「えっ、ええ〜〜!? ぼ、僕と月宮さんが、で、デェェト!?」
 昼食後、赤坂さんが訪れる2時前までの僅かな時間を利用し、俺と名雪は達矢の元にデートの詳細を伝えに行った。デートの話を持ちかけた途端、達矢は顔を真っ赤にしながら呂律の回らない興奮した声で叫んだ。まったく、本当に分かりやすい態度を取る奴だな、達矢は。
「ああ、建前上はあくまで四人で遊びに行くという計画だが、その実はお前とあゆを結び付けるためのデートだ! 感謝するんだぞ、達矢。ウブなお前じゃあゆに自分から声をかけることさえ成し難いと心配した名雪が、わざわざお前の恋のキューピット役を買ってでたんだからな」
「う、うん、ありがとう、なゆちゃん」
「どう致しましてだよ」
「それで、明後日はどこに行く予定なの?」
「ああ、それに関してだが……“遠野”なんかどうだろうと思う」
 午前中、俺は考えた。デートとバレずに且つ二人の関係を深められる場所はどこがいいかと。まず、映画館や遊園地といったオーソドックスなところはダメだ。そんな所に行けばいくらあのあゆとはいえデートだということに気付くかもしれない。
 となると、デート場所としては近場の観光スポットが適切となる。水瀬市近郊の観光スポットといえば、江刺の藤原の郷、平泉、そして遠野などが挙げられる。この内藤原の郷は撮影スタジオという感が強く、あんまりデート場所に最適な場所とは言えない。そうなれば、残るのは平泉と遠野のどちらかだ。
 その二点に対象を絞ってから名雪に相談すると、平泉は研修旅行で行ったことがあり新鮮味がないから、遠野がいいのではないかとの話になり、最終的に遠野に決定した。
「遠野か、僕も行ったことないな」
「そうか、なら遠野で決定だな!」
 こうして、達矢とあゆを結ばせるデート計画は、遠野に行くことが決定した。



