雪合戦終了後はその場で解散となり、應援團関係者は文化部長屋にある應援團室へと集っていた。
「なかなか面白い戦いだったよ。けど、本来鍛えるべきの應援團が、ほとんど初っ端にやられちゃったのはねー」
 開口一番、魅音さんは應援團のみんなを皮肉めいた声で笑い飛ばした。確かに副團、斉藤、潤は戦闘が始まった直後に撃墜され、その後香里も團長も大した活躍をすることなく撃墜されてしまったもんな。
 雪合戦のそもそもの主旨は来るべき悪霊戦に対する模擬戦だったのに、実際に戦う人たちが尽く撃墜されてしまったのは、本末転倒もいいところだ。
「しかし、あんまりテストになってなかった気がするんだけどなー」
 潤のいうことはもっともだ。正直あの雪合戦はスカウターがなくても成り立った気がする。
「細かいことは気にしない! 楽しめたんだからそれでいいじゃない!!」
 と、笑って締めようとする魅音さん。何だかこの魅音さんの態度を見ていると、模擬戦というのは建前で、本音はただ単に雪合戦をしたかっただけかもしれないな。
「とにかくこれである程度使い方は分かったでしょ? 本番はせいぜい足手まといにならないよう頑張りな!」
 そう言い終えると、魅音さんは解散を宣言し、私たちは應援團室を後にする。潤の言うとおり、今回の雪合戦はスカウターのテストにはならなかった。
 けど、先遣隊のみんながどれほどの戦闘能力を持っているかは大方分かった気がする。相手は目に見えない悪霊とはいえ、あの4人がいれば悪霊退治も難なくできるような気がしてならないな。



第四拾八話「それ征け! 萌えっ子大戰略!!」


「でねっ、でねっ! ボクと真琴ちゃんは途中でやられちゃったんだけど、祐一くんと名雪さんは最後まで戦いぬいたんだよ〜〜」
 すっかりと日常になりつつある、あゆを囲んでの水瀬家の夕食会。あゆは途中で撃墜されたというのに、十分満足だったという顔で雪合戦の一部始終を語った。
 撃墜者は試合の邪魔にならないよう合戦場の外に出なければならなかった。あゆたちは陣地から少し距離を置いた所から遠目で眺めていた。にも関わらず、この語り草だと戦いの臨場感はそれなりに伝わっていたんだろうな。
「あうーっ! 真琴はもっと遊びたかった、遊びたかったー!!」
 対する真琴は遊び足らなかったようで、不満いっぱいの顔で腕をブンブンと振り回しながら駄々をこねた。
「それじゃ今度は、わたしたちだけで遊ばない?」
「えっ!?」
「わたしと祐一と、あゆちゃんと真琴ちゃんの4人で。2対2でも工夫すればそれなりに遊べると思うよ」
「あうーっ! やる、やるー!!」
 名雪が雪合戦の話を出した途端、真琴は表情を一変させ、満面の笑みを浮かべながら腕をブンブンと振り回す。
 まったく、空気を読むのが上手いというか、面倒見がいいというか。名雪のお姉ちゃん振りは相手を選ばずに健在なんだなと感心してしまう。
「そうだ! どうせなら、これからやらないか?」
 別に名雪に対抗したわけじゃないけど、名案があると唐突に私は声をあげた。
「えっ? こんな夜中に雪合戦やるの?」
「そうじゃなくて、2対2で遊べるゲームだよ」
 あゆや真琴の趣味に合うかどうかは分からないけど、私は名雪の疑問に答えるよう、「4人プレイで且つ2対2で対戦可能なゲーム」があることを告げた。
「あうっー! やる、やるー!」
「どんなゲームかは分からないけど、ボクも遊んでみたいなー」
「うーん、あゆちゃんが賛成なら、わたしも参加してみようかな?」
 真琴とあゆは即決賛成し、名雪もあゆが賛成ならと承諾した。こうして夕食後、私たちは私の部屋でゲームで対戦することとなった。



