#39「アイドルの毒牙」
昭和六十三年七月十日放送 脚本・山田隆司 監督・蓑輪雅夫
登場怪人・ムカデ怪人
粗筋
ビデオでしか見られない謎のアイドル歌手・大井裕子、人気急上昇。光太郎はビデオを分析、その細工を解明。更に裕子の正体を調査するも実態は掴めず。
裕子本人はゴルゴムに捕えられており、ムカデ怪人が裕子を演じていた。光太郎は裕子本人のいる洋館に到達。そこにムカデ怪人出現。BLACKはライダーパンチをムカデ怪人の右肩に外し、続いてキックを放とうとした時にビシュム乱入。ムカデ怪人は逃亡。
杏子は裕子の正体はムカデ怪人であると指摘するが光太郎は信じず。裕子は新作ビデオで視聴者に光太郎抹殺を指示、果たして光太郎は街で裕子信者の集団に襲われる。
光太郎の危機を察知してバトルホッパー出動、杏子を乗せて光太郎のいる例の洋館に急行。バトルホッパーは裕子をぶっ飛ばし、杏子は裕子の正体を暴く。正気に戻った光太郎は変身してムカデ怪人を斃し、杏子は裕子本人を救出。
暗黒大公曰く
今回の前日に劇場版第二作公開。
大井裕子、徳間の実在した同名アイドル歌手。出した音盤はシングル「横浜ウィスパー」一点のみ。公式プロフィールのとおりなら昭和四十七年生まれ、宣伝文句は「5.25/DEBUT/ユーコの/ときめき記念日」「キュンとなまいきでツンとかわいい/まっすぐな16歳」。当時の彼女のパンフレットの写真が劇中のビデオの箱にも使われている。黒髪、太い眉毛と甘ったるい声の、壊れかけたAMラジオがよく似合いそうな、まさに昭和末期のブリブリアイドル歌手である。筆者は元来アイドル歌手には興味が無く、彼女についても「BLACK」でしか知らない。撮影時期を考えると今回の出演は本当にレコードデビュー前後の仕事だろう。尚、音盤B面「JOY OF SHARING」は、失敗に終わった地方博「世界・食の祭典1988」のテーマソングであった。NHK紅白歌合戦に出場したり、「裕子ちゃんカット」が流行ったりしたわけでもないので、いずれにせよ彼女の現実世界での活躍は「BLACK」世界内でのそれには遠く及ばなかった、なまじ本当に歌手だっただけに何とも皮肉ではある。これが小原靖子(相原勇)や田中美奈子なら劇中で演じたストリートクイーンやキャンペーンガールにとどまらず、それぞれトップアイドルになっている。ひょっとしたら、大井は実在の歌手としてよりもこの「BLACK」出演の方が歴史に残る仕事かも知れない。彼女の現況は筆者には知る由も無いが、もし彼女に子供がいれば「お母さんは若い頃に仮面ライダーを骨抜きにした」とでも言うのだろうか。
冒頭での「裕子の不思議な国へ」の「国へ」のアクセントが変。今回だけの挿入歌「MAゴコロあ・げ・る」は小野寺丈作曲。完成度の高い曲なので、いつか諸般の事情を乗り越えて是非CD化して欲しい。
南光太郎という男、確かに強固な外骨格に覆われた無敵のバッタ男だがその精神は人間の青年のまま。その男心を突いてきた今回のビシュムの作戦、シャドームーンの指摘どおり実に秀逸である。ムカデ怪人の変身と裕子本人を使い分けたのもさすがだ。ビシュムは怪人になる前はさぞかし周囲の男性を悩ましまくって、男心を知悉していたのではあるまいか。尤も、怪人になっても筆者をあの声や眼差しで悩殺してはいる。
果たして光太郎も裕子ビデオを気に入ってしまう。呆れ顔の克美、完全に怒ってる杏子。そりゃ怒るだろ、目の前で手を振ってみても暫くは気付かなかったのだから。裕子に対して不快感を表明する杏子に克美も同意する。そして裕子が社会現象になっても騒いでいるのは男性ばかりで「裕子の歌や服装を真似る女の子」は全く出て来ない。裕子ビデオの効力は男性限定、所謂「同性に嫌われる」か。
ビデオでしか見られないアイドル歌手、それに夢中になる男共。そして現実逃避、犯罪。何だか洒落にならない、この展開。強引な勧誘の方法は殆ど怪宗教だ。引きこもりでビデオを見ていた縞シャツの男、現実世界にもああいうのはいるだろう。裕子信者を量産しておいて光太郎襲撃を指示する、本当によく練り上げられた作戦だと感嘆せずにはいられない。一般人を戦闘員に仕立てれば光太郎はこれを攻撃できない。余談ながら、裕子新作ビデオを求める人々の様子は、同時代の出来事として旧ファミコンの「ドラクエ」発売日の騒動を想起させる。
初めて例の洋館に到達した時、窓から身を乗り出して「助けてえ」と叫ぶ裕子に対して光太郎は「離れていて」と言ってから跳躍するが、何故か窓から飛び込むのではなく廊下側から入室している。柄にもなく「涙を拭いて」とハンカチを差し出すが、光太郎のハンカチなんて汚れて汗臭そうだ。
裕子信者の襲撃を切り抜けるもとうとう裕子の為に精神的に参ってしまった光太郎、洋館の裕子の前に跪く。満足げな笑みを浮かべる裕子、「私の物」を宣言。その後で光太郎の首を絞めにかかるが、もし裕子が「私の物」と言った直後に杏子が「そうはいかないわ! 光太郎さんは私の物よ!」等と言って飛び込んで来たら大笑いであった。
