「あうー、おはよう……」
翌日、台所に姿を現した真琴は、どこか調子が悪そうだった。
「大丈夫か、真琴?」
元気が取り柄なだけに、具合の悪そうな顔が余計に心配で、私は気遣うように声をかけた。
「大丈夫よぅ。昨日遊びすぎたからちょっと疲れただけ」
確かに雪合戦をした後、3時間ぶっ続けでゲームに興じたもんな。多少身体に疲れが残っても不思議じゃない。
「あんまり辛そうなら、バイトを休めばいいんじゃないか?」
古河さんと早苗さんならその辺りの融通は利くだろうし、私は休むことを勧めた。
「ううん、行くー。ご飯を食べれば元気回復よぅ」
けど真琴は無理矢理笑顔を作り、バイトへの精を表そうとする。
「無理はするなよ」
本人がやる気なら私がとやかくいう権利はない。だから私はせめてもの励ましの声をかけ、真琴を見送ることにした。
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第五拾話「豫餞會」
「みんな! ついにこの日が来た!! 練習の成果を思う存分に発揮して、悔いのない劇にしようぜ!」
いよいよ訪れた予餞会の本番。体育館ステージの脇にキャストやスタッフが集結すると、監督&脚本&主演担当の潤は意気揚々にクラスメイトに檄を飛ばした。
ちなみに私たちのやる題目は、「ギルガメッシュVSアーサー王、世紀の大決戦!」という、頭の悪い架空戦記やら怪獣映画みたいな劇だ。
内容を大まかに話せば、歴史上の人物であるギルガメッシュとFF5のギルガメッシュを足して2で割ったキャラが、時空を超えてアーサー王のエクスカリバーを奪おうとする話だ。
なお、役柄と配役は下記のような感じだ。
ギルガメッシュ……北川潤
アーサー王……美坂香里
ランスロット……水瀬名雪
ガラハド……斉藤飛鳥
ナレーション……相沢祐一
他にも脇役の兵士とかがいるのだけれど、ここでは割愛する。ちなみにランスロットとは、湖水のランスロットと呼ばれる、アーサー王に仕える円卓の騎士の中で最も人望が厚いと呼ばれる人物だ。伝説におけるガラハドの父親でもあるキャラだ。
今回の劇を行うにあたり、「円卓の騎士の中でも最強クラスだから」、「何よりガラハドの父親だから」という理由で出演が決まったのだそうだ。
アーサー王とは違い実は女性だったなんて異説はないけど、宝塚的なノリで女子が男役をやるのも悪くはないという流れになり、名雪に白羽の矢が立ったということだった。
そんなこんなで、私たちの劇は開幕した。
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ナレーション「昔々イングランドの地に、ガラハドと呼ばれる徳の高い聖戦士がおりました」
幕が上がると、ホリゾント幕にはいかにも中世の町並み的なホログラム映像が映し出された。続けざまに私のナレーションと共にBGMが流れ出、ガラハド役の斉藤が上座から姿を現す。
ナレーション「ガラハドはアーサー王の命により聖杯探索の旅に出ていたのですが、実はもう一つ重要なものを探していたのです」
その重要なものがアイスソードなのだそうだ。ガラハドが聖杯を探すたびに出ているというのは伝説上で語られている話だけど、そこにロマサガネタを無理矢理捻じ込ませたから、何が何だか訳の分からない展開になっている。
頼むから探すなら聖杯かアイスソードのどっちかにしてくれ! 二兎追う者は一兎も得ずというか、見ている方が混乱するぞ。
ナレーション「そうして苦労の度の末、ガラハドは捜し求めていたものを見つけるのでした」
そのナレーションと共に、天井からステージにアイスソードを模して作られたプラスチック製の両手剣が降りてくる。全長1メートルを超える剣を自作したのだから大したもんだ。
けど、何の脈宅もなくアイスソードを手に入れる唐突な展開はどうにかならなかったのか?
