(も、もう少しでお姉ちゃんが来る……)
次の日、ぼくは待ち合わせ場所でお姉ちゃんが来るのをドキドキしながらまっていたんだ。約束の時間は10時で、待ち合わせ場所は駅前のベンチ。ぼくはお姉ちゃんを待たせたくないと思って、30分前に待ち合わせ場所に行ったんだ。
「お待たせ、祐一!」
そしてお姉ちゃんは、10時チョッと前に待ち合わせ場所に来たんだ。
「ひさしぶり、お姉ちゃん……って、ええっ!?」
ぼくはお姉ちゃんの声のするほうを向いたんだ。そしたらそこには、巫女さんの恰好をしたお姉ちゃんがいたんだ。
「この巫女服、死んだお姉ちゃんのお下がりなんだけど、どうかな、祐一?」
「ど、どうかなって聞かれても……う〜〜」
何だろう、お姉ちゃんの巫女服姿はカワイイっていうか神秘的って言うか、とにかくいつものお姉ちゃんとあまりにふんいきが違って、ぼくは目のやり場に困ったんだ。
「をっほっほっほ! 舞花の巫女服姿に、祐一さんもメロメロのご様子でございますわね〜〜」
そんな時、ぼくをからかうような女の子の声が聞こえて来たんだ。
「お姉ちゃん、誰あの人?」
「うん、この人が昨日話してた、お姉ちゃんの友達だった人よ」
「ご挨拶が遅れましてよ。私は北条沙都子と申します。初めまして、相沢祐一さん」
「うん、初めまして沙都子さん」
僕は沙都子さんに返すようにあいさつしたんだ。沙都子さんは亡くなったっていう舞お姉ちゃんのお姉ちゃんの友達だって話だけど、その割には身長がぼくと変わらないくらいだなぁ〜〜。中学生くらいの人だと思ってたけど、どう見ても小学生にしか見えないし。
ひょっとして舞お姉ちゃんのお姉ちゃんの友達じゃなく、舞お姉ちゃんの友達という意味なのかな?
「ほら、真琴、お姉ちゃんが来たぞ!」
ぼくは沙都子さんにあいさつし終わったら、寒くならないようにってジャンバーの中に隠していた真琴をお姉ちゃんに見せたんだ。
「あうーっ!」
「カワイイ狐〜〜。お名前は真琴って言うの?」
「うん! さわた……じゃなくて、真琴。道で倒れてケガしてたからかわいそうだと思って家に持ち帰って育ててるんだ」
「へぇ〜〜。優しいね、祐一は」
「へへっ……」
お姉ちゃんにほめられて、何だかぼくはうれしかったんだ。でも、真琴の名前がお姉ちゃんの昔の名前を元にしてるっていうのははずかしくて言えなかったんだ。
「私もね、祐一に見せたいものがあるんだ」
そう言ってお姉ちゃんは、沙都子さんの持っているバッグからゲッターロボ號を取り出したんだ。
「電話で言ってたチェンジゲッター、今見せてあげる」
「えっ、ホント!? うわ〜〜い、見せて見せて」
「うん! 祐一のためにがんばってできるようになったんだよ。だから、ちゃんと見てね」
そうしてお姉ちゃんは、地面に3機にバラバラになったゲットマシンを置いて、しゃがんで両手をゲットマシンの前にかざしたんだ。
「行くよ……チェーンジゲッター號!」
お姉ちゃんの掛け声と共に宙を舞うゲットマシン。3機のゲットマシンがそれぞれ別々に動いて合体し、そしてゲッターロボ號の姿になったんだ!
