「プロデューサー、いよいよですね!」
「ああ。ここからが俺たちの新しい道の始まりだ」
ルーキーズ当日、俺と雪歩は2人でフジヤマTVスタジオに赴いた。雪歩は今日のために血の滲むような鍛錬を重ねてきた。その努力はきっと実を結ぶはずだ。
そうは思うものの、やはりスタジオを前にすると、獅子にでも気圧されたかのような緊張感に襲われる。
(いかん、いかん。一番緊張しているのは雪歩なんだぞ!? プロデューサーの俺が強張ってどうする)
と、俺は自分に言い聞かせつつ、俺の腕に寄り添っている雪歩の顔を眺める。
「……」
てっきり雪歩は緊張のあまりあたふたと狼狽していると思った。でも、雪歩は俺の腕をガッシリと掴みながらも、顔は透き通った水のようにように清々しかった。
「? プロデューサー、どうかしましたか?」
雪歩の顔を凝視する俺を不審に思ってか、雪歩が声をかけてきた。
「いや、妙に落ち着いているなって。てっきり緊張感でガチガチになっていると思ったから」
「いえ、緊張してないといえば嘘になります。でも……」
「でも?」
「こうやってプロデューサーの腕に寄りすがっていると、自然と緊張が和らぐんです。ああ、この温かみが本番中もずっと私を見守ってくれるんだなって」
「そうか……」
本当に雪歩は強くなったな。俺という支えがあってこそだけど、それでも最初の頃に比べて芯の強い娘になったのは、俺としてもこの上なく嬉しい。
「プロデューサー、行きましょう! 2人の舞台へ!!」
「ああ!」
そうして俺たちは腕組みしながら、闘いの場へと向かって行った。
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「ルーキーズ本選〜ライバル登場!〜」
「わぁ、いっぱい人がいますね、プロデューサー」
「ああ。これが全部今日の番組に参加するアイドルだとすると、圧巻だな」
俺と雪歩はスタジオにある控え室へと足を運んだ。そこには今日のルーキーズに出演するアイドルたちが一堂に会していた。事前情報によれば、ルーキーズに参加するユニットは全部で8チーム。俺たちのようにソロのユニットもいればディオ以上のユニットもおり、控え室には20人ほどの人で溢れ返っている。
「お〜〜い! やっほ〜〜!!」
他の参加者の顔ぶれに目を向けていると、突然一人の女性が軽快な声で呼びかけてきた。赤毛のポニーテールで白っぽい制服調の服を着た女性。初対面の割には、やたらと気軽に声をかけてくるな。
「初めまして。私はSmile Squad所属の赤城なのは。よっろしく〜〜!」
「えっ!? 赤城なのはって、あの魔王エンジェルのっ!?」
名前を聞いて俺は驚いた。赤城なのはさんは、“リリカルマジシャンガール”の異名を誇る、魔王エンジェルのメンバーである。その名が示すとおりイリュージョンマジックのエキスパートで、ビジュアル面で魔王エンジェルを支えている女性である。
ダンスの明智さん、ボーカルのバーンさん、そしてビジュアルのなのはさん。各評価項目において業界トップクラスの実力を誇る3人が三位一体となり、それぞれの魅力を相乗効果で引き上げる。それが魔王エンジェルの強さの秘訣だ。
TVとかではよく見る人だけど、舞台にあがる時はツインテールで派手な衣装に身を包んでいるから、名前を聞くまで本人だと気付かなかったな。
「君が噂の萩原雪歩ちゃんだね! この間はウチのメンバーがお世話になってどうもなの」
なのはさんは雪歩に声をかけると、にこやかな笑顔で雪歩に握手を求めて来た。
「こちらこそ、明智さんとバーンさんには大変お世話になりました!」
と、雪歩は恐縮そうな顔でなのはさんと握手しつつ、深々と頭を下げた。
「本当は私もビジュアル面で指導したかったところなんだけど、後輩の指導に忙しくって、相手してあげられなくてゴメンね」
「後輩のご指導?」
