「秋子さん、冗談ですよね? あゆが春菊伯父さんの子供だなんて……」
 泣き崩れる秋子さんの口から出た言葉を、私は信じることができなかった。あゆに対する想いが高まって、本当の子供のように思ってしまっただけだと思いたかった。
「いいえ。本当のことよ。あゆちゃんはね、名雪の妹なのよ」
「……」
 分かっている。秋子さんが冗談を言う人なんかじゃないってことは。だけどそれじゃあつまりあゆは……
「あゆは神夜さんと日人さんの子じゃなく、神夜さんと春菊伯父さんの子供ってことなんですよね?」
「ええ、そうよ」
「……」
 駄目だ。やっぱり信じることができない。あの聡明な春菊伯父さんが不倫をしてただなんて、到底考えられない。
「話してくれませんか? あゆの出生に関することの全てを」
 だから私は訊いてみることにした。秋子さんの言葉が真実である証拠を。
「そうね。祐一さんには話してもいいかもしれないわね。あなたもきっとあの人と同じ運命の絆で繋がれているのでしょうから……」



第四拾四話「過去と現在との邂逅」


「忘れもしないわ。あゆちゃんが生まれた17年前の1月7日のことは……」
 秋子さんは眠りに就いているあゆの頭を優しく撫でつつ、ゆっくりとした口調で語り始めた。
「元々身体の弱かった神夜さんは、あゆちゃんを出産した後衰弱して、命の灯火が消えそうになっていたの」
 そんな時、春菊伯父さんは、自らの“力”を神夜さんに分け与えようとしたという。
「でもね、日人さんが『それは自分の役目だ』って、あの人を遮ったのよ」
 同時期日人さんもまた過労により入院生活を送っており、力を分け与えれば命が尽きる状態だったとのことだった。
「当然あの人は猛反発したわ。親友を死なせるわけにはいかないって」
 そしてしばしの口論が続いた時春菊さんは言ったという、「生まれて来た子は自分の子供だから、自分に救う責務がある」と。
「それを聞いた日人さんは平然としていたわ。日人さんはお腹の子供があの人の子供だっていうことを知っていたみたい。ううん、知っていたというより、親友の好きな人と結婚したのだから、せめて最初の子供は自分の子じゃなくてあの人の子供を産ませるって当人たちの間では了解済みだったみたい」
「りょ、了解済み!? そんなことが在り得るんですか!?」
 それはつまり、春菊さんと神夜さんの不倫が、日人さんには認められていたということだ。そんな馬鹿げたことがあるわけないと、私は疑問を抱かざるを得なかった。
「そう、普通はあり得ないわ。でもね、あの人たちの間には“特別な絆”があったの。だから、普通じゃありえない関係も成り立っていたのよ」
「特別な絆?」
「前に話さなかったかしら? あの人と神夜さんの間にある、千年の絆の話」
「あっ!」
 それはつまり、“源氏の血を継ぐ者”と“月讀の巫女”に交わされたという、遥か遠き日の約束か。つまりその約束を果たすため、春菊さんは神夜さんとの間に子供を作ったということか。
「日人さんは亡くなる前に語ったわ。二人のご先祖による約束を知っている上で自分は神夜さんを愛してしまった。そしてあの人は親友に神夜さんを譲った。だから、神夜さんは自分が貰ったが、約束を果たすため子供はあの人に譲った。
 だから、愛する神夜さんは自分が救わなくちゃならない。お前の命はお前の愛する人に使えと語って、日人さんは自分の残りの生命力を神夜さんに与えて力尽きたのよ」
 そこまで語り、秋子さんは一息吐いた。秋子さんにとっては信じていた夫に裏切られた瞬間。あゆを春菊伯父さんの子供だと認められた今だからこそ、秋子さんは思い切って話すことができたのだろう。
「そしてあの人は日人さんの言葉に『ああ!』って力強く答えたわ」
「成程。だから秋子さんは自分が死の淵に立たされたら、親友との約束を果たすために、春菊さんが駆けつけてくれると思っていたんですね?」
「ええ」
 私はてっきり秋子さんが自暴自棄になり、このまま倒れた方が良かったと語ったのだと思った。でも真相は、愛する人が約束を果たしてくれると信じてるが故の行動だったということか。
「名雪は知ってるんですか? あゆが自分の妹だってこと」
 話題を変え、私は訊ねた。この話を秋子さんが名雪にも話したかどうか。
「いいえ。知らないわ。でも、名雪は本能的にあゆちゃんが妹だって気付いてるかもしれないわね」
「えっ!?」
「名雪は私がどんなに猛反対してもあゆちゃんに会おうと躍起になった。そして姉のようにあゆちゃんに接したわ。同時にあゆちゃんも名雪を姉のように慕った。当人たちは互いの関係を知らないのに、姉妹として慕い合った。それだけ、あの子たちの姉妹の絆は強いのよ」
 確かに、あの二人を見ていると、実の姉妹のように仲の良い親友同士なんだなと思っていた。でもそれは、実の姉妹の何だからある意味当然とも言える間柄だったんだな。
「名雪には時が来たら洗いざらい話そうと思ってるわ。だからこのことは祐一さんと私、二人だけの秘密よ」
「はい、分かりました。それじゃ私は用がありますので、これで」
 そうして私は、母親としてあゆに接している秋子さんの姿を見送りながら、赤坂さんと共に学校へと戻って行った。