「それで祐一。みんなで遊べるゲームって何?」
 私の部屋に集合すると、名雪がどんなゲームで対戦するのか訊ねてきた。
「これだよ、これ!」
 私は自慢のおもちゃを見せびらかす子供のように、件のゲームをみんなに披露した。
「何ソレ? とてもじゃないけどみんなで遊ぶゲームには見えないんだけど……」
 パッケージを見た瞬間、名雪が呆れた顔で私を見つめた。名雪が私に軽蔑の眼差しを向けるのも無理はない。何故なら私がみんなの前に見せたのは、萌え萌えな美少女イラストが書かれた「萌えっ子大戦略」というゲームだったからだ。
 このゲームはミリタリーマニアなどの極一部にしか人気がないWW2物戦略SLGを、ライトユーザー向けに売り出すという戦略のもと開発されたゲームだ。
 大まかなシステムは従来の大戦略的に沿っているが、そこに実在したパイロット等を“萌えキャラ化”し、Gジュネ的なキャラゲー要素を取り入れたのが特徴だ。
 発売当初はありがちな萌えキャラゲーだと揶揄されたものだが、キャラクターの掘り下げが思ったよりも深くて好感が持たれ、また史実のネタを分かりやすく再現したシナリオも好評で、50万本以上の売り上げを記録した。
 ギャルゲーで一番売れたと言われるサクラ大戦でさえ100万本程度という話がなので、50万本も売れれば大ヒットと言っても過言ではないだろう。
「一応“合戦”ものだし、今日やった雪合戦を本格化したものだと思えば……」
 正直こんなゲームを楽しむ女の子がいるとは思えない。けどこのゲームは大雑把に言えば「駒を使い敵陣地を落とす」というもので、主旨としては今日行った雪合戦と同じだ。
 人生ゲームや桃鉄だとチーム戦ということができないので、私が持っている中で一番適切なのがこのゲームだと思ったんだけど。
「うーん、キャラクターはともかく、富嶽を生産して米本土を絨毯爆撃したりできるのかな?」
「うぐぅ! ボクはイタリアを見捨てて冬将軍が来る前にモスクワを攻め落とすんだよ〜〜!」
「それならわたしはミッドウェーで大勝して、アメリカ本土進攻の足がかりを作りたいな」
「うんうん! 歴史とは逆にアメリカの空母を壊滅させるんだよー!!」
「ちょっと待てお前等」
 目の前であまりに女の子らしからぬ会話が繰り広げられていることに、私はツッコまずにはいられなかった。
「どうしたの、祐一?」
「何故お前たちがそんなミリタリーネタに詳しい?」
 到底ミリタリーゲームで遊んだり、戦車等のプラモデルを作ったりするようには見えないんだけど。
「うーんっと、ボクの場合、お父さんが遺してたものを色々見たからなんだ」
「お父さんが遺したもの?」
 この場合のお父さんと言うと、日人さんのことか。
「うん。ボクお父さんのことよく知らないから、『お父さんってどんな人だったの?』ってよくお母さんに聞いてたんだ。そしたらお父さんが生きてた時集めてた本とか見せられて……」
「それがミリタリー関係だったってわけか」
「うん! だからお父さんが生きてたら、絶対こんなゲームを楽しんでたと思うんだ」
 成程。あゆにとってミリタリー関係のものは、趣味というより父親の温もりを感じるものなのか。
「わたしも同じかな? お父さんってどんなことが好きだったのかお母さんに訊いたら、本とか模型とか見せられて……」
「意外だな。お前の部屋には全然それっぽいものが置いてないっていうのに」
「お父さんの物はお父さんのお部屋に置いたままだからね。第一おじいちゃんが海軍軍人さんだったら、多少は知識があっても不思議じゃないと思うよ?」
「それもそうだな」
 靖國神社のことを知らなかったのだからそっち関係の知識はないのだろうと思ってたけど、どうやら政治面のネタに弱いだけで、兵器関連にはそれなりに詳しいようだな。
「の割にはお前、アニメとかゲームには全然詳しくないな」
「祐一。軍事関係が好きな人間はアニメやゲームも好きでしかるべきだっていうのは偏見だと思うよ」
 ごもっともなことで。実際アニヲタの中でもガンダムとかメカ関係は好きだけど、美少女関係は嫌悪感さえ抱くって人は結構いるからな。
 だからこのゲームはあくまでライトユーザーに受けただけで、ヘビーユーザーには「俺の大戦略を汚すんじゃねぇ!」という感じに不評を買ったという話も聞くし。
 もっとも、そんなヘビーユーザーを無視しても50万本売れたんだから、いかに純粋なミリタリーヲタが少数派であるかが分かる。
「わー! 何だかイラストが可愛くて面白そー!」
 明らかに嫌悪感を抱いている名雪とは対照的に、真琴は嬉々とした顔ではしゃいだ。
