「かえってきたヒーロー2014 久慈公演/今こそ伝えよう、俺たちの魂を」参観記

平成二十六年七月二十日(日)

 現地訪問記初の岩手県。昭和ライダー多数出演で、石森両館が後援に名を連ねているのでここに記す。行程のうち、八戸駅より先は筆者初めての地。
 久慈市と水沢市は直線距離で百三十メートル離れており、鉄道で早く着くには東北新幹線で一度青森県八戸市まで出る必要がある。事前検討で、辛うじて日帰り可能。伊達領内陸の水沢市と南部領沿岸の久慈市は普段の生活で特に接点は無く、東北新幹線の八戸延伸以前は「水沢市からは陸路で久慈市に行くよりも仙台空港経由で四国に行く方が早い」等と言われていた。久慈市は岩手県でありながら八戸圏である。
 曇天の下、薄着で原付に乗って家を出て、新幹線水沢江刺七時二十二分はやぶさ九十五号新青森行自由席に乗る。八戸着は八時三十五分で、ここで十時七分まで丸々一時間半待ち。八戸駅は何度も通過しているが構内を詳しく見て回った事は無いので暫時徘徊、食事をする。ラーメンは独特の風味。一ノ関駅よりは一回り大きな駅である。弘前駅や山形駅と同じくらいか。青い森鉄道とトッキュウジャーの提携企画のポスターが貼られている。
 十時七分、JR八戸線久慈行出発。非電化単線の二両編成だが車内満員。筆者は左手の席に着き、窓を開けて景色と夏の風を楽しむ。すぐ海が見えて来る、多分「鉄神ガンライザー」シーズン3の八戸編のロケ地の神社ではないかと思う。以前入手した古本・朝日新聞青森支局編「各駅停車あおもり鉄道物語」の八戸線部分を読む。記事は青森県内の階上から八戸まで。
 南下する路線はやがて岩手県内に入る。岩手県の海を見るのは二十年前の釜石市以来。久慈着は十一時五十分。駅舎の大きさは水沢駅と同じくらい、また水沢駅同様自動改札ではない。名産の琥珀製品の店が併設されている。隣に別棟の三陸鉄道北リアス線の久慈駅がある。駅前のたたずまい自体はコンビニエンスストア一つ見当たらない寂れようだが、カメラを持った観光客は数多く行き交っている。去年のNHK「あまちゃん」人気がまだ続いているのだろう。久慈市も津波被災地だが、特にそれらしい痕跡には終日気付かない。
 特に用は無いが三鉄の駅舎の中にも入ってみる。JRと三鉄、両駅舎の中にそれぞれ蕎麦屋がある。
 三鉄駅舎脇の地下道を通って東口に出ると、真正面に円錐形のガラスの塔が見える。程なく着く。高さ四十三メートルの塔は久慈市民会館アンバーホールのエントランスホール。黒川紀章設計。二十八メートルの高さにある展望台にはエレベーターでないと上がれない。この日は終日曇天或いは小雨なれば遠くの景色は全然見えない。塔の二階には喫茶店がある。
 会場の受付で名乗り、事前に申し込んでいた入場券や記念品を代金と引き換えに受け取る。
 やがて盛岡組二人も到着、合流。三人で館内を見て回り、また展望台に上る。
 観客が集まりつつある。誰も誘導しないのに自然に行列ができる。我々も並び、十三時半開場。小ホールとは言うが立派な施設である。全席自由、いい席を取る。新聞報道によれば当日二百人集まったと言う。
 十四時開演。司会は讀賣新聞の鈴木美潮。まず怪人と戦闘員が会場を占拠しようとするがそこに素顔の佐々木剛、速水亮、岡崎徹、高杉俊介、中屋敷哲也が一人ずつ駆け付けて立ち回り、撃退。地元久慈市出身の中屋敷は今回、ストロンガー役として出演。
 ヒーロー達が揃ったところで壇上に椅子を並べて着席、座談会。仮面ライダーシリーズの中屋敷哲也名場面集上映。スーツアクターの外、「ZX」では顔出しで出演している。中屋敷が今まで大怪我も無くやって来られたのは、丈夫に産んでくれた親のお陰だと言う。
 速水と岡崎は三、四回目の久慈市来訪で、大震災後に仮設住宅等を回っているそうだ。佐々木は「柔道一直線」のロケで久慈市に来た事があると言う。久慈市はかの三船久蔵十段の出身地である。
