「祐一さん。あなたと舞は本当の姉弟のように仲が良かったのですよ。7年前のある日まで……」
 佐祐理さんの口から出る驚くべき言葉。俺と舞先輩が“7年前”まで親しくしていた!? 確かに伊吹先生の口から舞先輩との関係は聞いている。でも確か伊吹先生は“10年前”と言っていたはずだ。
 二人の話が噛み合わない。どちらかが勘違いしているのだろうか? いや、それはない。恐らくどちらも正しいのだろう。ということは問題なのは俺の記憶の方で、二人の話を合わせて俺は10年前から7年前まで舞先輩と親しくしていたということか……?
 俺は7年間この町を訪れていない。だから、7年間会っていないというのは特に問題ない。問題なのは、自然と会わなくなったのではなく、俺の方から一方的に事実上の絶交宣言を行ったということだ。
 7年前、一体なんで俺は舞先輩に対して「大嫌い」なんて言ってしまったんだ? 舞先輩を嫌いになったからその腹いせみたいにこの街を訪れなくなったのか?
 いや違う! 俺は舞先輩を嫌ってなんかいない!! おぼろげな昔の記憶を辿っても舞先輩を嫌っていたような気はしない。寧ろ佐祐理さんの言ったように親しくしていたはずだ。
 じゃあなんで俺は舞先輩に嫌いだなんで言ってしまったんだ? 何でこの街を訪れなくなったんだ?
「うっ……ああうっ……!」
 ダメだ。やっぱりダメだ。7年前のことを思い出そうとすると、また頭痛やら吐き気を催して、正常な思考ができなくなる。一体7年前に何があったんだ? 俺は何を拒んでこんなにまでも苦痛に苛まされているんだ……!
「祐一さん、祐一さん。大丈夫ですか!?」
 突然苦しみ出した俺を介抱するように、佐祐理さんが優しく抱き付いてきた。
「佐祐理さん……」
 何だろう、佐祐理さんにこうして抱かれると妙に気が和らぐ。それは佐祐理さんが俺の求めている温もりを持っているからだろうか? でも何かが違う。和らぐことは和らぐけど、何となく違和感を抱く。何か俺の求めている温もりとは若干違うような……。
「ゴメンなさい。祐一さんが気分を害されることが分かっていて、“7年前”のことを口に出してしまい」
「佐祐理さん。やっぱり、あなたは7年前の俺に何があったか知っているのですか!?」
「……」
 俺の問い掛けに対し佐祐理さんは口を開かなかった。でも、その顔は何かを知っている顔だった。
「教えてください、佐祐理さん! 一体7年前の俺に何がっあったんですか!?」
 俺はそんなに昔に佐祐理さんと会った記憶はない。だから何で佐祐理さんが昔の俺を知っているのか疑問が残る。しかし、今はそんなことはどうでもいい。大事なのは佐祐理さんが俺の身に何があったかを知っていて話さないでいることだ。
 お願いです、話してください、佐祐理さん! そうすれば俺の気も晴れるだろし、きっと舞先輩との問題も上手く解決するはず! だから、だから、話してください、佐祐理さん!!
「耐えられますか……?」
「えっ!?」
「祐一さんは耐えられますか? 7年前あったことをすべてお話して、祐一さんは耐えられますか?」
「そ、それは……」
 俺は耐えられる、だから話してくれ! そう言えない自分が情けない。俺はついさっき自ら思い出そうとして苦痛に苛まれた。ちょっと思い出そうとしただけであれなのに、もし真相を全部知ったら……?
 きっと俺は耐えられないだろう……。耐えられなくて精神を病んでしまいかねない。真相を知りたい。でも、知るのが怖い。できるなら知らないままでいた方が幸せな気がしてならない……。
「ごめんなさい。今の言葉は忘れてください」
 だから、俺は佐祐理さんに謝った。佐祐理さんは俺を気遣って真相を話そうとしないんだ。そんな佐祐理さんの気遣いを無視して真相を問い質そうとした自分が情けない。
「いいえ。謝るのは佐祐理の方です。きっと佐祐理には真相を知った祐一さんを支えることはできないでしょうから……。
 でも、舞なら、舞ならきっと祐一さんの支えになれるはずです。けど、舞は舞で悩みを抱えていて、今の舞では祐一さんの支えになるのは難しいでしょう。
 だから祐一さん、どうか舞の悩みを解放してください。祐一さんと舞の間にある溝はきっと些細な誤解から生じたものでしょから……」
 確かに、舞先輩とのすれ違いは何かしらのちょっとしたズレから生じているような気がする。でも、一体なんでズレているのかまでは分からない。
「明後日、佐祐理はセンター試験の関係で学校には来ません。でも、舞はセンター受けないって言ってたから学校に来ると思います。
 もし、佐祐理がいなくて一人で寂しくしている舞を見かけたら、支えになってくれませんか……?」
「はい、分かりました。自分がどこまでできるかは分かりませんが、出来る限りのことはします」
 今日姿を現さない舞先輩が、休日を挟むとはいえ佐祐理さんのいない学校に来るのか疑問に残る。でも、もし休まず学校に来たら、先輩の力になりたいと思う。それが舞先輩のためであり、そして俺自身の思い出したくない過去の記憶を呼び起こすことにも繋がるだろうから。



