石巻「墨汁一滴」第六回訪問記

平成十三年三月十七日(土)

 まだ雪の残る水沢を九時十二分の上り列車で発ち、十一時十二分に石巻駅に降り立つ黒き怪人、その名は暗黒大公。今回の目的は、石森萬画館建設現場火災の見舞いと、今週新設されたマンガロードモニュメントの探索。マンガロードとは、駅前から「墨汁一滴」を経由して中瀬に至る道筋。

(去る三月十二日、石森萬画館建設現場で火災発生、三階の天井の一部等を焼いたものの死傷者は無し。やはり内海橋の狭さが災いして、消防車が現場になかなか入れなかったそうだ。その後、七月二十三日の開館予定日は延期しない旨の公式発表があった。)

 駅舎を出るとすぐ目の前に003のモニュメントが見える。FRP樹脂製、彩色済み。台座部分を除いた高さは百七十センチメートルほど、小さくはない。色白の愛らしい表情の像である。この時は台座部分に題字、説明文等は無いが、この後、十九日にプレートが設置される。プレートによればこのモニュメントは宝くじの普及宣伝事業として配備された物。あなたのった宝くじの収益がここで役立っている。
 そのすぐ近くにマンガロード案内板が設置されている。道筋の地図にモニュメント等の設置場所が書き込まれたもの。案内板を見て振り向けば駅前ポストの上にボンボンの金属製フィギュア、彩色無しで鈍く光る。
 以下記述するモニュメントやフィギュアはいずれも映像作品ではなく萬画の立体化である。
 「ISHINOMAKI MAN画マップ2000」と、石巻「墨汁一滴」ウェブページを印刷した物を取り出して場所を確認しつつ歩み出す。
 市中心部には全く雪が残っていない、元々ここは雪の少ない土地だという。温暖な春の日、手袋と襟巻きを外す。
 いつもどおり駅前をまっすぐに南下、マンガポケットパークの角で東に折れて立町通りに入る。
 七十七銀行の前にロボコンのモニュメント。身長は九十センチメートルほどだが横幅がかなりあって、赤い鏡餅のようだ。祖父と思われる老紳士に連れられた少女が「ロボコンかわいい」「また来るねバイバイ」と言っている。
 そのロボコンの前でウェブページの印刷を見ていると、通りかかった中年の夫婦にその印刷を見せてくれと言われる。印刷を見せて構想の話をする、駅前からモニュメントをたどってきたところだ、これからこのモニュメントを見に沢山の人が来るだろうと。どこから来たのと尋ねられて岩手からと答える、やはり鞄背負って地図見ながら歩いていればどう見ても旅人か。
 案内板によればこの付近に「エッちゃんとブク」のモニュメントがあるはずなのだがこの時は見当たらぬ。これも後日遅れて設置される。
 更にその先のポストの上にスカルマンのフィギュア。見つけたモニュメント等はウェブページの印刷物に印をつける。そのまま東進する。
 ペアーレ石巻の前に仮面ライダーモニュメント。身長は二メートル弱くらいあるか。腕を高く掲げ、顔も上を向いている。筆者も台座に上がってモニュメントと背比べをして大体の身長を目測するが、はたから見れば異様な行動だろう。尤も、筆者の上がる前に既に仮面ライダーの足下には他の人の足跡がついている。
 南下。アイトピア通りのポストの上にロボコンのフィギュア。立町通りのモニュメントと似たようなポーズ。
 やがてまた東進、橋通りに入る。「墨汁一滴」のすぐ向かいにエッちゃんのモニュメントと、ポストの上の仮面ライダーフィギュア。仮面ライダーの高さは四十センチメートルほど。両手を下げて拳を握ったポーズで、立町通りのモニュメントとは異なる。
 全てのモニュメント、フィギュアの探索を終えて「墨汁一滴」到着は十一時四十五分頃。店員の亀山女史が筆者を迎える。和田社長、awano氏はそれぞれの本業で店にはいない。まず今般の萬画館火災についての見舞いを述べる。
 新商品は矢口高雄の近刊程度。特に店内に変わった様子は無い。
 亀山女史と雑談等をする。「キカイダー THE ANIMATION」のミツコは変態だ、等。生き物にあって機械に無い事、それは遺伝と成長。
 「BLACK」ビデオ第十巻を再生。#38冒頭のEP党支持者達、本当にやる気無さそうな顔をしている。
 「いしのまきらいふ」三月号十六ページに、我が岩手県水沢市の阿弖流爲あてるいの関連記事が載っている。阿弖流爲とは、平安時代に官軍の坂上田村麻呂将軍と戦った地元の酋長。筆者は「私はこの水沢市から来たのだ」と語る。水沢市では地名「跡呂井あとろい」が人名「阿弖流爲」になったのではなく、人名が地名に残ったと言われている。
 客が筆者一人では間が持たぬ。
 石巻日日ひび新聞の記者が取材で来店、この店とは顔なじみらしい。
 十二時半頃、石巻市在住の友人・a1に電話。何とかこちらに来られるという。
 a1が来るまでの間、中瀬に行ってみる。萬画館工事現場の敷地を囲む壁は既に撤去済み。外から見る分には火災があったとは全く分からない。記念館の向かい、教会堂の隣では遊具の工事中。公園になるようだ。
 岡田劇場では「ドラえもん」「東映アニメフェア」上映中。
 狭い中瀬の散策は三十分も掛からない。また店に戻る。
 十三時十五分頃、a1到着。「名所等は地元民ほど行かない」を実践している彼、平成十一年八月二十一日以来の来店。我々自身は昨夏以来の再会。
 話題は互いの近況、友人達の様子、その他諸々。バイク愛好家のa1からは、「クウガ」に比べて「アギト」のバイクアクションが格段に稚拙になったという指摘。また、今は原付免許しか持っていない筆者は遠からず自動二輪の免許取得を考えているので、それについての助言を彼から受ける。サイドマシンも魅力的だとは思うのだが運転が難しく、費用も掛かるそうな。
 「キカイダー THE ANIMATION」ビデオ第一巻再生。店内の「キカイダー」関連の品物はこのビデオ(売り物ではない)と前から売っている萬画絵葉書程度。「アギト」関連はまだ無いようだ。
 これから所用のあるa1は十四時頃に退出。筆者は009マウスパッド一枚を買って十四時半頃に退出。
 アイトピア通りを南下、カットサロンワダを訪問。和田社長の本業は理髪業、丁度仕事中。筆者からは萬画館火災の見舞いを述べる。
 暫し社長と歓談。萬画館の事、モニュメントやフィギュアの事、中田町の事。今日も社長の語り口は熱い、実に熱い。観光案内書「石巻読本ガイドブック」と「市報いしのまき」二月号、三月号をもらう。「市報」は表紙に石森萬画が採用されている、二月号は「原始少年リュウ」、三月号は「ハリマオ」。この日の晩、構想関係者一同で上京し、翌日に石森章太郎の墓参をして構想の報告をするとのことである。
 カットサロンワダの真向かいが粟野蒲鉾店。一箱購入。遂にここの店員にも顔を憶えられてしまう。
 駅に向かう。マンガロード案内板には「マンガベンチ」も記されているが、ことぶき町通りの実物はまだ覆いが掛けられたまま。立町通りにも駅前と同じ案内板が設置されているのを見つける。
 またこの日も昼食を摂っていない事に気付く、何か楽しい事に夢中になると食事を忘れてしまう筆者である。駅のコンビニで食料調達、十五時二十一分の小牛田行の車中で喰らう。水沢帰着は十八時二十六分。帰りは小牛田での四十五分待ち、一関での三十分待ちが大きい。