 私は学校に戻ると、赤坂さんたちを職員玄関に待たせ、昇降口から校舎内へと足を踏み入れた。
「姉さんは、まだいるかな?」
 一旦家へと戻った関係で、時計の針は既に5時を指していた。こんな時間になればもう姉さんは帰ってるんじゃないかと不安に思う。
「ねっ、姉さん!?」
 だけど、姉さんはいた。職員玄関へと向かう、校長室前の廊下に何故か立ち尽くしていた。
「祐一、久し振り……!」
 姉さんは俺の顔を見るや否や、笑顔で近付いて来た。
「久し振りって、一日会ってないだけなんだけど」
「ううん。私にとっては祐一に会えない日は一日でも長く感じてしまうから……」
 一日会ってないだけで久し振りだと感じてしまうだなんて、そこまで姉さんは私のことを慕っているんだな。これだけ想われているとなると、何だか気恥ずかしいものがある。
「それよりも、姉さんに会わせたい人がいるんだ!」
「えっ!? 私に会わせたい人?」
「ああ! こっちだよ!!」
 私は姉さんの手を引っ張りながら、職員玄関の方へと向かって行った。
「赤坂さんお待たせ!」
「ああ、裕一君。その先輩という人は……」
 姉さんの顔を見た瞬間、赤坂さんの顔が豹変した。
「りっ、梨花ちゃん!?」
 姉さんの顔が梨花ちゃん本人に見えたのだろう。赤坂さんはスリッパにも履き替えず土足で姉さんに近付いて行った。
「おじさんは誰っ!? どうしてお姉ちゃんの名前を知ってるの!?」
 突然見知らぬ人に接近され、姉さんは警戒心を露にして怯えた。
「お姉ちゃん! そうか、やはり君が、君が舞花ちゃんなのか!!」
「!? どうして私の本当の名前をっ!? 祐一以外に話したことのない私の名前を……!?」
「ようやく、ようやく巡り会えた……。話してくれ、舞花ちゃん! 君のお姉さんは、今一体どこで何をしてるんだ!?」
 赤坂さんは姉さんが捜し求めていた舞花ちゃんだと分かるや否や、激しく姉さんを問い詰めた。
「いやぁ、やめてっ! お姉ちゃんの話は、話はしないでぇ……!」
 しかし姉さんは、激しく詰め寄る赤坂さんに怯え、涙ながらに拒絶し続ける。
「君と梨花ちゃんの間に何があったかは知らない。だけど、だけど私はどうしても梨花ちゃんに会わなければならないんだ! だから、頼む! 梨花ちゃんのことを教えてくれ!!」
「いや、いやぁ……!」
「そこまでにしな! おっさん!!」
 しかしそんな時、突如として校長室の方から声が響き渡った。
「やれやれ。大の大人が少女を泣かすとは、大人気ねぇにも程があるぜ!」
「舞ちゃんは私たちにとって大切な仲間! 仲間を虐める人は許さないよ!!」
「そうでございますことよ! わたくしたちの大事な舞を泣かしたら、許しませんわよ!!」
 声の主たちは、20代後半の成人男性に、同じく20代後半のポニーテールとショートカットの女性。そして10歳前後の少女という組み合わせだった。
「きっ、君たちはっ!? まさかこんなところで……」
 四人組の顔を見るや否や、赤坂さんの顔が豹変した。
「どうかしたんですか? 赤坂さん」
「まっ、間違いない! 彼女たちは行方不明とされていた梨花ちゃんの友達だ!!」
「なっ、何ですって!?」
 この四人組が雛見沢の関係者!? そんな彼等が何でこの学校にっ!?
「へぇ。私たちの顔を知ってるなんてただもんじゃないね。一体どこのどちら様?」
 赤坂さんの態度に臆することなく、ポニーテールの女性は赤坂さんの素性を訊ねた。
「僕は、公安の赤坂衛だ! 君と会うのは初めてだね、園崎詩音の双子の姉である園崎魅音さん」
「ああ、随分昔に詩音から名前を聞いたことがあるよ。確か犬飼大臣のお孫さんが誘拐された時、公安から派遣された刑事さんだっけ?」
「そこまで僕のことを知っているということは、やはりあの事件は園崎家が仕組んだのかい?」
「クックック。さぁて、どうだか?」
 赤坂さんの質問に、魅音さんは不敵な笑みを浮かべながら話を逸らした。『ひぐらしのなく頃に』寄ると、確かこの人が園崎家の時期頭首だっけ? 刑事である赤坂さんに一歩も怯まないその態度は、さすがは次期頭首だった女性の貫禄といったところか。
「それだけじゃなく、例の本の大石さんとの共著者だな」
「成程。それなら私たちの顔を知っていても不思議じゃないね」
「君たちは前原圭一君に、竜宮礼奈さんだね? 大石さんから君たちの話をよく聞いていたよ」