第弐拾七話「戰え! スクール・ディブレイク!!」


「祐一、これから一緒に帰らない?」
 昼食を取り終え教室に戻ると、名雪が一緒に帰らないかと誘って来た。
「一緒に? 午後の授業をサボるのか? お前の口からそんな不良生徒な台詞が聞けるとは夢にも思わなかったぞ」
「う〜〜、今日は大学入試激励会の関係で午前授業だよ……」
「そういや朝のHRで石橋先生が言っていたな。でも、予餞会の練習とか、部活とかがあるんじゃないのか?」
 今日の朝潤に突然振られた話題なのだが、来週の火曜日に予餞会が催されるとの話だった。予餞会で俺のクラスが出すのは劇で、内容はガラハドのアイスソードやらアーサー王のエクスカリバーを殺してでもうばいとろうとするギルガメッシュの話だとか。ガラハドが斉藤役でアーサー王役が実はアーサー王は女性だったのではないかという異説に基き香里、そして主役のギルガメッシュは潤が演ずるということだった。
 ちなみに監督、脚本も潤が一人で手掛けたとのことだ。ストーリーはともかく劇そのものはクラスの應援團員総出のバトル物で、かなり期待が持てるとのことだ。
 そういったバカ騒ぎは嫌いじゃないので俺も参加してみたいと言ったが、今から練習することを考慮するとナレーター役しか残っていないと言われ、俺はそれでもいいと言い、俺は急遽ナレーター役をやることとなった。
 ナレータ役なら台詞練習は家でもできるが、練習自体には付き合わなければなるまい。今日午後の授業がないならば、練習には最適な時間帯だと思うのだが。
「大学入試激励会には應援團が総出で取り組むから今日の練習はお休み。それにわたしの所属している陸上部は、冬は練習がお休みだから大丈夫だよ」
「そっか。思えば名雪と一緒に帰ったことないし、気分転換にはいいかもな」
「ありがとう、祐一」
 名雪と約束を交わし、俺は急いで帰りの準備に取り掛かった。帰りの準備をしつつふと辺りを見渡すと、午前授業ということもあり生徒の数はまばらだった。帰る気なら昼食を取らないで帰れただろうから、名雪はわざわざ俺を待ってたんだろうな。