第参拾弐話「赤坂来訪」


(そろそろ着く頃かな……)
 俺は達矢の家から戻ると、その後は居間で父さんたちの到着を待った。父さんたちと一緒に来る赤坂という人。「ひぐらしのなく頃に」の著者である彼は、一体どんな人なのだろう?
「すみません、お邪魔します」
 午後の2時を回った頃、水瀬家の玄関にピーンポーンというベルと共に、若い男の声が響き渡った。
「はい、今行きます」
 その音と声に反応し、秋子さんが玄関へと向かう。俺も直に父さんらを出迎えようと秋子さんの後を追った。
「どうも初めまして。相沢隆一先生の公設第一秘書を務めています橘敬介と申します。以後、お見知りおきを」
 玄関先に立ち丁寧な挨拶をしたのは、父さんの秘書である橘さんだった。俺自身は何度か会ったことがあるけど、水瀬家を訪れるのは初めてのはずだ。
「あらあら、わざわざ丁寧な挨拶どうもありがとうございます。それで、お義兄さんとお義姉さんは?」
「はい、それが……」
「おう、久し振りだな、秋子さん! しばらぐみねぇうぢに、ずいぶんとめんけぇい人になったな!!」
 苦笑する橘さんを尻目に、豪快な訛り声で玄関先へと顔を出して来る父さん。父さんが姿を現した途端、周囲に酒の匂いが蔓延する。まったく、長距離移動をいいことに朝っぱらから飲んでたな父さん。これでも新自由党の有力議員に名を連ねているんだから、息子である俺でさえ本当に信じられない。
「まったく、挨拶くらいちゃんとなさい、あなた!」
 そして父さんを叱責する形で母さんが家の中に入って来た。
「すまないわね、秋子さん。せっかく出迎えてもらったのに、主人がへべれけで」
「いえいえ。お義兄さんもお義姉さんもお変わりなくて何よりですわ」
 常人なら避けたくなるような父さんの飲んだくれ具合を、秋子さんは笑顔で返した。よく覚えていないけど、父さんはこっちに来る度いつも飲んでいて、秋子さんはその相手をしてたんだろうな。
「祐一、一週間振りね。その顔だとホームシックにかからずに何とか元気にやっているようね」
「当たり前だろ。母さんこそ俺がいなくなって寂しかったんじゃないか?」
「まさか。可愛い子には旅させろって言うし、祐一がいなくなって少し肩の荷が下りたくらいだわ」
 玄関先で軽く交わす母さんとの会話。こっちに来てからほとんど連絡取ってなかったけど、こうやってさり気なく馬鹿話をすると何だか気分が落ち着くな。
「で、一緒に来た赤坂さんっていう人は?」
「ああ、その人なら。入ってらっしゃい」
「はい! ではお言葉に甘えまして……」
(えっ!?)
 母さんの呼びかけで家に入って来た赤坂さん。俺はその姿を見て自分の目を疑った。
「初めまして、祐一さん。東京の方から訪れました赤坂と申します。以後お見知りおきを」
 礼儀正しく挨拶を行った赤坂さんは、細身でショートカットで、奥深しい外見とキリっとした眼光を兼ね備えた女性だった。てっきり俺は赤坂さんは男の人だと思っていたのだが。いや、それよりも……。
(ま、舞先輩っ!?)
 そう、赤坂さんの容姿は舞先輩に酷似していた。舞先輩の髪を短くし、大人びさせた姿がそこにはあった。彼女が先輩の話にある亡き姉ではないかと思えるくらいに……。
「ふふっ、どうかしましたか? 私の顔に何かついてますか?」
「えっ? いや、そのっ……」
 俺の一瞬の動揺を突くように赤坂さんが近付き、視線を合わせて来た。俺は舞先輩似の顔を直視するのが恥ずかしくて、つい目を逸らせてしまう。
「どうしたんですか? さっきからずっと視線を逸らしたままで?」
「あ〜いやその、し、知り合いに顔が似ててさ。それで何というかその……」
「ふふっ。ひょっとして祐一さんの初恋の人に顔が似ていましたか?」
「あっ、いや、そんなんじゃなくて、“衛”って名前から男の人想像してたんだけど、まさか赤坂さんがこんな綺麗な女性の方だと思わなくって、つい……」
 何だか舞先輩に似ていたからと直接言うのが恥ずかしくて、俺は適当に言葉をつくろってごまかした。赤坂さんを男だと思ってたのは事実だし、嘘は言ってないな一応。
「よく言われます、男みたいな名前だって。でも“衛”って名前の女の子がいても不思議じゃないし、第一ペンネームで男を装うことも可能ですよ」
「い、いやそれはそうだけど……」
 でも、あの文章はどうみても女の人が書いたようには見えなかったけど。そこまで徹底して男を演じて書いたというのなら凄いとしか言いようがない。
美雪みゆき、そのくらいにしておきなさい。祐一君が困ってるじゃないか」
「えっ!?」
 そんな時だった。赤坂さんを咎めるように、紳士風の顔には不釣合いなガッシリとした体格の40過ぎの男の人が家の中に入って来た。
「はぁい、お父さん」
「ははっ、すまないね祐一君。つい娘の悪戯心に付き合ってしまって」
「えっ? 娘!? ってことはもしかして……」
「ああ、察しの通り僕が正真正銘の赤坂衛だ」
「そして改めまして。私が赤坂刑事の娘の美雪です。ごめんなさいね、ちょっとからかったりしちゃって」
「あ、ははっ、あはははっ……」
 何だ、そういうことか。今の今までのは全部演技で俺をからかっていただけか。冷静に考えれば『ひぐらしのなく頃に』の著者経歴から察するに赤坂さんは40過ぎの人だった。例え女の人でもここまで若いはずはない。俺はあまりに美雪さんが舞先輩に酷似していたことに動揺し、冷静な判断ができなくなっていたようだ。
「ガッハッハッハ! ながなが傑作だったぞ、祐一!! さぁ、久々の再会祝して、飲むべ、飲むべ!」
「父さん、俺まだ未成年なんだけど……」
「気にすんな、気にすんな。ほれ、赤坂のダンナも一緒に飲むべ!」
「いや、ははっ、僕も一応警官ですし、未成年の飲酒はあんまりお勧めできないんですが、まあ大目に見るとしましょう」
 などと、警官らしからぬ発言をする赤坂さんを交えての酒宴が催されることになったのだった。しかし父さん、車中でも飲んだくれだったみたいなのに、まだ飲む気なのか……。



