かっこいい男! ぜひ仲間にせねば!!
 北エスタミルのパブで偶然姿を見かけた冒険者風の男に、あたしは一目惚れしてしまった。
灰色の肩まで伸びた長髪に、鋭く理知的な瞳の男。この辺りでは見かけない身なりをしていて、腰にはシングルソードを掲げていた。
 そんな妖美な魅力を持った男を、あたしは心の底からかっこいいと思ってしまった。
「あたいはミリアム。術法を使わせたらちょっとしたもんよ。どう、仲間にしてみない?」
 相手の男は多分自分と一緒に冒険してくれる仲間を探しにパブを訪れたのだろう。そう思って、あたしは意を決して仲間にしてみないかと自己アピールした。
「俺の名はグレイ」
 かっこいい男が落ち着いた声で自己紹介してきた。名前はグレイっていうのね。見た目そのまんまの名前だけど、低音な声と相成ってやっぱりかっこいい!
「俺の仲間になれるほど、お前は強いのか?」
 グレイは変化のない表情であたしの実力の程を訊ねてきた。
「もっちろんよ! 火の術法を使わせたらこの辺りじゃ右に出る人がいないって、もっぱらの噂よ!!」
 な〜〜んて見え張ったけど、実際は火の術法、しかも初歩の初歩であるヘルファイアしか使えなかったりする。
でもこの出会いはきっと一期一会。ここで仲間にされなかったら、もう二度と出会えないだろう。そう思って、私は必要以上に自分の力量をアピールした。
「ふむ……」
 グレイは顎に手を当て、あたしをジロジロと見ながら力量を見定めようとする。
ううっ、マズイわ! あんな鋭い視線に見つめられたら、何だか興奮してきちゃいそう!
「グレイ、わたしたちは共に剣術使い。不定系など剣技が通じにくいモンスターとの戦闘を考えれば、仲間にしておいて損はないと思うぞ?」
 グレイの仲間っぽい、ハゲで長髪な三十代半ばっぽく見えるガタイのいい男が、グレイに助言を施した。
正直こんな生真面目そうでゴツイ男とは一緒に冒険したいとは思わない。だけど、グレイに助言してくれたことだけは素直に感謝しなきゃ。
「それも一理あるな。よし、仲間にしてみるか」
 ハゲオヤジの薦めもあって、グレイはあたしを仲間にしてくれることを承諾してくれた。
「ありがとう! これからの間よろしくね、二人とも!!」
 本音を言えばグレイとだけ旅をしたく、ハゲの方はお呼びじゃない。けど、仲間に薦めてくれた礼もあって、一応二人ともよろしくって挨拶しておいた。
 そうしてあたしはグレイのパーティーメンバーとなり、一緒に旅をすることになった。あたしたちがこれから向かうのは、南バファル大陸の東側に位置する火山性の島、リガウ島だ。
 ここの草原に眠ると言われる財宝を手に入れるのが今回の冒険の目的だって、グレイが話してくれた。
 あたしたちは北エスタミルから船に乗り、バファル帝国の玄関口であるブルエーレへと向かう。そこから陸伝いにローバーン、ゴールドマインを経由し、首都であるメルビルへと赴く。
 メルビルから再び船に乗ることで、ようやく目的地であるリガウ島が見えてくる。
「まずは情報収集だな」
 リガウ島唯一の町であるジェルトンに辿り着くと、グレイは草原の財宝に関する情報を集めるため、一旦パーティを解散した。あたしはグレイのために一生懸命町を歩き回り、情報を集めまくった。
「ガラハド、ミリアム。何か情報は掴めたか?」
 集合場所であるパブに再び集結するあたしたち。グレイに促され、あたしたちは互いに集めた情報を交し合った。
「わたしが集めた情報によれば、この島の草原には巨大な恐竜が生息していて、その卵は高値で売れるとのことだ」
「成程。俺の求める財宝とは違うようだが、それなりに有益な情報ではある。ミリアム、お前は何かあるか?」
「うん! さっきグレイたちを待っている間ここのパブのマスターと話してたんだけどさ。何でも草原に花がいっぱい咲いてる場所があって、そこの穴が結構深いらしいよ」