 下校中、名雪が駅通りの商店街によって行こうよと誘って来、俺は特に急いで帰る予定もなかったので、名雪に賛同することにした。そうして学校前の道路をひたすら北に30分程歩くと、駅前の商店街が見えてきた。
「祐一、イチゴサンデー奢って」
 商店街に着くや否や、名雪がイチゴサンデーを奢ってくれと言い出してきた。
「どうして奢らなきゃならないんだ?」
「一昨日わたしに無断で朝歌ったでしょ? だから奢って」
「だから朝歌を歌ったこととイチゴサンデーを奢る因果関係はどこにあるんだ?」
「『朝歌を一曲歌う毎にイチゴサンデー一杯奢る』って、約束したからだよ」
「あれは約束って言うよりは警告の類だろうが」
 まあ、警告無視して歌った非は認めるけど。
「でも、約束は約束だよ」
「分かったよ、奢ればいいんだろ、奢れば」
 下手にキレられてまた物を投げられてはたまらないし、俺は渋々奢ることにした。
「で、どこの店で奢ればいいんだ?」
「駅通りのゲームセンターの2階にある、『百花屋』っていう喫茶店だよ」
 名雪の案内に従い歩いてきた道路を左折し駅通りのアーケード街を暫く歩くと、百花屋が見えてきた。
「おっ、何々、新感覚美少女格闘ゲーム『スクール・ディブレイク』入荷……。面白そうだな……」
 1階のゲーセンの自動ドアに貼ってあった広告に目が止まる。広告の詳細によれば、ディフォルメされた美少女キャラによる本格格闘ゲームとのことだった。格ゲーが数多くあれど、こういった美少女キャラのみの格ゲーというのは珍しい。その新鮮さに俺はプレイしてみたい欲望に駆られた。
「ゲーセンもいいけど、まずはわたしに奢ってからだよ」
「ああ、分かってるよ」
 今すぐ遊びたいが、名雪の機嫌を損ねるわけにもいかないし、ここは素直に百花屋に向かうとしよう。



「祐一さん!」
「し、栞ちゃん!」
 百花屋に入ると、そこで偶然栞と居合わせた。
「栞ちゃん、どうしてここに?」
「いえ。ちょっと気分転換にここのパフェを食べようと思いまして。祐一さんこそどうしてここに?」
「いや、俺はその……」
 マズイな。この状況を見たらどう見たってデートで来たみたいじゃないか。下手に名雪はいとこだって言っても言い訳にしか取られないだろうし。
「栞ちゃん、ひさしぶり〜〜」
「おひさしぶりです、名雪さん」
「あれっ? 二人とも知り合い?」
「うん。栞ちゃんは香里の妹だから」
「か、香里の妹〜〜!?」
 栞と名雪が顔見知りなのにも驚いたが、まさか栞が香里の妹だったとは。そういえばこの間栞は姉がどうの言ってたな。その姉は香里だったのか。
「祐一さんは名雪さんに付き合って百花屋に来たんですね」
「まあ、そういう所だ。せっかくだから一緒に食ってくか?」
「いいですね。でも名雪さんは構わないんですか?」
「う〜〜ん……。わたしも別に構わないよ」
 名雪は一瞬悩んだが、すぐに了承した。
「けど、祐一が栞ちゃんと知り合いだったなんて知らなかったよ」
 3人でテーブルに腰掛け、頼んだ品が来るまでの間雑談にふける。名雪に俺と栞の関係が兄妹みたいなものだって説明したら、何故か名雪は胸を撫で下ろすように微笑んだ。
「お待たせしました。ご注文のイチゴサンデー2つに、チョコレートパフェ1つです」
 数分間待つと、ウェイトレスさんが注文した品を持って来た。イチゴサンデーを頼んだのは俺と名雪で、チョコパフェは栞だ。
「しかし、チョコパフェなんて、まるでエルピー=プルみたいだな」
「えへへ、実はプルを狙って頼んじゃいました」
「どこまでも妹キャラに徹するんだな」
 そんな会話をしながら、イチゴサンデーを食べ始める。イチゴサンデーは甘くてなかなかの代物だった。
「ごちそうさまでした。ここの喫茶店初めて入ったんですけど、なかなかおいしいですね」
「うん。わたしのお気に入りの喫茶店だよ」
「でも、ここのパフェも悪くなかったですけど、いつかは『マルカン』のパフェに挑戦してみたいですね」
「あっ、その気持ち分かるよ。わたしもいつかあそこのイチゴパフェに挑戦したいって思ってるよ」
「『マルカン』ってなんだ?」
 聞いたことのない固有名詞が出たので、俺は二人に訊ねてみた。
「『マルカン』っていうのは、花巻にあるデパートのことで、そこの大食堂の割り箸で食べるアイスクリームは結構有名だよ」
 そういえば、以前何かの特集でそんな話を聞いたことがある。そこの食堂はアイスだけじゃなく、他のパフェ類も結構な大きさなんだそうだ。アイスは何とかなりそうだが、パフェ類はとても食い切れないだろうなぁ。