「ボクもこのゲーム、やってみたいなぁ」
 あゆもあゆでそれほど抵抗がないようだ。
「うーん。2人がいいって言うなら私も付き合うよ」
 真琴とあゆがやる気を見せたことで、名雪も腑に落ちないながらもこのゲームで遊ぶことを承諾した。
 そんな訳で、萌え大戦略で遊ぶ流れになったわけだけど、問題はどのMAPで遊ぶかだ。このゲームの対戦モードは、大まかに「大戦初期」、「大戦中期」、「大戦後期」、「大戦末期」の4種類のMAPが用意されており、MAP毎に予め使用できる軍の種類や数も決まっている。
 なので、あんまり広大なMAPだと今日中に遊び終わらないし、逆にこじんまりとしたMAPで遊ぶのも味気ない。程よい広さで4人対戦ができるMAPを慎重に選ばなければ。
 散々悩んだ末、私は日独VS米ソで遊べる、陸戦と海戦が入り混じった、中規模な広さの大戦中期のMAPを選択した。個人的には史実では完成の間に合わなかった大戦末期のMAPも遊んでみたかったところだけど、バランス的にはこれがいいかなと思って。
 また、陸戦主体にすると戦車が弱い日本軍は苦戦必死だし、海戦主体だと空母がないドイツやソ連は日米に対処できない。だから、それぞれの国が一方的に不利にならないMAPを選択したわけだ。
 MAPの広さは32×32ヘックス。左上部の海岸部にドイツ軍陣地が、左下部の森に囲まれたソ連軍陣地、そして右下部の突き出た半島の先に日本軍陣地が、右上部の海岸部に米軍陣地が配置されていた。
「じゃあ始める前に簡単なルールを説明するぞ」
 MAPを選んだところで、私はゲームの操作方法等を説明した。ゲームの目的は少し具体的に言うと、「駒を使い都市や飛行場を占領しながら敵陣地を落とす」というものだ。
 駒である兵器を生産するには軍資金が必要なんだけど、これは予め用意されているものに加え、毎ターン一定量で増えていく。この軍資金に密接に関わって来るのが都市だ。毎ターン増える軍資金の額は、保有する都市の数によって決まる。つまり、占領した都市が多ければ多いほど軍資金が増え、ゲームが有利になるわけだ。
 また、飛行場は航空機の補給には必要不可欠な施設であり、特に空母が生産できない独ソは、この飛行場をいかに占領するかが勝敗の分かれ目となる。
 そしてこの都市や空港を占領するのに重要な役割を果たすのが“歩兵”だ。歩兵は戦闘機や戦車に比べると圧倒的に弱いんだけど、都市等の占領はこの歩兵にしかできない。
 また、敵陣地に対し一番ダメージを与えられるのも歩兵であり、歩兵がこのゲームにおける要であることがよく分かる。言わばこのゲームは、「歩兵を守りつつ都市や飛行場を占領する」行為を繰り返し、敵陣地まで進撃するのが目的だと言っても過言ではない。
 次にユニットの仕様に関して。ユニットは10機で1ユニットと見なされ、これがゼロになると撃墜扱いになる。飛行ユニットに関しては燃料がゼロになっても撃墜となるので注意が必要だ。
 また、艦船ユニットと陣地に関しては、「HPが10あるもの」という概念だ。確かに戦車や戦闘機と違い、同型の戦艦が10隻も列をなしているというのは違和感ありまくりだもんな。
 機体数と燃料、弾数の回復に関しては、それぞれ陸上ユニットは都市で、航空ユニットは飛行場、艦船ユニットは港で行われる。機体数は一定量しか回復できないが、燃料、弾数は1ターンで回復可能だ。
 また、空母に搭載可能な航空機のみ空母に着艦することで回復が可能で、回復量は飛行場と同じだ。
「大まかなルールはこんなところだな。じゃあ次にチーム編成に移るぞー」
 ある程度概要を話したところで、誰がどの軍を動かし、どんなチーム配分にするかの話しに入っていった。色々協議した末、私と真琴VSあゆ、名雪というチーム編成になった。使用する軍は私がアメリカ、真琴がソ連、あゆが日本で名雪がドイツとなった。本音では枢軸国を選びたかったところだけど、あゆと名雪にお膳立てをして連合国を選んだ。
「まずはわたしだねー」
 MAPを選択しゲームが始まると、一番手は名雪の操るドイツ軍だった。
「あれっ? 何か外側の部分が暗いよ?」
 陣地付近は見えているのに対し、周囲が真っ暗なことに名雪が疑問を投げかけた。
「ああ、それは索敵範囲外だからだよ」
「索敵?」
「ああ。雪合戦の時スカウターで相手の位置を確認してただろ? あれと同じさ。味方は識別できるけど、敵側は近くまで寄らないと見えないんだよ」
 この索敵範囲はユニットによって異なり、この索敵をどう行うかで戦局が大きく動く。初心者には索敵はない方がいいっていう話もあるけど、全部見えていると緊迫感に欠けるので、このまま押し通すことにした。
