「はーい、傾注、傾注。いい感じに人が集まったねー。こりゃ楽しい部活動になりそうだよ、クックック!」
 雪合戦に参加するメンバーが一通り集まったところで、魅音さん率いる先遣隊のメンバーと赤坂さん親子が公園に姿を現した。
「人数が多いから、点呼を取ってメンバー分けをするよー」
 魅音さんの掛け声により、公園に集まったメンバーの再確認が行われた。公園に集まったのは、私、名雪、香里、潤、あゆ、真琴、渚ちゃん、栞、團長、有紀寧ちゃん、副團、斉藤、風子ちゃん、佐祐理さん、姉さん、魅音さん、圭一さん、礼奈さん、沙都子さん、赤坂さん、美雪さんの、計21人だ。改めて数えると大人数だなー。あと1人増えればちょうどサッカーができる人数だ。
「ありゃ、奇数か。一人数が合わないねー」
「問題ないんじゃね? 数が合わなきゃ富竹とみたけさんに頼めばいいんだし」
「そっか、その手があったか!」
「富竹さんって誰です?」
「ああ。おじさんたちの上司に当たる人で、今回の雪合戦で運ぶおもちゃを届けにそろそろ来るはずなんだけど……」
 魅音さんの話によれば、今日の雪合戦は大人数になることが予想されたから、上司に当たる富竹さんという人がトラックでおもちゃ類を運んで来るという話だった。
「あっ、来たよー」
 礼奈さんが声をあげると、公園内に大型トラックが入り込んで来た。
「やあ、お待たせ」
 トラックの中から出て来たのは、深緑の帽子を被り眼鏡をかけた40代半ばの男性だった。年の割には筋肉質な体躯をしており、トラックの運ちゃんと言っても違和感のない人だ。
「僕は富竹ジロウ。圭一くんの上司に当たる人だよ」
 軽快な声でみんなに自己紹介をする富竹さん。表向きは圭一さんがおもちゃ会社勤務の應援團OBで、この富竹さんという人がおもちゃ会社の上司という設定らしい。
 その後、新たに富竹さんを含めた計22人でのメンバー振り分けが行われた。チームはそれぞれ魅音さんと圭一さんをリーダーとし、以下のようになった。

魅音さんチーム……魅音さん、沙都子さん、赤坂さん、美雪さん、團長、有紀寧ちゃん、副團、斉藤、香里、佐祐理さん、姉さん

圭一さんチーム……圭一さん、礼奈さん、富竹さん、あゆ、名雪、真琴、栞、渚ちゃん、風子ちゃん、潤、私

 バランス的には魅音さんチームの大人が魅音さん、赤坂さん、魅雪さんの3人。圭一さんチームが圭一さん、礼奈さん、富竹さんの3人。女性は魅音さんチームが、魅音さん、沙都子さん、美雪さん、有紀寧ちゃん、香里、佐祐理さん、姉さんの7人。圭一さんチームが礼奈さん、あゆ、名雪、真琴、栞、渚ちゃん、風子ちゃんの7人と、それなりにバランスの取れたチーム編成だ。
 メンバー的にも親子や兄弟、親友同士は同じチームに配分されていたりする。もっとも、栞に関しては「お姉ちゃんとは死んでも同じチームになりたくないです」ということで、別々のチームになったけど……。
 チーム編成が終わると、改めてルールの説明が魅音さんによって行われた。勝利条件は相手チームを全て撃墜するか陣地に設けられたフラッグを奪取した方の勝ちだという。
 全員例のスカウターの装備が義務付けられ、武器は富竹さんが運んで来た中から各々自由に4種類まで選択可能のことだった。
「ゲームを始める前にスカウターやらおもちゃの説明をするよー」
 ルールの説明が終わったところで、魅音さんがスカウターの説明を開始した。
「まず、このスカウターは特殊な電波をキャッチできるようになっていて、その効果範囲は半径5メートル。他の使用者が近付くと反応するから、予め攻撃の準備とかが可能なわけ。んでもって、これがその特殊な電波の発信源」
 そう言い、魅音さんがみんなの前に見せたのは、皿のように丸くて大きいアクセサリーだった。
「これの中心には薄い紙で覆われた発信装置が取り付けられていて、水で濡れれば停止するわ。つまり、この発信装置が停止状態になれば撃墜ってわけ。発信装置は胸の真ん中に付けること! 隠し持ってちゃ勝負にならないからね。
 あと、発信装置には各々個別のIPアドレスが設けられていて、それを登録すれば味方の識別は可能よ」
 成程、つまりは的さえ守っていればいくら被弾しても平気ということか。なお、的を覆う紙は転んで雪塗れになっても破れる可能性があるので注意が必要とのことだ。うっかり滑って自滅しないように気を付けなきゃな!
「開始は三十分後、それまで各チームしっかりと作戦を練ること! じゃあ、散開!!」
 そうして魅音さんの指示により、私たちのチームは各々の陣地へと散らばって行った。