 百花屋で軽食を取り終えると、俺たちは1階のゲーセンに向かっていった。
「俺はこれから新入荷の格ゲーやろうと思うんだけど、栞ちゃんはどうする?」
「そうですね。私、ゲーセンの筐体で格ゲーやったことないので、お付き合いします」
 そんなこんなで俺たちは、「スクール・ディブレイク」で対戦しあうことになった。しかし、同じ筐体に二人並んで対戦するのは何か恥ずかしいな……。
「ところで栞ちゃんの格ゲー歴はいかほどで?」
 対戦する前に俺は栞の腕の程を聞いた。
「そうですね。SFCのスト2から始めましたけど、大方の格ゲーはこなしてますね」
「そう。じゃあ手加減は無用ってことで」
「はい。本気で来てください祐一さん」
 話を聞く限り、栞ちゃんはそこそこ経験がありそうだ。しかし、女の子なんだから男の格ゲーヲタほど腕は達者ではないだろう。本気と言いつつちょっと手を抜くくらいがちょうどいいだろうと、俺はタカを括っていた。
(さてと、誰を選ぶかな?)
 このゲームは単に美少女キャラが戦うというよりは、凶器を持った美少女が戦うゲームのようだ。美少女キャラが顔に似合わぬ凶器を持ち暴れ回るというギャップが、この格ゲーの萌えポイントのようだ。
「よぉうし、せっかくだから俺はこの『ワード・リーフ』というキャラを使うぜ!」
 しばらく悩み、俺は長髪でノコギリを所有したワードリーフという少女を選択した。
「ふ〜〜ん、祐一はこういうのが好みなんだね」
「わっ、名雪。いたのか!?」
 キャラ選びに夢中になっていたところに急に呼びかけられたので、俺はビックリしながら名雪の方を向いた。
「うん。他のゲームをやっているより祐一たちが遊んでいるところを見てた方が楽しいかなって」
「そうか。まあ、邪魔しないんなら別に構わないけど」
 基本的に後ろに立たれるとプレッシャーを感じてしまうのだが、この際名雪に少しでも格ゲーに興味を持ってもらうのも悪くはないと思い、俺は観戦を許可した。
「では私はこの『ポエム・サウンド』というスタンガンキャラを使ってみたいと思います」
 栞の選んだキャラは緑色の長髪で、スタンガンを武器に戦うキャラのようだ。スタンガンということは、恐らく相手の攻撃はブランカのエレクトリックサンダーのように感電させて一時的に動きを封じるものだろう。
 しかし、スタンガンはノコギリに比べればリーチは短い。接近戦に持ち込まれなければ俺に勝機があることだろう。
「じゃあ、いくぜ栞ちゃん!」
「はい! 存分に戦いましょう、祐一さん!!」
 こうして俺たちの熱き戦いは始まった……!