「それにしましても、独自の捜査で舞まで辿り着きましたとは。一介の刑事さんにしましては、なかなかの腕前ですわね」
「どう致しまして。しかし北条沙都子さん、君の姿は写真で見る小学生当時のままだ。本人ではなく瓜二つなお子さんという可能性もあるけど、事件当時の年齢から考えるとそれはあり得ない。
 となると、それも嘗て詩音さんが使っていた雛見沢に伝わる“鬼の力”の一種かい?」
「へぇ……。詩音がアンタに力を見せたのは子供の頃のはずだけど、まさか子供の戯言を真に受けたのかい?」
 鬼の力という言葉が出た途端、魅音さんが表情を変え、赤坂さんに詰め寄った。
「正直、力単体だけじゃ信じなかったさ。でも、もう一人の梨花ちゃんを目の当たりにした時、そういった不可思議現象は何もかも信じられるようになったんだ」
「もっ、もう一人の梨花ちゃんを知ってるだって!?」
「圭一くん、この赤坂さんって人、本で執筆したこと以上のところまで踏み込んでいるみたいだね」
「ああ、そのようだな……」
 そうして圭一さんと礼奈さんもまた、真剣な表情で相槌を打ち始めた。
「赤坂さん、アンタとは後でゆっくりとお話したいところだねぇ」
「僕としては今すぐ話したいところなんだけどね」
「こっちも本音はそうなんだけどねぇ。でも、おじさんたちには先にやらなきゃならないことがあってね。それが終わるまで待っててくれない?」
 魅音さんは赤坂さんに興味を持ちつつも、苦笑顔で平謝りした。この態度を見る限り、少しは赤坂さんを信頼できる相手だと認識したみたいだな。
「先にやらなくてはならないこと?」
「おっと! これ以上は機密事項に触れるから、簡単には話せねぇぜ!」
「機密事項とは一体なんなんだ? 行方不明である君たちがここにいることと関係しているのか?」
 途中で話を折ろうとする圭一さんに対し、赤坂さんは執拗に食いつく。相手から真相を聞き出すまで決して引かないこの姿勢。さすがは現役の刑事といったところだな。
「赤坂さん。もしこの先を聞きたかったなら、もう普通の暮らしはできなくなるかもしれない。それでも聞く?」
 話を聞いたらもう後戻りはできないと、礼奈さんは赤坂さんに忠告を促すように問い質した。
「そ、それは……」
 話を聞くにはそれ相応の覚悟がいる。そう言われると、赤坂さんは言葉を詰まらせた。
「聞きましょう、お父さん」
「みっ、美雪!」
 しかし、そんな赤坂さんの光明を開くかのように、美雪さんが口を開いた。
「お父さんは私のことを心配してるんでしょ? だったら私も一緒に聞けば問題ないでしょう?」
 お父さんと一緒なら日常に帰れなくてもいいと言わんばかりに、美雪さんはニッコリと微笑んだ。
「美雪……。分かった、話を聞こう!」
 覚悟を決めた赤坂さんは、ハッキリとした声で話を聞くと言い放った。
「いい娘さんを持ったね。ちょうどこれからそのことについて校長室で会議が催されるところなんだ。付いて来な!」
「ああ、分かった」
 そうして赤坂さんたちは、手招きする魅音さんに付き添い、校長室へと向かって行った。
「沙都子お姉ちゃん……やっぱり私も行く……」
 そんな時、校長室に向かおうとする沙都子さんに、姉さんが声をかけた。
「舞っ!?」
「お姉ちゃんたちから話を聞いた時、私は参加したくないと思った。もう私は力とかそんなこととは無縁でいたいから……」
「舞……」
「でもあの覚悟を決めた赤坂さんの態度を見て、思った……。あの人は強くお姉ちゃんと逢いたいと思っている。その先に引き返せない道が広がっていたとしても、真相を突き止めるっていう強い想いを感じた……。
 お姉ちゃんはもういない。だから代わりに私があの人の話を聞かなきゃって、そう思った……」
「私としましても舞は巻き込みたくないところですわ。でも、舞がそう決めたのなら、付いていらっしゃい」
「うん、お姉ちゃん……!」
 そうして姉さんもまた校長室に向かおうとした。
「祐一さん、あなたもいらっしゃい」
「えっ!?」
 突然沙都子さんから誘われたことに、私は戸惑いを隠せなかった。
「北川さんからお話は聞いておりましたわ。あなたもこの件には関わり合いがあるって」
「潤から聞いていた? まさかあなたたちはっ!?」
「ええあなたが思っている通りですわ。私たちが“鬼退治”の先遣隊でしてよ」