 藤岡弘、から倉田てつをまで、昭和ライダーはどうしても当時の危険な撮影現場が話題の中心になる。中屋敷によれば、伝説の「V3」五十三メートル煙突は日当三千円だけで危険手当も付かなかったと言う。中屋敷V3は前述の展望台の約二倍の高さに立った事になる。ほかにもいろいろとひどい話が出て来る。一同から名指しで非難される当時の某スタッフ。
 岡田勝と冒頭の戦闘員達がマスクを取って再登壇、実は怪人は岡田だった。戦闘員の一人はネイガープロジェクトの海老名保。戦闘員達は挨拶をしてから降壇、岡田も座談会に加わる。俳優達から「岡田にいじめられた」と言う証言続出。
 以上がプログラムに無い導入部。十四時半頃から「第1部 伝承!俺たちの変身! 変身ポーズコンテスト」。一般応募者が一人ずつ登場して演じ、当該ライダー役者が講評する。応募者は幼児から中年まで。中には俳優と顔見知りもいたらしい。
 続いて「第2部 飛躍!俺たちの斗い アクション・寸劇コンテスト」。二組が寸劇を演じる。一組目は地元の飲食店の関係者。ジェショッカーが仮面ライダーを袋叩き。二組目は先程の変身ポーズコンテストの出演者達による、何故かBLACK対シャドームーン。これら出し物には佐々木達も苦笑する外なく、岡田勝に至っては頭を抱えている。佐々木剛曰く「我々は芝居と言う物を見つめ直さなければならない」。これが十五時十五分頃までで、ここから三十分間休憩。その間、地元のアイドルグループだと言う「あまくらぶ」が出演して歌う。本当は五人組だが当日は一人欠席。
 廊下に「岩手を守るヒロイン&ヒーロー」イラスト展示。事前に募った物である。
 記念品販売。ポストカード、五枚一組のが二種類で計十枚で五百円。これを買うが開いてみると大きさは確かに葉書で、今日の出演者達の写真が印刷されていても、表面は何と「郵便はがき」の文字も郵便番号の枠も切手貼り付け欄もない、真っ白。これでは葉書とは言えない。
 貰った記念品は村枝賢一画の色紙だが、会場で一切、それについての説明等が無い。
 再開。「第3部 轟け!俺たちの叫び! ミュージックライブ」。今回の企画のコーディネーターで、福岡市の飲食業「がんと闘うニューハーフ」和央ゆうかが登壇して自身の闘病生活、岡崎徹と故・荒木しげるからの激励の思い出を語る。
 村上弘明からのビデオメッセージ上映。中屋敷とは「同郷」と言う事で懇意だったと言う(但し、久慈市と村上の陸前高田市も直線距離で百三十キロメートル離れており、村上は隣県の気仙沼高校卒)。今後協力したいと表明する。
 先程のライダー俳優達も登壇して一人ずつ演説。速水は大震災発生後に東北住民の見せた高潔さを賞賛し、こんな素晴らしい民族が「南京」や「慰安婦」のような事をするわけがない、占領政策で団塊世代はそのように教え込まれて来たがこれからは反論の時だと訴える。そして、数百年後には日本人は世界中から尊敬される民族になっているだろうと予言する。また、大震災がきっかけで安倍政権が誕生したとも評する。「安倍政権による戦後レジーム否定」の応援演説のように、筆者には聞える。
 中屋敷の姉二人と、そのどちらかの孫娘、三人が登壇。中屋敷に花束贈呈。昔の日テレ「それは秘密です!!」のようだ。
 2号からスーパー1までそれぞれの俳優が、観客達と共に主題歌をフルコーラス歌う。但し、中屋敷はストロンガーをソロで歌うのを固辞。
 一度全員が退場するがアンコールの声に答えて再び登場。「戦え!七人ライダー」を皆で歌い、本当にお開き。十六時四十五分頃。