「うん。今日のルーキーズに参加するウチの新ユニット、『覇王エンジェル』なのっ! お〜い、2人とも〜〜」
なのはさんは雪歩の質問に答えると、手を振って件のメンバーを呼び寄せた。
「は〜〜い。何ですか、なのはさん?」
「何かな 何かな?」
なのはさんに声をかけられると、2人の女性が俺たちの前に姿を現した。
「紹介するの。この2人が例の萩原雪歩ちゃんと、そのプロデューサーさん」
「初めまして。私は覇王エンジェルの中島橘花って言います。よろしくお願いします」
と、短髪でボーイッシュな少女が元気よく挨拶してきた。
「私は龍驤礼奈って言うの! 今日のルーキーズ、一緒にがんばろー!!」
と、ツインテールな少女がやたらとハイテンションな声で挨拶してきた。2人ともタイプは違うけど、元気活発な子たちだな。
「この娘たちは『魔王エンジェル』の後継者的意味で、『覇王エンジェル』ってユニット名にしたの。事務所期待の新人さんたちだから、簡単に1位の座は譲らせないよ〜〜」
なのはさんは終始笑顔なものの、その声からはハッキリとした闘争心を感じた。確かに、去年のアイドルマスター魔王エンジェルの後継者を名乗るんだから、強敵には間違いないだろな。
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「なのは、久し振りだね」
「あっ、フェイトちゃん。ひっさしぶり〜〜!」
そんな時、ビッシリとしたスーツ姿の金髪で清楚な雰囲気の女性がなのはさんに声をかけてきた。
「なのはさん、こちらの人は?」
「961プロダクション所属のフェイト・T・ムーンちゃん。私の親友で終生のライバルなのっ!」
俺の質問に軽快な声で答えるなのはさん。961プロダクションのフェイトさんと言えば、去年のTOP×TOPの決勝戦において魔王エンジェルと死闘を繰り広げた、金色の闇の異名を誇るキュアブラックのメンバーか。
そうなると、なのはさんが終生のライバルって言うのも頷けるな。
「その様子だと、フェイトちゃんも後輩の育成?」
「そうなんだけど……」
フェイトさんはなのはさんの質問に対し、苦笑しながら答えた。浮かない顔してるんだけど、新人アイドルに何か問題でもあるのかな?
「美希、こっちにいらっしゃい」
「はぁい。あふぅ」
フェイトさんに声をかけられると、金髪でロングヘアな少女が眠たそうな声で近付いてきた。
「この娘が事務所の新人、星井美希。アイドルとしての資質は間違いなくあるんだけど……」
「ミキは星井美希、中三なの。よろしくなの。あふぅ」
と、自己紹介するものの、何だかやる気のなさそうな娘だな。この様子を見る限りじゃ、フェイトさんが苦笑いした理由も分かるな。
「クスクスクス。なぁに、そのやる気が全然感じられないアイドルは? そんな体たらくでルーキーズを勝ち抜けるのかしらぁ?」
「誰!?」
見知らぬ女性に自らがプロデュースするアイドルを貶されたことに、フェイトさんはキッとした目で声の聞こえた方を向いた。
「初めましてぇ。私はDolce viteのプロデューサー、夜叉HiMEよぉ。よろしくねぇ、弱小プロダクションのプロデューサーさんたち」
大よそプロデューサーとは思えない漆黒のゴシックロリーター調のドレスを身に纏った低身の女性が、俺たちを嘲笑うように声をかけてきた。
「そんなに自信があるのなら、あなたのプロデュースするアイドルを紹介してくれないかな?」
顔は相変わらずにこやかだけど、自身の事務所を弱小と貶されて黙ってはいられないなのはさんは、挑発的な声で夜叉HiMEさんにユニットを紹介するように迫った。
「いいわぁ。せっかくだから、あなたたちのアイドルを完膚なきまでに倒す私自慢のアイドルを紹介してあげるわぁ。いらしゃぁい、サザンクロスのみんなぁ」
「はっ! 我等が姫の申すがままに!!」
「はっ、はい〜〜!」
「陸奥、行きます……」
「はい。今向かいますね」
