このゲームを買ってはいけない!
店頭であるゲームを見掛けた時真っ先にそう思った。
そのゲームの名は『シスタープリンセス』、12人の妹達と関係を深めたりする所謂恋愛ゲームである。と言っても、対象となるのは恋人ではなく妹なので「ギャルゲー」や「美少女ゲー」と言った方が妥当なのだろうか?ともかくこれらのゲームでは「妹」というカテゴリーは定着しており、このゲームがそれら妹属性のマニアを対象にして作られたのは明白である。絵柄も奇麗だし、別に購入しても良いのだが一つ問題があった……。
「お兄ちゃん、最近元気ないよ。何か悩み事でもあるの?」
「い、いや何でもないよミーナ。ちょっと欲しいゲームがあるんだけど小遣いが足りなさそうで悩んでいるんだ。まあ、そんなに深刻な悩みじゃないからミーナが心配する事ないよ」
「ふ〜ん…。お兄ちゃんいっつもお小遣いスグに使っちゃうから、小遣いに困らないよう気を付けるんだよ?」
「ああ、気を付けるよミーナ」
そう―、私には妹がいるのだ。名前は美奈、五歳年下で私がミーナとあだ名で呼ぶ程仲が良い兄妹である。いつも兄である私の事を慕い、時には私の悩み事も聞いてくれる全く持って出来の良い可愛い妹である。これが、私がシスプリを買えない理由なのである!
実際に妹が居るというのに、妹を攻略するゲームを買う行為!この狂気と背徳に満ち溢れた感覚!
妹って言っても所詮は空想上の妹だろ?実際に自分の妹と付き合う訳じゃないから別に問題ないんじゃない?確かにそういう意見もあるだろう。私が一般人であるならそれで構わないのだが、私には性格的に随分と問題がある。今まで私は過去に幾多の空想的作品に出会い、その影響が現実世界にまで浸透した。
小学生の頃、『ドラえもん』を読んでは毎日のように、自分の机からいつか必ずドラえもんが出て来ると頑なに信じていた。『ああっ、女神様!』を読んでは、ベルダンディーが空から舞い降りて来て自分の願いを叶えてくれるだろうと妄想を展開した。『機動戦士ガンダム0083』に至っては、「再びジオンの理想を掲げる為!星の屑成就の為!ソロモンよ私は帰って来た!」の屈指の名台詞と共に連邦のソロモン艦隊に向けてアナベル=ガトーが核弾頭を発射するシーンに深く感動し、現実で「星の屑作戦」実行するにはどうしたら良いか本気で思案した。とりあえずアメリカ国防省を壊滅させる事を星の屑と例え(アメリカ国防省の形がペンタゴン、「星」の形をしている事から)、台詞も若干変え、「再び大日本の理想を掲げる為!大東亜共栄圏成就の為!太平洋よ、私は帰って来た!」と叫んで核弾頭を発射しよう。私は実際に大東亜戦争(太平洋戦争)には参戦していないから、「帰って来た」とは言えないのだが、まあ、カッコ良いから細かい事は気にしなくていいだろうと、こんな危険思想を抱くまでに至った。こんな私がシスプリを買ったらどうなる?まあ、別にこのゲームは18禁でないのだから確かに浸透はするかもしれないけど、そんなに問題はないだろう。これが18禁だったら本当にまずかった。妹と仲良くなり、最終的には一線を超えられます!こんなゲームだったら確実に私は自分の妹を襲う結果となっていただろう。
しかし、この安易な判断が私を大きく狂わす事になろうとはまだ気付きもしなかった……。
悩みに悩み、結局私はシスプリを購入してしまった。家に帰り深夜、家族が眠ったのを確認し、私はプレイステーションを起動させた。妹がいる状況下でシスプリをするのは18禁ゲームをプレイするより勇気のいる行為だ。私は既に18歳になっているから18禁ゲームをプレイするのは公的に認められている。これが18歳以下だったらこちらの方が勇気がいったかもしれないが。
プレイステーションのロゴが表れた後読み込みが終了し、いよいよゲームが始まる。その最初に流れて来たもの、それは……
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、朝だよ…」
「ん…その声は誰だ…?花穂か?でも呼び方からして可憐か……?」
