この世界で誰よりも一番ユッキーを愛しています。
一年前のあの運命の日、ユッキーの素朴で純粋な夢が、闇に包まれた煉獄の炎でズタボロになっていた私の心に、一筋の光を与えてくれた。
あの日から私の心はユッキーの虜。毎日毎日教室でユッキーの顔を見るのがたまらなくて、もっとユッキーを感じていたくて、私は日記をつけ始めた。愛するユッキーの日記、「雪輝日記」を。
最初はその日のユッキーの行動を軽く記していただけの日記。けど、それだけじゃ物足りなくって、午前と午後、一時間置きと、段々日記の感覚が短くなっていっていった。そして気が付けば十分刻みでユッキーの動向を記していくようになった。
日記の内容が細かくなればなるほど、ユッキーへの愛が高ぶっていくのが自分でも分かる。この私の気持ち、まだユッキーには気付いてもらっていないけど、いつか私の想いに気付いて、ユッキーが振り向いてくれたらいいなっ♪
「はぁ、ユッキー、今何してるんだろう……」
学校が終わり帰してから次の日登校するまでの時間が、平日の私にとって最も退屈でもどかしい時間だった。遠目ながらもユッキーを見つめられて行動の一つ一つを日記に記せるのは、あくまで学校にいる間だけ。学校にいる以外の時間帯のユッキーの行動までは把握し切れない。
平日でさえそうなのだから、一日中ユッキーと会えない休日に至っては、ストレスの溜まる日々でしかない。本来身体を休める日であるはずの休日が、私にとっては一番休めない日だ。
学校が終わり家にいる間、ユッキーは一体何をしているのだろう? 休日はどこに遊びに行っているのだろう? 自分が一緒にいない時間帯、ユッキーが何をしているのか気になって気になって仕方がない。
本当はユッキーの家や鞄なんかにこっそりと盗聴器と盗撮カメラをつけて、学校にいる時のようにずうっとユッキーの行動を把握し続けたい。でも、恋人じゃないのにそんなことしたら、ユッキーに嫌われちゃうだろうな。はぁ、恋人同士になれば愛≠フ一言で許されるのになぁ。
もし願いが叶うならば、一緒にいない時間帯もユッキーを見続けていたい。私はいるはずもない神様にそんな願いを願い続けた。叶うはずもない願いを心から……。
……でも、叶うはずのない私の願いは、神様≠ノ通じた――。全ての時と空間を管理する神様、デウス・エクス・マキナがくれた九十日分の未来が記された日記、「未来日記」。私の未来日記は、ユッキーの未来を十分刻みで把握する、「雪輝日記」。
それは単にユッキーの行動を把握するだけじゃなかった。私が側にいない時のユッキーの行動まで把握できる日記だった。
この日記さえあれば、ずっとずっとユッキーのことを見続けられる。ようやく私の夢が叶ったと、私はデウスに感謝した。
「ふぅ〜〜。今日のユッキーの行動はっと」
それからというもの、毎朝「雪輝日記」でその日のユッキーの行動の全てを把握するのが私の日課になった。把握する気になれば九十日先まで把握できるけど、あんまり先まで知っちゃうとつまんないし、何より一日一日のユッキーを大切にしたいから、先の先まで把握するのは基本的に自重することにしている。
「それにしても、何か『未来日記』のユッキーは前よりステキだな……」
前々からユッキーはステキな人だけど、未来日記に記されたユッキーは、何事にも一転の迷いも躊躇いもなく対応する、完璧と言っても過言ではない人間になっていた。
「もしかして、ユッキーも『未来日記』の所有者?」
デウスは言っていた、未来日記の所有者は一人じゃないって。何かユッキーは私と違った目的でいつも日記を書いてるようだったし、私と同じ未来日記の所有者である可能性は高い。
けど、残念ながらユッキーの日記は「由乃日記」ではないようだ。私がいつもユッキーを見ていてくれるように、ユッキーもまた私を見ていてくれたら最高なんだけどなぁ……。
ウフフ……。でも、目的が違うとはいえ同じ未来日記の所有者。つまり、ユッキーが未来日記の所有者だったら、ユッキーは私にとって正真正銘の運命の人ってことになる。
ああ、本当にステキ、ユッキーの運命の人になれるだなんて。う、嬉しいよぅ〜〜!