夜叉HiMEさんが呼びかけると、長髪長身で武道家のように身の引き締まった男を筆頭に、4人のアイドルが姿を現した。
「紹介するわぁ。彼が私がプロデュースするユニット、『サザンクロス』のボーカル兼ギターの、春日~ちゃんよぉ」
「フン! 貴様らが今回のルーキーズで我らと対峙するアイドルたちか。悪いが我らが姫に勝利を捧げるため、貴様らには死んでもらう!」
「シンちゃん、シンちゃん。別に殺し合うわけじゃないからぁ、死んでもらうは言いすぎよぉ」
「もっ、申し訳ありません、姫っ!」
シンは言葉の例えに言い過ぎがあったことを夜叉HiMEさんに謝った。挑発した俺たちではなく自分のプロデューサーに謝る辺り、偏屈的な忠誠心の高さが垣間見れるな。
「続いて彼女がボーカル兼ベースの、後藤優里亞ちゃんよぉ」
「ゆっ、ユリアと申します! きょ、今日のルーキーズはお手柔らかに頼みますぅ〜〜」
そうストレートヘアの巨乳少女が、あたふたとしながら挨拶して来た。この落ち着きのなさは、何だか会っばかりの頃の雪歩を髣髴とさせるなぁ。
「次に彼女がキーボード担当の、陸奥麗ちゃんよぉ」
「レイです。よろしく……」
眼鏡をかけたショートヘアの無機質な少女が挨拶をしてきた。この子はこの子であまりに無感情過ぎて、調子狂うなぁ。
「そして最後はドラムス担当の、一木愁ちゃんよぉ」
「シュウです。今日のルーキーズはお手柔らかに頼みますね」
そう紳士的な男が丁重な声で挨拶してきた。サザンクロスのメンバーは以上の4人からなるバンドグループのようだ。バンドという音楽表現を主とするユニットで、一体どれだけのパフォーマンスを見せてくれるか、今から楽しみだな。
「言っとくけど、シンちゃんは武道の達人で、ダンス能力も抜群よぉ。お遊びの延長でアイドルやっているようなSmile Squadの連中には負けないわよぉ」
「言ってくれるね。遊びも極めれば芸になるってことを、身を持って教えてあげるよ」
挑発的な夜叉HiMEさんに対し、一歩も引かず対抗するなのはさん。これは波乱なルーキーズになりそうだな。
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「やれやれ。雑魚共が集まって火花散らしているだなんて、平和だねぇ〜〜」
「!? て、テメェは!!」
対抗心を燃やす夜叉HiMEさんとなのはさんを嘲笑う男の声を聞き、俺は腸が煮え繰り返った。目の前にいる男は初対面だ。だが、俺はこの男を決して許すわけにはいかない。
「伊藤誠ぉ! どの面下げて俺の前に姿を晒しやがった!!」
この世で最も憎むべき男に、俺は理性を抑え切れずに啖呵を切った。
「おやおや? 誰かと思えば弱小プロダクション765プロのプロデューサーじゃないの。この前はよくもウチの看板アイドルを闇に葬ってくれたね」
「言ってくれるな! 亀梨の暴走を黙認してたテメェにああだこうだ言われる筋合いはねぇぜ!!」
そう! この男こそあの亀梨大毅のプロデューサーだった男、アークピジョン所属の伊藤誠プロデューサーだ!! もちろん、一番悪いのは亀梨本人だ。けど、本来監督する立場にあったはずのコイツが亀梨の行為に目を瞑っていたのは、同じプロデューサーであるからこそ余計に腹の虫が収まらない。
「粋がるねぇ。そっちの娘がこの間亀梨の慰めものになったアイドル?」
「ひうっ!?」
誠に見つめられると、雪歩はあの悪夢を思い出してか、ビクッとしながら俺の背中に隠れた。
「成程、成程。亀梨が手を出すのが納得がいくカワイイ子だねぇ」
「テメェ!」
「誉めてるのに怒るだなんて、おかしな人だねぇ。まっ、いいさ! こんなヘボ番組、僕たちアークには出るまでもない番組だったけど、これで少しは楽しめそうだよ」
「楽しめるだとぉ!? 本気で戦う気がない奴がルーキーズに出てくんじゃねぇよ!!」
