その十六 タンサー5対スーパー1

要旨

 昭和五十四年のサンライズ作品「科学冒険隊タンサー5」#11「月面の古代メカ 空飛ぶ竜戦車」と、五十六年の東映まんがまつりの一本「仮面ライダースーパー1」は同一世界の出来事であり、前者に登場する竜戦車と後者に登場する火の車は共に殷王朝の兵器である。
 本稿では作品内の呼称に従って、商ではなく殷と表記する。

本文

 「タンサー5」では、一九九九年の月面調査隊が月面で、空飛ぶ円盤型の胴体に竜の首と尾、無限軌道を備えた青銅の竜戦車の攻撃を受ける。月面からの連絡を受けたタンサー5は、竜戦車が中国大陸山東省の画像石や古代殷王朝のユオウ(恐らく殷王朝初代のとう王の事)の持っていた置き物に似ている事に気付き、探査のため三千五百年前の山東省に飛ぶ。そこでは月面と同形の竜戦車が村々を襲撃していた。タンサー5は竜戦車に乗り込んでこれを停止させ、生物を無差別攻撃する無人兵器である事を解明する。月面の竜戦車は調査隊に参加していたタンサー5隊員によって撃破される。竜戦車は異星人の地球侵略兵器なのか、それとも古代地球人の宇宙侵略兵器なのか、謎を残したまま今回の物語は終わる。
 正確な年代は判明していないが、殷王朝は紀元前十七世紀から同十一世紀まで存続したとされ、まさに竜戦車の時代に当たる。
 「スーパー1」では、日本の東北地方のマタギの里・山彦村の守護神とされていた、古代中国の戦車・空飛ぶ火の車をドグマ帝国が手に入れてこれに乗り込み、村や都市を焼き払う。車輪を横にしたような胴体に竜の首と前脚を持つ火の車は、三千年前の古代中国の王が作った物で、山彦村はその王が蛮族を倒して開いたのだと言う。ドグマに操られる火の車はスーパー1や山彦村のマタギの子供達の活躍で破壊される。
 周の武王が殷王朝を打倒したのが紀元前十一世紀で、二十世紀の約三千年前であり、火の車の渡来時期と一致する。
 竜戦車は目から光線を発射する無人兵器、火の車は口から火炎、両前脚からミサイルを発射する有人兵器と言う違いはあるが、「竜の形をした空飛ぶ円盤」と言う点ではよく似ている。「タンサー5」冒頭で世界の宇宙飛行伝説に触れるくだりに出て来る絵は、竜のような、雲のような空飛ぶ円盤に人が乗っており、また前脚があるので、竜戦車よりも寧ろ火の車に似ている。
 みん代の百科事典・三才図会には、奇肱国きこうこくの人々が空飛ぶ車でやって来て、それを湯王が破壊したと言う記述がある。元々竜戦車は奇肱国の技術を継承独占した殷王朝の兵器で、王朝滅亡の際に生き残りの王族が日本に、竜戦車の別種である火の車と共に渡って来たのではないか。往々にして無人兵器には暴走がつきものであり、竜戦車が作り主を襲ったりした為に、敢えて有人兵器にした物であろう。火の車は有人兵器であるほか、御影石の宝石のように、外部から暴走を止める仕組みが準備されていた。或いは、無人兵器と有人兵器を使い分けていたのかも知れない。危険な宇宙での使用ならば無人の竜戦車の方が理に適っている。そして古代中国人の月面進出については、九個の太陽を射落とした弓の名人・羿げいの妻の嫦娥じょうがが、夫が神から授かった不老不死の薬を奪って月に出奔したと言う伝承がある。
 史記によれば、殷王朝の最後の王・紂王に迫害された王族・箕子きしが朝鮮に逃れてかの地で建国しているので(箕子朝鮮)、彼の他に、日本に来ていた王族がいたと考えられる。古来、大陸や半島での動乱を逃れ、祖国を捨てて日本にやって来た人々は多い。殷王朝滅亡より時代が下るが、青森県と秋田県には始皇帝の命を受けた徐福が不老不死の仙薬を求めてやって来た、また秋田県には漢の武帝が空飛ぶ車に乗って飛来したと言う伝承があり、古代中国との関連を伺わせる。尚、武帝飛来伝説は史記や漢書には記述が無い。
 時間移動で恐竜時代に飛ぶ事もできるタンサー5が三千五百年前の竜戦車の製作者を探査できないとは考えにくい。竜戦車を作ったのが古代中国だと判明、公表すると、月面での事件の責任や補償で面倒な国際問題になりかねないので、上層部からタンサー5に探査中止命令が出ていたのではないか。殷王朝と現代の中華文明の連続性と、台湾と中共の正統争いが絡む。
 尚、前述の「タンサー5」の冒頭の絵の、竜の搭乗員の髪型が弁髪だが、弁髪は清王朝即ち滿洲族の習俗であり、中華古来の髪型ではない。また、竜戦車に襲われた村の女性がズボンを穿いていたのも、これもまた北方騎馬民族の衣服・胡服こふくである。後の戦国時代、趙の武霊王が騎馬戦法を導入しようとした際、臣下達から「胡服騎射きしゃ夷狄いてき(異民族)の習俗」だと猛反対を受けている。古代中国人の描写に弁髪やズボンが出て来るのは、紫式部が洋装のドレスを着ているようなもの。ついでに、古代中国の戦車は馬車であり、牛に松明をくくりつけて突進させたと言う例はあるが牛戦車は寡聞にして知らず。

(平成二十七年二月二十一日)

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