 あたしはここぞとばかりに仕入れた情報をグレイに伝えた。色んな人の話を聞く限りでは、リガウ島の草原には大小様々な穴が空いてるということだ。
「花が咲き乱れている穴か。確証は持てないが、財宝が眠っている可能性が高そうだな」
 グレイは頷いて、あたしが仕入れた情報を元に行動することになった。早くもグレイの役に立てたことがあたしはうれしくて仕方なかった。これからも戦闘面でもっと役に立とうって決心して、あたしは草原へと向かっていった。



「お〜〜! おっきい〜〜!!」
 草原に入りまず目につくのは、恐竜だった。その巨体をのっしのっしと響かせながら闊歩する姿は、まさに草原の王者と言えるものだった。
「ねーねー、グレイ。腕試しに恐竜狩りやってみない?」
 高値で売れるという恐竜の卵を手に入れるためには、少なからず恐竜と相対することだろう。それならば、予め恐竜の強さがどの程度か知っておく必要がある。そう思って、あたしはグレイに恐竜狩りを提案してみた。
「ふむ。それも悪くないな」
 グレイは低い声であたしの考えに賛同してくれた。
「グレイ! あれなんかいいんじゃない?」
 雑魚モンスターを何匹か倒しながら草原を進んでいると、目の前に穏やかな雰囲気で草を貪り食っている恐竜を見かけた。
ちょうどあたしたちにお尻を突き出す形で食すのに夢中になっていて、この体勢なら先制攻撃も可能だろう。
「いいだろう。ミリアム、まずはお前の術で先制攻撃だ。続けて俺とガラハドの連携攻撃でいく」
「まっかせなさい!」
「了解した!」
 戦闘の手筈も整い、あたしたちは一匹の恐竜に先制攻撃を仕掛けた。
「食らいな! ヘルファイア!!」
 私はすかさず唯一会得している火術、ヘルファイアを恐竜に向けて放った。ちょっと弱々しい威力の火の塊が恐竜へと向かい、周囲の草と共に恐竜を焼き尽くす。
「やるぞ」
「我が名はガラハド。正義の剣、受けてみよ!」
 続けてグレイとガラハドがあたしの左右から恐竜に向かっていった。
『ハヤブサ抜け!!』
 まずはグレイが素早くハヤブサ斬りを放ち、続けてガラハドが払い抜けで恐竜に向かい斬りかかった。二人の連携は綺麗に決まり、見事恐竜を打ち倒したかに見えた。
「そんな!? ウソでしょ……?」
 だけどあたしたちの攻撃は恐竜の皮膚をかすめた程度で、大ダメージはまったくといっていいほど与えられていなかった。
「グオオー!」
 今の攻撃で恐竜があたしたちに気付き、雄叫びを上げながら後ろ向きのまま尻尾を振り下ろしてくる。
「ぐわっ!」
 巨体から織り成される重厚な打撃。その一撃は頑丈なガラハドの身体を一発で弾き飛ばした。
「ガ、ガラハド!?」
「これは、今の俺たちには到底倒せる相手じゃなさそうだな。退くぞ、ミリアム」
「う、うん、分かったよ」
 このまま戦ったところで待っているのは無残な全滅。そう判断したグレイの指示により、あたしたちは後方で気絶しているガラハドを引っ張りながら、そそくさと退却した。
「ううむ。我ながら情けない……」
 撤退してしばらくするとようやくガラハドは目を覚まし、真っ先に倒れたことを恥じた。
「気にするな。しかし、一番体格のいいお前でさえ歯の立たない相手では、恐竜の卵を手に入れるのは不可能だな」
 今の自分たちの実力じゃとてもじゃないけど恐竜に太刀打ちできない。そんなグレイの判断にあたしもガラハドも賛同した。
こうしてあたしたちは恐竜の卵を諦め、財宝が眠ると言われる穴探しに専念することになった。



「ねえ、この穴なんかそれっぽくない?」
 数度のバトルを繰り返しながら草原の探索を続ける。すると、パブのマスターが言ってた花が咲き乱れている穴を発見した。
「ふむ。入ってみるか」
 グレイは素っ気ない声で頷き、あたしたちはその穴の探索をすることになった。
「これは当たりかもね」
 暗く火山岩質の洞窟。通路は奥深く、たくさんの財宝が眠っていそうだ。