ガラハド「ねんがんのアイスソードを てにいれたぞー!」
ナレーション「こうしてガラハドは念願だったアイスーソードを手に入れたのでした。めでたしめでたし」
そんな私のナレーションと共に幕が降りようとする。最初からクライマックスというか、このまま本当に劇は終わっても不思議じゃないノリだな。
???「ほう? なかなかいい武器を持ってるじゃねぇか!」
ナレーション「ですがそんな時、不気味な声が辺りに響いたのでした」
ガラハド「だっ、誰だテメェは!?」
降りていた幕が途中で止まり、再び上がると共に、下手からスポットライトに照らされながらギルガメッシュ役である潤が姿を現した。
ギルガメッシュ「吾の名はギルガメッシュ。王の中の王だ。貴様が持っているアイスソードを貰い受けようか!」
普段の明るく甲高い声とは違い、低音で威圧的な声で語る潤。あいつにこんな悪役的な声が出せるとは、意外だな。
ガラハド「だめだ! いくらつまれても ゆずれん!」
ギルガメッシュ「ふんっ、雑種が。粋がりおって! ならば、殺してでも うばいとる としよう!!」
そう言い、斉藤に剣を向ける潤。
ガラハド「なっ なにをする きさまー!!」
潤に刺されてあっさりと倒れる斉藤。何だか呆気ないけど、ロマサガの元ネタがこんな展開なのだから仕方ない。
ナレーション「こうしてガラハドはギルガメッシュにアイスソードを奪われ、その生涯に幕を閉じたのでした」
そんなナレーションと共に今度こそ本当に幕が降りた。ここから場面転換し、アーサー王の宮殿に舞台が変わる。
ちなみに斉藤の出番はこれで終わりだそうだ。台詞数も少なく殺されてアイスソードを奪われるためだけに出てきたのだから、哀れな役柄と言えば役柄だな。
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ナレーション「ガラハドが殺されてから数日後、ようやくアーサー王の城にガラハド殺害の訃報が伝わったのでした」
場面変わってアーサー王の宮殿を模したホログラフ映像が映し出された。
アーサー「何っ!? 聖杯探索に出かけていたが殺されただと!?」
金髪のウィッグを被り鎧を着たアーサー王役の香里。雰囲気的にはいつもの香里の延長みたいな感じで、潤ほどの意外さはないな。
兵士A「はっ! つい先程城に遺体が運び込まれまして」
アーサー「そうか。大儀であった。下がってよいぞ」
兵士A「はっ!」
一礼し、兵士役のクラスメイトは下座へと姿を消した。
アーサー「しかしガラハドは湖水のランスロットの実子。円卓の騎士の中でも相当の強者。一体誰が……」
ギルガメッシュ「フハハハハ! それは吾だ!!」
ナレーション「そんな時、不気味な声と共にギルガメッシュが姿を現したのでした!」
アーサー「誰だ! 名も名乗らず王宮に足を踏み入れるとは、無礼であるぞ!!」
ギルガメッシュ「これは失礼。吾の名はギルガメッシュ。強大な武器を求めて時空を旅しているものだ。聞けば貴様はエクスカリバーという強力な武器を持っていると聞く。それを大人しく譲ってもらおうか!!」
アーサー「誰が渡すものか!」
ギルガメッシュ「強情な奴め。ならば、力尽くで奪い取るとしよう!」
ナレーション「そうしてギルガメッシュは剣を構え、アーサー王に襲いかかろうとするのでした」
ランスロット「お待ちを陛下。この者の相手は私にお任せください」
ナレーション「ですがそんな時、アーサー王のお側に仕えていた騎士が名乗り出ました。彼こそ、湖水のランスロットと呼ばれる、ガラハドの父親なのでした」
てな具合に、ようやく台詞が回ってきた名雪。名雪は白銀の鎧に身を包み、普段とは違う凛々しい雰囲気が垣間見えた。
ランスロット「この不届き者は我が息子の仇。どうか仇討ちのご許可を!」
アーサー「そなたの無念、痛いほど理解できる。よし、望みどおり許可を与えよう!」
ランスロット「ありがとうございます!」
ギルガメッシュ「フン! 雑種が! 貴様もガラハド同様冥府へと送り付けてやる!」
ナレーション「そうしてギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべながらランスロットに斬りかかっていくのでした」