「わ〜〜! スゴイスゴイ!!」
「続けていくよ! オープンゲット! チェーンジゲッター翔!! オープンゲット! チェーンジゲッター剴!!」
そうしてお姉ちゃんは続けて翔、凱へのチェンジゲッターをしたんだ! テレビアニメの変形合体シーンそのものに再現されてて、ぼくは目を離さずに最後まで見続けたんだ。
「とってもスゴかったよ、お姉ちゃん!」
「ありがとう祐一。でも、これだけじゃないよ?」
「えっ!? まだ何かあるの?」
「うん……。祐一、これが何だか分かるかな?」
そう言ってお姉ちゃんは、背中から両刃の剣を取り出したんだ。
「あっ、それってぼくが去年お姉ちゃんの10歳の誕生日プレゼントにあげた剣だよね?」
「うん、そうだよ。去年に祐一から誕生日プレゼントでもらってからずっと、この剣を祐一だと思って肌身離さず持っていたんだよ……」
あの剣はぼくがお姉ちゃんの誕生日にって、ジョジョ第一部のブラフォードの幸運と勇気の剣を真似て型を作った剣なんだ。ぼくは紙粘土で型を作っただけで、剣そのものを鋳造したのはお母さんの知り合いの人だけど。
「祐一、去年この剣を私にくれた時言ってたよね? この剣を使ってジョナサンが波紋を送る動作の真似みたいなのができないかって」
「うん、言ったよ」
「それでね、原作のシーンの再現とかはできないけど、似たようなことはできるようになったんだよ」
「えっ!? ホントにっ!」
剣なんて女の子に似合わないプレゼントをぼくがしたのは、お姉ちゃんにジョジョのシーンを再現して欲しかったからなんだ。そしてお姉ちゃんはぼくの期待通りのことをしようとしてくれる。それはチェンジゲッター以上にぼくがのぞんでいたことで、さっきからぼくの心臓はドキドキしてバクンバクンと大きな音を鳴らし続けていたんだ。
「……」
お姉ちゃんがジッとしながら剣を構えたんだ。いつもより真剣な表情をするお姉ちゃん。巫女服姿であることがより神々しさを演出してて、ぼくは一体これから何が始まるのか楽しみで仕方なかったんだ。
「舞花、そろそろ行きますわよ!」
「うん……! いいよ、沙都子お姉ちゃん」
沙都子さんは舞お姉ちゃんの許可を取ると、ボーリング玉みたいに大きな鉄の玉をバッグから取り出したんだ。
「何? 何? 一体何が始まるの!?」
「行きますわよ、舞花!」
そして沙都子さんは、取り出した鉄玉をお姉ちゃんの方へ投げ出したんだ!
「わっ、お、お姉ちゃんあぶない!」
ぼくはお姉ちゃんにあぶないって声をかけたんだ。でも、お姉ちゃんはよけようとしないで、ジッと立ったままだったんだ。
「鋼を伝わる波紋疾走……! 銀色の波紋疾走!!」
舞お姉ちゃんは、構えた剣を向かってくる鉄玉に振り下ろしたんだ。そしたら剣先が鉄玉に触れた瞬間に、鉄玉が粉々に砕け散ったんだ……。
「……」
「どう? スゴイでしょ、祐一?」
「……う、うん。スゴイよ、あまりにスゴくて言葉も出ないよ……」
お世辞じゃなくて本当にスゴイよ、真っ二つになるどころか粉々に砕け散るだなんて……。ひょっとして鉄の玉だと思っていたのは、もっとやわらかい物だったのかな? ううん、例え鉄よりやわらかい物でも、あそこまで粉々にはならないよ……。
「今のは力の応用。この剣に力を込めて破壊力を高めたんだよ」
「へぇ、本当にスゴイやお姉ちゃんは……。ぼくなんてまだ人形さえ動かすことできないのに……」
お姉ちゃんに会った時からずっと、ぼくはお姉ちゃんあこがれてお姉ちゃんのマネがしたくて、手を触れずに人形を動かす練習を何度もしたんだ。でも、ぼくが手をかざしても人形はピクリとも動かなかったんだ。
「やっぱり、ぼくには力がないのかな……」