「お兄ちゃん、私だよ、ミーナだよ…」
「ん…、ミーナ…?って、わあっ!」
夢と現実の間を彷徨っていた私の意識は、妹の一声により現実へと帰還する。
「どうしたの、お兄ちゃん、元気ないよ?また夜遅くまでゲームしてたんだね…」
「あ、ああ…」
無我夢中になり昨晩は3時過ぎまでプレイをしていた。咲耶の兄を『お兄様』と呼ぶ声に脳が刺激されまくり、そんな時間までシスプリに魅入っていた。
「もう、今日は休みの日だからいいけど、お身体はちゃんと気を付けないとダメだよ!」
「ああ、気を付けるよ…」
念を押すように私に忠告し、部屋を去るミーナ。その忠告する態度から私に対する想いがこれでもかと感じ取れる。こう考えてみると、咲耶はキャラクターとしては魅力的だが、妹という概念で考えると違和感を感じる。兄を『お兄様』と呼び執拗なまでに兄を慕う態度は、現実にされたら鬱陶しさを感じるだろう。咲耶はどちらかといえば妹とというよりは、先輩を兄のように慕う後輩と考えた方が良いだろう。その方が現実味があるし、何より自然に萌えられる。
そんな訳でシスプリは普通のギャルゲーとして楽しめそうだ。妹達も全員後輩だと考えればいい。今日は休みでもあるし今日はシスプリ三昧で過ごす事にしよう。しかし、やはり妹に遊んでいるのがバレると世間体がマズイので、イヤホンを掛けながら遊ぶ事にした。それにしてもこのシスタープリンセス、冷静に考えると色々と腑に落ちない所がある。例えば妹達の年齢だ。全部で一二人居るのは前述した通りだが、誰が何歳であるかは一切銘記されていない。見た目で大体の年齢は想像出来るが、それでも疑問に思う事がある。
妹達の年齢は見た目でも7、8歳〜14〜15歳である。そう考えると作中における母親は年2人ペースで女子のみを生み続けたという事になる。戦前だったら確実に勲章ものの行為だろう。しかし、常識的に考えると一卵性双生児という事になろうが、作中の性格や容姿を見る限り双子の組み合わせはない。つまり、作中の兄と妹達の母親にあたる人は毎年二卵性双生児を生み続けたという事になる。冷静に考えればそういう事は有り得る筈はない。体力的に考えても不可能に近い。現実的に考えるならば、12人の内の半数以上は養子や異母兄妹だと考えるのが妥当だろう。また、このゲームでは妹達と登下校、放課後などに交流を深められる他、電子メールでやりとり出来たりする。5年程前に発売された「下級生」などは恋人とは電話でやり取りしていたのを考えると、この辺りに時代の流れが反映されていて感心するものがある。しかし、この電子メール、ただの電子メールではない。何と、メールを開くと手紙の文章に添った妹の声が聞こえて来るのである!メールに音声が添付してあるのか、それとも主人公がメールを読んで妹の声を頭の中で妄想しているのか。もし、後者だとしたら、この主人公かなりヤバイぞ…。しかし、こういう風に色々と疑問が尽きないものの、ゲームを進めて行くと妹が一二人いるのにさほど違和感を感じなくなる。恐るべし、シスプリ!恐るべし、妹教勧誘マインドコントロールゲーム!!そして違和感が感じなくなるに連れ、私は人間として誤った道へと誘われた…。
『お兄ちゃま〜、今日、お父ちゃまとお母ちゃまいなくて花穂一人なの〜。一人じゃこわくてさびしいから、お兄ちゃま泊まりに来て〜〜』
『ゴメン、今日は用事があって行けないんだ…』
『ふえ〜ん、お兄ちゃま〜〜』
「ぐわぁぁぁ〜〜、許してくれ、許してくれぇぇぇ〜、花穂ぉぉぉ〜〜。お兄ちゃまだってホントは泊まりに行きたいんだ。でも、でも!泊まりに行くと咲耶と一緒に登校出来なくなるんだぁぁぁ〜〜」
そうやって私は泣く泣く花穂の誘いを断った。この類のゲームでは攻略キャラは一人に絞った方が攻略への近道になるからである。
最初の方は妹達を後輩と感じる姿勢で進めていた。しかし、この花穂は違った。いつもドジばかりで足手まといになっているような性格だが、それでも兄の為に必死に頑張ろうとする姿勢。ミーナがしっかり者の事もあり、こういう妹も良いものだと考えるようになって行った。だが、最初にマイシスターに咲耶を選んだからには不倫は許されない、徹頭徹尾咲耶で進めなくては…。そう思ってゲームを進めていた…。だけど、思わぬ伏兵が登場しその考えが揺らいで来た……。
