「石森章太郎ふるさと記念館」第百回訪問記

平成二十七年一月二十五日(日)

 こちらも百回。そして石巻市と合わせて宮城県石森プロジェクト訪問通算二百回。その日が章太郎メモリアルデー、且つ大好きな「キカイダー」の特集である。
 仙台市在住だった昭和五十六年に「人造人間キカイダー」(以下「初代」)の再放送を見ているが放送局までは記憶に無い。後に単品LDを全て揃える。「キカイダー01」は断片的にしか見ていない。映画「人造人間ハカイダー」は丁度二十年前、盛岡東映で見る。当日、東京都内では「オウムがテロ決行」と言う噂が流れて映画館はがら空きだった、と聞いたのはだいぶ後。OVA二部作はキッズステーション。そして今回の「REBOOT」もまた盛岡のルミエールでロードショーを見ている。「イナズマン」二部作は、ふるさと記念館のライブラリーで#1を見ただけである。
 まだ薄暗いうちに家を出て始発たる六時二十九分水沢発に乗り、一ノ関での乗り換えを経て七時二十分、晴天の石越で降りるのは筆者一人。駅前にはタクシーが一台も待機しておらず、乗り場に立っているタクシー会社の電話番号看板の一社目に架電するも「電源切れまたは圏外」で繋がらず、二社目で繋がる。やって来る自動車にふるさと記念館を命じる。八時前には現地着。
 既に五、六人が並んでいる。長蛇の列ではない。去年の速水亮の時と同じような状況。いつもの顔なじみと挨拶を交わす。やがて他の知人も後からやって来る。皆で歓談、情報交換をするので退屈しない。いつもの古本収集家氏から古本やレコードを見せてもらう。筆者はせいぜい、特撮雑誌の最新号を見せる程度。
 そして列は伸びて行く。
 九時半開場。エントランスにはサイドマシンの複製が置かれている。有志が作り上げてトラックで搬入、前日に設置された物。皆が写真を撮る。尚、筆者はサイドカーに憧れはあるが運転をした事は無い。この日は来ていない自動二輪通の知人によれば運転が難しく、また物によっては本体より側車の方が高くつくのだと言う。
 友の会会員証を提示して参加権を確保する。
 石巻市のSEI氏と盛岡知人の三人で行動を共にする。
 近所の共通の知人を訪ねて暫く過ごす。
 十一時半頃、また記念館に戻る。旧幼稚園で恒例の餅。納豆、鮭フレーク、ほうれん草の餅を楽しむ。
 エントランスで布施市長と会話。そして今回のゲスト、伴大介と下山天来場。拍手で迎える。要人達は事務室に入る。
 この日までの特別企画展を見る。展示品に入れ替えがある。麻宮騎亜がデザインを担当したと言う韓国変身ヒーロー「GUNBLADE」の予告編上映中。どう見ても東映特撮と思っていたら監督は坂本浩一。韓国では五月から放送予定、日本では未定で、麻宮は媒体は不問で日本での公開も希望していると言う。萬画館攻殻機動隊展と同程度に大人向けの展示もあるが、特に断り書きは無い。客の年齢層は高い。
 今日は「たばごや」に近所の猫は出勤していない。最近本名が判明して「小野寺さんこ」だと言う。「ごろー」は芸名だったのか。
 我々三人と当日知り合ったもう一人で「たばごや」で軽食を摂る。
 そうこうしているうちに十三時十分。サイドマシンがエントランスに置かれているので、今回の会場は一番奥の映像シアター。定刻まで、「REBOOT」ボーナスディスクのメイキング映像が上映されている。七十人満席で多少立ち見。市役所の広報も取材に来ている。演壇の背後の壁に掲示されている催し物題名は「石森章太郎メモリアルデー/特別ゲストによるトークショー&サイン会!!/俳優『伴 大介氏』映画監督『下山天 氏』」。その下に工藤稜画のキカイダーとイナズマンも飾られている。
 十三時半、沼倉副館長から開会の辞。友の会の小野寺会長と布施市長から挨拶。仮面ライダースナック世代人の市長は「初代」も当然見ている。
 ゲスト入場、トークショーの進行は工藤稜。
 早朝から並んでいた客に対して伴から感謝の言葉がある。
 下山も工藤も「初代」の一ファンだと言う。実は伴は十年前に「ハワイに『初代』を紹介したプロデューサー」を案内して来館していると言う。
 伴が語る章太郎との関わり。芸名「伴大介」は章太郎による命名だが一年で「伴直弥」に勝手に改名。しかし「伴大介」への再改名を章太郎の死の三ヶ月前に報告。その時に伴と章太郎は「初代」や「雨宮ハカイダー」について語りあったと言う。「初代」に思い入れがあったと言う章太郎。
 「キカイダー」と言えばハワイでの人気。「REBOOT」もハワイで大当たりした旨が下山から語られる。伴もまた大当たりを実感したと言う。
 伴の父が映画好きで伴は「スーパーマン」で育ち、大きくなったら外国人と結婚するつもりだったのだと言う。
 小学生時代は「仮面ライダー」に没頭していたと言う下山、ここで古本収集家氏がいつものように当時の資料を取り出して演壇に提出すると伴も下山も見入る。
 下山が提起する「正義とは何か」。伴は「イナズマンF」当時のベトナム戦争を語る。伴は当時のプロデューサー・平山亨から「イナズマン」当時に「明るくやれ」と言われるも反発、「F」では「好きにやれ」と言われたと言う。バラバンバラがターニングポイントだったと語る。