第四拾六話「眞! 雪合戰!!」


「とりあえず相手のチームは沙都子のトラップに要注意だ!」
 作戦会議に入ると、まず圭一さんが沙都子さんのトラップに関しての説明をした。何でも沙都子さんはトラップ作りの名人で、圭一さんも学生時代には何度も煮え湯を飲まされたとのことだった。今回どんなトラップを仕掛けるかは未知数だが、必ずや何かしらの仕掛けは施すだろうとの話だ。
「次に攻撃と守備の編成だな。基本、男性陣が攻撃で、女性陣が防御ってのはどうだ? 異論のある奴は言ってくれ!」
「圭一くん、レナは攻撃に回るよー」
「圭一さん、私もできるなら攻撃の方に回りたいです」
 圭一さんが意見と募ると、礼奈さんと栞が攻撃に回りたいと言い出してきた。
「よし、分かった! 攻撃陣は俺、レナ、富竹さん、相沢、北川、栞ちゃん。守備は名雪ちゃん、あゆちゃん、真琴ちゃん、渚ちゃん、風子ちゃんの3人だ!」
 圭一さんは二人の意見を汲み取り、攻守の振り分けが決まった。
「名雪、この中じゃお前がリーダー格なんだから、守備はしっかりと頼むぞ」
「うん、任せてよ。わたし、部長さんだからしっかりと指示を出して陣地を守るよ」
 私が声をかけると、名雪は胸を張って任せてくれよと言った。渚ちゃんもそれなりに包容力のある人だけど、残りのメンバーではやはり名雪が一番まとめ役に適任だ。陸上部の部長さんのお手並み拝見って感じだな。
「いよいよ始まるか」
 作戦会議を終えて数分経つと、園内にブザー音が鳴った。勝負開始の合図だ。私は用意した武器を手に持ち、戦闘準備を整えた。私が選択した武器は、小さな雪玉を連射するサブマシンガン、ウォーターガン、つららサーベルに、拡散バズーカだ。
 ルール上は雪玉に限らず「的を濡らせば撃墜」なので、ウォーターガンなどの水を用いたおもちゃも使用可能との話だった。
 ちなみにつららサーベルというのは、特殊な冷却装置に柄を突っ込み、早急のつららを作り出すというもの、拡散バズーカは、雪玉を敢えて固めず、放射状に散布する武器だ。
 つららサーベルは近接戦闘に、拡散バズーカは敵の目くらましに有効だろう。
「よーし! 戦闘開始だぜ、みんな!!」
 そうして私たちは圭一さんの合図により、戦闘態勢に入っていった。
「おっ! 早速反応があるな!」
 陣地から駆け足で敵陣地へと向かうと、潤が言うように2つの未確認の反応があった。敵の先遣隊はまず2人か。
「うおっ!」
 攻撃準備をしようとする最中、突然目の前にゼロ戦のラジコンが飛んで来て、機銃から小さな雪玉を発射し始めた。
「くっ! 操っているのは誰かしらねぇが、なかなかやるじゃねぇか!!」
 発信装置により相手の位置が分かるからこその遠隔攻撃に、圭一さんは敵の先制攻撃を称賛した。
「そこだっ! 落ちろー!!」
 私たちがゼロ戦に足止めを食らっている中、敵チームの先発隊である斉藤が、サブマシンガンで攻撃を仕掛けてきた。
「くそっ! やらせるか!!」
 その斉藤に対し、私はウォーターガンを用い応戦する。
「そこかぁっ!」
 その間、北川がつららサーベルを腰から抜き、もう一つの反応に向かい振りかざした。
 つららサーベルは柄を骨組みとして氷が付着しているので、欠けることはあっても、ポッキリと折れることはまずない。
「避けてみせるさ!」
 もう一人の反応は副團だった。副團は潤の攻撃を華麗に避けながら、手に持ったコントローラーを巧みに操る。どうやらゼロ戦を操っているのは副團のようだな。
「相沢! 北川! お前はそのまま斉藤と西澤の応戦を頼むぜ! 栞ちゃんはラジコンの迎撃を! レナと富竹さんは先に進んでくれ!!」
 圭一さんの指示により、礼奈さんと富竹さんが先行し、栞ちゃんは手に持ったバズーカに雪玉を装填し、発射体勢に入った。
「えーい!」
 狙いを定め、雪玉を発射する栞ちゃん。勢いよく発射口から勢いよく放たれる雪玉。栞ちゃんはゲーマーということもありコントロールが良く、見事副團の操るゼロ戦の撃墜に成功した。
「いくぜ! ターゲットロック! 発射ー!!」
 その間圭一さんは背中に背負ったウェスバー的な武器を構え、有効射程内にいる2人に向けて発射した。
「ぐわっ!」
「しまった!?」
 私と潤の2人の応戦に手一杯だった斉藤と副團は圭一さんの攻撃までは対処できず、見事に撃沈されてしまった。
「うしっ! 2人撃破!! この調子でガンガン行くぜ!!」
「応よ! って、うわっ!?」
 圭一さんの掛け声により前進した潤は、足元に何か引っ掛け、ズダンと後ろに転がり込んでしまった。
「ぐわっ!?」
 次の瞬間、木の枝に覆い被さっていた雪がドサドサっと落ち、潤の胸元を直撃する。それにより潤は発信装置が濡れ、撃墜扱いとなってしまった。
「ったく、だから沙都子のトラップには気を付けろって言ったのに」
 勢いよく前進しようとした矢先に味方の一人が撃墜されたことに、圭一さんは頭をかきながら苦笑した。
「!? この反応はっ!?」
 自分より後方に2つ反応が出たことに、私は驚き声をあげた。反応は私たちには目もくれず陣地の方へと向かって行く。
「この公園は結構広いからな。恐らく敵の攻撃隊は分散して陣地に向かっているんだ! 相沢に栞ちゃん、お前たちは悪いが陣地の救援に向かってくれ!!」
「分かりました!」
「了解です!」
 私と栞は圭一さんの指示に従い、陣地へと戻って行った。



