その十四 先生が生きていれば

 中国春秋戦国時代の儒家と墨家と言う二大有力学派は、それぞれの開祖である孔子と墨子の没後、儒家は八派、墨家は三派に分裂して互いに正統を主張して争ったと、戦国時代の思想書「韓非子」にある。そして「韓非子」は、「孔子や墨子が生き返りでもしない限り、誰が正統なのかは決めようがない」と評している。
 石ノ森章太郎死して十六年。テレ朝ライダーについて「先生が生きていればこんな作品許さなかったはず」と言う意見は愛好家からも業界関係者からも聞くが、逆に、斬新な趣向について「先生が生きていればこれくらいの事はしただろう」と言う関係者もいる。どちらが正しいのかは当然、確認不可能である。筆者としては、もし章太郎が生き返ったら、評判の悪い作品も案外、気に入るのではないかと言う気もする。雨宮慶太は「人造人間ハカイダー」で章太郎に怒られるかと思ったら、向こうは面白がってくれたと言う。先般の「マンガのちから」展では、章太郎が「RX」の根幹に関与していたことを示す資料が展示された。
 石ノ森プロジェクトについても、果たして登米市や石巻市でしている事が本当に章太郎が望んでいた事なのかどうかはわからない。病床にあって、石巻マンガランド構想許諾を後悔していたかも知れない。ただ絶対に動かない事実は、生誕地は登米市だと言う事。

(平成二十六年八月十六日)

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