#28「地獄へ誘う黄金虫」

昭和六十三年四月二十四日放送 脚本・荒川稔久 監督・小笠原猛
登場怪人・コガネムシ怪人

粗筋

 コガネムシ怪人の分身、オオガネシ出現。黄金の巣を編み、それは高値で売れるという。世間ではオオガネムシの飼育が大流行、その様子を怪しむ光太郎。少年・小山サトルの両親もまたオオガネムシに夢中になっていた。
 流行を煽るべくオオガネムシ長者の倉持氏出現、その正体は剣聖。倉持御殿の近くの林中でBLACKはコガネムシ怪人、剣聖と一戦交えるが剣聖達はすぐ退却。
 ますます過熱する流行、遂に光太郎は直接行動に出る。飼育家庭に乱入して飼育箱を投げ捨てたり、飼育を辞めるように説得したり。しかし聞く耳持たれず。
 人間に絶望した光太郎、そこに剣聖とコガネムシ怪人出現。すると笑い出す光太郎、実は「絶望」はゴルゴムをおびき出す為の芝居。BLACKはコガネムシ怪人を斃し、それと同時にオオガネムシ消滅。BLACKと剣聖の対決はBLACK優勢のまま剣聖退却。

暗黒大公曰く

 「黄金虫」は「オウゴンチュウ」と読む。「クウガ」の荒川稔久の「仮面ライダー」デビュー作。
 「BLACK」随一の爆笑編と言っていいだろう。今回の光太郎、オオガネムシ飼育家庭に乱入して実力行使、それで罵声を浴びせられたり水をぶっかけられたり。「人のささやかな夢を壊して楽しいのか」「そうだ、お前なんか鬼だ」「悪魔よ」今回の光太郎、はっきり言ってはたから見れば単なるお節介の暇人である。それでまた実にしつこい「またお前か」。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の名物企画「しつこい高田」を思わせる。しかし実力行使の場面でV1aは使って欲しくなかった。どうも今回のLDによる再鑑賞で、度々選曲に違和感を抱くようにもなった。
 放送当時はまさにバブル経済真っ只中。今回の内容は「オオガネムシバブル」に外ならない。同じ原作者の「マンガ日本経済入門」が注目されたのはこの前年。あれから十数年、我々はまだあの狂乱景気の後遺症に苦しんでいる。今にして思えば今回の物語はバブル経済の行方を暗示していたのか。
 実はLDのジャケット裏面のコガネムシ怪人の写真を見ても「はて、この怪人は何だったっけ?」と、すぐには思い出せなかった筆者。怪人の印象を吹っ飛ばしてしまうほど、筆者には本編が強烈だった。
 サトルの父役は後番組「RX」の佐原俊吉役、赤塚真人。鍋と金属バットと座布団で武装してオオガネムシを慈しむ姿、実に笑える。
 今回のような話、フジ版「ムーミン」にもあったような気がする。光太郎がスナフキン、サトルがムーミン、それで何か一時の流行に狂奔する人々を冷めた目で見ていると。
 オオガネムシ長者の倉持氏は久方振りの剣聖人間体、吉田淳自身が演じた例としては初登場の回以来二度目。髭を生やした紋付き羽織袴姿、やはり痩せていて屈強さは無い。どうしても色白のヤサ男だよ、吉田は。髭を撫でつつにやりと光太郎を睨む顔が印象深い。
 キャピトラで流れていた曲は「パラダイス銀河」。これまた実に懐かしい。
 「たかが虫に」斯かる言葉を吐く光太郎は決して趣味人ではない、やはりがさつな奴である。世間が「たかが」「こんなもの」と思う事項に精魂傾けるのが趣味人だ。しかし「たかが虫」から例によってゴルゴム臭を嗅ぎ付ける光太郎。ゴルゴムは太古から人間社会を裏で操ってきた連中だから、この世界で起こる不思議な出来事は何でもゴルゴムのせいにしてもあながちはずれでもない。
 まあどんな手段で入手しようが富は富だ。星セント、漫才で曰く「若い時の苦労は勝手にしろ」。筆者も「実績の無い努力」より「努力の無い実績」こそ貴ぶ。同じ実績なら努力なんてしないに越したことは無い。
 光太郎に対して叫ぶサトルの父、「あんただって、あんただって心のどこかに、金の巣を欲しがっている気持ちがあるだろうが!」光太郎からの回答は無い、ただ「捨てるんだ」一点張り。実際、光太郎の気持ちの奥底はどうなのだろうか。光太郎は一時の流行に躍らされるような人間ではないとは思うが、さりとて悟り切った無欲恬淡の人だとも思われぬ。果たしてオオガネムシに狂奔する人々を光太郎は、そして我々は本当にわらえるのか、嗤っていいのか。
 前半最後、オオガネムシによる人間達の狂乱の様子に喜ぶ大神官達、しかし剣聖の目的はあくまでも打倒BLACK。同じ組織に属していても目指すものは違う。今回、人間達を狂乱に陥れることによって光太郎に絶望、戦意喪失させようとした剣聖の作戦、実に秀逸である。最近の特撮番組では「誰かを守る為」というのが流行っているが、その守るべき対象を失ってしまったら、そこには絶望しか無いだろう。
 しかし絶望したと思わせておいて実はそうではなかった光太郎。「俺は絶望等しない、サトル君のような純粋な心を持った少年がいる限り、絶対にしない!」実に正義のヒーローらしい頼もしい台詞である。基本的に正義の味方は大嫌いで、悪役好きというより自身が悪役である筆者だが、この光太郎の決意表明は好きだ。主役がしっかりしていればこそ悪役の応援の甲斐もあるというものだ。
 オオガネムシ金粉攻撃、別に川北紘一に非ず。「BLACKからゴールドになるわ」