「最初はわたしだねー」
 一番手はドイツ軍である名雪だった。
「えーと、まずは機体を選んで、次にパイロットを選べばいいんだね……」
 このゲームは通常の大戦略とは違い、Gジュネのようにパイロットを選択することができる。パイロットには史実の人間を萌えキャラ化した者のと、名無しのパイロットがいる。
 名前のあるキャラを載せれば機体の能力は飛躍的に高まるが、反面軍事費の負担が強まり、強力な兵器を量産できなくなる。また、一度撃墜されたパイロットはそのMAPでは二度と使用できないので、用意されたパイロットをどのタイミングで使うかも重要だ。
 対し名無しのパイロットは機体の能力を上げさせない代わりに、軍事費がまったくかからない。名前ありのパイロットを複数使用した少数精鋭でいくのか、それとも名無しのパイロットを中心にした数で攻める戦法でいくのか、個々の判断力が問われる。
 なお、名前ありのパイロットが10機のうちどれかに搭乗しているということではなく、概念的には「そのパイロットの指揮により編隊の能力そのものが向上している」という感じだ。
「よーし。わたしはこんな感じでいくよー」
 名雪が最初に生産したのは、六号戦車ティーガー1型・4、偵察車・1、歩兵・2、補給車・1、ビスマルク級戦艦・1、そしてエーリカ・ハルトマン操るBf109G・1と、ハンナ・ルーデル操るはJu87シュツーカ・1である。
 かたや「黒い悪魔」の異名を誇る世界一の撃墜王であるエーリヒ・ハルトマンが元ネタのキャラで、もう片方も世界一の戦車撃破王であるハンス・ウルリッヒ・ルーデルが元ネタのキャラだ。
 初っ端から世界一のパイロットを2人も出してくるだなんて、名雪もなかなか容赦ないな。
「よし! 次は私の番だな」
 2番手はアメリカ軍である私の番だった。私はシャーマン中戦車・3、歩兵・3、補給車・1、エセックス級空母・1、そしてシャーロット・E・イェーガー操るP51マスタング・1と、B29スーパーフォートレス・1である。
 シャーロットの元ネタは、世界で初めて水平飛行で音速を超えた、チャック・イェーガーというパイロットだ。
「最初に早くもB29生産するだなんて、祐一もなかなかやるね」
「ああ。鬼畜米英は米英らしく、悪人に徹するのさ」
 日本人にとってB29は爆撃を繰り返し本土を焦土へと変えた忌むべき爆撃機だ。逆に言えばそれだけ優秀な機体であるということであり、最初に作って他を圧倒するのには持って来いだということだ。
「次はボクの番だね!」
 3番手はあゆの番だった。あゆは九七式中戦車改・2、歩兵・2、補給車・1輌、野砲・2、大和級戦艦・1、赤城級空母・1、そして坂本美緒さかもとみよ宮藤芳佳みやふじよしか操る零式艦上戦闘機二二型・2である。
 美緒は大空のサムライこと坂井三郎氏が、芳佳は坂井氏の親友である空の宮本武蔵こと武藤金義モデルのキャラだ。
「やっぱり日本人なら、ゼロ戦と大和を作らなきゃね!」
 ただでさえ金のかかる艦船を一気に2隻も作ったのだから、あゆは軍資金を半分ほど浪費してしまっている。ちなみに戦車が少ないのは、基本的に他国の戦車と勝負にならない日本の戦車は歩兵を守る分だけあれば十分だという、名雪の助言に基いてのことだ。
「最後は真琴よぅ!」
 そして4番手はソ連軍操る真琴の番だった。真琴にはとりあえず、「歩兵は最低2人は作っておけ」、「戦闘機は少なめで戦車を多めにしておけばいい」とアドバイスしておいた。
 その結果真琴が作ったのはT34/85・8、歩兵・3、サーニャ・V・リトヴャクが操るMiG−3・1である。戦車を多めにとは言ったけど、偵察車や補給車を作らず、8輌も作るのはちょっと極端だなぁ。
 ちなみにサーニャのモデルはスターリングラードの白薔薇ことリディア・リトヴァクである。登場するキャラのほとんどが男キャラを萌えキャラ化してる中、彼女は珍しく元ネタも女性なキャラである。
 そんな感じに、1ターン目は各々ユニットを生産しただけで終わった。2ターン目は生産したユニットを多少は移動するものの、まだまだ戦力不足。史実のソ連軍の如く猪突猛進突っ込む真琴以外は、みんな陣地付近の都市や飛行場を占領しただけでターンを終了させた。
 それから7ターンほどはユニットの生産と占領に追われ、本格的な戦闘に入るには今しばらくの時間を有した。なお、ざっと見たところ各々の戦力はこんな感じだ。ユニットの上限は陣地を含めて32であり、みんな一応限界数に達している。