「!? また反応が!」
 陣地へと戻る途中、また1つの反応が現れ、私たちに急襲する。
「栞、てっきりあなたは陣地側で守りに就いていると思っていたけど」
 反応は香里だった。香里は申し訳なさそうな顔をしつつ、私たちに銃口を向ける。
「当たり前ですよ。お姉ちゃんの顔に思いっきり雪玉をぶつけたかったので!」
 栞は銃口から発射される雪玉を回避しつつ、バズーカ砲を香里に向けて発射する。
「甘いわ!」
 香里は素早く栞の発射した雪玉を回避すると、懐から水風船を取り出し私たちに投げ出した。
「栞、危ない!」
 私は素早くつららサーベルを抜き、水風船を切り払いする。
「ありがとうございます、祐一さん。お姉ちゃんの相手は私がしますので、祐一さんは陣地に戻ってください!」
「ああ、分かった!」
 真剣勝負とはいえ殺し合いをしてるわけではない。姉に自分の気持ちを思いっきりぶつければ、栞の気持ちも少しは晴れるだろうと思い、私は香里を栞に任せ、陣地へと急いだ。
「この感じだとまだ持ち応えているようだな……」
 陣地へ向かう2つの反応が止まり、あゆたちと対峙している。今のところ味方の数は減ってないようだけど、この先どこまで持ち応えられるか。
「あははーっ! 真剣勝負ですから手加減はしませんよー!!」
「まずは間接攻撃……」
 2つの反応の正体は佐祐理さんと姉さんだった。数的には5対2だけど、佐祐理さんも姉さんも動きが良く、なかなか被弾しない。
「渚ちゃんと風子ちゃんはそのまま雪玉を作り続けて! 真琴ちゃんはわたしとあゆちゃんのところに雪玉を運んで来て!!」
「分かりました、名雪さん」
「風子、了解しましたですっ!」
「あうーっ! 真琴もがんばるわよぅ」
 名雪の指示により雪玉を作り続ける渚ちゃんと風子ちゃん。その作られた雪玉を運ぶ真琴と、その雪玉を装填しバズーカ砲で佐祐理さんと姉さんを迎撃し続けるあゆと名雪。名雪の支持により各々の役割分担がキッチリとなされ、一進一退の膠着状態が続いていた。
「あははーっ! そろそろ落ちてくださいー!!」
「えっ!? うっ、うぐぅっ!!」
「そこっ……!」
「あううーっ!!」
 だけど、佐祐理さんと姉さんの腕はそれなりに高く、あゆと真琴が撃墜されてしまった。
「佐祐理、私は敵陣地に突撃するから、援護をお願い……!」
「あははーっ! 了解です、舞ー」
 敵の数が減り好機と見た姉さんは、つららサーベルを持ち陣地へと向かって行った。マズイ!? 姉さんは接近戦を得意とする。このまま突っ込まれたら残りの3人じゃ守り切れないっ!?
「風子ちゃんは雪玉を作り続けて! 渚ちゃんはわたしを援護! 川澄先輩はわたしに任せて!!」
 名雪は2人に指示を出しつつ、自分はつららサーベルを持ち、前に繰り出した。
「佐祐理さん! 覚悟!!」
 私は少しでも名雪の助けになろうと、後方から佐祐理さんにウォーターガンの銃口を向けた。
「ふぇ? 誰かと思えば祐一さんですかー! 佐祐理はそう簡単にはやられませんよー」