 父さんのノリと勢いで始まった水瀬家での宴会。宴会と言ってもお酒を飲んでいるのは父さんだけで、あとのみんなはジュースやらお茶やらで付き合ってる状況だ。
「へぇ、旅行を兼ねて娘さんとご一緒に?」
「ええ。仕事に追われていて今まで娘と一緒に旅行に行ったことがなかったので、せっかく遠方に行くことになったから連れて来たんですよ」
 宴会の最中、どうして娘さんと一緒に来たのか訊ねたら、赤坂さんはそう快く応えてくれた。
「ところで、奥さんは?」
 娘と一緒に来るくらいなら、普通は奥さんも一緒に来るはずだ。それなのに同行していないところを見ると、奥さんは仕事が忙しいのか、それとも……。
「妻は……娘が生まれた時に亡くなりました」
「そうですか……。すみません、余計なことを聞いてしまって」
 俺は会話の流れで気まずいことを訊ねてしまったことを謝罪した。
「いえいえ。妻に先立たれて娘と二人暮らしなのですが、先述のように仕事が忙しくて普段も娘と一緒に過ごせる時間が限られていまして。ですから、今まで1人寂しくしていたお詫びに、今回同行させたわけです」
「もっとも、私自身は寂しいって感じたことないですけどね。お父さんが大切な人との約束を果たすために仕事に邁進してるのは小さい頃から分かってましたし。それでも、こうして一緒に旅行できるのはとっても楽しいですけど」
 そう言いながら、美雪さんは冗談っぽく赤坂さんの腕に抱き付いた。
「こ、こらっ、美雪、皆さんの前で」
 最愛の娘さんに腕組みされて、赤坂さんはあたふたと動揺した。何だかその光景がとても微笑ましく映って、俺は悪い気がしなかった。例え母親がいなくても家族として十分やっていける。二人の円満な雰囲気からは、母親のいない辛さや悲しさは微塵も感じられなかった。
「ははっ、仲がよろしくて羨ましいものです。僕もいつかは娘と一緒に旅行でもしたいと思ってるのですが、なかなか時間がなくて……」
 赤坂さんの話に頷きつつ、橘さんが苦笑顔で呟いた。
「橘さん、娘さんはおいくつで?」
「はい、15歳で名前は観鈴みすず。今年の春で晴れて高校生になります」
 赤坂さんの問いに、橘さんは娘さんの名前も含めて答えた。俺自身は一回も会ったことないけど、何回か橘さんから娘さんの話は聞いている。何でも記憶力が抜群で、暗記科目系のテストの成績は並外れているらしい。その分、応用力の要求される科目は苦手だとか何とか。
「観鈴さんですか、なかなか良い名前ですね。しかし、生まれたのが15年前となると、あの災害が起きて間もない頃ですね……」
 15年前という言葉に、敏感に反応する赤坂さん。その理由は何となく分かる。15年前といえばあの雛見沢大災害が起きた年だ。長年事件の真相を追っている赤坂さんとしては、15年前の昭和58年は特別な意味を持った年なのだろう。
「さて、縁もたけなわになってきたことですしそろそろ本題に入りたいと思います。こちらでお預かりしている“沢渡さん”という方に会わせていただけませんか?」
 15年前の話題に合わせるかのように、赤坂さんが本題を切り出してきた。そうだった、娘さんの話で盛り上がっていたが、そもそも赤坂さんが水瀬家を訪れたのは、真琴が15年前の事件の関係者かどうか確かめるためだ。
「真琴は上の部屋にいます。俺が案内しますよ」
 いきなり見ず知らずの人を紹介したら真琴は怖がるかもしれない。だから真琴が一番親しく接している俺が側にいてやらなくてはならないだろう。俺は赤坂さんと美雪さんを連れ、真琴の部屋へと向かって行った。