 下山は今回、東映で往年のプロデューサー・吉川進と作曲家・渡辺宙明に会い、吉川から支持を得たと言う。但し吉川は、もし平山亨が存命だったら大変な事になっていたとも言ったと言う。
 当時の伴は「子供目線での番組作り」を心掛けて平山と話し合ったと言う、「子供だましでいい」と。そして「REBOOT」については伴と、井上と白倉の両プロデューサーは「大人も見られる作品がやっとできた」と言っていると言う。
 下山と井上伸一郎の初恋の人は光明寺ミツコ。ここで「初代」#4でのジローの台詞「見てもらいたくない」を挙げて、長坂脚本が子供に解るかと評し、作品に込められた切なさや疑問を語る。伴は同作を長坂、章太郎、宙明が合致したバランスの良い作品であり、これを超える作品は無い、あるなら持って来いと胸を張る。
 そして「初代」の米国への影響。吉川によれば例の「ハワイの別荘で見たスピルバーグが絶賛」は本当らしい。米国政府や企業の顧問をしている人も絶賛してセミナーで紹介しているのだと言う。
 ここで話題は「イナズマン」二部作に移り、客席にいたインターポール捜査官・新井誠役の上野山功一登壇。伴、下山、工藤は起立するが上野山は着席を促す。上野山は当時の思い出を語り、撮影に使ったテンガロンハットを披露する。上野山は来場者へのプレゼントとしてDVDと写真を持参、後でじゃんけん大会。
 話題は「REBOOT」に戻る。伴が演じた前野究治郎。プロデューサーのW伸一郎からの出演要請で、脚本の前に伴が役柄を要望したと言う。
 下山によれば、脚本作成のうち三年間は良心回路の扱いに要したとの事。光明寺はキカイダーのハード、前野はソフトを作ったと言う。良心回路の哲学。伴は「前野も実はロボット」と言う提案をしていたと言う。想定していたのは「アンドリューNDR114」と「シザーハンズ」。下山は前野を旧キカイダーのその後、現在の姿であり、昔のジローが天から降りて来たとする。想定したのは多々等純が演じたジンベエさん。
 質疑応答に移る。「今後映画化したい石森作品は?」については下山が「キカイダーのシリーズ化」と回答する。長く続いている仮面ライダーやスーパー戦隊はまだ子供限定であり、「キカイダー」を続けて対象を広げたい、「日本版アベンジャーズ」を目指したいとの事。また、下山は「相棒」の次に「ロボット刑事」をやりたいとも言う。
 伴の憧れの女優は水の江じゅん。
 故・池田駿介の思い出を問われた伴は、いい先輩(池田は先に「帰ってきたウルトラマン」に出演)だった、勉強させてもらったと振り返る。
 伴は、あれから時を経た「オールドジロー」や「現在の渡五郎」を希望。日本でも「アベンジャーズ」を作るべきだと主張する。
 「初代」を知らない、「REBOOT」も未見だと言う人から「メッセージを一言」と求められ、下山は「正義とは何か。映画に正答を書くのは誤りで、『REBOOT』も未完結」と答える。伴の答えは「人間愛」。
 将来、登米市内で撮影をするかと言う問いに下山は「勿論」。実は下山は鉄道好きで「くりでん」にも乗った事があり、「REBOOT」のマサルとミツコは東北に逃げるイメージだと言う。
 下山から伴に対して「初代」の全国各地でのロケに対する羨望が表明され、ロケでの苦楽の思い出が問われる。下山は秘密基地は温泉地やレジャーランドが多かったと指摘する。それについて伴は、楽しんだり温泉に浸かったりする余裕は無かったと述懐する。伴は酒が飲めず、宴会に弱かったとの事。今は妻と共に飲食店を営む上野山は酒と煙草は駄目で「女は卒業」。「イナズマン」のロケは都内だけだったと言う。
 下山の語る逸話。故・左卜全も下戸で、下戸は酔っぱらった他者を観察しているので酔っ払い役がうまいのだと言う。
 最後に、工藤から伴、下山、上野山の三人に絵入り色紙贈呈。
 予定時間を超過して十五時頃になっていたかも知れない。休憩の後、サイン会。色紙に両名のサインを貰い、並んで記念撮影。筆者は「正装」の上、右手に色紙、左手に「REBOOT」BDを持つ。初対面の伴に「バトルフィーバーやグリッドマン見てました」と告げる。七十人のサイン会が進行している間、部屋の一角に工藤と一部愛好家が集まり、自然発生的に工藤のサイン会も始まってしまう。先の伴、下山色紙に工藤も描き加える。
 館の隣の安永寺墓地に向かい、小野寺家の墓前に手を合わせる。
 再び本館。企画、常設やサイドマシンを鑑賞する。伴と下山もサイドマシンに見入る。やがてサイドマシンはトラックに積み込まれる。
 石森両館で、関係者から「ちょっと手伝って」と言われて物を運んだりするようになれば常連常連、大常連17。
 十六時半頃に辞去する。盛岡知人の自動車で石越駅まで送ってもらい、十七時十五分の便に乗り、この日は遅延無し。但し、一ノ関で一時間待ち。石越から次の便の十八時半に乗っても同じ、水沢着は十九時三分。五十キロメートルの移動に二時間掛けてしまうが車内で読書や居眠りをしているので退屈はしない。乗り換え駅で早く車両に乗り込んで、居眠りしている間に発車しているのが好きだ。