 佐祐理さんは振り向き、笑顔で小口径の水鉄砲を私に向けた。
「くっ!」
 私が発射するよりも数秒早く水鉄砲のトリガーを引く佐祐理さん。私は咄嗟に雪面に転がりながら佐祐理さんの攻撃を回避し、その体勢からウォーターガンを発射した。
「あははーっ! 当たりませんよー!!」
 けどその攻撃は佐祐理さんの肩をかすめただけで、的には命中しなかった。
「今度は佐祐理の番ですー」
 佐祐理さんは反撃とばかりに2射目を撃った。
「クッ!」
 佐祐理さんの攻撃は顔に命中したが、的は無事だった。けど、こう何度も断続的な攻撃を続けらては、こちらに攻撃する隙がまったく生まれないな。
「あははーっ! あははーっ!」
 絶え間なく銃口から発射される水の塊。私は攻撃する間もなく回避に専念するしかなかった。
(クッ! やるな佐祐理さん……!!)
 私は佐祐理さんの武器選びのセンスに感服するしかなかった。こういったサバゲー的遊戯では、心情的に派手な武器を選びたくなるものだ。しかし、特定の的に当てるというルールを踏まえると、寧ろ小口径で連射が効く武器の方が有利だったりするのだ。
 一見私の武器より有利に見える佐祐理さんの武器。しかし、たった一つだけ弱点があった。それは……
「ふぇ?」
 絶え間なく連射を続けていた佐祐理さんの水鉄砲の動きが止まった。そう! 水鉄砲は小口径で連射が効く分、大型のウォーターガンと比べ圧倒的に貯水量が少ないのだ!!
「当たれー!」
 私はその隙を逃さなかった。佐祐理さんが背中に掲げたサブマシンガンを取ろうとする僅かな間を狙い、的目掛けてウォータガンを連射した!
「きゃっ!」
 私の攻撃は見事佐祐理さんの的に当たり、佐祐理さんは敢闘の末撃墜となった。
「あははーっ! やられちゃいましたー。でも、とっても楽しかったですよー」
 佐祐理さんは撃墜されたものの悔しさは一片も見せず、寧ろ満足のいった笑顔で雪面にバサッと大の字に倒れ込んだ。
「祐一さん。この間お会いした時お話しましたよね? 一弥の話」
「ええ」
「佐祐理、一弥が病床についている時、ある夢を見ていたんですよ……」
 そうして佐祐理さんはゆっくりと語った。もしも弟の体調が回復に向かった時は一緒に水鉄砲を持ち、野原を駆け回りたいという夢を抱いていたと。
「『お姉ちゃんはこう見えても運動神経抜群なんですよー』なんて楽しく話しながら日が暮れるまで遊び続ける。その夢は結局叶いませんでした。だから、今日こうして弟のように親しくしている祐一さんと水鉄砲で打ち合えて、本当に楽しかったです……」
 気が付くと、佐祐理さんは目から薄っすらと涙を流していた。でもその涙は、叶えられなかった夢を違う形で叶えられた達成感に包まれた、嬉し涙だった。
「祐一さん、行ってください。そして舞と思う存分戦ってください。きっと舞も佐祐理と同じような気持ちを抱いているだろうから……」
「はい!」
 私は佐祐理さんに元気よく挨拶し、名雪たちの元へと駆けつけて行った。