最初のキッカケは単純だった。兄がマラソン大会に出るので、その練習に付き合ってあげる。たった、それだけであった。それから毎日のように朝早く起きて一緒にマラソン大会の練習をするようになった…。それを繰り返す内に次第に惹かれていった……。
その妹の名は衛。
『ヤッホー、あにぃ!』
そのいつも元気に私を呼び掛ける声。その少年のような容姿に隠された少女の心…。毎朝兄を迎えに来るその態度は、毎朝私を起こしてくれるミーナの態度を連想させた。
だが、私が衛に惹かれたのはそれだけではなかった。
私には弟がいなかった。弟のいる友達を見てはいつも自分も弟が欲しいと思っていた。ミーナは妹としては良く出来た妹である。私をよく慕うし、時には私の心配もしてくれる。だが、妹として、女性として出来すぎていた為、私とは趣味が合わない部分が多い。その点衛は作中では兄と趣味も合う所が多い。
ミーナの妹として出来た部分を全て持ち、尚且つ私の願望であった部分も補ってくれる衛。弟のようで弟ではない、妹である。その不思議な魅力に私は次第に取り憑かれて行った…。
『あ、あのさ…、あにぃ、今日お父さんとお母さん居ないから泊まりに来てくれないかな…?』
「了承!(0.3秒)」
ある日、私は衛に泊まりに来て欲しいと言われ、即座に了承した。花穂の時は迷いに迷い、断ったにも関わらずである。この辺りから次第に私は咲耶から衛に心変わりしていった。以前の私なら咲耶を優先させる為に泣く泣く衛の誘いを断っていた筈である。しかし、今は多少なら咲耶を敬遠しても良いという感じになった。花穂と衛は違う家に住んでいるのにそれぞれから父母不在を理由に宿泊要請が来るっていうことは、ひょっとしたら父母が何人も居るんじゃないか?そんな疑問も過ったが、そんなことは私にはもうどうでもよいことだった。
『ね、ねえ…、あにぃ……このパジャマ似合うかな……?』
「グハッ!我が生涯に一片の悔い無し!!」
衛の家に着きくつろいでいると、何時の間にやら衛が私の鞄から私のパジャマを取り出し、それを試着していた。ボーイッシュな容姿だけに衛には男物のパジャマは良く似合い、しかもサイズ的に少し大きめであり、そこがまた可愛らしかった。しかし、衛の萌えな行動はこれに止まらなかった。
『ねえ、あにぃ…。今日あにぃと一緒に寝たいんだけど……』
「ファイナルフュージョン承認!!」
また「我が生涯に…(以下略)」と叫びたくなったが、流石に何度も生涯を終わらせる訳には行かないので、少し抑え目の台詞を吐いた。無論、「フュージョン」という言葉にあるようにヤバめの展開を妄想し掛けたのは言うまでもない…。
「さてと、トイレに行って寝る準備でもするか……」
臨場感を高める為、私は蒲団を敷き寝る準備を万全に整えてからそのシーンを堪能する事を決意した。
「ふあぁ〜。ふぁ?お兄ちゃんもおトイレ…?」
トイレに行く途中、同じくトイレに行こうと寝ている途中に起き出した感のミーナに遭遇した。
「なっ!?み、ミーナ…、何だその格好は……」
「?何って、パジャマだよ…?」
「そ、それは見ただけで分かる!しかし何故私のパジャマなんだ!」
驚いた事に目の前にいるミーナは私のパジャマを着ていた。先程の衛のシーンがデジャヴして、私は動揺を隠せなかった…。
「えっ?だってこのパジャマ、何年か前にお兄ちゃんのお古のパジャマを譲ってもらったのだよ?」
「あ……」
そう言えば何年か前そんな事があった気がする…。思えば兄妹という関係上、ミーナが私の物をお下がりとして使うのは極当たり前の事だった。私も兄弟が居る家ならそれが普通だと思い、今まで特に気にも止めなかった。しかし、衛の例のシーンを見た後、こんなに新鮮で衝撃的なイメージを受けるとは……。
「お兄ちゃん、最近本当に様子がおかしいよ?ホントに大丈夫…?」