「この上に何かありそうだな」
 細く曲がりくねった洞窟を探索し続ける。すると、グレイが左手側に見えてきた崖の上を指差した。
「ミリアムは無理だとして、ガラハド、お前はクライミングのスキルがあるか?」
 グレイは腕力に劣る私を考慮せずに、ガラハドに崖登りの能力があるか訊ねた。
「一応あるにはある。登ってみるとしよう」
 ガラハドは頷いて、その重そうな身体を抱えながら、無事崖の上に登った。
「ツヴァイハンダーが一つにボーンブレストが一つ。それと、400金相当の金を見つけた」
 しばらく探索すると、ガラハドが崖の上から発見したアイテム等の報告を行った。
「ご苦労だった。ガラハド」
 グレイは相変わらず無機質な声だけど、確かな感謝の言葉をガラハドに向けた。
「さて、取り分だが俺はツヴァイハンダーをもらおうと思っている」
 ガラハドが崖から降りると、早速取り分の分配に入った。基本的に見つけた財宝は分等可能なら三人で分ける算段となっている。
「構わんよ。ならばわたしは金を頂こうとしよう。問題ないか、ミリアム?」
 ガラハドはグレイの取り分を認めると、あたしに金は自分がもらっていいかって許可を求めてきた。
「いいわよ。成果を上げたあんたに少なからず優先権はあるだろうし」
 ボーンブレストは射突攻撃には弱いけど、斬撃と打撃に優れた防具だ。重さもそんなにないので、あたしみたいな華奢な女の子には最適な防具と言えるだろう。
 そんな感じに財宝の分配は上手くいき、あたしたちはさらなる財宝を求めて洞窟の奥へと足を踏み入れていった。



「ん? この武器は?」
 洞窟の最深部を目指し探索を続ける。すると、通路と崖の分岐点辺りで、グレイがふと地面に突き刺さっている錆びた古刀を見つけた。
「何だグレイ、そんな武器がいいのか? わたしにはただの古ぼけた武器にしか見えないのだが?」
 グレイがあまりに興味津々な目を向けるので、ガラハドが怪訝な声で問いかけた。確かにあたしの目にも、大していい武器には映らない。
「いや、鍛え直せばそれなりにいい武器になりそうだ。それに……」
「それに? 何だ?」
「声が聞こえた気がする」
 ガラハドの疑問にそう答えるグレイ。何でもこの古刀を持った瞬間、刀から声が発せられたとの話だった。
「あたいには何にも聞こえなかったけどなー」
 世の中には魔力を帯びた特殊な剣はいくらでもある。だけど、仮に魂がこめられた武器があったとしたら、それなりの魔力を保有しているあたしが真っ先に聞き取れるはずだ。
 それを踏まえると、多分グレイが聞いた声はただの幻聴だと思う。
「いや、多分俺の気のせいだろう。ともかくこの刀は気に入ったから俺がもらい受けるとする」
 グレイは気のせいだと言いつつ、古刀の所有権を訴えた。あたしもガラハドもそんな錆びた古刀には興味なく、望み通りグレイの所有物となった。
「ガラハド、いつものように崖の探索を頼むぞ」
 グレイは古刀を地面から引き抜くと、ガラハドに崖の探索を命じた。
「分かっている」
 ガラハドは頷き、本日三度目となる崖上の探索を始める。
(あ〜〜あ。何だかなぁ……)
 ガラハドの活躍振りに比べ、あたしはあんまり活躍できてない気がする。確かに植物系や不定形との戦いではそれなりに奮戦している。 でも、力不足で一回術を唱えると二発目の発動までは時間がかかって、大概は詠唱中に戦闘が終了したりする。
 火術の上位術である火の鳥とかが使えれば、広範囲の敵を一気に掃討するっていう術士の本領発揮なんだけど。今のあたしにはそんな高等術、到底使えそうにない。
 一方のガラハドは、戦闘中にいくつかの技を閃きながら、時々グレイとの連携もこなす。何より、今までのクライミングのように、本来の目的である財宝探索で十二分に役立っている。
 ガラハドはしっかりとグレイの相方役を務めていて、何だかあたしは疎外感を抱いて止まない。