名雪……ティーガー・7、五号戦車パンター・6、偵察車・2、歩兵・3、補給車・2、ビスマルク級戦艦・1、軽巡洋艦・2、Bf109G・2、Fw190D・2、Ju87・2、He111・2

私……シャーマン・10、偵察車・2、歩兵・3、補給車・2、アイオワ級戦艦・1、駆逐艦・2、エセックス級空母・1、P51・2、F4Uコルセア・2、SB2Cヘルダイバー・2、TBFアベンジャー・2、B29・2

あゆ……九七式改・6、九八式軽戦車・2、歩兵・4、補給車・2、野砲・3、大和級戦艦・1、駆逐艦・2、赤城級空母・1、零戦二二型・2、三式戦闘機飛燕・2、艦上攻撃機天山・2、艦上爆撃機彗星・2、二式飛行艇・2

真琴……T34/85・20、歩兵・6、MiG−3・2、TB−3・3

 こうして見ると明らかに偏っている真琴を除いた3人は、それなりにバランスの取れた編成が行われているな。現時点での軍資金は艦船類を生産していない真琴は潤沢にあり、空母を作ってない名雪もある程度は残っている。私とあゆは艦隊を充実させたため資金は残り少ない。
 あゆの場合戦車が他国と比べて低コストなので幾分かは私より余裕があるが、それでも艦船をもう1ユニット生産する余力はない。
 各々の毎ターンの収益も、戦車を6ユニットほど作れるくらいしかない。
 つまり私とあゆは、今後他のユニットの生産を節約しない限り、艦船ユニットを生産することは難しいというわけだ。それを踏まえれば、双方において艦船ユニットがいかに貴重であるかが分かるというものだ。