「ようし、まずはこの『ノコギリブーメラン』だっ!!」
 開始早々俺は間合いを取り、波動拳と同じコマンドで出せる技、『ノコギリブーメラン』で攻め入った。筐体には基本的な技の出し方は書かれているが、複雑な入力コマンドを要する超必殺技などは記載されていない。俺はこのゲームは初体験なので、複雑な超必殺技などに頼らず、基本的な技を使いつつ操作方法に慣れながら戦うとしよう。
「なるほど、そう来ましたか。なら私も飛び道具には飛び道具で対抗です!」
 えっ、そのキャラで飛び道具? まさか手に持ったスタンガンが丸ごと投げられてくるのか!?
「えいっ!」
「なっ、なにぃ〜〜!?」
 一体どんな飛び道具かと思えば、何とポエム・サウンドの手に持ったスタンガンの先から、電気の塊みたいなのが飛んで来た。
「ぐっ、しまった!?」
 俺は相手は飛び道具を使ってこないだろうという先入観に囚われ、初弾を交わし切れず、見事に食らってしまった。
「今のはスタンガンの先から電気を飛ばす『レールガン』っていう技みたいですね」
「そんなんありかっ!?」
 スタンガンの先から電機が飛ぶだなんて何て非現実的なと思ったが、よくよく考えればノコギリをブーメラン状に飛ばすのも非現実的だし、第一格ゲーに現実性を求めるなどナンセンスだ。
 ともかく、相手は遠近両用の技を使って来るようだ。これは距離を取って戦えば安全だという作戦が崩壊したことになる。どうやら、楽には勝たせてくれないようだな。
 その後しばらく一進一退の攻防が続き、互いのライフゲージは均等に減っていった。
「えいっ、ここで超必殺技『鉄の処女アイアン・メイデン』です!」
(えっ、超必殺技って……!?)
 バカなっ、栞だってこのゲームは初めてだって言ってたじゃないか! なのに何で初プレイで超必殺技が使えたりするんだ!?
「ええいっ!」
「なああっ!?」
 ポエム・サウンドの繰り出す超必殺技は凄まじいものだった。まずはポエム・サウンドが宙高く飛ぶと狂気的な顔のカットインと共に突如上空からアイアン・メイデンが降り注いできた。俺の使用するワード・リーフはその鉄の塊に押し潰されて気絶してしまった。
 これだけでもう豪快な技なのだが、攻撃はまだ序の口だった。ワード・リーフの上に圧し掛かったアイアン・メイデンは直後前後に分解されたかと思うと、今度はポエム・サウンドが近付いて来て、分解した後方のアイアン・メイデンにワード・リーフを押し込んだ!
 ここで画面は鮮血を表すかのように一瞬赤く染まる。次の瞬間、分解された前部分に刺さった棘が一つ一つに分解され、その棘一つ一つが飛来しながらワード・リーフに突き刺さる!
 そしてトドメとばかりに前後部分が合わさり、画面が赤く染まった直後、技はようやく終了した。ワード・リーフはこの一撃で見事に玉砕してしまった。
「……」
 まさか女の子の栞がここまでやるとは……。まさかの敗戦に俺は唖然としてしまい、その影響で第二戦もまともに戦うことができず、俺はあっさりと敗北してしまった。
「栞ちゃん、本当に初プレイ?」
 試合後、真っ先に俺は栞に訊ねた。このあまりに鮮やか過ぎるプレイは、どう考えても初プレイには見えない。実は何度も遊んだことがあるのではないかと。
「はい。遊ぶのは初めてです。でも、このゲーム稼動前から興味があって、関連サイトとか見て一通り技を覚えたんですよ」
「ひ、一通り技を覚えただって!?」
 成程、ネットで前情報を掴むという手があったか。それならば初プレイで超必殺技を知っていても不思議ではない。しかし、例え前情報で予めコマンドを学んでいたとしても、簡単に実践できるものではない。それほどまでに栞の格ゲーセンスはバツグンということかっ!?
「祐一、ボロボロだったね」
「ええい、うるさい! こうなったらもう一勝負だ! いいな、栞ちゃん!!」
 ここで負けたまま帰るようでは一生の恥だ。俺は名誉を挽回するために栞に再戦を申し込んだ。
「はい、私は構いませんよ」
 栞は軽く承諾してくれて、俺たちは再び戦うこととなった。さぁて、次は絶対に勝ってやるぞ!