……でも、もしも未来日記の所有者が私とユッキー以外にいたとしたら……? 他の日記所有者がユッキーの運命の人だったら……?
ううん、そんなことあるわけないよ。ユッキーの運命の人が私以外にいるだなんて、そんなこと絶対にあり得ないよ! それに万が一他にも運命の人がいたら消しちゃえばいいだけだし、ちょろい、ちょろい♪
16:50
ユッキーが下校する。
17:00
ユッキーが商店街の本屋さんに行く。
17:10
ユッキーが本屋さんで『ケロロ軍曹』の単行本を手に取る。
ユッキーってケロロ軍曹好きだったんだ〜〜。
「成程、成程。今日のユッキーは放課後本屋さんに寄って『ケロロ軍曹』の単行本を買うんだね。よしっ、私もこっそりユッキーの後をつけて同じ本を買おうっと」
未来日記のいいところは、こうしてユッキーがその日に何を買ったかまで、ユッキーのことなら本当に何でも把握できることだ。こうして予め確認しておけば、効率よくユッキーと同じ物を買えたりするのだから。ユッキーと同じ物を買ってユッキーの趣味や趣向まで把握できるようになれば、私はますますユッキーに近付ける。ああっ、本当にステキ、私の「雪輝日記」は。
17:20
ユッキーが店内をウロウロする。まだ何か本を買うのかな?
ユッキーは『ケロロ軍曹』を買ったらそのまま帰ると思ったら、まだまだ店内を見て回るようだ。本当に一体他に何の本を買うんだろう?
17:30
ユッキーが成人向けコーナーに行く。え〜〜っ! ゆ、ユッキーそんな買っちゃうの〜〜!?
で、でもユッキーも思春期の男の子なんだし、女の子のハダカに興味があっても仕方ないよね。
「ええ〜〜っ! ゆ、ユッキーがエッチな本買っちゃうの〜〜!?」
確かにユッキーも年頃の男の子。エッチなことに興味があっても全然不思議じゃないけど。でも、あの純真無垢なユッキーがエッチな本を買うだなんて、ちょっと信じられないなぁ……。
(で、ユッキーはどんな本を買うんだろう……?)
未来日記にはどんな本を買ったかまで載っているはずだ。でも私は、ユッキーがどんな本を買ったか把握するのが怖かった。もしもユッキーがアニメ調の絵で描かれた女の子が好きだったら、私がユッキーの心に入る余地がなくなるもの。
(う〜〜、怖いよぅ。でも、でも見なきゃ……)
でも、ユッキーがどんな女の子を好むのか知るにはまたとない機会だ。私は覚悟を決めて日記の先に目を通した。
17:40
ユッキーがエッチな漫画本のコーナーを興味深そうに見つめるも、手に取って買う気配はなさそう。よ、よかったぁ〜〜、ユッキーにそっち系の趣味がなくて……。
17:50
ユッキーが『盗撮! 渋谷系女子校生』と『女子校生、夜の校舎の淫乱パーティ』の二冊を手に取り、どちらを買おうか迷っている。
やっぱりユッキーも中学生だし、大人の魅力全開の女の人より、制服来た女子校生風の人が好みなんだね。健全、健全♪
でも、そんなに悩むなら二冊とも買っちゃえばいいのになっ。ユッキー、お金ないのかな?
18:00
ユッキーが悩んだ末に、『女子校生、夜の校舎の淫乱パーティ』を買う。
18:10
ユッキーがお店を後にしてお家に買える。ようし! 今が同じ本を買うチャンスだねっ!
「『女子校生、夜の校舎の淫乱パーティ』か。よし、学校帰りに私も買おうっと」
ユッキーがどんなエッチな本を買うか把握したところで、私はそれ以上日記を読むのをやめた。このあと家に帰ってユッキーがどんなことをするかは大体想像がつくし、日記の先を読んじゃったら私も興奮して学校に遅刻しちゃうだろうし。日記の続きは家に帰ってからのお楽しみ♪