「あ、ああ、本当に何でもないぞ…。それよりミーナ、お前もトイレだろ?先に入っていいぞ」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」
ミーナに先にトイレを譲り、私はミーナがトイレから出てくる間廊下でうなだれていた。当初は一般生活に支障を来さないと鷹を括っていたが、何時の間にか徐々に支障を来し始めている…。これ以上ハマらない内に遊ぶのを止めた方がいいかもしれない…。そんな気がしてきた……。
「ん…。このパジャマ…あにぃの匂いがするよ……」
衛の寝室に入ると既に衛は私のパジャマを着ながら床に就いていた。屈託の無い寝顔で寝る衛…、無邪気な可愛さだと思う一方、私の心の中には悪魔の囁きが聞こえ出してくる。
「な…何を考えているんだ俺は…。実の妹にそんな事……」
高まる悪魔の囁きを必死に払い抜けようとする。しかし、それを払い抜ける事は出来ず、私は悪魔の囁きに完全に取り憑かれた…。
「わっ、あ、あにぃ何するの?」
「衛……」
衛の願い通り衛と一緒の蒲団に入ると、私は悪魔の声に従い衛の体の様々な部分を愛撫し出す。当然の如く目覚め動揺する衛。私はその衛に対し真剣な眼差しで答えた。
「あ、あにぃ…?…いいよ、あにぃだったら……」
私の目に答え動揺を止め、私に全てを預ける衛。いいよ、と言いながらもその赤く染まった衛の顔は、恥ずかしさを隠せない衛の心情を正直に表している。その素直で可愛らしい顔に私の性欲は更に刺激され、一度緩めていた手を再び激しく動かし出す。
「衛、随分と大きくなったな、あにぃ嬉しいぞ…。…そろそろ行くぞ……。ハァ、ハァ……、衛、衛っ!…ってあれっ?」
目覚めた時、目の前には衛の姿はなかった。どうやら今までの妄想は全て夢らしい。衛の就寝シーンが余りに印象的だったので夢にまで出て来たようだ。
「夢…、夢を見ている…。最低な夢…、人間失格な夢…。妹を犯している夢……。だぁぁ〜〜、ボクは、ボクは取り返しのつかない夢を……」
自分の好きなキャラを自慰の対象にする、それは別に珍しい事ではなかった。私は事ある度に萌えキャラをその自慰の対象として来たのだから。しかし、今回は架空のキャラとはいえ、実の妹を対象にしたのだ!元々妄想癖のある私である…、下手をすればこの妄想のようにミーナをこの手に……。
「こ、こういう時は…、これだぁ!!」
私はシスプリを優先させる為手を付けていなかった「スーパーロボット大戦α外伝」を唐突に遊び出す。スパロボのような燃えゲーは、極度に萌えゲーにハマッてしまった時のカンフル剤としては最適である。
「輝く姿〜♪鋼の救世主(メシア)〜〜♪」
その日を境に私はシスプリを止め、外伝に没頭し続けた…。シスプリを忘れようと無我夢中に遊びに遊んだ…。
「プルプルプル〜サイコー。プレシア可愛い〜」
しかし落とし穴があった。基本的には燃えゲーなスパロボであるが、萌えキャラもしっかりと押さえていたりする。そして、プル、プレシア…双方とも妹的存在、プレシアに至っては義妹という設定のキャラである…。
そうだ…、私はずっとそうだったじゃないか…。思えばプルはスパロボを始めた頃から使っていた…、プレシアも然りだ…。スパロボだけじゃない、私は他のゲームでも妹属性やそれに準じるキャラを使い続け、漫画やアニメを見る度にそれらに該当するキャラに萌えていた……。悩む必要はない…自分の心に素直になろう…、人間じゃなくなってもいいじゃないか……。
『お兄ちゃん、お兄ちゃん……』
私を呼び掛ける声、一体誰の声だ……?
『私だよっ、ミーナだよ……』
「ミーナ…?」
そんなキャラはいただろうか…?もしかしたら隠れキャラか…?
『お兄ちゃん、どうしたの…?』
何だ…このミーナというキャラ、まるで本物の人間のように親しく話し掛けてくるな…。ひょっとしたら、この隠れキャラ、自分好みの妹に育てられるというキャラか…。
「ああ…大丈夫だ……」
『本当?』
「ああ…。その代わりお願いがあるんだ……」
『お願い?』
「俺の事は”お兄ちゃん”じゃなくて、”あにぃ”って呼んでくれないか……?」