そりゃあ、まだまだ魔術師としては未熟だって自覚はあるけどさ。ここまで惚れた男の役に立ててないってのは物悲しくなってくる。
 何とかこの冒険が終わるまでは今以上にグレイの役に立ってみせるって、あたしは意気込みながら最深部を目指す。



 古刀が落ちていた先の道は正面と右手の二手に分かれていて、あたしたちは正面の道を進んだ。
「ん? 何かしらあれ?」  すると、何やらゴブリンたちが円陣を組んではしゃいでいる姿が目に映った。
「どうやらここの財宝に目をつけたのは俺たちだけではないようだな」
 グレイはそれが自分たちと同じ目的を持ち洞窟探索に来たモンスターだと判断し、洞窟内で拾ったツヴァイハンダーを構えた。
「ミリアム、俺とガラハドが斬り込んだ隙に、お前はリーダー格のゴブリンを掃討してくれ」
 敵はゴブリンソルジャー一匹に、ゴブリンが四匹。グレイはこの内リーダー格であるゴブリンソルジャーへの攻撃を命じてくれた。
「オッケー。このミリアム様にまっかせなさい!」
 あたしはグレイに大役を任せられたことがうれしくて、胸をドンッと叩き意気込んだ。
今まで大して戦闘で役立っていなかったあたしを、グレイが買ってくれている。その期待を裏切らないようがんばらなきゃと、あたしは気合を入れて戦闘に臨んだ。
「さっさと済ませるか。強撃!」
 まずはグレイがゴブリンに近接し、鉄塊のようなツヴァイハンダーを力任せに振りかざした。
「ギャアッ!?」
その一撃によりゴブリンは脳天を割られ、汚らしい脳髄と大量の血を頭から流しながら、あっさりと絶命した。
「我が一太刀を受けてみよ! カットイン!!」
 続けてガラハドが、その巨体に似合わない華麗なステップを刻みながらゴブリンへと近付き、構えたシングルソードで斬りかかった。
「グフエッ!?」
ゴブリンは左肩から胸の中央にかけてざっくりと斬られ、心臓から噴水のような血を盛大に噴き出しながら地面に伏した。
「さぁて、お次はあたいの番だね!」
 あたしは二人の活躍に負けないようにってテンションを上げながら、ゴブリンソルジャーにヘルファイアを放とうとした。
「ゲッヘッヘ!」
「むっ! 何よあのゴブリン! ムカつくわね!!」
 そんな中、一匹のゴブリンがあたしを挑発してきた。あたしはそのゴブリンの挑発に乗り、矛先を変えた。
「まずはあんたから火祭りに上げてやるよ!」
 あたしは怒りの気持ちを発散させるように挑発してきたゴブリンにヘルファイアを放った。
「ギャアアーッ!」
炎に包まれ、熱さの余り踊り狂いながら息絶えるゴブリン。その姿を見て、あたしは心の中でザマーミロって叫んだ。
「あー、気持ちいい!!」
 ムカツク相手が無惨な死を遂げたことに、あたしは胸が透くような開放感に包まれた。
「ミリアム! 何をしている!!」
 だけど、グレイに叱責されたことにより、一気に興醒めた。敵の挑発に乗ってしまい、あたしは結果としてグレイの命令を無視してしまった。
 ど、どうしよう……。いつもは冷静な彼が憤っている姿、初めて見る。あたしは自分勝手な行動でパーティの連携を乱してしまったことを、後悔して止まなかった。
「きゃあ!」
 そんなあたしの心の隙間を突くように、本来の攻撃対象であったゴブリンソルジャーが、あたし目掛けてロケット頭突きを放ってきた。 幸い、ボーンブレストの防御力によりダメージは皆無だった。
けど、頭突きをされた衝撃であたしは尻餅をついてしまい、しばらくは身動きが取れそうになかった。
 その間ガラハドが残りのゴブリンを打ち倒し、肝心のゴブリンソルジャーはグレイが葬ってくれた。そんな感じに戦闘は大した苦戦もせずに終了した。
 だけど、あたしはグレイに対する申し訳ない気持ちでいっぱいだった。せっかくグレイがあたしを頼ってくれたのに! あたしはその期待にまったく応えられず、この体たらく。