「なかなかやるね、川澄先輩!」
「名雪さん、あなたもなかなか……!」
 私が佐祐理さんとの戦いに専念している最中、名雪と姉さんは互いにつららサーベルを持ち、激しく斬り合っていた。いくら柄が入っているとはいえ所詮は氷。何度もぶつかり合ううちに自然と欠けてしまう。氷の付いていないつららサーベルは武器として認められないので、ある程度欠けたら再びつららを作成しなくてはならない。
 純粋な戦闘能力では姉さんに軍配が上がる。しかし名雪は機敏な動きで姉さんと対峙し、渚ちゃんの支援もありほぼ互角に戦っていた。
「名雪、援護するぞ!」
 この距離では姉さんを直接落とすよりは、名雪の援護に回った方が最適だ。となると、武装は攻撃力に勝るウォーターガンよりも、連射力があり牽制に勝るサブマシンガンの方が適任だ。
「はああー!」
 そう思い、私は武装をウォーターガンからサブマシンガンへと切り替え、姉さんに向けて発射した。
「当たらない……」
 だけど、素早い姉さんの動きを捉えることはできず、あっさりと回避された。
「そこっ……!」
 姉さんは反転すると、私に向かいつららサーベルを持ち斬りかかって来た。
「うっ、うわっ!?」
 私は咄嗟に回避しようとするものの慣れない雪面で思うように回避運動が取れず、思いっきりずっこけてしまう。
「祐一、覚悟……っ!」
 転んだ私にトドメを刺そうと、姉さんは私の的目掛けつららサーベルを突き下ろそうとする。くうっ! これまでか!?
「祐一さん!」
 けど、そんな時栞が救援に駆けつけ、舞の胴体目掛けてバズーカ砲を発射する。
「しまった……!?」
 つららサーベルを降り下ろそうと胴体ががら空きになっていたのが仇となり、姉さんはあえなく撃墜されてしまった。
「栞ちゃん、助かったよ。香里との勝負はもう着いたのかい?」
「はい。顔面に思いっきり雪玉を何度もぶつけた後にトドメを刺しました」
「はっ、ははっ……」
 可愛い顔してさらっとえげつない台詞を言う栞に、私は苦笑するしかなかった。
「でも、お陰でちょっとだけ気分が晴れました」
「そうか。それは良かったね」
 栞との寄りを戻せはしなかったけど、少しでも栞の鬱屈とした気分が晴れたのなら、ある程度香里の望む展開になったかな?
「栞ちゃん、お疲れ様。あとはわたしが攻撃に回るから、陣地をお願い」
「そうですね。目的は果たせましたし、お言葉に甘えます」
 香里を撃墜するという目的を達成した栞は、名雪と変わり陣地を守ることとなった。そうして私は名雪と共に、再び敵陣目掛けて進撃していく。



