「田代島MANGAあいランド」第一回訪問記

平成十三年九月六日(木)

 石森プロジェクト関係地で唯一未訪問だった石巻市田代島、今回やっと訪問である。
 例によって十一時十五分石巻駅着。既に九月に入っていてもまだまだ残暑厳しき石巻市。晴れ。駅のコンビニで少し食料品を買う。
 駅前に、市内の店を紹介する案内板が設置されている。見台に本を開いて乗せたようなような体裁で、金属の台にプラスチック製の大きなページがバインダーのように輪で綴じられていて、めくって閲覧するようになっている。それを拭いている女性に訊けば八月三日に設置されたとのこと。「構想」について彼女と少し会話、筆者がこれから田代島に行くところだと言えば彼女は好天でよかったね、行ってらっしゃいと答える。地元の人との斯かる交流が好きなのである。
 いつものマンガロードを歩く。
 街のあちこちに岡田劇場の映画「アギト・ガオレンジャー」ポスターが貼ってある。上映は十時から、但し学校休みの日は八時二十分から。初日は九月二十二日である。
 八月二十日に二度目の損壊が発見されたペアーレ前の仮面ライダーの右の触角、再修復されてはいるもののあまり芳しくない出来で、ますます無傷の左との差が著しくなってくる。官製絵入り葉書の写真で真左からの不自然なアングルが多いのは右の損傷を隠すためだろう。エッちゃんといい仮面ライダーといい、そんなに誰かから嫌われているのか?
 旧「墨汁一滴」店舗は閉まっている。
 「石巻うらからまっぷ」を参照しつつ旧北上川西岸の道を歩く。あまり人通りは多くない、時折自動車が走って行く。
 駅から三十分ほどで網地島あじしまライン(株)の船着き場に着く。待合室の中をいろいろ見たり、島のパンフレットを取ったりする。
 定期航路のフェリー・マーメイド号に乗船して出航を待つ。乗客は筆者の他は若い男女二人組と老人数人。運賃支払いは船内で。
 船体側面には三浦みつる画の人魚。客室は二階建て、甲板にも出られる。後方には自動車等を載せる。
 十二時の出航。筆者の船舶利用は小三の学校遠足での松島湾遊覧船以来十九年振り。そして遊覧ではなく、どこかに渡航する為の乗船は初めての経験である。
 初めは客室の二階の前の方に座るものの、船体の揺れでいささか気持ち悪くなる。防波堤の外に出るからやはり揺れるのだ。船内を少し歩き回り、甲板は快適であることに気付き、そこのベンチに座る。
 多少風が強いものの天気は最高によい。出崎アニメ「宝島」の主題歌を歌う。フェリーで小島に渡るだけなのに海洋大冒険譚の歌を歌う、実におめでたい暗黒大公。鞄から取り出して読み始めるのはちくま文庫「宝島・ジーキル博士とハイド氏」。勿論KSSの「宝島」DVDは持っている、続きの発売が楽しみだ。
 船は行く、紺碧の海原を。海鳥達が海面に浮かんでいる。周囲を見渡せば多くの船が行き交っている。進行方向に背を向けて座っている筆者、読書中に顔を上げれば白い航跡が見える。空の青、海の青、青にくるまれて進む船。
 石巻市本土が遠くなり、近づいてくる田代島。森林に包まれた島。島に港は二つあり、まず大泊港に、そして仁斗田にとだ港に着く。一時間弱、無事到着である。仁斗田港で下船、上陸。
 港湾関係者らしき人々が働いている他は、母親と幼児が散歩しているのを見るのみ。ひっそりとした小綺麗な港ではある。すぐ近くにはポケットビーチがあるがもう海水浴の季節ではない。港近辺を暫く徘徊する。
 島の案内板の地図はパンフレットに掲載の絵地図と同じ、これが実際に島で見てみると結構大雑把で頗る解りにくい。周囲を見渡してもどこへ進めばいいのか見当をつけづらい。港から真正面の大きな建物・田代島開発総合センター内の漁協窓口で道を訊く。ここで筆者がマンガロッジはどこですかと尋ねると窓口の男性はMANGAあいランドの事ですかと言う。どうも田代島全体ではなくマンガ施設一帯の事をMANGAあいランドと言っているようだ。筆者も以下、それに従う。
 センター右脇の道に入って南進。狭く、曲がりくねった道だが所々に案内の矢印がある。その矢印を頼りに歩く。