「ううん。祐一にだって潜在的な力はあると思う。さっきの私みたく鉄の玉を粉々にするのは難しいと思うけど、人形を動かすことくらいはできるようになると思うよ」
「えっ? 本当に!?」
「うん。だけどね、うまく力を発動させたかったら、強い想いを持たなきゃダメなの」
「強い想い……?」
「うん、そう。例えば私はね、祐一に喜んでもらいたいって一心でここまで力を強められたんだよ」
えっ!? たったそれだけの想いで、お姉ちゃんはこんなにスゴイことできるようになったの!? やっぱりお姉ちゃんにはかなわないなぁ……。
「祐一はどうして力を強めたいの?」
「えっとそれは……ぼくもお姉ちゃんみたくなりたいから!」
「その気持ちはうれしいけど、でも、それじゃまだ弱いな。いい? 力を強めたかったら、自分のためじゃなく誰かのためにって想えばいいの」
「誰かのため?」
「そう。誰かのために力を持ちたい、強めたいって心の底から想えば、きっと祐一にも力が使えるはず。祐一にはいる? 自分ががんばりたいって思えるくらい大切な人が?」
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第参拾四話「想いという名の贈り物」
自分ががんばりたいって思えるくらい大切な人か。お姉ちゃんはぼくにとってあこがれの人ではあるけど、でもがんばりたいって思える大切な人じゃない。
ぼくにとってがんばりたいと思える大切な人。それはまだ自信を持っては言えないけど、多分それはあゆちゃんじゃないかな? 実際に今人形を取ろうとがんばろうとしているし。
「そうだ! 人形だ、人形を取らないと!」
お姉ちゃんのショーに夢中になっていてすっかり忘れていたけど、そもそも今日はあゆちゃんのために人形を取るのが目的だった。ぼくは急いでお姉ちゃんたちを連れ、クレーンゲームのあるゲーセンに向かったんだ。
「ねえ? やっぱりお姉ちゃんが取ってくれないかな?」
ぼくはクレーンゲームを前にして、改めてお姉ちゃんにお願いしたんだ。さっきのショーを見てもわかるように、お姉ちゃんの超能力は去年よりもずっと強くなっている。そんなお姉ちゃんなら一発で取れるだろうなぁって。
「何度も言うけど、それはダメ。私が取ったら、プレゼントの意味がないよ」
「それはそうだけど……」
「私が取ったら、その人形に祐一の気持ちはあるの?」
「ぼくの気持ち?」
「そう。例えば去年の誕生日にくれたこの剣。この剣は祐一が全部作ったものじゃないよね?」
「うん。ぼくは紙粘土で型を作っただけで」
「けど、この剣には祐一の私に対する気持ちが込められている。だから例え祐一が全部作ったものじゃないけど、間違いなく祐一からもらったプレゼントだって言える。
それと同じこと。祐一が取ろうとしている人形も祐一が作った人形じゃないけど、人形を取ってあゆちゃんを喜ばせたいっていう祐一の気持ちが込められている。だから、それは祐一からのプレゼントだって言える。
でもね、ここでもし私が取っちゃったら、人形に込められた祐一の気持ちはものすごく小さいものになっちゃう。そんな人形をもらっても、あゆちゃんはうれしくないと思うよ?」
「うん、そうだよね……。ぼく、ちょっとお姉ちゃんに甘えたかったのかもしれない。ぼく、がんばるよ! がんばって人形を取ってあゆちゃんを喜ばせてあげるんだ!!」
「うん、がんばれ、祐一!」
そう言ってお姉ちゃんはぼくの手を柔らかくて温かい手で包んでくれたんだ。お姉ちゃんのがんばれって気持ちが手から手へと伝わって、ぼくはすごく勇気づけられたんだ。よ〜し、がんばるぞ! 応援してくれるお姉ちゃんのために! そして何よりあゆちゃんのために!!