雪歩はこの日のために必死でレッスンを続けたんだぞ! 誠の軽率な言葉は、そんな雪歩の努力を鼻であしらうもので、到底俺には許容できるものではなかった。
「俺の雪歩は、テメェのクソアイドルなんかには絶対に負けない!」
「その言葉、僕のプロデュースする『幻楼―Gen−Row―』の顔ぶれを見ても言えるかな? お前たち、せっかくだから実力の差を思い知らせてあげなよ!」
「りょーかい、りょーかい!」
「まったく、仕方ない」
「了解。刹那、作戦行動に移る……」
誠に呼びかけられ、2人の男と1人の少女が姿を現した。
「俺は西園寺大和って言うんだ! テメェらみたいな雑魚アイドルなんざ、俺の敵じゃねぇぜ!!」
2枚目だが性格は軽薄そうな男が、自信満々の声で自己紹介した。言動が誠をより挑発的にしたような男で、声を聞いているだけで殴りたくなってくる。
「俺は桂小次郎だ。まったく、こんな雑魚共にわざわざ挨拶するなど、時間の無駄もいいところだ」
長髪で武人気質な男が渋々と口を開いた。声は挑発的じゃないけど、いかにも俺たちを見下している言動は怒りを感じて止まない。
「コードネーム、武蔵野刹那。私たちが今年のアイドルマスター。あなたたちにアイドルマスターの座は絶対に譲らせない」
最後に自己紹介したのは、身長150センチちょっとの小柄な少女だった。昨年度のアイドルマスターの目の前で自分こそが今年のアイドルマスターだって宣言するとは、随分と大胆な娘だな。
「まっ、1位の座は僕の幻楼で確定だけど、せいぜい2,3位を頑張って争うんだね」
誠は最後まで俺たちを見下しながら控え室の奥へと消えて行った。
「ムカツクわねぇ。何様かしらぁ、あの男。ジャンクにしてやりたい気分だわぁ」
「うんうん。プロデューサーもプロデューサーなら、その下っ端のアイドルも最低のゲス野郎なの。大毅を粛正しようとしたお父さんの気持ちが良く分かるよ」
さっきまで口論を繰り広げていた夜叉HiMEさんとなのはさんは、共通の敵が現れたことで、妙に意気投合している。
「いい? 美希。ああいう人たちには絶対に負けちゃ駄目だよ」
「あふぅ、がんばるの〜〜」
フェイトさんはフェイトさんで、幻楼を反面教師として美希に活を入れようとするが、効果は今一つのようだ。何か幻楼の連中は連中で芸能界を舐め切ってるけど、この美希って子は違う方向に芸能界を甘く見ている感じだな。
「プロデューサー。私、負けたくないです……!」
「雪歩?」
雪歩は俺の腕をガッシリと掴みながら、芯の通った声で決意を露にした。
「私、このルーキーズは絶対に勝ち上がりたい、自分がどこまで行けるかばかり考えていました。でも、今他のアイドルたちと出会って、負けたくないって思いました。みんなみんなこの日のために、一生懸命練習して来たんだ、生半可な気持ちじゃ勝てないって!!」
「雪歩……」
戦う相手の気質を直に感じたことにより、雪歩の中に眠る熱い闘志がメラメラと燃え上がって来たのが分かる。確かに俺自身、雪歩が勝ち上がることばかり考えていて、対戦者のことなんて視野に入れてなかったもんな。
そうだ。これは闘いなんだ――みんながみんな勝利を目指して死力を尽くし合う闘争なんだ――。だからこそ、絶対に負けない、勝ち残ってみせるという意気込みが何より大切なんだ。
『これよりルーキーズの開会式を始めます。出場するアイドルの皆さんはステージにお集まりください』
そんな時、開会を知らせるアナウンスが待合室に鳴り響いた。
「いよいよですね、プロデューサー」
「ああ。気を引き締めて頑張るんだ、雪歩!」
「はい! 私、一生懸命がんばりますから、見守っていてくださいプロデューサー。プロデューサーが私のことをずっとずっと見守ってくれてるって想いがあれば、私は緊張しないでステージに立てると思いますから!!」
そう強い決意の言葉を残し、雪歩はステージへと向かって行った。一緒に頑張ろうぜ、雪歩! 君と歩む雪の道に、確かな一歩を刻むために――!!