 今回も天気に恵まれた。地図を見ながら街を探索するというのは楽しいものである。今回の訪問後に公開された物もいろいろあるので、次の訪問が楽しみだ。
 既にあんな頑丈な案内板を作ってしまったということは、モニュメントの追加は無いのだろうか。「墨汁一滴」と萬画館の間にもう一つか二つは欲しい、筆者はキカイダーを熱望。それと、萬画ではないが防火のまじないとして「RX」の的場響子(個人的趣味丸出し)。
 マンガモニュメントの他、功績を讃えるために構想関係者のモニュメントも作るべき。ロダンの「カレーの市民」のような群像も考えたが、和田社長、awano氏、尾形氏や「墨汁一滴」店員の女性陣の顔で十面鬼を作ったらどうだろう。
 火災については大事に至らず、開館は延期されないというのは何より。しかしながら作業に遅れが生じたことは間違いないだろうから、今後は事故の無いようにしっかり作業を進めて欲しい。
 構想の取材で石巻市を訪問するようになって二年半。オイスタンプラリーの時は「墨汁一滴」の他にはマンガランドらしき物が何も無いと思っていたが、今般のマンガロード整備で石巻市は一気に「マンガの街」になったと思う。
 度々の訪問と現地の人々との交流で、構想から離れて石巻市自体にも興味関心が湧いてきた。子供の頃に仙台圏に十年ほど暮らしたものの、石巻市は小学校の遠足で訪れた程度で今まであまり縁が無かったので、これからもいろいろ歩き回ろうと思う。その遠足も製紙工場見学と日和山公園程度しか記憶が無いのだ。それと石森章太郎が宮城県出身というのも子供の頃から知ってはいたが(高校の英語の担任が石森の親戚でその名も小野寺)、特に「県出身の著名人」として気に留めることも無かった。
 今まで使っていた布のマウスパッドがだいぶ傷んでいたので今般「墨汁一滴」で一枚買った、ふるさと記念館の商品。使い心地は上々である。は張るが材質は良い。
 ところで、萬画館チラシに書かれている謳い文句は「目覚めよ、覚醒せよ。」で、「アギト」の次回予告のナレーションは「目覚めろ、その魂!」。偶然だろうか。

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