「石森章太郎ふるさと記念館」第三十三回訪問記

平成十七年十月八日(土)

 七時五十三分水沢発、八時十八分一ノ関着。ホーム一番線には蒸気機関車「奥州義経号」停車中、多くの野次馬が熱心に写真を撮る。筆者もまた構内のあちこちから撮影。この三連休期間中に一ノ関と盛岡の間を一日一往復する特別列車、この区間内では十二年振りの蒸気機関車運行。
 蒸気機関車は郷土芸能の太鼓に送られて八時三十九分に出発。その後に上り電車が到着、これに乗り込む。九時五分発、石越着は同二十五分。
 石越局ATMで資金調達後、駅前バス停。十月一日より従来の路線バスに代えて「市民バス」運行開始、区間内はどこから乗ってどこで降りても一回百円、但し石越駅前発記念館方面は平日は一日二便、土日祝日は一便! まさに気分は吉幾三。
 その一便、九時四十七分に乗る。診療所に行く為に筆者の後から乗った女性は「往路は百円でよくても復路はタクシー利用で却って高くつく」と語る。「開かずの踏み切り」に苦しむ都会人よ、これが田舎の交通事情だ。
 十時過ぎに記念館前で下車。駐車場で小野寺弘幸氏に会う。蔵楽に入る。
 事情があって前の晩から食事を摂っていない。牛丼とえび天そばを注文、一気に平らげる。海老は二本入り。うまい。
 やはりバスの話題。公共交通機関の不便な田舎では自家用車が無いと何かと用が足せず、それで歩くのが億劫になり、近所のコンビニに煙草を買いに行く程度でも自家用車に乗ってしまう。少しの道程でも歩くのを嫌がって自動車に頼ろうとするのは田舎者。
 「響鬼」劇場版の人形やディスクアニマルももれなく入荷してはいる。
 本館の企画に入る。第19回特別企画展「志賀公江・中山星香 二人展」この日からから一月十五日(日)まで。少女漫画の作家二人の展示。
 入り口に両名の近影と経歴のパネルが並べてある。順路の前半が中山、後半は志賀。漫画の原稿や一点物の彩色画。志賀の描く女性の方が大人びた、妖艶な印象を受ける。中山のは夢見る少女の瞳か。
 まだ観客は少ない。
 館職員達とこれからの地方自治を語り合う。九月二十日の合併で登米市の隣に、同市よりも人口の多い、十三万人の新・一関市が出現した。
 常設に「がんばれロボコン」カラー原画。吹き出しの中が空白になっていて台詞が無い。
 生家。新たな展示登場、一つは章太郎愛用の「瞑想椅子」。丸いカプセルのような椅子で、章太郎はこれに座して考えたのだと言う。もう一つは大正三年の日付のある家相図。この生家の見取り図にいろいろ解説の書き込みがあり、結論として「相がいいので子孫繁盛」と言うような事が書いてある。当たったな。
 駐在の小野寺おっかさんと小一時間対話。土間の応接椅子からとうとう台所脇の小部屋に上がり込んでしまう。
 再び蔵楽、昼食はスパゲティナポリタン。我ながらよく喰うわい。
 そしてまた企画。近所らしい老紳士と男児の孫二人が鑑賞して行く。明らかに展示の対象外だがそれは筆者も同様だ。
 エントランスの受け付けで企画を指差し「今度の特別企画展の間は姉さん方もああいう格好をしたらどうだ」と提案。前々からふるさと記念館女子職員のコスプレも要望しているのだが未だ実現せず。「素材」はいいのだから活用しないともったいない。何よりここの女子職員は態度が図々しくないのが良い。
 辞去。十四時二十一分のバスに乗るつもりでいたら弘幸氏が駅まで送ってくれる。毎度の好意に頭が下がる。
 十五時十九分発の下り、十六時半水沢着。途中、前沢駅で復路の蒸気機関車とすれ違う。

 今回の特別企画展は本来興味のある分野ではなかったが、画の繊細さは楽しめた。「瞳の中にお星様キラキラ」の少女漫画もまた日本人のお家芸と思う。
 バスの件はもう絶望的である、一日一本、限りなく零に近い。遠来の人にはタクシーしかない。
 「人間の最大の財産は人脈」とは筆者の口癖、登米市や石巻市を訪問する度にそう思う。友の会会費や年間パスポート料金、そして往復の交通費以上の素晴らしいものを得ている。人脈とは自分で足を運んで人付き合いをして築き上げるもの。今後もこの人脈を活かしていこう。

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