「……。以上が、今回起きた事件の概要じゃ」
 校長室で開かれた秘密裏の会議。冒頭幸村先生から事件の概要を聞いた先遣隊の四人と赤坂さんたちは複雑な表情をした。
「封印した悪霊が復活!? いや、梨花ちゃんの例もある。一応は信じられるか……」
 赤坂さんは話の内容を何とか理解しようとするものの、戸惑いは隠せないようだ。
「何だか複雑な気分。自分たちのご先祖様を退治しなくちゃならないなんて……」
 一方雛見沢出身である礼奈さんは、悪霊が雛見沢の祖先に当たる人だというのに複雑な心境を抱いていた。
「彼等はただ自分たちの土地を守りたくて戦っただけ。動機はダム闘争に身を投じた私たち雛見沢の人たちとまったく同じ。やれやれ、仕事とはいえ同情できる相手と戦うのは、おじさん気が引けるねぇ」
 例の本や赤坂さんの証言から察するに、魅音さんは幼い頃から雛見沢のダム闘争に身を投じていたのだろう。当事者だからこそ悪霊たちの気持ちが手に取るように分かり、あまり乗る気になれないのだろう。
「やる気がねぇんなら別に構わないぜ。俺らの学校は俺等が護る! アンタたちは悪霊退治用の兵器だけ差し出せばいい」
「言ってくれるじゃねぇか、團長さんよ! 悪りぃが素人のガキ共がいくら束になったって、悪霊退散なんざできやしねぇよ!」
 先遣隊を挑発する團長に対し、圭一さんも喧嘩を買うように挑発し返した。
「クックック。なかなか骨のある子たちじゃないの。おじさん気に入ったよ!」
 魅音さんは不敵な笑みを浮かべると、黒いアタッシュケースを取り出し、机の上に置き、中を開いた。
「これは……スカウター?」
 それはドラゴンボールの作中に出て来るスカウターを模したものだった。どんな超兵器が出て来るのかと思いきや、おもちゃが披露されたことに俺は拍子抜けしてしまった。
「概要は似たようなもんだね。ただこれは戦闘力じゃなくて、特異な電波を感知するもんだよ」
「特異な電波?」
「成程。ようは宮沢の能力を機械化したようなものか」
「どういうことです? 副團?」
 副團は魅音さんが取り出した装置を理解したようだけど、私はイマイチ理解できず、副團に聞き返してみた。
「以前言っただろ? 仮に霊が存在するとしても、それは原子や素粒子で構成されたものだって。つまりこの装置は、所謂“霊波”を探知するものというわけだ」
「あっ、成程」
 副團の説明で、ようやく私は理解することができた。
「ご名答! この装置は霊波――強い思念体――を感知する装置。アンタたちにはこれをつけて“悪霊退治”の手伝いをやってもらう」
「もっとも、いきなり使いこなせっていうのも酷だろう。だから俺たちがテメェラを訓練するために、先遣隊として招かれたんだよ」
「そういうわけで、明日は訓練を兼ねた“部活動”をやるよー!」
 圭一さんが訓練の話をすると、何の脈絡もなく魅音さんが“部活動”をやると宣言した。
「部活動? 何だそりゃ?」
「早い話、遊戯形式で装置の使い方を覚えていただくということでございますわ」
「遊びって言っても、私たちの“部活動”は真剣勝負だから、遊び気分で参加したら痛い目に遭うよ〜〜」
 潤の質問に沙都子さんと礼奈さんが答えた後、魅音さんが部活動の簡単な説明を行う。時間帯は明日の午後。場所は以前あゆや栞と行った例の公園のようだ。
「肝心の部活動の内容は……季節的に“無差別雪合戦”なんてのはどうだい?」
「無差別雪合戦?」
「ようは“雪を使用”すれば、何でもありな雪合戦ってこと」
 魅音さんは斉藤の質問に答えるように、違うアタッシュケースを取り出した。
「こいつは雪玉を発射できるライフル。言わば、ウォーターガンの改良版みたいなものだよ」
 魅音さんに寄れば、他にもロケットランチャー型の遊具もあり、明日はそれらを用いたサバイバルゲーム形式の部活動を行うという話だった。
「そんでもって雰囲気を出すために、明日はできるだけ大人数を集めてくれ!」
「大人数? 秘密裏の訓練を行うのに、人を集める必要があるの?」
「ああ! スカウターの方はともかく、雪玉を発射する遊具やらは、完全におもちゃだ。つまり、表向きは“玩具屋の新製品のテスト”を行うってわけだ」
「木の葉を隠すなら森の中という諺がございましょう? 秘密裏の訓練を行うより、完全な遊びをした方がカモフラージュになるということでございますわよ」
「もちろん、関係者以外にはおもちゃとして作られたスカウターを渡す。だから、何も問題はねぇぜ!」
 成程。確かに実際の戦闘場所が校舎内である以上、万が一に備え「夜中に以前公園でやった遊びをやった」というアリバイ作りは有効ということか。
「やれやれ。相変わらずじゃのう。じゃがこいつ等を鍛えるには有効な手段じゃ。お主たちの提案を承諾しよう」
 幸村先生は、先遣隊の四人に呆れつつも、ゲーム的感覚な訓練を行うことを承認した。
「うーし! そういうことなら俺は有紀寧を誘うぜ!」
「私は栞を連れて来ようかしら?」
「私は佐祐理を誘う……」
 人数を集める理由に納得したみんなは、それぞれ思い当たる人間の名を連ねた。さて、私は名雪やあゆを誘うのはいいとして、他には誰を誘うとしよう?