 盛岡組の自動車で駅まで送ってもらう。十七時丁度の便には間に合わず、十八時十四分発に乗り、これも途中で高校生達が大量に乗り込んできて、二十時一分八戸着の頃には満員。ここで一時間待ちの間に食事して、土産物を買う。八戸のイカクッキーだが業者は弘前市。二十一時八分のはやぶさ九十六号で二十二時十九分水沢江刺着。駅前の路面は小雨の後のようだがもう降ってはおらず、雨に濡れずに帰着。
 現地で石森両館の関係者の姿は見ていない。

 噂どおり遠かった久慈市。正味の乗車時間は片道三時間で、八戸駅での接続待ち時間は一時間から一時間半。やはり上京の方がずっと楽に、早く着く。八戸駅では岩手県の地方紙「岩手日報」を、久慈駅では青森県の「デーリー東北」を売っていた。岩手・青森両県に跨る独特の八戸圏。以前、八戸市議会で岩手県への編入について質問した議員はいる。尚、盛岡組によれば盛岡市から久慈市までは自動車、高速道路不使用で二時間半との事なので、水沢市から石巻市までと同じくらいだ。それにしても小牛田駅や横手駅には蕎麦屋が併設されていないのに、はるかに小さい二つの久慈駅にはそれぞれ蕎麦屋がある不思議。
 今回の公演の内容は過去二回の宮城ヒーローサミットに匹敵する濃密さ。一般人参加の第一部と第二部はともかく、昭和ライダー関係者達の話は大変面白く、また歌の時間は出演者と客席が一体になれて良かった。何しろ九人ライダーのうち半分近くが一堂に会したのだ。これで前売り千円は安い! テレ朝ライダーでは、出演者と愛好家が一緒に主題歌を歌うと言う事はまず、無いだろう。いつも言っているが「原作者の地元」でのテレ朝ライダーショーですら、観客は主題歌を歌わないのだ。
 出演者達が「久慈」を「九時」と同じに発音しているのが気になった。「ク」にアクセントを置いていたが、NHKニュースでも「久慈」は「闇」「年」のように、アクセントは置かない平板な発音である。但し、岩手県の「宮古」のように、NHKニュースでは「ミ」にアクセントを置いても、地元民は「都」と同じ発音をしている例もある。以前、日常会話で或る人が「都」の発音で「ミヤコに行ってきた」と言うので、「東京ですか京都ですか」と尋ねたら宮古だった。
 速水亮の国粋演説。藤岡弘、は自身の海外経験に基づいて日本民族を賞賛するが、速水の根拠はインターネットで、且つ反日論調に対して先鋭的に反撃の姿勢を見せている。後援に岩手「朝日」テレビも名を連ねる今回の公演での発言である。去る一月のふるさと記念館メモリアルデーでは見せなかった一面。
 第一部の進行と第二部の内容は事前にもっと詰めていて欲しかった。特に第一部の賞品授与は段取りの悪さが顕著だった。
 オダギリジョーの前は村上弘明こそ「仮面ライダー主演経歴の隠蔽」の代表格だったが、ここ数年は催し物や雑誌で「スカイライダー」について語っている。最近も、岩手県PR動画出演についての報道で、また仮面ライダーとして活動してもいいような事を言っているので今後に期待しよう。現時点では昭和ライダーの中で村上のみ、自身の主演作の後には仮面ライダーシリーズに出演していない。
 筆者は「あまちゃん」を全く見ていない。以前の「どんど晴れ」は県南ではポスター等を全く見掛けなかったので「盛り上がっているのは盛岡市のみ」と思っていたが、「あまちゃん」については水沢市内や、一関市の道の駅ですらポスターを見掛けた。今年も岩手県内で催し物が開かれるようで、「あまちゃん」は大成功の部類なのだろう。筆者は地元乃至近場住民としてNHKドラマの成功と失敗の両方の事例を経験している。成功は宮城県在住時の「独眼竜政宗」と水沢市転居後の「源義経」、失敗は共に水沢転居後の「炎立つ」と「アテルイ伝」。アテルイのテレビドラマはどうしても当たらない。余談ながら青森県では今でも「いのち」と言う菓子を売っている。

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