「石森章太郎ふるさと記念館」第百八回訪問記

平成二十八年一月二十四日(日)

 過去のメモリアルデーその他の催し物では、有名漫画家や俳優を目当てにこの僻地にも多くの人々が集まって来た。しかし今回のゲストは職種が異なる。人気テレビ番組の出演者ではあるが客の集まり具合の予測がつかず、いずれにせよ早く出発するに越した事は無いので水沢六時二十七分発の上り列車に乗り、晴天の石越着は七時二十分。駅前に待機タクシー無く電話を掛けて呼び出す。待つ間、駅員が駅前の除雪をしている。やがてやって来るタクシーでふるさと記念館に着く。
 徹夜組はいなかったようである。一番乗りは石巻市のSEI氏。筆者が二番目で、続いて到着は新潟県からの常連二人組。顔なじみ同士が集まる。
 九時半の会場まで、四人で会話をして退屈しない。何より荒天ではないので屋外で待つのも苦痛ではない。館の関係者が準備の為に行き来する。列は伸びて行くが大行列と言うわけでもなく、客の集まりについて多少不安になる。
 九時半開場。トークショーの券を入手する。
 四人で企画を見る。貸本漫画には吉田竜夫、九里一平のような大物も名を連ねる。昭和三十年代の週刊少年誌は社会派だったのか、松川事件についての記事も見える。便乗作品か、謎の「鉄人16号」。
 十時から安永寺講堂でタミヤミニ四駆体験と「スイーツデコを作ろう」。前者は本式のコースを設置してマシンを走らせる。後者は菓子模型作り。後者への参加は少女ばかりだが、前者に参加している女子もいる。筆者は見学のみである。
 十一時から旧幼稚園で餅振る舞い。納豆、ほうれん草、鮭フレーク、それと汁に入った物も食べる。毎度ながら搗きたてのうまさ。
 更にSEI氏と「たばごや」に移動して暫し休息。筆者は「海藻パスタ」。具として海苔等が載っている。
 生家の様子も見てみる。章太郎の母・カシク女史の日記帳や手紙は初めて見る展示である。
 再び本館。本日のゲストが企画や常設を見て回っている。
 「帝國」の読者に会い、挨拶する。
 十三時半から奥の映像シアターで五十名限定の北原照久トークショー。客席は整理券の順。筆者達は最前列に着席する。振り返ればよく見掛ける人が何人もいる。五十席は埋まっていたと思う。
 テレ東「開運!なんでも鑑定団」レギュラー出演者、ブリキ玩具収集家。筆者はたまに外出先の食堂等のテレビで見る程度で、毎週きちんと見てはいない。筆者自身は特撮分野の収集家と言うわけでもない。
 司会の「しらいまりえ」はネット検索してみたところでは宮城県内でラジオに出演している人物のようである。
 今回の企画展の目玉、寄せ書きカーテンについての解説。今に国宝になるだろうと豪語する。前の持ち主はつのだじろう。
 今までの収集家歴や「鑑定団」について語る。総じて自負、自慢が多い。収集家として外国の著名人とも交流があり、北原は外国での方が人気があるのだと言う。
 昔の玩具に大変な高値が付いたと言う事例の数々。しかもそれらの購入者は金持ちではなく、一般人だと言う。また、北原自身は入手した品はよそには売らない、即ち売買で儲けているのではないと説明する。
 収集品が膨大な量で、常に展覧会を開いていなければいけないような状態だとも言う。現在六軒目の博物館を建設中で、誘致されれば宮城県にも建てたいとの事。
 北原が四十代の頃に八十代の人からもらった言葉として「万象肯定、万象感謝」を紹介する。
 質疑応答で後ろの方の客席から挙手したのは宮城県の地元芸能人・ワッキー貝山、「素人の振りをして喋るのは難しい」とて自ら名乗る。昔のカプセル玩具の収集家として著書もある。「『鑑定団』で低評価された出品者がその品物をスタジオのごみ箱に捨てて行ってしまったと言う噂は本当か」と問う貝山に対して北原は否定。貝山から北原に著書進呈。
 記念館から北原に記念品贈呈。トークは予定どおり一時間で終了。
 エントランスにてサイン会。北原著の購入者のみ。筆者も一冊、「珠玉の日本語・辞世の句」を購入してサインと記念写真。ワッキー貝山と少し立ち話、彼の出演した「マツコ・有吉の怒り新党」は見た。筆者もガチャガチャ、コスモス世代である。
 SEI氏の自動車で石越駅まで送ってもらう。待合室にやはりふるさと記念館でよく見る人達がいるので少し会話。
 十六時一分発の下りに乗り、十六時五十五分着。

 前述のとおり特に北原や「鑑定団」の愛好家と言うわけではないがトークは興味深い内容だった。門外漢には何の値打ちも無い物でも欲しい人は欲しい。実は筆者も身近で、田舎の玩具店から死蔵品の山が出て来て店主が「好きなのを持って行っていい」と言った事例を聞いている。
 「万象肯定」も「万象感謝」も、諸橋大漢和の補巻にも載っていないので古典に基づく言葉ではないだろう。ネット上では北原を出典として流布している。たまに、四字熟語等「何かありがたそうな言葉」は全部故事成語だと思っている人がいる。
 購入した北原著はすぐに読み終えられる分量。古代から近代までのさまざまな人々の言葉。知っている言葉もあれば知らなかった人物もある。この本には載っていないが辞世の句の最高傑作は十返舎一九の「灰左様なら」だと思う。

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