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「最初に言っておくけど、私が貸せるのは1,000円までだよ」
「え〜〜!? たったそれだけ〜〜」
そう言ってゲームが始まる前にお姉ちゃんが渡してくれたお金は1,000円だけだった。昨日2,000円ちかく使っても取れなかったのに、たった1,000円じゃどうがんばっても取れないよ。
「何円も貸しちゃったらいくら失敗しても大丈夫だからって思って、気持ちが緩んでいくらやっても取れないと思う。だから、予め金額を決めて取った方がいいと思うの」
「う〜〜ん、そうだけど……」
「大丈夫、祐一にはできるよ。焦らず集中すれば絶対に」
「あせらずに集中すれば……」
そういえば昨日はあゆちゃんのためにって思うあまりあせってたな。今日はお姉ちゃんに迷惑をかけないためにも冷静な気持ちでゲームをやらなきゃ。
「ようし、がんばるぞ〜〜!」
そうして、ぼくはお姉ちゃんから借りたお金を入れてゲームを始めたんだ。まず一回目、人形の頭の部分をつかもうとしたけど、上手くつかめなくて失敗したんだ。二回目も頭をつかもうとしたんだけど、上手くつかめなかったんだ。三回目はちょっと作戦を変えて、胴体部分をつかもうとしたんだけど、上手くつかめなかったんだ。
(う〜〜ん、どうやってつかまえよう……)
ここであと7回できると思っちゃいけない。そう思ったらきっと7回やっても取れないだろう。冷静に慎重に次の一回で取れるようがんらなきゃ!
天使の人形は他にもあるし、取りやすい物に目標を変えようか? ううん、それはダメだ。だって今取ろうとしているのはあゆちゃんが指差した人形なんだ。だから、これじゃなきゃダメなんだ! デザインが同じだって、これじゃなきゃダメなんだ!!
(ゼッタイ、取る! ゼッタイ次で取るんだ!!)
あゆちゃんを喜ばせるために、あゆちゃんの笑顔を見るために何としてでも取らなきゃダメなんだ! ぼくはそう思って四回目に挑戦したんだ。
(えっ……!?)
そう思ったら、何だかフシギな気分になったんだ。まるでクレーンゲームが自分の手足になったような不思議な気分に。
「っ!? 舞花、まさか祐一さんにも力がっ!?」
「しっ! 沙都子お姉ちゃん、今は黙って見てて」
後ろから舞お姉ちゃんたちが喋っている声が聞こえたけど、ぼくは気にしないでクレーンゲームを操作したんだ。そしたら、今まで苦労していたのがウソみたいに、アームがガッシリと人形をつかんで、そして、人形が取り出し口に落ちたんだ。
「やった……! 取れたよ、ぼく、天使の人形、取れたよ!!」
ようやく取れた! あゆちゃんが心から欲しがっていた天使の人形を!! 苦労の末に人形を取れたことが、何よりあゆちゃんとの約束を守れたことがうれしくて、ぼくは大きな声でよろこんだんだ。
「おめでとう、祐一」
「うん、これも全部お姉ちゃんのおかげだよ! ありがとう、お姉ちゃん。ぼく、さっそくあゆちゃんに天使の人形を渡してくるね!!」
あゆちゃん、今日は確かたい焼き屋おじさんの所にいるって話だった。だからぼくはお姉ちゃんにお礼の声をかけたら、真っ先にあゆちゃんのところへ走って行ったんだ。
「舞花、確かに祐一さん、先程“力”を使いましたわよね?」
「うん。“力”で人形を取ったんじゃなくて、“力”で機械のほうを操ったようだけど。でも、祐一もようやく力が使えるようになって嬉しい」
「“想いの強さ”がなせる業ですわね。その点で言えば舞花も格段に“力”を強めましたわね。古手神社に伝わる、最初にオヤシロさまが宿った古手桜花が古代の有機合金ヒヒイロカネで鋳造した宝剣、鬼刈柳桜を元に造られた剣を、あそこまで使いこなせるのですから。
力のコントロールでは詩音さんに、武器の扱いではレナさんに遠く及びませんが、僅か10歳でそこまでできるのは大したものですわ」
「それを言うのなら、沙都子お姉ちゃんもその姿、苦しくないの?」
「をっほっほっほ。普段からこの姿でいることを心掛けておりますから、問題ありませんわ。なまじ鷹野さんたちに容姿が知れ渡っていますので、こちらの姿の方が何かと好都合ですのよ」
「鷹野さんに犬飼さん、あの人たちの名前はぜったいに忘れないよ! お姉ちゃんはあの人たちから私やみんなを守るために死んだんだから……!