ムカデ怪人は戦闘能力よりも変身能力を買われての出陣ならん。光太郎とBLACKに対して首絞めと言う珍しい攻撃。二回戦でライダーキックを受けて転がる場面では尻尾の付け根が裂けて白い断面が露出、何とも痛々しい。アイドル歌手と百足、奇妙な取り合わせではある。
バトルホッパーと杏子大活躍。主人の危険を察知するバトルホッパー、光太郎を救わんと奔走する杏子を連れて戦場へ。バトルホッパーは口をきいたり、裕子の服の袖を破いたりはできなかったから、杏子を連れて行って正解であった。杏子がバトルホッパーにまたがる描写はないが、バトルホッパーを杏子が徒歩や自転車で追いかけたとは考えにくい。戦闘でもBLACKはムカデ怪人に追い詰められてバトルホッパーを呼んだのではなく、バトルホッパーが自主的にムカデ怪人攻撃に加わっている。バトルホッパーとしては、主人をたぶらかしたムカデ怪人を許せなかったのだろう。いずれにせよ、実に光太郎は改めてバトルホッパーと杏子に感謝せねばならない。筆者は前々からバトルホッパーは雌バッタであると主張している、そしてムカデ怪人も胸の膨らみがあるから女性怪人だろう。或る意味では今回、男心をめぐっての杏子、バトルホッパー組対ビシュム、ムカデ怪人組の女の戦いでもあったのか。
クレジット
オープニング
仮面ライダーBLACK
吉川 進
堀 長文
(東映)
プロデューサー
井口 亮
山田尚良
(毎日放送)
原作 石ノ森章太郎
少年サンデー
てれびくん
連載 コロコロコミック
小学館学習雑誌
テレビランド
脚本 山田隆司
音楽 川村栄二
主題歌
「仮面ライダー 「LONG LONG AGO,
・
BLACK」 20TH CENTURY」
作詩 阿木燿子
作曲 宇崎竜童
編曲 川村栄二
歌 倉田てつを 歌 坂井紀雄
(コロムビアレコードCK‐797)
挿入歌
「MAゴコロあ・げ・る」
作詞 山田隆司
作曲 小野寺 丈
編曲
演奏 21-TWENTY ONE-
歌 大井裕子
南 光太郎
仮面ライダーBLACK
倉田てつを
秋月杏子
井上明美
紀田克美
田口あゆみ
望月和伸
高橋 守
吉成幸一
羽賀 大
神田真理
坂田佳枝
岡元次郎
北村隆幸
飯田規子
岩田時男
庄司浩和
(ジャパン・アクション・クラブ)
アクション監督
金田 治
村上 潤
(ジャパン・アクション・クラブ)
ナレーター 小林清志
ダロムの声 飯塚昭三
大怪人ビシュム
好井ひとみ
大怪人ダロム
山本貴浩
大怪人バラオム
高橋利道
大井裕子
監督
蓑輪雅夫
エンディング
撮 影 工藤矩雄
照 明 仲澤廣幸
美 術 稲野 実
造 型 前澤 範
録 音 太田克己
編 集 菅野順吉
選 曲 茶畑三男
効 果 大泉音映
製作担当 寺崎英世
進行主任 梶川雅也
助監督 松本祐幸
計 測 西野高司
記 録 栗原節子
製作デスク 岩永恭一郎
装 置 東映美術センター
操 演 神尾悦郎
美 粧 サン・メイク
衣 裳 東京衣裳
装 飾 大晃商会
衣裳協力 セ・ラ・ヴィ
資料担当 小佐野 聡
(石森プロ)
キャラクター製作 レインボー造型企画
イラスト 野口竜
プロデューサー補 高寺成紀
合 成 チャンネル16
現 像 東映化学
オートバイ協力
S SUZUKI
ビデオ合成 東通ECGシステム
峰沢和夫 近藤弘志
前岡良徹 鈴木康夫
(株)特撮研究所
操 演 鈴木 昶
尾上克郎
撮 影 高橋政千
照 明 加藤純弘
美 術 佛田 洋
特撮監督
矢島信男
△東映
製 作
毎日放送
使用音楽一覧
場面 | 番号または歌曲名 | 音楽メニュー |
大井裕子 | 「MAゴコロあ・げ・る」 |
副題 | M48b別 | サブタイトル |
ビデオ鑑賞中 | 「MAゴコロあ・げ・る」 |
ビシュムの作戦 | M20 | 世紀王脱走 |
「裕子命」、ビデオ分析 | 「MAゴコロあ・げ・る」 |
裕子の眼光 | M31 | 操り人形 |
スタジオ | 「MAゴコロあ・げ・る」 |
囚われの裕子本人 | M40 | 挑戦 |
ムカデ怪人 | V8 | 絶体絶命 |
運搬車追跡 | M6 | 悪魔の追撃 |
洋館の裕子 | M31 | 操り人形 |
ムカデ怪人 | M34(uptempo) | 迫りくる怪人 |
変身、戦闘 | V0 | ヒーロー登場 |
社会現象 | M2 | シティ・チェイス |
MOG‐LOG、ゴルゴム | M8 | 闇の視線 |
裕子のお願い | M15 | 怪人出現 |
光太郎眩惑 | MCT3 |
ふらふらと洋館へ | M31 | 操り人形 |
バトルホッパー、杏子見参 | M41 | チャンス到来 |
正体はムカデ怪人 | V8 | 絶体絶命 |
変身、戦闘 | 「仮面ライダーBLACK」 |
バトルホッパー | V1 | 変身! |
正式デビュー | 「仮面ライダーBLACK〜星のララバイ〜」 インストゥルメンタル |
おどける三人 | 「レッツファイト・ライダー」 最後部 |
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I use "ルビふりマクロ".