その後は短い台詞を交えながら、斉藤と名雪の殺陣が続く。片や應援團の團員で、片や陸上部の部長。どちらも運動神経は抜群で、演劇とは言いながらも本格的なバトルを魅せつけてくれた。
ランスロット「くぅっ!」
ナレーション「激闘の末、とうとうランスロットは膝を付いてしまうのでした」
ギルガメッシュ「雑種にしてはなかなかやったな。しかし、王である吾にそう易々と勝てると思わぬことだ! トドメッ!!」
ナレーション「ギルガメッシュはランスロットにトドメの一撃を与えようと、剣を振りかざすのでした」
アーサー「待て! そこまでだ!!」
ナレーション「ですが、その瞬間アーサー王が止めに入ったのでした」
ギルガメッシュ「まさかアーサー王ともあろうお方が決闘の仲裁に入るとでも言うのではあるまいな?」
アーサー「そのまさかだ。ランスロットは余にとってもっとも大切な部下の一人だ。どうか命だけは助けてやって欲しい!」
ギルガメッシュ「ただでは助けんぞ! 代わりにエクスカリバーをいただくとしよう!」
アーサー「なっ!?」
ギルガメッシュ「大切な部下の命と交換ならば安いものだろう?」
アーサー「クッ、分かった! 交換に応じよう……」
ナレーション「アーサー王はランスロットの命を助けるため、渋々エクスカリバーとの交換に応じたのでした」
ギルガメッシュ「まずは剣を渡せ。殺すのをやめるのはそれからだ」
アーサー「……。分かった……」
ナレーション「アーサー王はギルガメッシュの命じるがままにエクシカリバーを投げつけたのでした」
ギルガメッシュ「名剣エクスカリバー、確かに頂いたぞ!」
アーサー「さあ、エクスカリバーを渡したぞ。約束どおりランスロットを解放してもらうぞ!」
ギルガメッシュ「では名剣エクスカリバーの切れ味、ここで試させてもらうぞ!」
ナレーション「そう言い、ギルガメッシュは拾ったエクスカリバーをランスロットに向けて振りかざそうとするのでした!」
アーサー「貴様! 約束が違うぞ!!」
ギルガメッシュ「いーや、約束どおりだ! 生の束縛から解放してやるのだから!!」
ナレーション「ギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべ、エクリカリバーを振り下ろしました」
ギルガメッシュ「ん?」
ナレーション「ですが、ギルガメッシュの放った一撃は、ランスロットにまったくダメージを与えられなかったのでした」
アーサー「ランスロット、今だ!」
ランスロット「はい!」
ナレーション「ランスロットはギルガメッシュが動揺している隙を狙い、体勢を立て直すことに成功したのでした」
ギルガメッシュ「くそっ、しまった!? 一体どういうことなんだこれは!?」
アーサー「残念ながらその剣はエクスカリバーではない。エクスカリパーだ!」
ナレーション「何と驚いたことに、アーサー王がギルガメッシュに渡したのは、真っ赤な偽物だったのでした」
オイオイ、何だこのベタベタな展開は? 確かにFF5でそんな感じのネタがあったけど、この展開は演劇としてどうよ? 正直、潤の脚本構成能力に疑問を持たずにはいられなかった。
ギルガメッシュ「クッ! は、謀ったな! アーサー!!」
アーサー「これが本当のエクスカリバーだー! 覚悟を決めるんだな、ギルガメッシュ!!」
ランスロット「私も加勢します、陛下!!」
その後、潤VS名雪、香里のバトルが繰り広げられた。2対1ということもあり、ギルガメッシュは徐々に劣勢となっていった。
ギルガメッシュ「クソッ! 今日はこのぐらいにしてやる! いつかまた貴様の剣を奪ってやるからな!!」
ナレーション「そう捨て台詞を残して、ギルガメッシュは時空の彼方へと消えていくのでした。こうして、イングランドの地には再び平穏が訪れたのでした。めでたしめでたし」
そんな感じに劇は終了し、幕が降りた。正直、「これのどこが面白いんだ?」という劇だった。3人のバトルシーンは迫力満点だったけど、見所はそれくらいで、肝心のストーリーは破綻しているといっても過言ではなかった。
まあ、上演時間が10分くらいしかないのだし、本格的な演劇ではなく所詮は余興に過ぎない。だからこの程度のレベルで及第点なのだろうけど、私としてはもう少し面白い劇を行いたかったな。