……もう、10歳じゃなくなるんだよね。あと数週間であの時のお姉ちゃんより年上になってしまうんだよね……」
「そうですわね……。今の巫女服姿の舞花は、あの頃の梨花を思い出しますわ。そしてこれからの舞花の姿は、成長した梨花の姿を想像させるものになる。それは楽しみである反面、複雑な思いになりますわ……。
それよりも、舞花はよろしいんですの? 祐一さんの心が舞花以外の女の子に向かってもよろしいんですの?」
「うん。だって、祐一があゆちゃんを好きになるのは、多分運命だと思うから。祐一とあゆちゃんの繋がりが、お姉ちゃんが私たちに託した約束を果たすことにも繋がると思うし。
それに、私は今でも祐一にとって大切なお姉ちゃんであることに変わりはないから。祐一の大好きなお姉ちゃんでいられることが私の幸せだから。だから、私はこれでいいの……」
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「あゆちゃん、あゆちゃん!」
ぼくはあゆちゃんの名前を叫びながら、たい焼き屋のおじさんのお店に入っていったんだ。
「何だ何だ小僧! 鮎鮎って、ウチは魚屋じゃねぇぞ!! 鮎が欲しいんなら、商店街をまっすぐ行った先の魚屋へ行きやがれ!」
「お魚の鮎じゃなくて、月宮あゆちゃんのことだよ。今日はたい焼き屋のおじさんの所にいるって聞いて来たんだけど」
「ああなんだ、そっちのあゆか。あゆなら奥の部屋で水瀬さん家の娘さんと一緒に、早苗に教えられながら冬休みの宿題やってるよ」
「奥の部屋だね、ありがとうおじさん」
僕はおじさんにお礼の言葉を言って奥の部屋へと行ったんだ。
「いい? あゆちゃん。この問題はこう解いて……」
「ふ〜〜ん、なるほど……」
部屋に近付くと、名雪があゆちゃんに問題の解き方を教えている声が聞こえたんだ。何だろう、名雪が他の人に教えている姿って何だか新鮮に感じる。名雪って、そういう面倒見のいい一面も持ってたんだな〜〜。
「あのぉ、失礼します」
ぼくは勉強している二人のジャマにならない小さな声でしゃべりながら、部屋の中へと入っていったんだ。
「いらっしゃい。あら? あなたはこの間の男の子ね。何の用かしら?」
部屋の中に入ると、この間お店で店番をしていたお姉さんが声をかけてきたんだ。
「あの、ぼく相沢祐一って言って、あゆちゃんがここにいるからって聞いて来たんだ」
「あら、君が相沢祐一君だったのね。あゆちゃんから名前は聞いてるわ」
お姉さんはあゆちゃんから僕の名前を聞いていたようで、ぼくが祐一だと分かると、ニッコリと笑ってくれたんだ。
「あっ、こんにちは、祐一くん」
「こんにちは、あゆちゃん」
「あれっ、祐一? 何しに来たの?」
あゆちゃんにあいさつしたら、名雪が不思議そうな顔で声をかけてきたんだ。
「名雪こそ、こんな所で何してるんだよ?」
「わたしはあゆちゃんと一緒に勉強してるんだよ。あゆちゃんはわたしの大事な友達で、仲良くなってからはよく一緒に勉強してるんだよ」
へぇ〜〜、あゆちゃんと名雪って友達だったのか。
「それよりも、あゆちゃんと祐一って知り合いだったの?」
「ああ。色々あって知り合いになったんだ」
「それで祐一くん、ボクに何の用なのかな?」
「エヘヘッ、それはね……ジャーン!」
ぼくはもったいぶりながら、あゆちゃんに天使の人形を見せたんだ。
「あっ……! それは天使さんのお人形!! 祐一くん、取って来てくれたの!?」
「ああ! あゆちゃんのためにガンバって取って来たんだ」
そう言ってぼくはあゆちゃんに天使の人形を渡したんだ。
「ありがとう、祐一くん……」
あゆちゃんは天使の人形を受け取ると、少し涙ぐんだ目で喜んでくれたんだ。ぼくはそんなあゆちゃんの笑顔が見れてとってもうれしかったんだ。
ガシャン!
