私は愛したい人を愛した、ただそれだけなんだ。悟史くんを愛することが、園崎家の仇敵である北条家の人間を愛することが許し難い罪だったとしても、そんなの私には関係ない。
さあ、私の愛を認めぬ園崎の人でなし共、私を裁きたいなら存分に裁いてみるがいい! 私はどんな痛みや恥辱にも耐え抜いてみせるぞ!! 園崎家の秘密の地下拷問室に連れられても尚、私は頑なに自分の意思を曲げようとしなかった。
「詩音、謝るなら今の内だよ? あなたが一言婆っちゃやみんなに『ゴメンなさい』って頭を下げれば、それで全部済むんだよ」
「謝る? 何を謝れるって言うの!? いい、お姉? 私はただ愛したい人を愛しただけ。それが罪だなんて一片も認識してない。確かに北条家はダム闘争の時に園崎家と対立した。けど、ダム闘争はもう終わり、反対派だった北条家夫妻は“オヤシロ様の祟り”で死んだ。
なのに、まだあなた達はダム闘争時の禍根を引きずってるの? この頭の固い旧態依然の保守主義者共がっ!!」
私は考えるだけの罵詈雑言を周囲にばら撒いた。自分は無実だ、罪深いのは寧ろ貴様等の方だと言わんばかりに。
「……分かったよ詩音、あなたの覚悟ってものが。もう後悔しても遅いからね……?」
私がケジメを着ければ、それで葛西や悟史くんも救われる。そう言われた私は、腑に落ちないながらも、何ら罪のないみんなを救う為に、甘んじてケジメを着けることにした。
「まず始めに、詩音には“3つのケジメ”を着けてもらう」
それは恐らく私が迷惑をかけた人間の数だけケジメを着けなくてはならないということなのだろう。成程、葛西、義郎叔父さん、そして悟史くんの3人という意味であれば、それは妥当な数字だ。
「で、肝心のケジメの着け方は? 小指を指ギロチンにでもかける訳?」
こういう時のケジメの着け方はオーソドックスな指詰めだろうと思い、私はお姉に訊ねた。
「詳しくは言えない……」
その言葉に、私はビクッとした。口にするのも憚れない、それほどまでおぞましい拷問にでもかけられるとでも言うのだろうか? 私は数々ある拷問器具の方に目を向ける。そのほとんどは私の知らない器具ばかりだった。しかし、その中に一際異彩を放つ拷問器具があった。
(ちょ、ちょっと待って! あ、あんなのもあるワケ……!?)
私はその拷問器具がここにあることに驚きを感じ得なかった。それは何かの本か漫画で読んで、やたら印象に残っていたモノだった……。
「ま、まさか……“鉄の処女”にかけるなんて言わないでしょうね……?」
中世ヨーロッパで拷問に使用されていたという伝説の拷問器具、鉄の処女。それは一見マリア像を象ったオブジェにしか見えない。しかし、いざ扉を開くと、中には敢えて急所を外すように無数の針が配置されているのだ。この鉄の処女に抱かれた者は、数日間苦しみ悶えた後死に至るという。
お姉は“3つのケジメ”と言っていた。だから鉄の処女にかけるわけはない。ただ、あの伝説の拷問器具がこの場にあったことに、私は恐怖と魅惑という相反する感情を抱かざるを得なかった。
「……。当たらずも遠からずね」
「えっ!? どういうこと?」
「さすがにアレは使わないわ。アレは“拷問器具”というよりは“処刑器具”だから。ただ、“それに象徴される行為”を受けてもらう。私に言えるのはここまでだよ、詩音」
どういうこと? 鉄の処女は使わないけどそれに象徴される行為って……!?