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「よう、どうだったオレの考えた劇は? 最高に面白かっただろう?」
舞台が終わり後片付けの時間に入ると、潤が感想を求めてきた。
「まったくつまらん。よくもまあこんな中身のない劇を考えたもんだな」
私はオブラートに包まずに辛辣で素直な感想を潤に述べた。
「何だと、祐一! どこがつまらなかったのか、具体的に言ってみろよ!」
ご自慢の劇が叩かれたことが大層気に入らなかったのか、潤が声をあげて問い質してきた。
「全部だ。殺陣は確かによかったかもしれないが、話そのものは新鮮味がなくてまったく面白くなかった」
「言ってくれるな、祐一! ならテメェにはこれより面白い話が書けたっていうのかよ!?」
「うぐっ! そ、それは……」
そう潤に反論され、私は言葉に詰まった。私はグッズを集めるという趣味はあるが、同人誌を発行するなんて創作的な趣味はまったく持ち合わせていない。だから正直今の話より面白い話を作れる自信はない。
「反論できねぇようだな! 人より面白い話が作れねぇっていうのに、粋がってんじゃねぇよ!」
「いーや! 創作者として他人の貴重な意見に耳を傾けずに、逆切れするしか脳のない奴に、面白い話が書けるはずない!」
「何だと!?」
言い訳がましいが、暴論ではないと思う。創作を志す者が読者の意見に耳を傾けずに、「ならお前が書いてみろ」と逆切れするのは、自分に創作能力がないと言っているようなものだ。
「まあまあ、二人とも。とりあえずもう少ししたらたっちゃんのクラスの発表があるから、それを見て気を落ち着かせようよ」
私たちのいがみ合いを静止するように、名雪が間に入り、達矢のクラスの発表を口にした。
「そういやそうだったな。とっとと片付けを済ませなきゃな!」
潤は名雪に達矢の劇のことを出されるや否や、人が変わったように怒りを静め、テキパキと後片付けに入っていった。
「何だ。そんなに達矢のクラスの劇が気になるのか?」
「多分ね。たっちゃんも脚本兼主演だからね。自分より上か下か気になるんだよ」
成程。創作者の立場にいない俺より、同じ土俵の上に立っている人間の劇の方が気になるってか。達矢はああ見えて演劇部の部長だ。少なくとも潤よりは真っ当な話を見せてくれることだろう。
そう思うと私自身もいてもいられなくなり、迅速に後片付けを済ませ、再び体育館へと向かっていった。
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体育館に赴くと、ちょうど達矢のクラスの催し物が始まろうとしていた。
「潤、達矢のクラスの出し物は何なんだ?」
友人同士なんだから予め劇の概要くらいは聞いていると思い、私は潤に訊ねる。
「DMR(ドラえもん・ミステリー・調査班)つー、ドラえもんとMMRのパロディだっていう話だ」
潤の話によれば、ドラえもん単行本36巻に収録されている、「大予言・地球の滅びる回」をMMR風なパロディに仕上げた話だということだ。
どちらも「ノストラダムスの大予言」をネタにした話であり、この1999年に行う劇としては、なかなかセンスのいいチョイスだな。
ノビマル「最後のページは、『暗き天にマ女は怒り狂う。この日○終わり悲しきかな!!』」
劇の最初はほぼ原作通りに進み、空き地でのび太がみんなに謎の本を読ませる場面に差しかかった。ちなみに各々の登場人物名は、「のび太+トマル=ノビマル」、「ジャイアン(剛)+ナワヤ=タケヤ」、「静香+タナカ=シズカ」、「スネ夫+キバヤシ=スネヤシ」という感じになっているようだ。
タケヤ「世界ねごと全集じゃないの」
シズカ「暗号の教科書じゃないかしら」
スネヤシ「いや……ドラえもんがそんなつまらない本をもっているわけがない」
タケヤ役とシズカ役の二人が台詞を喋った後、スネヤシ役の達矢がキバヤシな雰囲気で、深刻な声で台詞を語り始める。
他の役者が素人に毛が生えた程度の演技力なのに対し、達矢はさすが演劇部の部長を務めているだけあり、感情の抑揚がちゃんとしている演技を行っている。
タケヤ「じゃあ一体何だっていうんだよ、スネヤシ!」
スネヤシ「それは……予言書だよ!」