「雪合戦ですか? 面白そうです〜〜」
 帰宅後、私は古河パン屋へと赴き、渚ちゃんを雪合戦に誘ってみた。話をするや否や、渚ちゃんは笑顔で興味を示してくれた。
「ケッ! 雪合戦なんてくだらねぇぜ!」
 その話を横で聞いていた古河さんは、子供の遊びなんかに付き合っているかと言わんばかりに、煙草をふかしながら不機嫌な顔をした。
「でも雪合戦と言っても、新開発のおもちゃを使ったサバゲーみたいな感じですよ」
「なっ、なにぃ〜〜?」
 ゲームの主旨を詳しく話すと、古河さんが表情を変えた。
「そっ、それでも子供の遊びには変わりねぇ! 俺は絶対に参加しねぇぞ! 絶対にだ!!」
 こういう遊びには誰よりも興味を抱くと思ってたけど、予想に反して古河さんは乗る気じゃないようだ。
「うーん。興味はありますが、お父さんが参加しないとなると移動が厳しいので、参加できそうにないです」
 確かにここからあの公園まで徒歩で移動するのは、中学生の渚ちゃんには大変そうだもんな。
「それは残念だな。まあ、古河さんの気が変わったら遊びに来てみてよ」
「はい! その時は喜んで参加させていただきます!!」
 これで私は伝えることは伝えたと、古河パン屋を後にした。思えばこの時気付くべきだった。去り際古河さんが不敵な笑みを浮かべていたことを……。

…第四拾四話完


※後書き

 えー、何だかんだでまた4ヶ月以上間が空いてしまいました……。最近主活動がネットから同人に移行してますので、今後も更新は滞りがちになると思います。お楽しみにしている方には本当に申し訳ありません。
 さて、今回はついに雛見沢の部活動メンバーが登場しました。何故彼等が生きていて梨花ちゃんのみが死んだことになっているのか? その辺りは追々語ろうと思いますので、楽しみにしていてくださいです。

四拾五話へ


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