 何だかもう、このまま洞窟の地面にうずくまりたいほど、あたしの心はズタボロになっていた。
「何だ、どれだけ大層なものかと思えば、500金と長弓だけか」
 モンスターが狙っていたくらいだからすごいお宝かと思っていた。けど、実際はガラハドが拍子抜けしたように、そこら辺のお店で普通に売っている、二束三文の価値しかないものだった。
「財宝の噂は噂に過ぎなかったということか。さて、分け前はどうする?」
「あたいはいらないわ。今回のバトルじゃ大して活躍できなかったし」
 入手物がアイテム一個と金ということもあり、あたしは自虐的に呟きながら受け取るのを辞退した。
「そうか。なら俺は長弓をもらうとしよう」
「ミリアムがそう言うならば、わたしは金を頂こう」
 こうして入手物はグレイが長弓を、ガラハドが金を受け取ることで分配が終了した。財宝の奥は行き止まりで、あたしたちは元来た道を引き返し、分岐点の片方を進んだ。
 坂になっている洞窟を歩き続けると、視線の先に光が差し込んできた。光の先は草原に繋がっていて、それはあたしたちの冒険の終わりを継げていた。
 その後はグレイがジェルトンで錆びた古刀を青銅で鍛え直し、あたしたちは船でメルビルへと戻っていった。



「さて、これからどうする?」
 メルビルに辿り着くと、グレイが今後の展望をあたしたちに相談してきた。
「懐も温かくなった。一旦、解散するのはどうだろう。わたしはクリスタルシティに帰って新しい武器のスキルを覚えたい」
 真っ先に口を開いたのはガラハドだった。ガラハドは故郷であるクリスタルシティに戻ることを告げた。
何でも現在ローザリア重装兵である彼は、スキルを鍛えて聖戦士になるのが夢らしい。冒険で役立ったクライミングのスキルも、聖戦士になるために習得したものだという話だ。
「そうだね〜〜、あたいもエスタミルに帰ろうかな〜〜。新しい術も覚えたいし、火の術だけじゃ、この先厳しいもんね」
 続けてあたしが自分の方針を打ち明けた。二人の前では軽快な口調で語ったけど、実際は切実な問題だ。今回の冒険で、自分の未熟さを嫌というほど味わった。
 正直火術だけじゃ、グレイの足手まといにしかならない。単に風術やら魔術も会得するだけではなく、火術そのものも火の鳥とか高位術を扱えるようにしたい。
「あんたはどうするの、グレイ?」
 あたしはさり気なく、グレイにどうしたいか訊ねた。本音としてはあたしと一緒にエスタミルについて来て欲しい。だけど、絶対自由を信条とするグレイを縛り付けることは、あたしの望みじゃない。
だからあたしは、あくまで望みを託す形で訊ねた。
「俺は、しばらくここに残る」
 残念ながらグレイはあたしの誘いを断り、一人メルビルへと残る選択肢を選んだ。
でも、それが最適かもしれない。これ以上下手にグレイに付き添ったって、恥の上塗りにしかならないだろうから。
「そうか。ではさらばだ。また会おう」
 ガラハドもグレイが残るのには賛同のようで、一言挨拶をして踵を返した。
「ミリアム! ローバーンまでは一緒だろう?」
 てっきり一人で立ち去るものとばかり思ってたけど、ガラハドは立ち止まりあたしに声をかけてきた。
 ガラハドの故郷であるクリスタルシティとあたしの故郷である北エスタミルは、どちらもローザリアに属する。だけど、クリスタルシティに赴くには、ブルエーレから船に乗るより、イスマスを経由して陸伝いに進む方が近道だったりする。
「あんたと二人旅か、参ったな。でも、仕方ないわね。一人よりマシよね」
 正直このハゲとの二人旅はご免願いたい。だけど一応このハゲも護衛には役立つと思い、あたしは渋々ガラハドに同行することにした。
「グレイ! 今回の冒険、楽しめたよ。また一緒に行こうね。バイバイ!」
 いつの日になるかは分からない。だけど今以上に腕を上げて魔術師として大成した暁には、再びグレイと一緒に冒険の旅に出たい!
