシーを呼び、館長に挨拶をして辞去。
 雪の為か、二十一時十分石越発の下り列車が二、三分遅れ、そして一関では二十二時十分発のが十七分も遅れて水沢帰着は二十三時頃。
 今回もまた充実した一日だった。企画展は大変見応えがあり、幼少時に「三平」アニメを見た程度の筆者も大いに楽しめた。ゴーグルグリーンも大喜びしていたのは言うまでもない。
 そして何より、館長や幸朗氏の御好意が大変嬉しかった。今までウェブページのことで幸朗氏とメールのやり取りをしただけで、特に旧知の仲でもなく面識も無かったのに、本当に親身にお世話頂いた。館長自ら、我々来訪者と積極的に交流しようとされているのが大変素晴らしいと思う。
 萬画であれ映像作品であれ、石森作品の愛好家なら是非この記念館を訪問すべし。

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