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「みなさんお待ちかねー。これより第一四半期、ルーキーズを開催いたします!」
大盛況のステージに司会者の声が響き渡る。俺はこの光景をオペレーションルームから見届けている。FIMグランプリにおいては、プロデューサーも一スタッフとして舞台全体を指揮しなくてはならない。アイドルはおろか、照明や音響の指示の裁量も、すべて俺に任されている。
つまり、どんなに優秀なスタッフやアイドルを揃えられていても、俺の指示一つで最高の演出にも最低の演出にもなり得るのだ。
「今回のルーキーズは、VOCAL、DANCE、VISUAL各項目10点満点、計30点の勝負! 通常のトーナメント形式とは違い、一発勝負のガチンコバトルとなります!!
そして生まれ立てのアイドルを審査する審査員は、いつものこの3人だー!」
司会者が審査員席の方に手を向けると、パッとスポットライトが当たり、審査員たちの顔が浮かび上がった。
「VOCAL審査員を務めさせていただきます、歌田音と申します。新人アイドルたちの美しい産声を聞けるのを楽しみにしております」
「DANCE審査員の軽口哲也だぜっ! オレのハートにビンビン響く華麗なダンスを期待してるぜ!!」
「VISUAL審査員の山崎すぎおよぉ! 見た目の美しさだけじゃなくどうやって魅せるかも、しっかりと審査させていただくわよぉ〜〜」
「そして司会と実況はわたくし、ジョン・北澤がお送り致します!」
そして北澤司会が挨拶し終えると、ステージの中心が煌びやかにライトアップされた。
「それでは審査員の紹介を終えたところで、いよいよ出演アイドルたちのご紹介です。まず1番手は、アークピジョン所属、伊藤誠プロデュースの、幻楼―Gen−Row―の皆さんです!」
北澤司会の紹介に合わせ、幻楼の3人がステージに姿を現した。
「幻楼は“アイドル界の元老”を目指すという大胆な志を掲げた、“アイドルマイスター”を自称するメンバーによって結成されたユニットです! 業界屈指のプロダクション、アークピジョンが送る大物新人アイドルが、どこまで闘えるか見物です!!」
「幻楼所属、コードネーム、武蔵野刹那……。アイドルマイスターの名に恥じぬよう精一杯頑張ります。私たちがアイドルマスターよ!!」
「キャッ! その小動物のような外見に似合わない大胆な発言がステキ! アタシ、気に入っちゃったかも!!」
刹那の発言に、山崎審査員が好感触を受けた。この審査員たちの前評判がアイドルたちのテンションに少なからず影響を与える。それが直接採点に影響するわけじゃないけど、ここはやはり好印象を与えておきたいところだ。
「3番手はDolce vite所属、夜叉HiMEプロデュースの、サザンクロスの皆さんです!」
「ひょおおー! ひゃうっ!!」
北澤司会に紹介されると、華麗に舞うシンを中心に、サザンクロスのメンバーが姿を現した。
「お、いいねぇ! 気に入っちゃったよオレ!」
シンの華麗な動きに、早くも軽口審査員が高評価だ。
「メインボーカルであるシンさんは、武道の達人と言われております! その華麗な舞踏をどうバンド演奏に絡めて来るのか楽しみです!!」
「フンッ! 俺の舞踏の前に敵はいない! 勝利の栄光を我等が姫に捧げるために、全力を尽くす!!」