「真琴〜〜、入っていいか〜〜?」
 2階に着くと、俺は真琴の部屋の前で中に入っていいかどうか訊ねた。
「あう、祐一? いいよ〜〜」
 俺は真琴の許可を得て部屋の中に入って行った。
「何? 何? 面白い漫画でも貸してくれるの?」
「いや、本を貸しに来たんじゃなく、真琴に会わせたい人がいるんだ」
「真琴に会わせたい人?」
「ああ、入って来てください、赤坂さん」
「ああ」
 俺が声をかけると、赤坂さんが真琴の部屋に入って来た。
「あぅ、誰? このおじさん?」
 真琴は見知らぬ人が入って来たことにキョトンとした顔で反応した。
「初めまして、真琴ちゃん。いきなりで申し訳ないけど、君にお姉さんはいるかな?」
「お姉さん? 名雪さんのこと?」
「いや、そうじゃなくて、君と血の繋がったお姉さんはいるかな?」
「あう?」
 真琴は赤坂さんの質問の趣旨がよく分からないようで、終始キョトンとした顔を続けた。
「お父さん、この感じだと真琴ちゃんは無関係だと思うよ」
「そうか。確かに無関係の人みたいだな……。ようやく手掛かりが見つかったと思ったのに、残念だ……」
 真琴に血の繋がったお姉さんがいないことに、赤坂さんは酷く落胆の様子だった。
「赤坂さん。真琴を一体誰だと思っていたんですか?」
 赤坂さんの反応だと、真琴がある人物であることを期待していたようだった。一体赤坂さんは真琴を誰だと期待していたのだろう。
「ああ。祐一君、君は古手ふるで梨花ちゃんは知っているかい?」
「古手梨花? ああ、あの古手神社の跡取り娘だとかで、例の大災害で行方不明になったとかという」
 確か「ひぐらし」によれば、古手梨花とその家族や友人たちは尽く死亡ではなく、行方不明扱いだったという話だ。
「そうだ。僕はね、その梨花ちゃんと20年前にある大切な約束を交わしたんだ。けど、大災害が起きたことで約束は叶えられないまま。だから、僕はこの15年間ずっと彼女を探し続けているんだ。20年前に交わした大切な約束を果たすために……!」
 「ひぐらし」を読んだ時はよく分からなかった、どうして一介の公安刑事に過ぎない赤坂さんがこうまで雛見沢大災害の真相に迫ろうとしているのか。でも、その理由が今分かった気がする。赤坂さんの目的は事件の真相を知ることよりも、真相を知る過程で行方不明になった梨花ちゃんの消息を掴むのが最優先事項なのだろう。
「赤坂さんが梨花ちゃんを探しているのは分かりました。でも、その梨花ちゃんと真琴が何の関係があるんです?」
「ああ。僕は会ったことないけど、聞いた話では、梨花ちゃんには舞花ちゃんという年の離れた妹がいるという話だった。そして調査を続けていくうちに、その舞花ちゃんらしき女の子が、数年前沢渡という家に預けられていたという証言を得ることに成功したんだ」
「数年前に? じゃあ今は?」
「実はそれが分からなくて。数年前に東京の沢渡さんに預けられていたという証言は得られたけど、その後どうなったかまではね……。
 梨花ちゃんのご両親は舞花ちゃんが生まれた直後に亡くなったという話だから、他の家に預けられているというのは筋の通る話だ。そして、テロ実行者から逃れるため、偽名を用い変わり変わりに様々な家の養子になって生活しているというのが僕の推論だ」
(テロ実行者から逃れるためにか……)
 あれっ? ちょっと待て。両親が既に亡くなって養子として預けられているっていう話はどこかで聞いたような……。
「祐一さん。失礼かとは思いますが、ひょっとして祐一さんは梨花ちゃんや舞花ちゃんのことを知ってるんじゃありません?」
「えっ、美雪さん、ど、どうしてですか?」
 まるで俺の心を見透かしたかのような質問を、突然美雪さんがして来た。
「祐一さん、私と顔を合わせた時、私の顔を知人の顔と見間違えたと仰いましたよね?」
「ええ、確かに知人の顔を見間違えました。でも、それが何か?」
 確かに俺は美雪さんの顔を舞先輩と見間違えた。でも何でそれが古手姉妹を知っていることに繋がるんだ?
「お父さん、私が小さい頃よく言ってました。美雪の顔は梨花ちゃんにそっくりだって。だから成長したら今の私の顔にそっくりだと思うんです。そして祐一さんは梨花ちゃんか舞花ちゃんと私の顔を見間違えたんじゃないかと思うんですけど、どうですか、祐一さん?」
「そ、それは……」
 古手姉妹と美雪さんの顔は似ている。それが本当ならば、確かに俺は“舞花”ちゃんを知っているかもしれない。でも、でも……。
「すみません、それは美雪さんの思い過ごしだと思います……」
 美雪さんの話を聞き、俺は舞先輩こそが舞花ちゃんなのではないだろうかと思った。容姿以外に名前も似ているのだから、多分間違いないと思う。
 でも、俺は舞先輩が舞花ちゃんだとは認めたくなかった。だって、だって、舞先輩は言っていた。“お姉ちゃんは死んだ”って……。仮に舞先輩が舞花ちゃんだったら、赤坂さんが長年探し続けていた梨花ちゃんは既にこの世にいないことになる。
 あなたの探している梨花ちゃんは既に亡くなっています。推論でそんなことはとても言えない。梨花ちゃんが既に亡くなっているだなんて確証を持てない限り絶対に言ってはならないことだ。そんなことを言ってしまったら、赤坂さんは酷く落胆し、もう事件の真相を追わなくなるかもしれない。
 だから、俺は誤魔化さざるを得なかった。赤坂さんを悲しませないために、俺は自分の推論を語るわけにはいかなかった。
「美雪、お前が僕を気遣う気持ちも分かるが、そのくらいにしなさい。祐一君も困惑してるじゃないか」
「はぁい」
 赤坂さんに制されて、渋々美雪さんは俺への追及を止めた。
「申し訳ない、祐一君。美雪が変なことを訊ねてしまって」
「いえいえ。それよりも赤坂さん、赤坂さんは一体どんな約束を梨花ちゃんと交わしたんですか?」
 俺は気になって仕方がなかった。一体赤坂さんが梨花ちゃんとどういった約束をしたかが。20年間も赤坂さんの心の礎となっている約束とは、一体どういうものなのだろう。
「ああ、それはだね……」
「お〜〜い、赤坂の旦那〜〜。そろそろ雀荘さいぐべ〜〜!」
 赤坂さんが梨花ちゃんと交わした約束の話をしようとした最中、1階から父さんの叫び声が聞こえて来た。
「はい、今行きます! すまないね、祐一君。実は君のお父さんと麻雀で競う約束をしてしまってさ、これから雀荘に向かわなければならないようだ」
「麻雀? 赤坂さん、麻雀強いんですか?」
「ええ。これでも若い頃はそれなりに遊んでましてね、レートを上げ過ぎて出入り禁止になったほどです。ははっ」
 それは若りし頃の苦い思い出だという感じに、赤坂さんは語った。しかし、出入り禁止になるほどって、一体どれだけの雀力を保有してるんだ、赤坂さんは?
「そういうわけで、残念ながら今日はここまでです。日曜日辺りまではこちらに滞在する予定ですから、梨花ちゃんと交わした約束の話はまた今度ということで」
「ええ、構いませんよ。じゃあまた、数日後に」
 そうして赤坂さんと美雪さんは、真琴の部屋を後にし、父さんたちと麻雀を打ちに行った。また会う約束を交わして。一体赤坂さんがどんな約束を交わしたかは気になる。でも、明日か明後日にはきっと話してくれるのだろう。だって、また今度話すって約束したんだから。