 斜面に家がぎっしりと立ち並ぶ、ひっそりと静まり返っている。気味の悪いほどの静けさ。
 途中に「村社稲荷大明神」。鳥居の額の旧社格は抹消されず、そのままである。筆者の知っている神社では旧社格の表示は塗りつぶされたりしているものだが、この島ではまだ表示は生きている。
 歩くこと十五分ほど、舗装道路が消え、自動車進入禁止の獣道のような所に入る。その獣道にも矢印が立っている。矢印を信じて進む、坂を登り切って里中満智子デザインのロッジの脇に出る。MANGAあいランド一帯の東端である。里中ロッジ、猫を模した建物。
 晩年の石森はこの田代島に住みたがっていたという。その縁でMANGAあいランドとしてロッジ、キャンプ場等の施設が設けられ、催し物も開かれている。この日は特に催し物は無い。夏休みの終わった平日である。
 ここも人気ひとけが無い、広場には誰もいないしキャンプテントも見当たらぬ。西端にはちばてつやデザインのネコロッジ。
 施設全体の管理拠点であるセンターハウス、これも猫型。受付に申し出て電動自転車を借りる。この時点で十三時四十分。下船後、港で少し時間を無駄遣いしている。
 西側に伸びる道に入る。島の南岸を行く。時に舗装道路を外れて林の中を走る。手許のパンフレットを見ても現在位置がどこかよく判らぬ。尚、筆者は強度の方向音痴なればその点考慮して本稿を読むべし、人の倍は迷っているはずだから。
 島の南端・三石崎。突端の四阿あずまやで一休み。そのすぐ下は荒波打ち寄せる断崖絶壁。ドーンドドーンと波の音が轟く。四阿には郷土芸能「田代島獅子舞」と創作民話「海から上がった観音さま」が書いてある。
 北上。島全体が森林公園のような感じである。筆者も仙台市在住時は水の森や台原、高森の森林公園で遊んだものである、ふと少年期の記憶が脳裏をよぎる。
 また四阿で一服、鞄の中から駅のコンビニで買ったサンドイッチとコーラを出して飲食をする。そこの四阿には創作民話「化け猫ポン太」「大タコと音が洞」。
 島の西側を走っている間は、森林で作業中の人を一人見掛けるのみで道では誰とも行き会わぬ。
 未舗装道路に迷い込んでから舗装道路に引き返したりして、とにかく進む。途中に行き先の案内表示はあるものの、もっと地図を設置するべきである。
 どうやら島の北端・二鬼城崎灯台の手前で南下したらしいのだが自分でもよく判らぬ。松盛院と「弘法様の井戸」は見ていない。大泊港に出るがここも人気無し。仁斗田港と同様の案内板あり。鹿島神社は目の前だがそこから仁斗田港への道がまたすぐには判らぬ、事実ここで一度袋小路に入り込んで引き返している。この時点で十四時半頃、そろそろ焦ってくる。
 急な坂道を自転車を押して登り、そして一気に下る。仁斗田港に出る時は本当に一安心、ほっとする。そしてセンターハウスに直行、十五時丁度頃。自転車を返し、急ぎ仁斗田港に向かう。
 丁度、帰りのマーメイド号が入港してくるところ。十五時半発、これが当日最後の便。「これに乗り遅れれば島流し」(港で働く男性談)なのである、洒落でなしに。岸にはこれから積み込まれる郵便物の箱が置いてある、島には簡易郵便局が一つある。尚、この島は速達郵便配達地域外。即ち、田代島宛には速達郵便は出せない。
 乗船。再び甲板に陣取る。島から離れて行く。
 十六時半頃、石巻市本土に到着。下船してその後萬画館に向かう、それについては別稿で。
 やはり二時間程度の滞在時間では足りない、筆者は島を一周するのがやっと。見落とした史跡等がいくつもあるし、簡易郵便局に立ち寄れなかったのは残念。
 結構坂の登りがきつい、電動自転車使用でも。
 とにかく島内の案内表示が少なくて不便、島外からの訪問者に対してあまりにも不親切すぎる。もっと詳細な地図を目立つように設置すべき。
 ここも次は何か催し物のある時に再訪問だ、結局マンガ施設は殆ど何も見ていないも同然だから。

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