シンは自らの舞踏を披露しつつ、プロデューサーである夜叉HiMEさんに勝利を誓った。自らのプロデューサーを姫と称えるくらいだ、絆の強さは、俺と雪歩に決して負けないな。
「4番手は何と、昨年度のアイドルマスター、魔王エンジェルのリリカルマジシャンガール赤城なのはが自らプロデュースするSmile Squad所属、覇王エンジェルの皆さんの登場です!!」
『おおおー! 我等がなのはさんの愛弟子の登場だー!!』
『なーのーはー! なーのーは! ワアアーー!!』
北澤司会に紹介され2人が姿を現すと、観客席からは大歓声が溢れ出した。やはり昨年度のアイドルマスターが自らプロデュースするとだけあって、みんなの期待も高いんだろうな。
「覇王エンジェルは、その名が示すとおり、魔王エンジェルの後継者的存在のユニット! 果たして昨年度のアイドルマスターにどこまで迫れるか、非常に楽しみです!!」
「エンジェルの名を汚さないよう、一意専心頑張ります!!」
『ファイト、ファイト、は・お・う! オオオーー!!』
橘花が元気一杯に挨拶すると、会場には大声援が流れた。審査員よりも会場に集まっている一般客の注目を引けたのはある意味心強いな。
「6番手はこれまた昨年度TOP×TOP準優勝を果たした、キュアブラックの金色の闇フェイト・T・ムーンが自らプロデュースする961プロダクション所属、星井美希さんです!!」
「あふぅ」
北澤司会に紹介されて姿を現すものの、相変わらず美希はやる気がなさそうだ。こんなんで本番は大丈夫なのだろうか? 他事務所所属のアイドルとはいえ、どうにも心配でしょうがない。
「ミキはね、ビジュアルには自信があるの。一生懸命頑張るの!」
「う〜〜ん、何かピピッと来ないのよねぇ。本番では期待してるわ」
口では一生懸命と言うものの、行動で示し切れておらず、山崎審査員が苦言を呈した。直接審査には関係ないとはいえ、審査員に悪い印象を与えてしまったのは痛いな。
「そして最後の8番手を飾るのは、765プロダクション所属の、萩原雪歩さんです」
他のアイドルたちの紹介が終わり、ついに雪歩の登場となった。雪歩がスポットライトで照らし出されると、否応なく俺の胸の鼓動は高鳴り、視線は舞台に釘付けとなった。
「萩原雪歩さんは高い作詞能力を持ち、今回ルーキーズで歌う歌も自ら作詞したという話です。自分で書き上げた歌をこの舞台でどう奏でるのか目が離せません!」
「萩原雪歩です。この日のために私は一生懸命練習に励んで来ました。雪の道のように険しいアイドルとしての道を共に歩もうって誓ってくれたプロデューサーとの約束を果たすため、精一杯がんばります!!」
「大変いい答えですね。本番では期待しています」
雪歩の心のこもった挨拶に、歌田審査員がニッコリと微笑んだ。他の審査員たちの反応も概ね良好で、本番には期待が持てそうだな。
「以上8組により繰り広げられる今回のルーキーズ! 入賞は上位3チームまで! 見事得点を重ね、TOP×TOPへの切符を手にするユニットは現れるのでしょうか!?
それでは第一四半期、ルーキーズ、レディィィィィ……ゴーー!!」
……続く
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