「ねえ、祐一? 今まで何の話してたの?」
 赤坂さんたちがいなくなった後、真琴が先程までの会話の概要を聞いて来た。
「ああ、あのおじさんが探してた人が真琴じゃなかったって話だ」
「ふ〜〜ん、そう」
 真琴が雛見沢の関係者でないことが確定したのは、俺にとって安心できることだった。でも、真琴が舞花ちゃんでないとしたら、一体真琴は誰なんだろう?
「祐一〜〜」
「ん? どうしたんだ真琴?」
「うんっとね、真琴、昔舞花ちゃんって人の名前を聞いたことがある気がする」
「えっ? それはどこで?」
「分からない。でも、ずっと昔に祐一が真琴の前でそんな名前を言ってた気がするの」
「えっ!? 俺が真琴の前で……?」
 どういうことだ? 俺自身は真琴と出会った記憶さえないのに、真琴は俺と出会い、更には俺が舞花という名前を口にしたことまで微かに覚えているということなのか?
 何故、真琴が舞花ちゃんのことを知ってる? いや、それ以前に俺がその名を知っていたということは、やっぱり舞先輩が古手梨花の妹である舞花ちゃんだということなのか……?

…第参拾弐話完


※後書き

 え〜〜、3月は「病み鍋PARTY」で発刊した本の執筆に追われ、4月に入ってからはミンサガ漬けで更新が大幅に遅れてしまいました……。
 さて、前々から伏線は張ってましたが、一応今回で舞の正体が完全に判明したという感じです。実はこのネタひぐらしやってから思いついたネタなので、初期設定ではありません(笑)。声優が同じだし容姿も似ているから、「舞=梨花の妹」というオリジナル設定も悪くないかなと思いまして。
 相変わらず後付けでガンガン設定追加していく悪い癖があるのですが(笑)、Kanon傳時代は舞の出生は結構うやむやになってましたので、後付けとはいえ設定に肉付けができて良かったと思っております。
 あとは、原作での梨花は雛見沢大災害では死亡扱いでしたが、この話では公式では「行方不明」扱いとなっております。この辺りの原作との違いは追々書きますので、楽しみにしていてください。

参拾参話へ


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