クレジット

オープニング

仮面ライダーBLACK         吉川 進         堀 長文          (東映) プロデューサー         井口 亮         山田尚良         (毎日放送) 原作 石森章太郎    少年サンデー    てれびくん 連載 コロコロコミック    小学館学習雑誌    テレビランド 脚本 荒川稔久 音楽 川村栄二     主題歌 「仮面ライダー  「LONG LONG AGO, ・   BLACK」  20TH CENTURY」   作詩 阿木燿子   作曲 宇崎竜童   編曲 川村栄二   歌 倉田てつを 歌 坂井紀雄     (コロムビアレコードCK‐797) 南 光太郎 仮面ライダーBLACK  倉田てつを 秋月杏子  井上明美 紀田克美  田口あゆみ 赤塚真人 東 啓子 大山豊 村上幹夫 大矢兼臣 麻 ミナ 本庄和子 山中一徳 横田ひろみ 冨田晋寛 山田兼司 石井克仁 後藤芳和 岡元次郎 北村隆幸 山本貴浩 末永貴久 渡辺 実 (ジャパン・アクション・クラブ) アクション監督  金田 治  村上 潤   (ジャパン・アクション・クラブ)
ナレーター 小林清志 ダロムの声 飯塚昭三 大神宮ダロム  庄司浩和 大神宮バラオム  高橋利道 剣聖ビルゲニア  吉田 淳 大神官ビシュム  好井ひとみ 監督  小笠原 猛

エンディング

撮 影 松村文雄 照 明 中川勇雄 美 術 井上 明 造 型 前澤 範 録 音 太田克己 編 集 菅野順吉 選 曲 茶畑三男 効 果 大泉音映
製作担当 寺崎英世 進行主任 竹内洪太 助監督 蓑輪雅夫 計 測 岡部正治 記 録 富田幸子 製作デスク 岩永恭一郎 装 置 東映美術センター 操 演 国米修市 美 粧 サン・メイク 衣 裳 東京衣裳 装 飾 大晃商会 資料担当 小佐野 聡      (石森プロ) キャラクター製作 レインボー造型企画 イラスト 野口 竜 プロデューサー補 高寺成紀 合 成 チャンネル16 現 像 東映化学 オートバイ協力   S SUZUKI
ビデオ合成 東通ECGシステム   峰沢和夫 近藤弘志   前岡良徹 鈴木康夫 (株)特撮研究所 操 演 鈴木 昶     尾上克郎 撮 影 高橋政千 照 明 加藤純弘 美 術 佛田 洋 特撮監督  矢島信男     △東映 製 作     毎日放送

チャンス到来
使用音楽一覧
場面番号または歌曲名音楽メニュー
コガネムシ怪人V8冒頭のみ絶体絶命!
使用許可M3張りつめる空気
作戦開始M15冒頭のみ
オオガネムシ放出M34(uptempo)迫りくる怪人
副題M48b別サブタイトル
弱虫サトルM30
小山家M32aT2危険な予感
感づいた倉持氏V8絶体絶命!冒頭
倉持氏を追う光太郎M46急襲
コガネムシ怪人襲来M41
BLACK対ゴルゴムV0ヒーロー登場
大神官達御満悦M48bT3
オオガネムシ放出M45T2怪人出撃
サトルの悲しみM19偽りの魂
実力行使V1aT1燃える想い
光太郎対小山氏、光太郎の絶望M22大いなる悪の力
剣聖高笑いV7aT5邪悪の神殿
コガネムシ怪人出現M34おぞましき姿
光太郎反撃「ブラックホール・メッセージ」
コガネムシ怪人の猛攻V8絶体絶命!
BLACK反撃「仮面ライダーBLACK」
BLACK対剣聖V1変身!
BLACK反撃「BLACK ACTION」


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