「あぅ? 何か現れたわよぅ!」
 着々と進軍を続ける真琴の戦車部隊の索敵範囲に、名雪の戦闘機部隊が遭遇した。
「よーし! 一気に落とすわよぅ!!」
 ようやく攻撃ができると、真琴は意気揚々に駒を進めていった。
「あれっ?」
 けど、戦闘機に接触してもまったく攻撃ができず、真琴は慌てふためく。
「やれやれ。戦車で戦闘機は落とるわけないだろ? 戦闘機には戦闘機を向けないと」
「成程! じゃあこの戦闘機を……!」
 真琴は私のアドバイスに従い、TB−3爆撃機を……
「って、ちょっと待て! そいつは戦闘機じゃなく爆撃機だ!!」
「行っくよー! 攻撃開始ー!!」
 私が必死で止めようとするものの時既に遅し、真琴は無謀にも爆撃機で戦闘機に攻撃を加えてしまった。
「あっ、あれれっ! あうーっ! 何か撃墜されちゃったわよぅ!!」
 当然のことながら爆撃機が戦闘機に敵うはずなく、真琴のTB−3はエーリカの指揮するBf109Gに、あっさりと撃墜されてしまった。素人目には戦闘機とは戦場で操る航空機全般を差すものだという認識があるけど、実際はそれほど単純じゃない。
 狭義の戦闘機は主に他国の戦闘機を迎撃するのが役目であり、爆撃などは行わない。爆撃は主に爆弾を搭載した爆撃機が行うもので、また魚雷攻撃を行うものは攻撃機と呼ばれている。
 同じように、戦艦と言っても狭義の戦艦は最上級の艦船を指し、その下には巡洋艦、駆逐艦などのカテゴリーがある。まあ、この辺りは私もミリタリーゲームをやり始めるまで詳しくなかったので、素人が知らないのは仕方ない。
「えーと、じゃあこの戦闘機は……あうーっ! また撃墜されちゃったわよぅ!!」
 冷静さを欠いた真琴は戦闘機と爆撃機の区別が付かず、またしてもTB−3をエーリカ隊に向け、無惨にも返り討ちに遭ってしまった。
 その後真琴はT34/85を2ユニット新たに生産し、自ターンを終えた。
「真琴ちゃんには悪いけど、一気に撃破するよー!」
 自分のターンが回って来た名雪は、早速Ju872機を真琴のT34/85に向けた。ルーデルの指揮するJu87は、さすがはこのゲームで1,2位を争う強キャラなだけあり、一撃でT34/85を撃破した。もう片方の名無しパイロットが指揮する方も、機体数を5ほどに減らすことに成功した。
「続けて戦車隊の突入だよー!」
 真琴の残されたT34/85・9ユニットに対し、名雪はティーガー、パンターそれぞれ2ユニットを向かわせた。激戦の末T34/85は7ユニットまでに減り、名雪の方は機体数が減ったものの全ユニット健在だ。真琴方面に向かわせていた戦車は全部で7ユニットなんだけど、全機突入させなかったのは下手に全機破損状態になると、次ターンで真琴の戦車に返り討ちに遭うからだろうな。
「それじゃあ残された戦闘機の方もいただくよー!」
 名雪は続けて名無しのパイロットが乗ったMiG−3に、エーリカと公爵フュルストの異名を誇るヴォルフ・ディートリッヒ・ヴィルケが元ネタの、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが指揮するBf109Gを向かわせた。
 名無しのパイロットがエースパイロットに叶うはずもなく、エーリカ隊もミーナ隊もまったくの無傷で、MiG−3の撃墜に成功した。  その後名雪は別働隊を私の陣地方面へと進軍させ、自ターンを終わらせた。
「次は私のターンだな!」
 私は自ターンが回って来ると、まずは名雪艦隊がいるであろう海域に向けてF4Uを飛ばした。航空機支援のない名雪艦隊は恐らく単機での戦闘を前提としておらず、あゆ艦隊と合流して戦力アップを計っているのだろう。
 正直あゆ艦隊と合流されては真琴の艦隊支援が期待できない私の方が不利なので、あゆ艦隊と合流する前に何としてでも撃滅しなければならない。
「よし! 我、名雪艦隊の艦影を発見せり!!」
 F4Uの索敵範囲に見事名雪の艦隊が引っ掛かり、私は空母からSB2CとTBFを全機発艦させた。目標はビスマルク級戦艦だ。攻撃力の低い巡洋艦ならばこちらの戦艦で相手をすればいいわけであり、ここは一番の脅威である戦艦をまず落とさねば。
「沈めー!!」
 総力戦の結果機体数が2,3減ったものの、全機突入の甲斐ありビスマルク級戦艦を撃沈することに成功した。よーし! この調子で一気に攻め落とすぜ!

…第四拾八話完


※後書き

 パンツじゃないから恥ずかしくないもん!(ご挨拶)
 えー、当初の予定ではセガサターンの大戦略で遊ぶネタにしようと思ったのですが、既存のゲームをネタにしますと色々と制約があるなと思い、架空のゲームとなりました。
 パイロットの名前がストライクウィッチーズなのは、単にストパンネタがやりたかっただけです(笑)。まあ、単に名前が出ているだけで、実質の描写は普通の大戦略と変わらず萌え要素はこれっぽっちもないのですが……。
 ちなみに、大戦略をプレイするというネタ自体は、旧Kanon傳時代からのものですね。旧版ですとあゆがちょこっとだけ遊んだネタだったのですが、改訂版ではみんなで遊ぶという感じに変化しました。
 次回はこの対戦の続きを書きまして、1月19日を終わらせたいと思います。

四拾九話へ


戻る