そんな時、机の上から何かが落ちる音がしたんだ。音のした方に目を向けたら、そこには名雪の筆箱が転がっていたんだ。
「ウソ……だよね? その天使さんの人形があゆちゃんへのプレゼントだなんて、ウソだよね……?」
「何言ってんだ、名雪? この人形は間違いなくぼくがあゆちゃんのために取ったものだぞ!」
ひょっとして名雪はこの人形はぼくが取ったものじゃないって疑ってるのかな。確かにお姉ちゃんに取ってもらおうとしたことは認めるけど、でもこの天使の人形は正真正銘ぼくが取ったものだぞ!
「名雪さん、どうかしたの?」
「っ……!? う、ううん、ちょっと立ちくらみをしただけ。ちょっと気分が悪くなったから今日はもう帰るね……。さよなら、あゆちゃん」
そして名雪はオドオドとした手つきで落ちた筆箱を拾って、元気のない声で家に帰ってたんだ。
「名雪さん、大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だって。せっかくあゆちゃんのために人形を取ってきたんだから、名雪の心配するよりも、もっと喜んでよ」
「う、うんそうだよね。本当にありがとう、祐一くん。ずっと…、ずっと大事にするよ」
そうしてあゆちゃんは人形を抱きかかえながらうっすらと目をつむり、優しい顔で微笑んでくれたんだ。
「祐一くん、人形のお返しをしたいんだけど、何がいいかな?」
「そんな、お返しなんていらないよ」
「でも、それじゃ祐一くんに申し訳ないよ……。そうだ! それなら祐一くん、お返しをあげる代わりにボクのとっておきの場所に案内するっていうのはどうかな?」
「とっておきの場所?」
「うん、ボクのお父さんとお母さんが初めて会った、ボクにとっても大切な場所に!」
とっておきの場所か。それならあゆちゃんから物をもらうわけじゃないし、悪くはないな。
「うん、それでいいよ」
「きーまりっ! じゃあいっしょに行こっ、祐一くん!」
「えっ!? 今から!」
「うん! だって、祐一くんからこの人形をもらったこと、そして祐一くんのことをお母さんに紹介したいから!」
そうしてぼくはあゆちゃんに引っ張られながら、あゆちゃんのとっておきの場所に招かれて行ったんだ。
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「秋生さん、あゆちゃんが祐一さんと一緒に飛び出して行ったんですけど、とっておきの場所ってどこなんでしょうね?」
「とっておきの場所か。そりゃ、間違いなくあそこだわな」
「秋生さんはご存知なんですか?」
「ああ、あそこは俺にとっても大切な場所だからな……。病気の渚を抱えながら最後の神頼みにって駆けて行った……」
「ああ、あなたが以前話したあの場所ですね」
「そうだ。俺がこの世で最も尊敬していたあの人と出会った、俺にとっても大切な……」
…第参拾四話完
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※後書き
予想通りというか何というか、やっぱり書き切れなかったです(苦笑)。そういう訳で折り返しは次回へ持越しです。次こそは正真正銘折り返しの回です。
さて、今回は舞の持っている剣が祐一からプレゼントでもらった剣であるのに加え、トンデモ金属で造られたものであることが判明しました(笑)。当初の予定ですとオリハルコン製の剣という設定だったのですが、オリハルコンの詳細を調べている過程で、日本にもオリハルコンと同質の架空の金属があることを知ったので、そっちに設定を変えました。
あと今回は中盤のクライマックスに差し掛かったということで、今までぼやかしていた設定をちょっとずつ出しました。とりあえず作品の背景にいる敵組織がどういった人物で構成されているかは、うっすらを判明させました。まあ、この作品で敵組織は間接的にしか関与せず、本格的な活躍は構想を練っている続編となりそうですが。 |
参拾五話へ
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