 そんな願いをこめながら、あたしはグレイに別れの挨拶をして、メルビルの船場から姿を消した。
「あいつは帝国の出身なのか?」
 二人きりになりしばらくすると、ガラハドがグレイの出生に関して訊ねてきた。
「分かんない。彼、何にも話してくれないんだもん」
 旅の途中グレイのことをもっともっと知りたいと思い、色々と声をかけてみた。だけど、グレイは自分のことを何にも話してくれなかった。
 てっきりあたしより付き合いの長いガラハドは何か知っているのかと思ってたけど、彼もグレイのことは何にも知らないのね。
 まあ、それはそれでミステリアスなグレイのイメージを増長させているのだから、決して悪いことじゃない。それでも、少しは好きな彼のことを知りたいと思うのは、純なる乙女心というものだ。



「そういやあんたさ、お宝の分配はいっつもお金ばっかりだったよね?」
 ゴールドマインを過ぎあともう少しでローバーンだという頃、あたしはガラハドに素朴な疑問を投げかけた。
「ああ。それがどうかしたのか?」
「いやさ。曲がりなりにも聖戦士サマを目指してる男が金に執着しているのはどうかなって思って」
 あたしの勝手な思い込みかもしれないけど、エロールやらアムトに仕える聖職者はみんな、お金とは無念な清らかな存在に見える。
そんな聖職者を目指す聖戦士志望者がお金集めに奔走するのは、神々に対する冒涜なのではないかと思ってしまう。
「わたしは別に金に執着しているわけではない」
「えっ? どういうこと?」
「実は……誰にも話さないと約束してくれるか、ミリアム?」
 ガラハドは言いかけて、慎重な声で他言無用をお願いしてきた。
「まあ、別に構わないわよ。それほど大事なことなら」
「そうか。ならば話すが……実はどうしても手に入れたい念願の武器があるのだ」
「念願の武器?」
「ああ! それは……アイスソードだ!!」
 ガラハドが危険な旅を冒してまで手に入れたいと思っている武器。それはローザリアの宿場町、アルツールで売っている、アイスソードだという話だった。
「金額でいうと2万金もする高価な武器でな。ちょっとやそっとでは手に入らないのだ」
 ガラハドはアイスソードを入手することで更なる神々への奉仕ができると信じて疑わないらしい。
何か、単に高価な武器を欲しがるのは後ろめたいから、神々への奉仕のためって建前で聖職者ぶろうとしているだけな気がするな。
「そろそろローバーンだな。さらばだミリアム。機会があればまた共に冒険の旅に出よう!」
「うん。それじゃあね」
 ローバーンが近付くと、ガラハドはあたしに別れの挨拶をして立ち去った。あたしは本音を言えば二度とガラハドとは旅をしたくないと思っている。だけど、悪い女には見られたくなかったので、笑顔で挨拶を返した。
 それからあたしは一人ブルエーレへと赴き、船に乗り故郷である北エスタミルへと戻っていった。
北エスタミルに戻ってからあたしは修行に修行を重ね、様々な術のスキルを習得した。
 そして苦労の末、ローザリア術法士の位をいただくことができた。このクラスは三つの術を合成できる能力を有していないと就けないクラスだ。つまり、それだけあたしの魔術師としての能力は高まったってわけだ。
 高位の術もいっぱい覚えたし、もうあの頃の未熟なあたしじゃない! 今のあたしなら十分にグレイのパートナーを務めることができるだろう。だから早く、グレイと再会したいな。
 もしかしたならまた北エスタミルのパブに顔を出すかもしれない。そう思い、あたしはグレイとの再会を願いながら、パブへと顔を繰り出す日々が続いた。



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