「祐一、今何人残ってる?」
 敵陣へと向かう最中、名雪が戦況を訊ねてきた。
「そうだな。私の確認した限り、潤、あゆ、真琴が撃墜された。対する敵チームは、副團、斉藤、佐祐理さん、姉さん、香里だ」
 私は自分が把握している限りの撃墜数を述べた。生き残りはこちらが8人で、敵チームが6人。人数的には今のところこちらが勝っている。
「クックック! なかなかやるねレナ! どうだい、この勝負に勝った方が次の休み圭ちゃんと一緒にデートできるっての?」
「いいね、それ! レナ、圭一くんとデートするために絶対負けないよ!!」
 しばらく進むと、魅音さんと礼奈さんが激しく対峙している光景が目に映った。柄というより木刀に氷を付着させた武器を操る魅音さんと、木の板に氷を付着させた氷塊と言える武器で応戦する礼奈さん。
 2人は一進一退の攻防を繰り返し、私たちの出る幕はない。
「2人とも! 魅ぃちゃんはレナに任せて! 2人は圭一くんたちの援護に向かって!!」
「分かりました!」
 礼奈さんに指示されたこともあり、私たちは先を急ぐ。
「おっほっほ! 私のトラップを尽く突破されたのは、素直に賞賛しますわ。ですが圭一さん、あなたの命運もここまででございますことよ!!」
「ヘッ! その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ!!」
 その更に先に進むと、今度は圭一さんと沙都子さんが対峙していた。圭一さんの周囲は複数の穴が開いていたり、切っ先の尖ったつららが雪面に刺さっていたりと、沙都子さんのトラップの凄まじさをこれでもかと見せつけている。
「相沢に名雪ちゃん、ここは俺に任せな! 2人は富竹さんと一緒に敵陣地に向かってくれ!!」
「はい!」
 私たちは沙都子さんを圭一さんに任せ、更なる敵陣地へと進軍していく。
「魅音さんと沙都子さんがいたってことは、この先にいるのは最大でも4人だね」
「ああ。有紀寧ちゃんは大した戦力じゃないだろうけど、他の3人はそれなりに強敵だ。富竹さん一人じゃ荷が重い。先を急ぐぞ!」
「うん!」
 残りの敵人数を確認しつつ、私たちは進撃を続ける。
「えっ……!?」
 だけど、その先には信じられない光景が広がっていた。
「とっ、富竹さん……!?」
 私はその凄惨な情景にしばし言葉を失った。何故ならば、視線の先には口の中に大量の雪玉を詰められ雪面に気絶している富竹さんの姿があったからだ。そして富竹さんはスカウターも的も付けておらず、周囲には武器さえ散らばってなかった。
(どういうことだ……?)
 状況を見る限り、富竹さんはあらゆる装備品を強奪されたと見ていいだろう。でも、一体誰がそんなことをするのだろう?
 単に装備品を充実させたいと言うのなら、武器類を強奪するだけで事足りるはずだ。けど、それならわざわざスカウターと的を強奪する必要はない。
 ということは、富竹さんを襲った犯人は撃墜者か? それとも、もっと別の“何者”かなのだろうか……?

…第四拾六話完


※後書き

 前回と違い、今回は間髪入れずの更新です。普段は同人ばっかりやって滞ってますが、集中すればこれくらいの間隔で書けるということで。
 今回はいよいよ雪合戦の開始となるわけですが、旧版とはまったく展開が異なりますね。人数が増大したこともさることながら、パロディ台詞がほとんどなくなっちゃったなと。まあ、明らかに「雪合戦じゃない」ノリはそのままですが(笑)。
 さて、チーム分けに関してですが、魅音チームに関しては「敵になりそうなサブキャラ中心」という感じに編成しました。舞と佐祐理さんが敵チームなのは、旧版の名残です。
 何だか本来訓練させるべき應援團メンバーが早々にリタイアしちゃってますが、その辺りは気にしないでください(笑)。
 あと富竹さんはほぼ人数合わせのために出ました。最後のシーンは当初の計画では斉藤だったのですが、“時報”と言えば富竹さんだなと思い、ああいう形になりました。ぶっちゃっけ富竹さんは最後のシーンのためだけに出てきたようなものです(笑)。
 とりあえず次の話ももう執筆に取り掛かっておりますので、1週間以内には新しいお話をお届けできると思います。

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