 小野寺初代館長の頃から要望している「キカイダー」の特別企画展はまだだが、今回、素晴らしい催し物が実現した。「初代」主演俳優と、その「初代」当時の一視聴者且つ最新作の監督。しかも開催場所は原作者の故郷。最高の一時だった。
 気になった点、伴と下山の米国作品への強烈な対抗意識。具体的な到達乃至打倒目標を持つのは良い事だが、あまり米国を意識しすぎて二番煎じ呼ばわりされないだろうか。寧ろ、向こうが真似するような作品を日本には作って欲しい。「打倒誰某」に夢中になるあまり自分の周囲が見えなくなって、自らの組織に抹殺されたり、最終的な勝利を逃したりした者は章太郎作品の中にも何人もいる。
 最早、工藤稜はふるさと記念館非常勤の専属司会者、準レギュラー。専門の司会業を呼ぶ必要は無い、工藤こそ我々愛好家に成り替わって適切な進行、問いかけをしている。
 石森両館では仮面ライダーシリーズの特別企画展は度々開催されており、また仮面ライダー以外も含むヒーロー作品展も両館で開催済みだが、仮面ライダー以外のヒーローだけでの特別企画展は未開催である。前述のとおり長い歴史と多様な媒体での展開があるから、キカイダーだけでの特別企画展も十分可能だと思う。
 石森両館には故・平山亨は度々公式に姿を見せているが吉川進は心当たりが無い。吉川にも是非、石森両館で話を聞きたいし、一部から「石森先生に会った事も無いくせに」と言われているテレ朝ライダーの関係者にも来て欲しい。

一覧に戻る

目次に戻る

I use "ルビふりマクロ".