ノビマル「予言書!?」
スネヤシ「そうだ。この本はノストラダムスの諸世紀や、ヨハネの黙示録に匹敵する、22世紀の予言書なんだよ!!」
そしてキバヤシの如く推論で本を予言書だと決め付けるスネヤシ。その自信は一体どこから来るのだとツッコみたい所だが、迫真の演技で信じ込みたくなるから不思議だ。
シズカ「予言書だなんて、そんなまさか……」
スネヤシ「断定はできない。だが、もしもオレの予想が当たっていたとしたら……この本には今後人類を巻き込むであろう恐ろしい事件が記されているかもしれない!!」
タケヤ・シズカ・ノビマル『なっ、なんだってー!?』
ここでお約束の展開。あくまで“推論”を述べているのに過ぎないのに、あたかもそれが真実であるかのように反応する三人。BGMも相成って、やたらと重苦しい雰囲気が伝わってくる。まあ、見方によってはただのギャグにしか見えないけど。
スネヤシ「ノビマル。すまないがその本を貸してくれないか? 俺なりに検証をしてみたいんだ」
ノビマル「う、うん」
恐る恐るスネヤシにノートを貸すノビマル。ここで舞台は一旦フェードアウトし、次の場面へと移る。
タケヤ「急に家に呼び出して何の用なんだよ、スネヤシ!」
スネヤシ「見つけたんだよ……!」
ノビマル「見つけた?」
スネヤシ「ああ! あの本が予言書である決定的な証拠を!!」
タケヤ・シズカ・ノビマル『!!』
スネヤシ「例えばこの本の39ページにはこうある。『ゴリラ、キツネより機械の鳥をうばう』と」
みんなに説明するように、スネヤシが該当ページを開く。
スネヤシ「そしてこれは去年の新聞記事の切抜きだ。1月1日から数えて39日目といえば……2月8日だ!!」
そしてスネヤシはスクラップした新聞記事をみんなに見せる。
シズカ「あっ!」
ノビマル「りょ、旅客機のハイジャック事件があった日だ!」
タケヤ「それだけじゃねぇ! 犯人と機長はゴリラとキツネにそっくりだ!!」
予言書が切り抜き記事がピタリと一致したことに、一同は戦慄する。
シズカ「ぐっ、偶然じゃないかしら……?」
スネヤシ「ならばもっと確かめてみるか。6月21日。この日の深夜、居眠り運転のバスが湖にとびこんでいる。そして予言書の172ページは……」
シズカ「あっ!」
ノビマル「『ター扉をひらく。無音バスもぐる』……」
タケヤ「ピ、ピッタリじゃねぇか!」
スネヤシ「ここまで来ると偶然ではなく、もはや必然! そして最後の200ページ。つまり、7月19日の予言はこうある。『暗き天にマ女は怒り狂う。この日○終わり悲しきかな!!』とある」
ノビヤシ「なっ、何かとても意味深な詩だね……」
スネヤシ「気付かないか、みんな? “今年の7月”が重大な意味を持っていることに……」
シズカ「今年、つまり1999年の7月ね」
ノビマル「あっ!?」
タケヤ「ま、まさか!?」
スネヤシ「そう! そのまさかだよ!! 1999年の7月といえば、ノストラダムスの大予言で最も重要なあの詩だ!!」
一九九九年七の月
天より恐怖の大王が現れ、アンゴルモアの大王を蘇らせる
その前後、火星が幸せのうちに統治するだろう
スネヤシが右手を前に差し出した瞬間、舞台がフェードアウトし、ホリゾント幕に例の詩が映し出される。背景とかを映すんじゃなく文字の羅列を映し出すのはなかなか新鮮だなぁ。
スネヤシ「それを踏まえれば一見意味不明に思えるこの詩も、自然と解読できる。暗き天は今日この日の空を指していると見て間違いないだろう」
シズカ「じゃあ、『マ女』は?」
スネヤシ「一見すると魔女を指しているようにも思える。しかし、それならばわざわざカタカナで書く意味がない。これは恐らくメカ娘、『マシーン少女』を指しているのだと思う。そして○は言うまでもなく地球を指す! つまりこの詩は人類の滅亡を予言した詩なんだよ!!」
タケヤ・シズカ・ノビマル『なっ、なんだってー!?』
そしてスネヤシの推論はお決まりの人類滅亡説へと飛躍する。しかし他はまだいいとして、マ女の解釈はいくらなんでも無理がある過ぎるとしか思えないのだけれど。
ノビマル「で、でも、ドラえもんは“未来”から来たんだよ? 人類が滅亡していたら、未来からは来れないはずなんじゃ?」
ここでノビマルがドラえもん読者なら誰しもが思うであろう疑問をぶつける。