(しかし、知識量でこちらが負けているのは事実。さて次は何のキャラを使う……?)
 基本的に情報量の少ない俺は、威力は絶大だがコマンド入力が難しい技ばかりを保有するキャラでは勝ち目がない。ここはボタン連打で簡単に技を出せるキャラが望ましい。
「よし、君に決めた! 次は俺はこの『レイナ』を使うぜ!!」
 色々考えた末、俺はナタを持った短髪の少女を選んだ。このキャラは手に持ったナタで切り裂く他に、「お持ち帰りパンチ」という、ボタン連打系の技を出せるようだ。
「分かりました。じゃあ私はこの『ブラック・メイプル』を使います」
 栞が次に選んだキャラは、手にカッターナイフを持ったブラック・メイプルというキャラだった。
「それじゃあいくぜ! ラウンド2、レディィィ……ゴーー!!」



「ハーッハッハ! どうだぁ、このパンチはかわせまい!!」
 俺は開始直後からパンチボタンを連打して「お持ち帰りパンチ」を発動させた。この技、単なる連続パンチかと思いきや、何と両腕をグルグル回しながらダブルラリアットのように相手に突撃していく技なのだ。す、すげえぜ! この技ならば栞を倒すことも可能なはずだ!!
「確かに、正面からかわすのは難しそうですね。でも、上がガラ空きですよ」
「上がガラ空きって……。な、何だと〜〜!?」
 てっきり栞は地上に立ったまま防御行動に出ると思った。けど、ブラック・メイプルは上空にジャンプすると、何とそこから無数のカッターナイフを投げ出したのだ!
 レイナは上空からの攻撃にはまったくの無防備で、カッターナイフ攻撃をモロに食らってしまい、そのまま気絶してしまった。
「まだまだ。次は絞め技ですっ!」
 ブラック・メイプルは気絶したレイナに近付き、立ち上がった直後絞め技に転じた。この絞め技、エドモンド本田のようなサバ折ではなく、何と、相手の首を絞めるという生々しい技だった。
「ぐうう〜〜。離れろ、離れろっ!」
 俺は必死にボタンを連打するものの、相手はなかなか放してくれない。そうして体力ゲージが残り3分の1を切ったところで、ようやく解放された。
(このままじゃ勝てない……こうなったら、一か八か超必殺技だ!)
 正攻法で勝つのは難しいと思った俺は、適当にコマンドを入力し超必殺技を出そうとした。
「おっ!」
 すると、俺の願いは通じたのか、レイナはカットインで狂気的な笑い声をあげたかと思うと、手に持ったナタが巨大化した。
「ここで超必殺技、『斬艦鉈』を出しますか。やりますね祐一さん!」
「一撃で叩き割ってやるぜ、栞ちゃん! チェストォォォォォ!!」
 俺は渾身の力を込めて斬艦鉈を振り下ろした!
「ですが……当たらなければどうということはありません……」
「な、なにぃぃぃ!?」
 しかし、俺の乾坤一擲の超必殺技はあっさりと栞に交わされてしまった。
「ではお返しにこちらも超必殺技……『空鍋』です!!」
 静かながらもどこか暗く狂気じみた顔のカットインが差し込まれた直後、上空から巨大な鍋が落ちて来て、レイナを押し潰した。
「またか、また押し潰す系の超必殺技なのか!?」
 無論、攻撃は押し潰しただけでは終わらなかった。鍋に潰されレイナが気絶した直後、お約束とばかりに鍋の蓋が開かれ、ブラック・メイプルがレイナを鍋の中に入れて蓋を閉じた。
 そして何と手から炎を出し、鍋をグツグツと煮出した。その攻撃により、俺のレイナは見事に敗北してしまった。ブラック・メイプルが炎を放つ瞬間に言った、「アンタなんか死んじゃえばいいんだ!!」という台詞が、いつまでもいつまでも耳から離れなかった……。

…第弐拾七話完


※後書き

 え〜〜、すみません。名雪中心の話になる予定が、急遽栞と格ゲーで対戦する話になってしまいました。まあ、書いてる途中で予定が変わるのは毎度のことなので、ご容赦ください。
 ちなみに、作中での予餞会の劇はFateのパロディで、「スクール・ディブレイク」のほうはヤンデレキャラパロ格ゲーです(笑)。双方とも1999年の時点では存在していないものなので、変化球的なパロディになりました。
 さて、次回こそは本当に名雪中心の話になります。もう少しで30話ですので頑張って書きたいものですね。

弐拾八話へ


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