スネヤシ「ああ。だがもしも、大本の情報が間違っていたとしたら……!!」
ノビマル「大本の情報?」
スネヤシ「ああ。これは俺の推測だが、ドラえもんは未来から来たのではなく、地球外知的生命体が送り出したロボットなんじゃないのか? そうすればすべての辻褄が合う気がしてならないんだ」
ノビマル「ど、どういうこと?」
スネヤシ「火星はマルス、つまりは軍隊を指すという解釈もある。それを踏まえればアンゴルモアの大王やマ女は、地球侵略を目論む地球外知的生命体を指すとみて間違いないだろう!!」
タケヤ・シズカ・ノビマル『なっ、なんだってー!?』
おいおい。ドラえもんがいつの間にか宇宙人の作ったロボットになっちまったぞ。スネヤシの飛躍っぷりは本家のキバヤシに負けていないな。
スネヤシ「俺の予測が正しければ、ドラえもんは侵略宇宙軍の抵抗勢力が送り出した尖兵だろう」
タケヤ「せ、尖兵?」
スネヤシ「ああ。地球人を地球外知的生命体と互角に戦える人間に鍛え上げるための!!」
タケヤ・シズカ・ノビマル『!?』
スネヤシ「俺たちが今まで白亜紀時代や海底都市などに行き多くの冒険を繰り返したのはみんな、地球を救う戦士を鍛え上げるための特訓だったんだよ!!」
タケヤ・シズカ・ノビマル『なっ、なんだってー!?』
スネヤシ「つまり、この予言を回避する方法はただ一つ。俺たちが侵略宇宙軍とのアルマゲドンに勝利するしかない! そして俺たちが敗北すれば、人類は間違いなく滅亡する!!」
タケヤ・シズカ・ノビマル『……』
そこで画面は真っ暗になり、静かな声で語るスネヤシのナレーションが入る。
スネヤシ「そしてその予言は数日後、ノビマルが北極で巨大なロボットの破片を拾ったことにより現実となる。俺たちは『リリル』という名の“マ女”にいざなわれるように、侵略宇宙ロボット軍との人類存亡を賭けた戦いに身を投じることになる……」
そうして達矢たちのクラスの発表は終わりを告げた。最後はどう締めるかと思ったけど、そこで「鉄人兵団」に話を持っていくとは。
色々ツッコミ所のあるストーリーだったけど、少なくとも私たちの劇よりはよくまとまっていたと思う。これは、優勝は決まったも同然だな。
そして私の予想は見事当たり、予餞会は達矢のクラスが最優秀作品賞と主演男優賞を受賞した。私たちのクラスは、名雪が助演女優賞を獲得したに留まった。
名雪の受賞理由は、男装の騎士がいい味を出しているからとのことだった。確かに、普段運動ををやっているだけあって、名雪のランスロットはなかなか様になっていたな。
そんな感じに私たちのクラスも達矢のクラスもそれなりの成果を出し、予餞会は終わりを告げたのだった。
…第五拾話完
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※後書き
原稿自体は1月末に途中まで書き、以後3ヶ月以上放置していたという感じです。他の原稿が忙しかったのもありますが、「達矢のクラスの催し物」のネタが思いつかなかったというのもあります。
当初からMMRネタで行こうというのはあったのですが、どういうネタにするか悩んでおりましたので。最終的には「そういやドラえもんで大予言ネタがあったな」という感じに、今回のネタとなりました。
ちなみにオチを鉄人兵団と絡めたのは書いてる途中で閃いたネタで、当初は「俺たちは何もかもが遅過ぎたんだ……」という感じに終わる予定でした(笑)。
それと、祐一たちのクラスの催し物は、FATEの声優ネタです。FATEはアニメ版は見たものの原作ゲームはやっておらず、FF5も未プレイだったりするので、ネタとしてはちょいと微妙だったなと。
あとリメイク前じゃ主役張っていた祐一がナレーションに徹しているのも声優ネタです。ハルヒの「朝比奈みくるの冒険」においてキョンがナレーションを務めていたのが元ネタです(笑)。
さて、予餞会も終わり、次回は舞踏会、そしていよいよ真琴シナリオ、舞シナリオのまとめに入ります。ようやく終盤に差し掛かってまいりましたので、間が空かないよう執筆を続けたいものですね。 |
五拾壱話へ
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